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2015年4月23日 決算説明会今昔
いよいよ決算説明会シーズン本番である。電機大手では先陣を切って日本電産の説明会が明日行われる。季節労働者ともいえるアナリストには最も忙しいシーズンの到来であり、まさに、四季の到来を「四半期説明会で知る」わけだ。
私が最初にNRIでアナリスト業務を始めた頃は、アナリストも研究員といわれ、のんびりしていた。開示も単独中心であり、説明会も、上期と通期の年回で、社長ではなく、CFOが中心、資料も決算短信のみ。その決算短信も、味気なく、説明会も、せいぜい、設備投資や減価償却費を聞く程度。投資家ものんびりしていたし、国内勢は投資判断もなく、朝会もなく、決算結果のコメントも不要であった。そもそも、バブル期であり、株価も、業績で動くというより、テーマや、証券会社の全店をあげた推奨などで動くような感じもあり、株価は株価で証券、営業任せ、我々はじっくり企業研究というスタンスであった。業績予想は作成したが、当時のNRI400という統計データの締切までに作ればよく、1週間、2週間かけて、のんびり、じっくり、経営部長や財務部長に数字を確認していた。当時は、IR担当もなく、殆ど、決算短信のP/LやB/Sの数字の背景の確認であった。
売上のざっくりとした内訳はあったが、セグメント損益の開示もなかったので、大きく限界利益率が異なるであろう各セグメントの利益を推定するのが重要な仕事で、それがアナリストの付加価値であった。ただ、製造原価明細書はあったので、それを頼りに、変動費と固定費を分析、苦労して推定した先輩のメモを頼りに、修正を加えながら数字を作ったものである。連結がある場合も、まず単独の数字を作ってから、子会社を詰めていくようなアプローチであった。
90年代に、入って大きく環境が変わった。
第一に、アナリストキングの導入であり、最初は全てのセクターが一緒になった「大選挙区制」だったが、次第にセクター別に「小選挙区制」になった。
第二に、バブル崩壊以降のHFなどや海外勢の台頭もあり、決算後に業績により大きく株価が動くようになった。
第三に、それゆえ、国内アナリストも投資判断を求められるようになり、「即日開票」で翌日朝の朝会までに徹夜で業績予想を固め、必要に応じて投資判断を決めなければならなくなったのである。
第四に、それゆえ、決算説明会である程度聞くべきことを聞かなければならず、説明会が質疑中心になった。もちろん、説明会で聞くと、ノウハウの流出にもなるから、大事な点は聞かず、あとで個別に聞くべきだという先輩の声もあったが、そんな余裕はなかった。この頃から、会社側でも、われわれが業績予想に必要な数字については準備をしてくれるようになったのである。いま、IR側でプレゼン資料や参考資料で用意いただく、数字は、我々の質問に答える形でできたものである(その意味では、時代時代で聞くべき内容は異なり、本来は今聞いても意味のない数字を伝統墨守で確認している場合も多い)。
第五に、その頃から、セグメント開示になり徐々に連結が中心になったが、一方で製造原価明細書が無くなった。セグメント開示は助かったが、これにより、これまでの強みを失ってしまう、という危機感や、製造原価明細書がなくなりきちんとした分析ができなくなるのではという焦りもあった。
こうして、90年代後半には、ほぼ現在のような決算説明会となってきて、説明会資料の充実や、IR体制が完備してきた。ただ、IRもまだ手探りであり、インターネットも普及していなかったので、紙ベースの情報が多く、会社側の情報は、まずIRを通して、セルサイドのアナリストにいき、そこから、バイサイドにいくという「リニアモデル」であり、セルサイドアナリストに、もっとも情報が集中した時期であった。また、セルサイドアナリストが、IB案件獲得に重要で、ウォールが不十分という問題点も外資等ではあったようである。
これが2000年以降になると、インターネットの普及や、フェアディスクロージャ、エンロン事件の問題もあり、IRから直接、機関投資家、あるいはネットで一般に情報が公開されるような時代になり、セルサイドが情報を独占する時代は終わり、アナリストの付加価値は産業や企業の知識や業績予想や分析力などから、サービスに移っていった。特に四半期決算が導入さえ、スピード合戦となっていたのである。また、主要セクターで大物アナリストの引退もあり、担当変更の激しいセルサイド側よりは、長年みているバイサイドの方が知識が充実するようなケースも増えてきた。
特に、ここ数年は、四半期決算での上ブレ下ブレ、や、速報性が重視され、本来のアナリストの分析力が発揮しにくい環境となっているようだ。サービス競争に拍車がかかり、実態はセミナー企画、見学会企画が重要になり、さらに、コンプラ強化、その一方でIB部門との関係もあり、狭い範囲、中庸なことしかレポートに書けなくなってきた。その中で、実際には、ロボットがレポートを書いているという話もある。
今後の中長期投資、スチュワードシップ、など、また時代は変わりつつある。再び、アナリストがその名の通り分析力で評価される時代になることを期待したい。また、決算説明会の場が、単なる足元の数字の確認、上ブレ下ブレの確認ではなく、株主総会と同様、あるいは社外監査役的な役割をになうような、経営陣と投資家・アナリストが中長期で、成長や収益性向上のための、オープンな経営議論の場になることを望みたい。
2015年4月22日 日本電産決算~2030年「大ぼら」の布石と研究開発
先ほど、2015年4月22日に日本電産の2014年度決算が発表された。長年の「ほら」であった売上1兆円を突破、営業利益も10%を確保できた。
なお、以前から大ボラ達成に向けIRを担われ、私も90年代後半から御世話になった元副社長の鳥山氏の訃報が夕刊に掲載されていた。まだまだ御若いのに残念だが、最初の「小ボラ」の無事達成に安堵されたことであろうことがせめてもの慰みである。心から御冥福を祈りたい。
明日午前の説明会に向け注目している点を記したい。
これまでから、成長事業分野(車載モータ+家電モータ)を軸として、2015年度2兆円(中ぼら)、2030年度10兆円(大ぼら)といってきた。これは、M&Aはしてきたが、あくまでモータの事業が中心であった。1月の3Q決算説明会では、2014年度が1兆円を達成が確実になる中で、2020年は2兆円、2030年度に改めて10兆円をアッピールしたが、モーターメーカーからグローバル電機メーカーになる、としたことが重要な点である。ホンダエレシス等の買収に代表されるように、車載に注力し、モーターそのものからモーター周辺のモジュール(センサーやマイコンなど)を取り込むことで、付加価値を上げようとしている。しかし、2020年の2兆円は可能でも、現在の延長線では3兆円くらいがせいぜいだろうという意見が多い。これは、一個当たりモータが6ドルとしてもセンサーとマイコンで4ドルだから、1兆円は1.7兆円程度にしかならないからである。そうすると、モーター周辺だけではなく、大手電機メーカーと同じ領域、FAシステム、社会インフラなどに参入せざるを得ない。この場合は、客でもあった、ファナック、安川電機はもちろん、日立や東芝、さらにはGEなど世界の強豪と、インダストリ4.0もあり、競合してくる可能性もあろう。
経営重心も、モーター中心の部品事業という短期サイクル、大ボリュームから、長期サイクル小ボリュームの事業も増え、変わってこよう。創業以来、馬車馬の如くこれまでは、気合で突っ走ってきたが、10兆円を超えてきた場合、研究開発をはじめ、様々な会社のインフラが必要になり、要求される人材も、Nidec魂は不変でも、多様化してくるかもしれす、求心力と発展への遠心力のバランスが重要だ。今回、正式に代取に就任となった片山CTOへの期待も、10兆円に向けた布石であろう。
そこで、研究開発体制が中長期の布石とし極めて重要であり注目される。すでに、昨年の11月に新川崎のモーター基礎技術研究所の説明会見学会を開き、また、その後、3月中旬に所長との面談をさせて頂いた。ここで、それについて記す。
