2016年4月25日 シャープの再生シナリオ~鴻海傘下での第一歩

 

シャープの新しい第一歩が42日、多くのマスコミ、投資家、アナリストの見守る中、堺で始まった。

 

堺を出港、ガラパゴスの井戸から大海へ

 

堺は、シャープにとって栄光の極みと没落の原因の場所であるが、戦国時代には南蛮文化を伝える町民自治の商都でもあった。

 

INCJ案を選んでいたら、ガラパゴスの井の中の蛙のままに、茹でガエルとなっていたかもしれないシャープにとって、堺は、グローバル成長への窓でもある。

 

鴻夏恋への祝辞

 

新生シャープの誕生日は42日だが、あたかも誕生に先立ち、母胎で精子と卵子が合体し、子宮の中で誕生前に時間をかけて人類への進化をなぞるように、既に3年もの間、シャープと鴻海も、堺工場、SDPでは融合への化学反応を起こしている。また、世間では、偶発債務問題などで、破談かと言われた間にも、デューデリという名前の元に、ディスプレイ以外の部門でも、お互いのコミュニケーションや摺り合わせを進めている。シャープと鴻海の提携は、台湾では、国を超えた鴻海のシャープ(夏普)4年越しの恋愛に喩えて「鴻夏恋」と言われ、注目されてきたが、TVドラマ以上に、最後までハラハラドキドキであったが、それゆえに、良い面も悪い面も含めかなりお互いをわかっているだろうし、1年以下の短期で綺麗にまとまった「お見合い的」M&A等よりも、喧嘩もしただけに強固な面もあるだろう。 もちろん、決算発表、株主総会等、まだまだ法的・手続き的な面も含め超えなければならないことは多く安心はできないが、既に、シナジーという名の「赤ん坊」は生まれつつあり、新しい日台のファミリーそれを温かく見守りたい。

 

その成功を祈りつつ、行方を占いつつ、一方で、今だからこそ、厳しい指摘もしておきたい。

 

 経営重心®の違い

 

シャープと鴻海の相性を考える上で、両社の経営重心®の距離を試算する。鴻海は、スマホ中心のEMSで売上依存度が8割近いと前提を置くと、経営重心®は、周期2年以下、桁数は10以上だろう。シャープは周期4年、桁数8.6である。両社の経営重心®の距離は、3弱であり、参考までに示した東芝白物の重心よりは、両社の経営重心®は近い。しかし、両社の距離は、両社の事業領域の面積広さを円で近似した場合の「半径(重みづけ)」を超えて、それなりに遠いといえる。経営重心®の位置や、事業領域の広さが異なるがゆえに、統合されても、鴻海カラーに100%染めるのではなく、ある程度、シャープの独自性を維持尊重することが鍵であり、それを考慮した出資比率や役員派遣が大事であろう。近親憎悪ではないが、経営重心®が近すぎるより、ある程度、離れている方が上手くいくだろう。

 

今後、シャープを傘下に持ちディスプレイ依存度を高めると固定費が重い

 

EMSは、基本的には薄利多売、固定費負担が軽い高回転の事業である。鴻海は、M&Aも積極的に使いながら売上を大きく伸ばしてきたが、営業利益率は3-4%に留まっているが、その変動は大きくなく、安定している。総資産回転率は1.7倍程度、キャッシュ化速度は60日と速くはないが、キャッシュ化速度がマイナスのアップル相手では大健闘だろう。しかし、設備投資負担が大きいディスプレイを強化していくと、利益変動が大きく回転が効きにくい業態となり、EMSが難しくなる可能性もあろう。鴻海傘下でイノラックスやSDPがあるとはいえ、持ち分法対象と、フル連結では影響が異なる。また、今後数年間は、OLEDの先行投資負担が大きい。

 

シャープと鴻海をセグメント別に分けて考える

 

それゆえ、両社の戦略、シナジーを、縦軸を両社の各セグメント、横軸をアップル、他のEMSB2BB2Cというようなマトリックスで、現在と今後というふうに考えてみたい。

 

EMS部門は不変の高成長だが薄利多売

ディスプレイ部門は、SDP傘下で統合、世界トップを狙う

 

同じディスプレイで、シャープはフル連結、他は持分法となり、資本関係がねじれているので、いずれは、SDP傘下にディスプレイ部門を統合し上場を狙うだろう。2-3年後に、OLEDも含め売上規模3兆円、5年後にOLEDが本格離陸すれば、5兆円規模と、サムスンやLGを抜いて世界トップ級の規模となる。そのメリットは、第一に、規模の優位であり、調達や量産効果、第二に、先行的な研究開発投資能力、また、工場の世代別やプロセス別の補完関係もあり、OLEDに限らず、グループで最適なバックプレーンや基板サイズ別の生産展開が可能になる。他方、売上規模が5兆円規模となれば、鴻海全体の1/4、また営業利益は±2000-3000億円規模となる。リスクを減らすために、シャープの液晶やイノラックスを統合、SDP上場後に、出資比率を下げる選択肢もありえよう。

 

家電はシナジーとブランド化

 

共同記者会見後のスモールでも強調していたのは家電であった。テリーゴー氏ならではのビジネスモデル変革もあり、収益貢献に寄与しよう。既に、製品毎に詳細なKPIを決め、工場を自動化など刷新すれば、2年以内に日本でトップも夢ではないだろう。中期展開を考え、堺の記者会見等で見せた情熱や高い評価から考えると、家電、特に白物は、垂直統合・ブランド化だろう。

 

新分野、多角化は他社と連携しながら長期でビジネスモデル構築か

 

第四は、新規分野であり、まだ、十分には戦略が固まっていないだろう(図で橙)。ここには、最近、ソフトバンクやアリババ等と連携しながら強化している、Pepper君など人間型ロボやFAロボ、テスラ向けなどEVも含めたクルマ、ADAS、ドローン、など他社も参入している新規分野である。シャープに対しても、発言が揺れているソーラーも、このカテゴリーである。ただ、ここは、EMSでもはなく、デバイスでもなく、鴻海の強みの「安く早く多く」生産するメリットが生きず、経営重心®も異なる。新たなビジネスモデルが必要であり、まだまだ模索の段階だろう。