2016年 2月4日 キヤノンの決算説明会(1月27日開催)と経営重心®

 

説明会には参加できなかったが、HPで視聴した。プレゼンのみで質疑は不明だが、通例は、数字の確認が多い上、通常、質問時間が短く、せいぜい2-3人なので、問題ないだろう。

 

国産初の35mmシャッターカメラ「カンノン」を商品化(なお、ニコンのエンジニアも参画)、観音様に由来するこのカメラの名前がキヤノンの原点であり、カメラメーカーとしてスタートしたが、コピーやプリンタなどに展開、総合イメージングカンパニーとなる。特に、1990年代半ばに、赤字の不採算部門であったPCやワープロから撤退、経営体質が強化された。一方で、イメージング企業として、CMOSセンサーなど入力部とならんで重要な表示デバイスであるディスプレイに関しては、苦戦。液晶では強誘電方式で、遅れて参入したが撤退、SEDでは東芝と共同開発するも失敗、日立の中小型液晶部門に資本出資したが頓挫。有機ELにも関心が高く、関連技術を持つトッキを買収。

 

リーマン前が最高益だったが、半減で低迷

 

2000年代前半は、日立やソニーに代わって、日本を代表するハイテク企業として株式市場でも認知され、利益規模や時価総額でもトップ級。多くのハイテク企業が、ITバブルの収益を超えられない中で、デジカメとOA機器が好調、円安もあり、リーマン前には最高益を更新。デジカメでは、CMOSセンサーなどキーデバイスの内製力、コピーやプリンタでは、HP向けOEMと、トナーなど消耗品による安定収益のビジネスモデルが鍵。これを支えるのが、三次元CADなどを用いた効率的な開発力、強い特許を持ち生かす知財力、セル生産方式に代表される生産技術と、強固な財務体質などである。グローバルに展開、欧州、米州、アジアとバランスよく、海外比率も高い。かつては、半導体装置関連メーカーという見方もあった。トップの御手洗氏の経営力を評価する声も多かった。

 

しかし、リーマンショック後は、かつてのOP目標1兆円はおろか、2007年度での最高益OP7567億円の半分程度で低迷している。新事業が育たず、M&Aも実績に乏しい。今や、コストダウンと為替が業績の説明要因となっている。豊富な資金を背景にM&Aによる事業拡大、シェア維持が鍵。

 

同社に欠けているのが、皮肉なことに、イノベーション力、ビジョンを描く能力だろう。足元や過去からの延長線での経営戦略をたて、長期のあるべき姿から現在何をすべきかがない、それが仮に、弱みであっても、そこを超える突破力が弱い。このため、知財や伝統的生産技術などの強みに拘り、大きなトレンドから外れがちになる。過去のディスプレイ戦略の失敗や、M&Aにも顕れているように思う。

 

あまりに御手洗氏が「偉大」であったせいか、幹部に自主性、イノベーションを起こしてやろうという熱き想いが希薄になっているようにも思う。説明会も、質疑が予定調和的であり、会社側の中堅も、アナリスト側も、不満を言いつつもそれが突破力になっていないし、トップに伝わっていないように思う。

 

業績横這い圏の中で転機かもしれない産機の黒字化

 

しかし、昨年、生駒CTOが退任、今回、御手洗氏も会長CEOとなり、新社長COOにカメラ出身でAXIS買収も手掛けた真栄田専務の就任が決まり、少し変化が生じてきたかもしれない。生駒CTOは、学生時代に講義も聞き、NRI時代から、キヤノンの前、TI時代もお世話になった。蝶ネクタイが似合う粋で素晴らしい先生だった。しかし、先生をもってしても、キヤノンという大組織で、なかなか新事業は生まれなかった。生駒CTO退任が決まった時には、ふだんは質問しないが、重要なので、質問したかったが時間切れで、誰も聞かず予定調和的な質疑だけ。その後、CTO職は空位のままで社外役員用らしい。

 

今回の説明会では、「リーマン以来の厳しい情勢」という認識、その中で新規事業が強調された。3300億円で監視カメラのAXIS買収はヒットだし、オセも改善している。シネマEOSやマシンビジョンの横展開も規模は小さいながら正しいだろう。2016年だけでなく、今後のキヤノンの成否は、コアであるオフィス部門やイメージングではなく、M&Aや横展開、産機部門で、ニコンを追いかけるFPD露光、OLED向けマスク蒸着で期待のトッキや、新プロセスに挑むアネルバだろう。これをどう生かせるか。現在、ヘルスケアは大きくないが、東芝メディカル部門買収参加となれば、どうなるかも注目点。

 

業績は、2015年売上3.8兆円、OP3552億円、NP2202億円、売上で200億円、OPで数十億円下ブレ。2016年は、売上3.85兆円、OP3600億円、NP2300億円とほぼ横ばい。為替やコスト削減次第で、むしろ新規部門と、産機が鍵。AXIS2Qから貢献で売上1000億円見込むようだ。

 

セグメント別には、以下だが、全体では、為替は310億円のマイナス、数量増764億円、値下がりなどマイナスが406億円との計算。

 

オフィス部門は、2015年売上2127021100億円、OP29502910億円、2016年売上21150億円、OP2790億円と減益計画、商業印刷は伸びる。

 

イメージング部門は、2015年売上1256012640億円、OP18901833億円、2016年売上1.2兆円、OP1720億円と減益。IJPは減収から増収だが、カメラが一桁後半の減収が続く。レンズ交換カメラは、2015年市場1260万台の中で557万台、2016年は市場1150万台で520万台、コンパクトは同順に、市場2700万台で656万台から、2000万台で500万台と低下。

 

産機部門は2015年売上44104290億円、OP-150-130億円と赤字改善、2016年売上5360億円、OP13億円と黒字化。IC用露光機は201580台、201686台、FPD用は201534台が201637台。AXISが増収のなかで1000億円分、黒字化にも大きく寄与。トッキも売上倍増の計画。

 

経営重心®分析

 

2000年以前のデータがないので、20012010年で1年毎のデータを示す。また、イメージング部門の中にインクジェットプリンタとデジカメが一緒になっているので正確な分析が難しい。ポートフォリオでは、右上のデジカメ、ジャパンストライクゾーンに、OA部門とインクジェットプリンタがあり(下図では、一緒にOA)、その下に、やや広いバンドで産機がある構図である。仮に東芝のメディカル部門を買収すれば、ちょうど、この産機に入るが、全社の経営重心®からは遠い。

 

他の経営重心®と異なり1年毎でありセグメントがきちんと分離できていないので単純比較できないが、2010年までは経営重心®は殆ど動いていない。変化はデジカメの増減による桁数の変化が中心の動きである。ドメイン広さも2以下であり、かなり絞り込まれ、売上をドメイン面積で割った密度は2兆円/年桁数、と高く、ニコンが3から広がっているのと対照的。なお、ニコンは同一の1年基準で、経営重心®は、(3.85.5)あたりを中心に循環しており、キヤノンに比べ、やや右下、ドメイン面積は3と広い。より露光機の影響が大きく、ニコンの新規事業の母床でもあるインスツルメンツの存在感であろう。キヤノンは、絞り込み過ぎて業績停滞という状況が、経営重心®から明らかである。M&Aや新規事業の不振、説明会質疑も為替変動とコストダウン等で話題に躍動感が無いのも、ドメイン面積が狭苦しい故だろう。