当時の私の疑問は、ここ何回か報告しているように、研究開発体制が大きく変わる中で、「中央」「基礎」というのが、これまでのリニアモデル型であり、オープンイノベーションの時代に大丈夫か、というものであった。しかし、その懸念は払拭された。
研究所長の福永氏は、元、日立の研究所長(日立研、中央研を歴任)であり、日立の研究開発体制の変革にも取り組まれた人物であり、今回の日立の研究開発体制の動き、特に、顧客との「協創」イノベーションも、福永氏が前から推進してきたものであり、よって、十分に、ノンリニア化、オープンイノベーションの流れは認識されている。
モーター基礎技術研究所はコーポレートラボではあるが、日本電産ゆえに、モーター起点であり、また21世紀は、センサーやマイコンがついたモーターが産業のコメとなり、そこでイノベーションを起していくようである。
組織としては、CTOの下にあり、この新川崎の研究所、台湾やシンガポールとも連携されているが、さらに、滋賀技術開発センターのIT(HDD以外)、車載や家電の研究所、京都のHDDなど中心の中央開発技術研究所がある。
研究開発や技術の人員は、グループ全体で3000人、うち2000人が本体、滋賀が600、新川崎が100である。売上高研究開発費は4.5%程度だが、新川崎が0.5%、他が4%、あるいは、コーポレートラボが10%、デビィジョンラボが90%という割合だろうか。 また、2020年には売上高比で4.5%を6%にするが、新川崎で0.5%が1%、他が4%、金額では売上が2兆円なら、1200億円だが、新川崎で100億円、これから新設予定の生産技術研究所で200億円、ディビジョンラボで900億円というとこになる。
新川崎も200人くらいにはなるが、研究のための研究ではなく、あまり増えないというのが印象的であった。モデルベース、回路、CAE、ラピッドプロトタイピング、計測など5部門があるが、これを7部門にする程度で、センサーなどが加わるようだ。この5部門と、ディビジョンラボや内外の開発部隊が案件毎にプロジェクトをつくっていくマトリクス組織となっているようだ。
また、基本的には「この指とまれ」のオープンイノベーションで、新川崎のいろいろな研究チームと連携する。特に、モーターがFAとなり、システム化すると、IoTやインダストリ4.0が絡んでくる時にはカギとなろう。全く新しいモーター技術や新技術のテーマーは、まさにオープンイノベーションであり、社外80%、新川崎10%、他が10%くらいであり、社外の技術には、モーターの賞の応募の審査委員の先生や中研が目利きをするしくみである。事業のM&Aは豊富な実績があるが、研究テーマ単位のものはこれからであり、VB投資や提携による。研究の評価は事業化50%、その他論文など50%であり、途中でも事業化を試みることが重視され、それが駄目なら途中下車で転進するようだ。
課題は、これまで、モーターのみが本業であり、M&Aした会社も独自の研究所は開発組織があり、これらを再編し、コーポレートラボとディビジョンラボに分けなければならない。特に海外は、エマーソンなどはSRモーターで有名なラボを有しているが、これから、重複テーマの統合再整理も必要であろう。
今後は、新川崎のモーター基礎研、今後、新設される生産技術研究所、がコーポレートラボとなり、京都の研究所は、HDD等の、滋賀の研究所はITや車載や家電のディビジョンラボとなるように思われるが、あまりに大きいので、コーポレートラボのままかもしれない。それ以外の内外の子会社の研究開発部門は、場所はそのままでも、組織管掌上は、これらに再編されるだろう。福永氏の考えが、今回の日立の改革と同様だとすると、新川崎は、オープンイノベーションのハブ機能を持つ。私としては、もう一つ、10兆円に向け多角化、特にIoT、センサー、無線、ネットワーク、ソリューションを担う研究所があってもいいように感じるが、これはCTOの直轄かもしれない。
いずれにせよ、2兆円の中ぼら、10兆円の大ぼらに向け、研究開発部門の充実化が重要であり、この部門のポートフォリオあるいは経営重心(研究重心ともいうべきか)が2020年、2030年の経営重心を決めていくことになり目が離せないだろう。
2015年4月22日 富士通会津若松工場産のレタス
昨年のCEATECで展示していた半導体工場を活用した野菜事業だが、富士通が4月から、会津若松Akisaiやさい工場の出荷を開始、楽天で販売開始というので注文し、今日届いたので、早速食べてみた。
まず改めて、驚いたのが、洗わないで、そのまま食べられること。きれいな透明な個包装となっていて鮮度が保たれ、冷蔵庫に入れておけば、そのまま取り出せて、便利で清潔だ。何もかけずに食べるとジューシーさ、とパリパリシャキシャキ感がいい。いろいろ試したが、そのままもいいが、岩塩などが美味しかった。ちょっとだけ味見のつもりがLサイズの一袋を食べてしまった。
特徴を改めて記すと、①苦みやえぐみを抑えてシャキシャキ感があって美味しい、②とても清潔なクリーンルームで栽培されて農薬も使っていないので、洗わないでそのまま食べられる、もちろん放射能もPM2.5も無縁だ、③付着している細菌が露地栽培に比べ格段に少ないので冷蔵庫で2週間は鮮度を保持できる、④カリウムが1/5以下、で健康にいい、である。
このうち、①と②は、その通りで、実感した。また、③は試してみたい。そして、④は腎臓病の方に朗報だろう。私事だが亡き父も糖尿病から腎臓病となり野菜を食べたくでも食べられず大変だっただけに余計にそう思う。
きれいな袋ごとに入っているので、洗わなくていいので、例えば、ピクニックや弁当に入れても、いいだろう。
会津若松工場は、かつて富士通の半導体の主力工場であり、クリーンルームに見学させて頂いたことがある、最先端の製造装置がびっしり並びウェハーが自動的に搬送される自動化された工場で、埃やゴミをなくし、歩留まりを少しでもあげるため、働く人間は、白衣を着て、エアシャワーを浴び、厳密な管理下で、温度、湿度、空気の流れ、などを制御していたことが思い出される。このレタスが作られたのは、私が見学した8インチ工場だったか、他の6インチ工場だったか解らないが、リストラの後で、蘇り、私の家までつながったのは感慨無量である。懐かしいような、故郷で旧友にあったような、旧友から久しぶりに便りを貰ったような不思議な感覚である。
そもそも、かつて、景気の天候によって、歩留まりが大変であったり、作りすぎても、豊作貧乏になったりするので、半導体は農業だといわれ、また、半導体は産業のコメだといわれた時代があった。また、半導体工場の品質管理やクリーンルームでの徹底的なゴミや埃の排除、多くのセンサーを使った温度や空調、風量などの管理、技術屋や作業者のモノ作りの想いは、農業と同様である。ゆえに、「老朽」化して半導体を生産しなくなった工場のクリーンルームあるいは、技術者や作業者等のノウハウは、農業に生きるはずだと、考えていた(拙著「日本の電機産業に未来はあるのか」(2009年 洋泉社)。それが、ようやく多くの関係者の努力を経て現実となってきた。さらに、それがビッグデータやクラウドとも絡めて、一層大きく発展してきている。もちろん、風水害にも強く、カラスやイノシシやサルが来ることもない。成分や品質もコントロールできるし、洗わないメリットは、椎茸や松茸では大きいだろう。病院と提携して、患者に最適なカリウム量や、その他の成分をコントロールもできる。また、お客によって、苦味や渋みなどを変えて、カスタムメイドな味や食感も可能かもしれない。ビッグデータとのシナジーも大きい。
とはいえ、採算や富士通への貢献はまだまだだろうが、かつて屋台骨を背負ってきた半導体が、この春に、ソシオネクスト始動、レタスも出荷開始、と新たな展開を見せてきた。
もともと、富士通に限らず、日本の半導体工場は、水が綺麗で、空気も綺麗、人間の気質も真面目である地域に多いが、これは農業にも向いている。他社では、ロームのイチゴが美味しいと、効いたことがあるが、富士通でも他社でもどんどん使わなくなったクリーンルームを、ぜひ、他の野菜や果物などにも展開し、ノウハウを共有していってほしい。また、CEATECでの試食会、生まれ変わったクリーンルームの見学会、白い壁面の工場もカラフルにすればいい。ドイツがインダストリ4.0なら、日本は、半導体技術で農業5.0!?だ。
2015年4月21日 ソシオネクスト始動
富士通とパナソニックのシステムLSI事業が統合した「ソシオネクスト」が3月1日に事業を開始、4月7日に記者会見、また今週前半には得意先や関係者に御披露目をする模様だ。新しいビジネスモデルの大手ファブレス半導体の船出を祝したい。
今回は、アナリスト向けの説明会も取材の機会もないので、あくまでHPなど公開資料と外部資料のみの分析であり、不完全な部分も多いが、それは、今後、説明会や取材を通じて修正していきたい。
2014年7月末に発表された概要とは、出資比率、富士通40%、パナソニック20%、DBJ40%、CEO西口泰夫氏、売上1500億円(単純合算)、従業員2800名であったが、記者会見による報道やHPによると、資本金302億円、出資比率は同様、CEOは西口代表取締役会長、COOは井上あまね代表取締役社長、従業員はやや減り約2600名、売上は2014年度1300億円、営業利益はトントン、2015年度1500億円見込み、収益はトントン、5年後に売上2000億円、営業利益率10~15%を継続的に確保し、IPOを目指す模様である。統合効果で5億円コスト削減、民生・クルマ向けが75%、産業が25%から、半々にする目標。産業競争力強化法の適用を受け税など軽減されるが、経産省資料によると、5年後に新商品比率を3.6%以上、従業員一人当たりの付加価値を34%向上させるとあり、社員の数はほぼ一定である。
役員の陣容はCOOは富士通出身、CFO丑田氏はDBJ出身、CTO岡本氏はパナソニック出身、第一事業本部を統括する野崎氏は三洋からパナソニック出身、第二事業本部の三宅氏は富士通出身、従業員は2000名が富士通、600名がパナソニック
ソシオネクストは、システムLSIの会社という意味では、ルネサスと似ているが大きな違いは、製造ラインを持たないファブレス会社の大手であり、海外では今やクアリコムやメディアテックだが、日本では、ザインやメガチップスに近い。
第一事業本部は、3事業部からなるが、グラフィックスソリューションが富士通系でり、あとはパナソニック系。第二は旧富士通系であるが、旧富士通系は、カスタム系とソリューション系に分けられ、前者は、差異化要素があり伸びるものに傾注、例としてはネットワークSoC、ハイパフォーマンスSoC、カスタムSOCなど。ソリューション系では、ビジネス志向をとり、ミルビュー、コネクティッドイメージング、グラフィックソリューションと位置づけている。
この中で、旧パナソニック系のIOTシステム事業部、ビジュアルシステム事業部が、どちらかが不明であるが、カスタム系には、××SoC事業部、ソリューション系は××事業部という名称から、旧パナソニック系はソリューション系なのだろう。ミルビューがソリューション系に入っていることから、こつらがASSP、もう片方がASICということであろうか。ただ、当面は、旧富士通の製品は富士通の商流で、旧パナソニックの製品はパナソニックの商流で担当するようであり、カスタム系とソリューション系、ASSPとASIC、富士通系とパナソニック系、といったことが整理されてすっきりするのは少し先だろう。
また、ファブレスへの最適化をはかり、調達を利益の源泉と捉え、前工程は、先端テクノロジーのマルチFab化、旧富士通系工場との連携、後工程はJD社一極集中からの脱却を図るようだ。すなわち、三重工場は最低限使いながら、富士通得意の調達力で、海外のファンドリーを安く使い、特に後工程では徹底的にコストを下げる方針だろう。
さて、現在、2600人で1500億円の売上げでトントン、中期で2600人で2000億円の売上げ、営業利益率10~15%の継続的確保は可能だろうか。
まず、旧富士通の半導体部門は売上3200億円強であり、このうちメモリの販売のみが300億円を引き、富士通セミコンダクタ社の売上規模がアナログマイコンなどを分離する前は2500億円であり、アナログやマイコンを譲渡してからは、2000億円、これとパナソニックの統合されるシステムLSIが300億円あること、から富士通のシステムLSIのファブレス部分の売上は1200億円、引き算すると、三重工場の付加価値分が800億円となり、40μmのウェハー単価が25万円前後となり、常識にあう。
ファブレスのシステムLSIの事業を分析する際に重要なのは一人当たり(正確なのは技術屋一人当たり)売上げである。
単純比較をすると、最大手級となったメディアテックが、売上げ5000億円弱で社員1万人ゆえ5000万円、日本最大手のメガチップスが500億円規模で700人ゆえ、一人当たり7000万円、ザインエレクトロニクスは50億円規模で150人であり、3000万円とやや低い。ソシオネクストは6000万円レベルである。なお、営業利益率はメディアテックが15~25%、メガチップス、ザインが5~10%というレベルである。これは、日本と台湾での人件費の差でかなり説明が可能である。
ただ、注意すべきなのは、売上計上において、ファンドリウェハーの部分が入っているか、あくまで設計開発の付加価値だけの部分が入っているかである。前者であれば、売上は増えるが、収益性は落ち、後者であれば、売上は減るが、収益性は高まる。ソシオネクストの場合は、上記より、純粋に設計開発だけを売上げ計上しているようだ。ただ、製品によって、時期によって、製造部分を入れたり入れなかったりする場合も多く、横比較や時間軸の比較には注意が必要である。
ソシオネクストが売上2000億円にするには、一人当たり売上げをまさに6000万円から8000万円に上げる必要があり、それが難しい場合は、三重工場も含め値下げが重要になる。また、通常、ASSPは10%、ASICは5~10%は可能であり、いかにASSPの割合を増やせるかであろう。一人当たりでいうと、開発コスト4000万を5000万に抑制できれば、人件費1500万の中で、営業利益500を1500万にすることが可能であり、10~15%の営業利益率が可能になる。
人数を、もちろん、優秀な技術屋で増やす、あるいは同業を買収して増やせば、売上げ2000億円は可能であろう。しかし、一人当たり付加価値を8000万にするのは、メディアテックやメガチップスの例を比べてもそれほど容易ではないことがわかる。それがゆえに、経産省の産業強化法適用の資料で、その数値が入っていたことが納得できる。
2015年4月20日 双極型経営重心の東芝の重心外れディスカウントの悩み
拙著「経営重心」でも述べているように、東芝は、デバイス(半導体など)と、重電(原子力など)に双極を持つ珍しいタイプの企業である。
この30年間、多くの企業がポートフォリオを変える中で、東芝だけは、ほぼ同じであり、営業利益の内訳も、半導体メモリと原子力など発電が大変を占めてきた。元々、「マツダのランプ」で有名な電子管などデバイス事業に伝統がある東京電気と、重電の芝浦製作所が合併してできた会社であり、E&Eの東芝と言われるように、その伝統を守ってきた。他社と違ってシリコンサイクルの波で半導体部門が悪化しても重電側が介入することは無く相互不可侵であった。実際、他社では半導体部門の方々が「重電時間」への不満、重電部門の方々が半導体の「計画外れ」批判が多かったが、東芝では聞いたことがないし、相互に評価をしていた。それゆえ、ITバブル崩壊時に、NEC等の半導体部門との統合、カーブアウトが模索されいた時も東芝側は、半導体側も重電側も含め、それには反対であったと聞くし、エルピーダメモリ破綻の時も一緒になることに慎重だったのは、そういう背景があるのではないか。また、90年代半導体やPCの業績が好調で、重電が厳しかった時、撤退すべきの声があったが、半導体部門は否定的であった。
しかし、二つの大きく異なる「気質」のコア事業の重心(固有周期、固有桁数)をもつ企業の経営は、綱渡りでもありうまく二つのコア事業のパワーバランスをとり、人事や組織で気を遣い、リーダシップがあるトップが、遠心力と求心力を使い分けながら、微妙ないわばバンバン制御で、やりくりしてきたのも事実だろう。
二大政党政治や、源氏と平家、巨人阪神、など日本人は、二つの気質が異なるコアが並び立つシステムを好むが、それは無いものゆえの憧れか、現実は、米英と異なり、島国根性の多様性の狭さ故か、一方が巨大化してしまうのが歴史の現実である。実際、少なくとも、企業の経営重心においても、東芝のようなこれほど極端な双極型で長続きしている例は少ない。
それでも、2005年くらいまでは、東芝は極端に異なる事業重心を持つ二つのコアの間に、PCやTVなど、中間的な事業を保有し、いわば第三のコアとなっていた。そして、会社全体の経営重心は、第三のコアであるPCの辺りに存在しており、西田氏の例のように、そこから社長を輩出、ある時期はPCこそが一番のコアと見なされたこともあり、株式市場でもPC関連と位置づけられたこともあった。いわば、90年代においては、両極端の事業重心の二つのコアの間に将来の成長性のあるコアが形成されつつあり、PCに続いて、DVDなどデジタルメディアへの期待があり、一つの大きな重心となり、半導体ではDRAMの競争力低下、重電も厳しい時代があったため、むしろ半導体と重電が、第三のコアに従属され、普通の「太陽系型」の経営重心のパターンに収束するような印象さえあった。
しかし、2000年以降は、PC、TVは厳しさが続き、ケータイは譲渡、一方、DRAMからNANDへの転換に成功した半導体は、富士通から譲渡され拡大したHDDなども取り込み拡大、重電も、WHやランディスギアの買収で拡大、それまでと異なり、より二つの両極端のコアが膨張、その間が、空虚になってきている。そうなると、経営重心の位置には、もはや実態の事業は存在せず、重心が全体の平均的な企業の気質を表さないことになる(これは、もともと、重心なる概念が重心の周りに富士山、ガウス関数的に広がっていることを前提としたものであり、統計学の平均値や標準偏差の限界と同様である)。
先日、経営重心について、ある大手機関投資家にプレゼンを行ったが、そこで、東芝の株価がさえないのは、こうした経営重心の構造にあるのではないか、という指摘があった。
そこで、よく考えると、かつて、コングロマリットディスカントというものがあったが、いわば東芝の場合も、「重心外れディスカウント」ともいえる状況になっているのではないか。
NANDに期待する投資家、重電に期待する投資家が、東芝に投資しても、そこはそれぞれの事業重心どころか、何もない空虚なところに、シフトされてしまうのである。90年代は、それが、たまたま、今後の期待されたPCやデジタルメディアであったので、また納得ができたのが、今は、何もないのである。
そこで、以下の仮説が考えられる。
事業重心それぞれに何からの固有なバリューションがあり、これを固有バリュエーションとすると、会社全体の企業価値は、
企業価値=Σ売上構成比×固有バリュエーション×事業の価値 (式1)
であり、これはよくある積み上げ方式の計算方式に近くい
これを経営重心で考えると、
企業価値=経営重心と同じ事業の固有バリュエーション×経営重心と同じ事業の価値/その事業の売上構成 (式2)
である。
この式1と式2は、CAPMの発想に近いが、式1と式2が等価となるための条件として、経営重心が、太陽系型であることが必要なのかもしれない。
しかし、実際の株式市場は、東芝に関しては、本来の(式1)よりは、(式2)を見ているようである。そうであるなら、次の認識ギャップの仮説が成り立つ。
仮説1:株式市場においての企業価値は、経営重心のある事業のバリュエーションに基づくことがあり、経営重心が太陽系型の場合は、実態と近いが、双極型の場合は、乖離し、いわば「重心外れディスカウント」が起こることがある。
このディスカウントの意味するところは、以下であるかもしれない。
第一に、ポートフォリオの各事業、特にグローバル化が顕著な半導体事業などは、同業他社との合従連衡などの遠心力が働き、それが、リーダーシップの欠落や、微妙な制御ミスで、もはや、企業の外に出てしまうリスクをカウントしている。
第二に、二つのコア間には、全くシナジーがないどころか、マイナスが大きい。
第三に、重電など社会インフラ系では、IoT化が起き、これまでにように個々の事業では把握できず、強く繋がった一つの事業として見るべきかもしれず、このコアがさらに大きく膨張して、半導体とのバランスが損なわれてしまい、これまた二つの会社に分裂するリスクである。同時に、この場合は、現在のセグメント分類が今後の実態に合わなくなる開示の課題でもあるかもしれない。
また、ポートフォリオと経営重心に関連して、次のような仮説も考えられよう。
仮説2:ポートフォリオにおいては一見、収益に貢献していないが、重心が大きく異なる複数のコア間の緩衝材、両者を繋ぐような事業があり、それをリストラで無くすと、全体のバランスが崩れて不安定化する。そのため、企業は安定化を求め復元しようと緩衝材的な事業を作ろうとする。
東芝においては、その存在が、PCやTVであり、実際に、半導体と重電の間の存在であり、半導体の応用先でもあり、重電等のシステムの構成要素でもある。また、組織の上でも、PCは「情制本」の制御コンピュータから発展したが、スピードとボリュームを重視する意味では気質は半導体に近い。
人物面でも、これら事業のトップを務めた西田氏は国際部門の出身であったが、半導体も重電も理解があった。また重電からPCやTVを見て、半導体の企画も歴任した元専務、さらに研究所の出身だがPCやTVはもちろん、半導体も重電にも理解が深かったトップ、半導体の出身だが、デジタルメディアを管掌した専務など、多くの橋渡し役がいた。その意味では、組織的にも、半導体と重電の相互理解の場として重要であったのかもしれない。
東芝自体も、そうした緩衝材的事業が無くなり空虚になった領域を埋めないといけない不安があるのか、ヘルスケアや、H2事業など、新規を融合しつつ育成を急いでいるようだ。本来、この領域は中サイクル中ボリュームであり、日本が比較的強い領域である。東芝も子会社に東芝テックをもち消費の実データがあり、ビッグデータ事業に鍵となる。また、制御用コンピュータも本来東芝が強く、実データがある。ただ、外部、少なくとも投資家にはあまり伝わっていないようでる。
そうした新事業の成長、いわば第三の勢力が復活すれば、、極端な二つのコアの膨張で全体のバランスを欠いたり、遠心力が働きすぎて会社がバラバラになってしまうリスクを避ける効果があるのかもしれない。また、変革される研究開発体制の中の、何らかの全社組織が、新たな緩衝材、相互理解の場としての役割を担うのかもしれない。
あるいは、企業価値を極大化するには、コアの二事業を分社化、60%程度を東芝持ち株会社が保有し、子会社化して上場させるのも手であろう。ただし、その場合、かつての松下電産と松下通信工業や松下電工、九州松下との関係のように、子会社合計の時価総額が、本体を上回ることになるかもしれない。そのロジックの延長線でいえば、太陽系型経営重心パターンである多くの企業は、子会社をバイバックする方が企業価値増大にプラスになる。
2015年 4月19日 変わる日立の研究開発
1.去る2015年4月15日、14時から19時頃まで、戸塚にある横浜研究所7Fにおいて、研究開発の説明会が行われた。CTOの小島氏の他、CSI(global Center for Social Innovation)など、日本、米国、中国、欧州のトップ、知財のトップが講演、その後、展示見学、質疑、懇親会という内容であった。
参加者はアナリスト投資家が中心だがマスコミも含め、多数の参加で充実した内容であった。説明者は、6人中、外国人2人、女性2人と多様性に富んでいた。
2.小島CTOは研究開発戦略について、CSIの日本の鹿志村氏、米のDAYAL氏、中国の陳氏、欧州の鳥居氏は、いずれも、各拠点の社会イノベーション協創センター長を兼務しており、各拠点の研究開発体制だけでなく、今回の研究開発体制変更の目玉となる、社会イノベーション協創について具体的事例について説明があった。
全体的には、ノンリニアモデル、オープンイノベーション、グローバルというキーワードにおいてもよく考えられており、知財においても社会イノベーション協創モデルでやり方を変えるということが意識されており、一方で、DARPAや旧通研もない日本においては基礎研究も重要だという意識もされている。これまでの技術の切口では駄目だという認識も、経営重心と同様の認識である。多くのことが、十分に練られており、他社よりも数カ月開催が遅かったという点を差し引いても、高く評価できるものだろう。展示においても、シミュレーションだけではなく、実データに基づく展示や成果、ロボットや装置(模型ではあったが)などハードもあり、情報から電機、デバイス、材料、医療と技術分野も広く、他にはないものも多かった。展示の説明ボードでは、市場規模なども示してあるものが大半であり事業化という意識が感じられた。
質疑においても、日立計画研を取り込むべきではないか、インダストリー4.0と欧米が先行の中で、生産技術もスマトラも含め重視すべきではないか、などの課題についても、それを認めつつも、問題意識は同様であり、今後の進捗を注視したい。もちろん、器はでき方向性も定まったが、重要なのは中身であることも事実である。
日立全体の評価としても、ビッグデータ、IoT、社会イノベーションというキーワードで考えても、実際に政府や自治体も含め、多くの社会インフラに関わる顧客を持つ強み、その中で、リアルデータを持つ強み、日立の総合力が、投資家に対しても、再確認されたことであろう。
3.小島CTOの説明の要点は以下。
第一に、これまでは、研究投資が技術(知識)を産み(研究開発)、技術(知識)が事業収益につながる(イノベーション)、というリニアモデルであったが、研究開発部門も、最初からイノベーションに踏み込む、というものであり、まさにノンリニアモデルである。その中で、営業利益/R&D(現在1.5 世界トップは3)を一つのKPIとして重視するという点は注目される。
第二に研究開発体制である。既に、2011年4月に、中央研究所、基礎研究所、日立研究所、システム開発研究所、機械研究所、生産技術研究所、デザイン本部、海外研究拠点からなる研究開発本部、電力システム社傘下のエネルギー環境システム研究所、同様にディビジョンラボのコンシューマエレクトロニクス研究所を、研究開発グループの技術戦略室、中央研究所、日立研究所、横浜研究所、デザイン本部、海外研究拠点に統合していた。
今回は、これを研究開発グループ傘下に、社会イノベーション協創統括本部傘下のCSI(社会イノベーション協創センタ 東京250人で内外3拠点、北米100人で3拠点、中国100人で2拠点、欧州50人で6拠点)、テクノロジーイノベーション統括本部傘下のCTI(テクノロジーイノベーションセンタ2000人 エネルギー、エレクトロニクス、機械、材料、システム、情報通信、制御、生産、ヘルスケア、国分寺、大甕、勝田、横浜の5拠点)、CER(基礎研究センタ100人 鳩山と国分寺)とした。
CSIでは、500人中300人が外人である。なお、これまで研究開発グループは5000人弱とされてきたが、これは日立グループ全体であり、また半導体や液晶のカーブアウト(この分は500人程度と推定)もあり、減っている。博士の人数は2000人とされてきたが、1500人程度となっており、やはり半導体や液晶の影響である。なお、組織的には中研も日立研も解体だが、拠点としての名は残り、マトリクス組織になる。
第三にCSI、CTI、CERの位置づけだが、CSIはまさに顧客との協創であり、ノンリニアモデル、オープンイノベーション、グローバルで、社会イノベーション事業の先鞭部隊でもある。
CTIは、これまでは専門分野別に縦割で技術知識を蓄積、活用しようというものであったが、これまでの技術の区分けは融合化の中で古くトータル的に再編しながら、希少なリソースを活用しようという意識である。
CERは、前回は基礎研がなくなったが、今回は復活である点が注目される。物性、情報、生命、フロンティアが中心だが、そのミッションは、オープンイノベーションの中でのハブ組織である。この基礎研の位置づけは非常に上手い。
4.鹿志村氏の説明の要点は以下である。
氏は心理学が専門でありデザイン本部に属し、家電のデザインからサービスのデザインへのテーマを発展させていった。ピュアな研究開発部門ではないとはいえ、研究開発部門のトップが文系であり女性であるのは例がなく多様性という意味で画期的だし、氏のテーマは、サービスのデザインから、社会イノベーションのデザインになるのだろうか。CSI東京は、国内は赤坂にありエネルギー・交通・資源では顧客との協創であり、その技法開発であり、製品デザイン(旧 デザイン研)、シンガポールでは資源・交通・通信メディアの顧客協創、インドはエネルギー・産業・水での顧客協創、またソフト開発拠点(ラピッドプロトタイピング)としても重要である。
例として、ATMや防災が挙げられたが、これらはNRIなどのSIがコンサルから入りシステム提案、構築というパターンと同様の印象を受けたが、SIの場合はITだけだが、日立の場合はハード、特に重電系がはいるのが違いである。
顧客協創技法の顧客協創ツールのCyber-PoCの事例は極めて興味深いものであった。新規地下鉄の導入効果事例として、人口650万人、バスしか公共交通機関がない都市に入れた場合にどのくらい交通渋滞が減り、運賃をどの位に設定すればペイするか、をシミュレーションできる。これは、かつてNRIなどのシンクタンクが地方公共団体や官公庁向けに行っていたプロジェクトと同様であり、時代が違うとはいえ、実データを取りこんだレベルの高さに驚いた。既に保有のシミュレーションツールを使っているため、数十人月くらいの開発工数と推定されるが、もし、これを格安で提供されたら、多くのシンクタンクは厳しいだろう。もっとも、日立側は、これはあくまで自社の地下鉄システムの受注活動のためであって、このシステムを売るようなことは否定的であった。
5.Dayal氏の説明は以下である。
氏はHP等でビッグデータの解析の研究を続けてきたが、社会インフラの実データがある日立で、その知見を発揮できることを期待して入社し、通信回線混雑をリアルタイムで最適化する事例、オイルガスでの地質学や地球物理学とのコラボ事例が紹介された。
気になるグローバルでのビッグデータやIoTでの日本あるいは日立の競争力だが、HPよりも日立を評価している印象であった。
6.陳氏の説明は以下である。
氏はMOTの専攻であり、日立の中国での研究開発の立ち上げに尽力してきた。CSI中国は、北京と上海の二つの拠点からなるが、そのミッションは、北京では都市金融での顧客との協創、ITプラットフォームやIoTの研究開発、清華大学との連携、上海ではヘルスケアや物流での顧客との協創、中国の材料、製造技術の研究開発、デザイン、上海交通大学、復旦大学との連携と幅広い。中国の政策を見据えながら、政府や大学と連携してニーズを取り込んでいくというのが重要だと推測するが、中国では製造業高度化がニーズであるが(中国製造2025)製造技術がテーマにあるのが興味深い。
7.鳥居氏の説明は以下である。
CSI欧州は人数50人で、5拠点を持ち、英国では鉄道、エネルギー、欧大陸では自動車、産業での協創、欧州ビッグデータラボや、デザインセンターもある。欧州の実情にそった顧客協創と、Acatechへ加入、インダストリ4.0活動に参画など、欧州政策動向の理解促進と仲間作りが重要なミッションであろう。
8.鈴木氏の説明は以下である。
第一は、社会イノベーションに注力し、競争から協創へ変わる中で、知的財産権本部から知的財産本部と、「権」を取り、パートナーシップ促進に知財を使うというように、ある意味180度発想を変えたところに関心を持った。とはいえ、協創で得たビッグデータの知財をどうするかは、実態では、契約で対処するしかないようだ。
第二は、日立の知財力の競争力として、公開特許件数が示され、また、ビッグデータ関連技術出願人ランキングでは、全体で日立がIBMに次ぐ2位、分析基盤技術では、1位であり、Dayal氏のHPよりは上らしい、ということが実証された形となった。
9.展示見学会では、2015年までのテーマ、次の成長に向けたもの、未来への布石、という分類でコーナが分けれていた。
2015年までのテーマでは、世界最高速エレベータ、鉄道システム、モジュラ型電力変換器、環境対応自動車、情報ストレージ、陽子線ガン治療システムがあったが、モジュラ型電力変換機、環境対応自動車は、両面冷却デバイスやインバータ技術によるものであった。
次の成長に向けたテーマでは、Telco向けネットワーク分析、銀行向け現金管理ソリューション、Cyber-PoC、共生自立分散プラットフォームの事例、および、その基盤技術として、センシング、ロボティクス、AI、セキュリティであった。
センシングはTVカメラで人の流れを解析するもので5m四方のもので、他社の事例でもよくあるものである。ただ、混雑時、どこまで人口密度が高くなった場合に対処できるかは不明であった。
ロボットは、クルマへの応用を考えた制御技術の開発であり、搭乗型と、ヒューマノイド型があったが、いずれも車輪で動くものであり、目新しいのは姿勢制御であり、また空間認識も、予め決まった目印にそって動くものであり、全く目印も地図も無い状態から空間を把握し認識するものではなかった。
AIは、注目度が高かったが、ビッグデータから、目標関数を決め、最適化するという流行のものである。流通では15%改善、物流では5~10%改善、コールセンタは13%改善、プラントは数%の改善であった。不思議なことに人間系の方が改善が高く、本来、制御工学に近いプラントが僅かなのは、人間系の方が手付かずで改善度合いが大きく、プラントはこれまでの制御工学で十分に高いので改善度合いが小さいのだろうか。また、データの量や、種類によって、最適度合いがどう変わるかについては、あるところでサチレートするという回答であったが、まだ研究の余地が大きそうであった。
顧客協創の事例では、水道局への提案事例があり、これは、Cyber-PoCと異なり、ある程度はポンプやセンサーも売れるが、むしろ、このシステムを水道局自体に売ろうというビジネスモデルのようだ。しかし、水道では日本の東京都水道局が運用のノウハウが高く、仮に、水道局と協創して得られたノウハウが詰まったシステムを他の水道局に売っていいのか、また、公共団体のノウハウは都民のものだとすると、そこはどうするか、については契約やネゴで取り組むという説明であったがやや不明点が残った。
これらの中では、プレゼンにもあったCyber-PoCと北米でのネットワーク解析の二つが光っていた。
未来への布石では、故外村先生の電子線ホログラフィーを応用した顕微鏡の説明があり、元ホログラフィーの研究者としては喜ばしいかった。現時点では売るよいうより、理研などに貸し、材料開発に役立てる。ヒューマンテクノロジーではハピネス計測というのがあったが、これは10年ほど前に、研究員に、センサーをつけて行動を見るという研究テーマがあったが、その延長であった。当時はまだビッグデータという言葉もなかったが、それがある程度、現実になってきたわけである。もしかしたら、尖がった研究は、社会システム最適化に向けた新型計算機であり、磁性体の特徴を応用したものであり、ノイマン型と違い、最適化には有利なようだが、まだ初期段階である。
10.質疑で重要な点は以下であろう。以下の最初の4つは筆者のものである。
器はできたが、人材の中身と多様性はどうか?:外国人は2600人中300人、リクルートでは外国人と女性を15~20%と意識してとっていることは感心した。文系研究員の採用は、認識しているが、むしろ大学などと連携を重視しているが、これは大学の人文社会科学の教育内容が企業のニーズとマッチしていないからだろう。これはむしろ先例がなかったので、企業側から大学に提案すべきであり、その成果が出てからかもしれない。日立計画研との融合は議論があるところのようだが、あまりモノカルチャーになることもよくないと考えているようだ。確かに、シンクタンクやコンサルタントの資質は異なる点もあり、今後、組織と人事制度、処遇面で工夫が必要であろう。
生産技術について、技術だけでなくスマトラ等と連携すべきではないか?:今回は説明は無かったが実は重視しているところであり、生産研は横浜と日立にあり、横浜は生産システム、日立は金属加工など。ただ、スマトラとの連携などはこれからの課題のようだし、欧州のインダストリ4.0の動きを見ながら注視している段階だろうか。
日本にはDRAPAも通研もないが大丈夫か?:これについては同様に考えており、それゆえ、基礎研を復活させ、各研究所を統合したようだ。全体の中で、リニアモデルの比率は50%は必要だろうという回答であったが、顧客協創という意味では、もう少し低いかと考えていた。CSIはノンリニアモデル、CERはリニアモデルだとすると、CTIの2000人は人数割りではノンリニア:リニアが40%:60%となる。
CTIなどの研究者の活動の実態は?:計測したことがなく、イメージだが、50%は昔と同様の実験や解析、20%がユーザとのコミニケーションであるようだ。研究員自身がフィールドサーベイをして、VC的な役割を担う、というのは無いようだ。
上記以外では、以下である。
依頼研究と自主研究の比率だが、CSIでは50%ずつ、CTIでは自主25%、依頼75%、CERは自主100%とのことであるが、依頼研究が、CSIが意外と低く、CTIが意外と高いと感じた。やはり、日立グループの技術のメッカとして頼りにされているということではあろうが、長期のものもあり、5年後はだいぶ異なっている可能性もあろう。研究の評価については、CTIでは従来に近くCSIはビジネス件数などである。
技術収入支出については非開示だった。以前、知財報告書では、開示があり、当時、技術収入500億円前後(当時、IBMは1500~2000億円)、収支200億円前後と推定されていた。また、内容は、ストックかフローか不明だが、半導体、液晶、デジタル家電、HDDなどディスクが60%を占めていたはずである。しかし、現在は、これらは殆ど全てカーブアウトか撤退し、その分は大きく減っているだろう。中身は、機械や材料などが主かもしれず、ITなど技術費用が増えていて収支はマイナスの可能性もあろう。
質疑を通しての印象は、器はできたし、認識も方向性も正しいが、中身はまだこれから、というところだろうか。ただ、改めて、研究開発という機能を、狭く考えず、連携や標準化主導、など広く考えていること、またユーザの実データを有していることも含めて、日立のビッグデータなどの技術力は高いということが再認識できた。
見通しだが、今後は、顧客協創、ビッグデータ、IoT、AIというキーワードからは、日立計画研との融合(これはNRIとNCCと同様)、さらに日立物流や日立キャピタルなど、これまであまり研究所と関係が薄かった会社との連携が増えてこよう。
かつて、日立の研究所の大きなミッションは多角化であり、遠心力が大きく、実際、多くのハード系の優良小会社が生まれていった。今後は、そこから、ソフト系や、さらに、金融とITの掛け算から、日立銀行、日立保険などが生まれると面白いだろう(ソニーが90年代にそうしたが、時代が早すぎた上、ソニーの経営重心、BtoCとは合わなかった)。立ち上げ時にも30万以上の社員と家族や協力会社も含めればユーザは100万はおり、金融インフラは、IT技術力と信頼性堅実性であり、長期サイクル小ボリュームの巨大な社会システムであり、日立に合う事業だと妄想している。
2015年4月17日 注目されるシャープの行方~その6
4月16日日経夕刊では、14年度は2000億円超赤字、15年度も1000億円規模の赤字、また本社ビル売却、将来の分社化も見据え、家電、複写機・ロボット、エネルギー、液晶等デバイスの4カンパニーに再編、内外5000人のリストラ、海外TV撤退、汎用ソーラー撤退、福山、三原、栃木などの工場閉鎖、こうしたリストラを前提にメインバンク2行が2000億円投入でDESで資本増強、2017年度営業利益1800億円を目指す、などと報道された。 印象であるが、以下である。
これが、従来から、コンサル等の外部も入り検討されていた社内案に近いだろう。液晶については革新機構等の外部次第で分社化するのだろう。革新機構の投資注入はやや後退した印象。本来はシャープとしては、いろいろ決定したかったのだろうが、色々な事情で間に合わなかったのかもしれない。
工場の閉鎖、社内分社から、スマホやTV、LED、半導体等は売却のようだ。液晶やソーラーは条件次第だろう。そうするとシャープに残るのは、白物、OA関連。
赤字金額は2年で3000億円であり、工場減損や閉鎖損で1000~2000億円、人員リストラで1000億円、あと海外拠点の在庫処分500億円、ポリシリコン在庫評価減500億円等から妥当な線ではあるが、まだ海外分は不安要因。
2017年度営業利益1800億円は過去最高に近く容易ではないだろう。1000億円くらいが目線だろう。
この計画が発表されて、株主総会までに、出資者動向も踏まえ、液晶分社のトップ人事や出資者が決まるだろう。そのばあいは、この計画を花道に、現経営陣は退陣なのだろう。
これまでの報道をベースに、14~15年度で累積3000億円の赤字、半信半疑だが、先日の産業革新機構が分社化された資産規模5000億円、売上1兆円の液晶会社に1000億円投入し過半近い株を保有、メインバンク2行が2000億円投入、DESで資本増強などの数字を前提として、「方程式」を解くと、以下のようになる。
分社化液晶会社
売上1兆円、総資産5000億円、自己資本2000億円、負債2000億円、在庫等1000億円となる。これは、液晶関連の減損等で500~2000億円のリストラ費用を考えており、もはや老朽化してスマホ用超薄板化や4k8K対応が難しい三重や亀山第2も含めて、保守的だろうし、自己資本比率も50%近く、グローバルで市況変動に耐えるためには最低必要な水準には達している。市況変動を受けながら成長も可能であり、先行投資もしながら、営業利益も5%程度は可能であろう。ただ、最大の問題は、産業革新機構がリスクの高い案件に1000億円も出すかどうか、また、ジャパンディスプレイの主要株主でもあり、産業強化法を適用するとして、利益相反や独占禁止法等など問題をクリヤできるかは重い。日本の液晶技術流出は防げる。トップは液晶を統括している社内からであろうが、会長として実績のある大物が、カネもクチも出すことが必要であろう。
液晶を外したシャープ本体
売上2兆円、総資産1.5兆円程度、自己資本2000億円程度だろう。売却、撤退対象の海外TV、ソーラー、部品などがどうなるか次第だが、ソーラーで500~1000億円、各部門のリストラ500億円、特別退職金500~1000億円、内外拠点閉鎖等500億円と想定され、なお不透明ではある。市況変動が激しい液晶が無いとはいえ、とりあえず一段落した後は、自己資本比率20%は欲しく、更に増強も必要であろう。国内中心で売上利益共に成長性は低い。
報道その他から、電子部品や海外TV、ケータイの売却、ソーラーも撤退だとすると、残る部門は、白物、コピー、国内TV程度となり、売上1兆円規模に縮小する可能性もあり、今後の提携先との進展を見極める必要があろう。
2015年4月10日 日経平均2万円を祝って~株式需給とDRAM需給
ついに、日経平均が2万円にタッチした。この上昇が官製相場あるいは池の中の鯨(GPIFや3共済など)のせいである、つまり需給によるものだという見方は多い。
実際、需給の影響は、セルサイドアナリスト時代には知らなかったことであり、10年間のファンドマネージャ経験で一番驚いたのは、流動性の重要性、つまり需給であった。さすがに日立や東芝といった超大型株は1000円で買おうと思えば、ほぼその値段で瞬時に買えるが、東京エレクトロンやロームといった大型株でさえ、直ぐには売り買いできず、無理すれば値段を動かしてしまう。ましてや、中小型株は、株価に影響を与えないように静かにじっくり売買する。1日どころか数日、数週間かける場合もあった。また、突然のファンドの大型解約に対応できるよう、流動性の薄い銘柄の保有比率はリスク管理で厳密のルール化されていた。つまり、銘柄毎に、平均の出来高(これも、大型株は大体安定しているが小型の場合は、その時々の大きく変わる)に対し、自分の売買は10%以下とかに決められており、その売買範囲で、銘柄がポートフォリオから解消されるのに何日かかるかを計算し、1日以下のもの1週間以下のものと分類し、それが全体のポートフォリオの例えば10%以下、と定めていた。このため、リーマンショック時に顧客の都合で大規模解約があった時も、パフォーマンスを劣化させることなく、解約に応じられたのである(無理に急いで売ると、売りが売りをよび、パフォーマンスを劣化させるファンドが多い)。もちろん新たにポジションに入れる場合も、高値掴みをすることなく、買っているうちはパフォーマンスがいいが、買い終わると劣化するというようなことは無かったのである。
ところが、特に海外の超巨大ファンドは、需給を気にせず売り買いすることが多かったようだ。ある液晶関連の中小型銘柄は、午後1時くらいにコンセンサス以上の業績上方修正を出したため、株価は順調に上がり、しめしめと思って、我慢していた小用をしにトイレに行って戻っていると、日経平均などは変わらないのに、何故か、数分前とポートフォリオのNAV値が悪化している。何だろうと画面を探すと、さっきの中小型銘柄がストップ安となっていたのである。後日、金融庁の開示で、ある大手米系ファンドが一気に売ったのであった。また、特段ニュースも業績修正もなく、ある中堅の株が数日間で大きく上がって何だろうと不思議に思うと、ある海外大手ヘッジファンドがショートの買い戻しをやっていた。このため、ポートフォリオに入れようという銘柄は必ず、公表されている空売り報告や大量保有を日々、チェックし、海外の大手が動いていないかみてから売買したものである。池の中で鯨が暴れると、適性と思う株価で売買できないからである。個人の金で長期投資なら気にしないが、大事な年金基金も含め人さまの金で、短期投資ではないが、少なくとも毎月パフォーマンスチェックされる(それもコンスタントにプラスが要求され、マイナス3%だとアウト)ヘッジファンドでは、そういうことも気にしなければならない。
ファンドマネージャをするまでは、需給というとDRAMや液晶の需給しか頭になかったが、個別株はともかく、日経平均など相場全体に、GPIFなどの買い、はどう影響しているのだろうか。
GPIFなどの買い余力については、日経新聞3月12日朝刊に、UBS証券大川氏の試算が出ており、GPIFが現在の20%弱から25%にすると、7.1兆円、同様に3共済が10~15%を25%なら3.4兆円、また、かんぽ、ゆうちょ銀行も5%と仮定すると、それぞれ3.4兆円と10.3兆円、日銀が3兆円なら計27.2兆円だそうだ。議論すべきは、この影響度合いである。これについては、記事にはないが、東証時価総額を600兆円とすると、約5%に相当し、この数字が大きいか小さいかだろう。
目安となるのは、ポートフォリオにおける売買の目安が出来高の10%、大量報告義務が5%、空売り報告義務が0.5%であるが、5%というのは、大量報告義務と同じであり、そこそこ大きいということになる。まず東証売買代金が3兆~5兆円くらいだが、その10%なら5000億円である。そうすると、27兆円のポジションを解消するのは54日、2ヶ月強となり、流動性リスクに抵触するくらいだから相当である。2ヶ月以上をかけてゆっくり売り買いすればいいが、確かに影響が出てしまうレベルだろう。では、その影響はどのくらいだろうか。
これについては、幾つか研究がある。まず、「株式市場の流動性が株価に与える影響」(楊 立命館経済学 14年3月)では、流動性の定義を、スプレッド、価格のインパクト、回転率、取引スピード、などとし、取引コスト、在庫リスク、情報の非対称性から論じており、海外や中国市場について実証している。また、「株式の流動性とリバーサル戦略の収益性に関する検証」(数理解析研究所講究録 電気通信大学 水野、宮崎)は同様に流動性を回転率、ラムダ等からシミュレーションしている。いずれも、上記の私の問いの直接的な回答にはならない。
そこで、乱暴だが、長年慣れ親しんできたDRAMと比較してみる。DRAMでは全体のうちスポット市場は10%であり、そのスポットで10%の需給変動で、価格は、この20年間くらいは、その時代の最先端DRAMは、需給変動により、シリコンサイクル約3年で、1ドル割れから2ドル超えで推移している。東証では浮動株比率は50%強なので、600兆円の半分がスポット市場的であり、27兆強は、その10%に相当する。DRAMと株式市場を比較するのは乱暴極まりないことを承知で、比較すると、鯨による需給変動によって、東証の「価格」、日経平均でもTOPIXでもいいが、倍半分変化してもおかしくない、ということになる。この30年間の東証時価総額も、300兆円弱から600兆円で推移している。アベノミクス始まった2012年春に1万円が、この2015年春、ちょうど、かつてのシリコンサイクルと同様の期間に、2倍となった。偶然かもしれないが、不思議な一致である。
なお、DRAMの需給については、私が長年、数式によるシミュレーションを試みながら、日々に忙殺され、なかなかできなかったが、「システムダイナミクスによるDRAM市場における周期的変動の考察~モデル構築と基本メカニズム」(小川、筑波大大学院ビジネス科学研究科博士課程)を見つけたが、素晴らしい成果だと思う。これも少し、買えれば、株式の需給分析にも応用可能ではないだろうか。
アマゾン書評Loser氏の批判に答えるー追加
おそらく、最初に経営重心の定義をして、そこから固有周期、固有桁数、そしてケース、応用展開や考察というふうにするとわかりやすかった方もいるかもしれませんが、数式アレルギーもあるだろうから、1章、2章でイントロとして、比喩をいれ、予兆予告的ないいかたをし、、3章で固有周期、4章で固有桁数の話をいれ、5章でまとめて、きちんと経営重心を定義する、というふうにしたのですが、人によっては、これが却ってわかりにくい、誤解を招いたかもしれません。つまり、1章、2章で比喩を交えながらの説明が経営重心の定義とされ曖昧だと思った方もいるのかもしれません。
事業の重心、これを売上加重平均したものが経営重心、経営重心を時間加重平均を創業来でとったものが文化重心あるいは不動点としての重心、であります。
AMAZONの他の方の書評や、このメールでも多くの方にコメントを頂きましたが、おほめの言葉を頂き、少なくとも、経営重心などの定義については全く誤解がないようでしたし、むしろ1章のイントロの比喩は解りやすいと評判だったので大丈夫かと思いました。
もちろん、他業種や海外企業へのケースを増やし、電機精密でもより深堀してロジックを深めることは必要であり、また慣性モーメントなども計算し結果をお示ししようと思ってます。よろしくお願いします。
アマゾン書評で以下のようにLOSER氏から批判を頂きましたので以下のように回答します。
なお、回答部分は、太字斜体となっております。
投稿者 LOSER 投稿日 2015/4/9
評者は企業や組織における「重心」に強い関心をもっている。
むさぼるように本書を読み漁った。しかし、他のレビューには違和感を覚えざるを得なかった。
さて、著者は工学専門であるというが、以下のように定義や論理が首尾一貫していない説明が目立った。
定義は以下に示す通り、一貫しており、また、論理については、価値観の違いであり、評者は、あるべき経営の姿という価値観であるが、筆者はあくまで定量化であり、定量化されたものの意味であり、その適用範囲を探ろうとしている。以下、批判に対し述べる。
第1に、企業を擬人化して把握しようとする試み・考えには強く共鳴する。
しかし、一方で、「企業の個性をお見合いにたとえれば、相手の年収が業績、仕事内容が事業内容だ(若林, 2015, p.
30)。」と客観的なデータが重要であると言いながら、他方で、「例として出した男女の相性は、なかなか多元的で重層的、そして深淵である。あえて定量化は試みないほうがいいだろう。しかし、企業の提携や合併においては、ある程度定量化することで、成功確率も違ってくるのだ(若林, 2015, p.
31)。」と後退し、さらには、「われわれは他人を見る際、その人の性格や個性から、将来性や環境対応力、あるいは自分との相性を見極める(若林, 2015, p.
31)。」と極端に譲歩し、経営陣の主観的な側面の意義を強調している。はじめから最後まで、工学の強みを言い過ぎない方が印象が良かった。
第一章はイントロで解りやすく人の場合でたとえようとしただけであり、p30やp31は、それにすぎない。また、提携や合併は、本書では詳細なケースを入れる余裕がなかったので、これも可能性の示唆にとどめている。「われわれは他人を見る際、その人の性格や個性から、将来性や環境対応力、あるいは自分との相性を見極める(若林, 2015, p. 31)。」は、その次の文章を読んでもらえばわかるように、経営者のことを言っているのではなく、比喩としての進学や御見合いの話である。
第2に、「重心」なる用語の理論的な曖昧さである。
本書を貫く重要概念であるとすべての読者が期待すると思われるが、そうなっていない。まず、経営の世界で「最適」なる形容は一般にタブーであるがそれは百歩譲るとして、「人間が人それぞれであるのと同様に、企業も、その歴史や事業領域に最適な経営スピードや事業ボリューム、事業領域の広さがあるのではないか。そして仮に、最適なスピードや事業ボリュームを『経営重心』と呼ぶとすれば、その重心と軸から大きくずれないことが、経営において重要ではないだろうか。これは、人がその個性や気質と外れた行動や生き方をすると道を外すのと同様である(若林, 2015, p.
35)。」としている。次に、「経営重心は、経営と事業の相互作用で決まっていくものであり、それによって、人事制度や組織体制、設計開発生産体制、マーケティング、サプライチェーンも定まってくるのではないだろうか(若林, 2015, p.
36)。」と説明する。
以上から、経営重心なる考え方は、市場・組織構造・技術などの多元的要素の適合関係、すなわちコンティンジェンシー・アプローチにかなり近い考え方であるようである。なぜなら、著者は「経営重心の不動点」なる概念を紹介しているからである。「企業にとって最も適しているラインが、本来あるべき不動点ともいえる『経営重心の不動点』で、その重心から外れると業績が悪化するようだ(若林, 2015, pp.
122-123)。」いま、経営を人・組織、事業を市場・技術、とそれぞれ受け止めるとしても、前段の経営重心の説明とはほど遠い。
経営重心の概念の特徴は、シンプルな定量化であり、客観的に定量化できる二軸で説明できる、というものであり、コンティンジェンシーアプローチとは全く異なる切口である。ここでの話は、経営重心と実際の組織など会社の形態の、コンテンジェンシーアプローチなどの考え方との対比を示唆しているに過ぎない。以下でもきちんと定義しているので曖昧ではないし、矛盾もしていない。経営重心には是非の価値観はなくあくまで定量的に説明するためのツールである。そこから、その意味がどういうことか、従来の経営「学」と比較しているだけである。
第3に、上記でみた「経営重心」のほかに、本書には、「文化(重心)」、「事業の重心」、というように、複数の「重心」が登場する。
図表34「技術の適合性(若林, 2015, p.
149)」において、基盤技術の土台として「文化(重心)」を置いているが、その定義は不明である。また、唐突に、「事業の重心」なる用語が登場する。「ある特定の事業のM&Aの場合は、経営重心と対象となる事業の重心との距離から計算する。(中略)定量化された距離が近いほうが、成功する確率が高いと考えられる(若林, 2015, p.
150)。」
定義については、次の通りである。「事業の重心」は、3章、4章で、横軸、縦軸と、分けて説明してあるが、88ページに、その定義を示しており、図示もしている。
文化の重心は、これが、実は、その前に予兆的に、示した「不動点というべき重心」に近いが、143ページに、数式で、経営重心の時間加重平均と、示している。
よって定義がデタラメは、当らない。
第4に、以下は第1で紹介した「経営重心」の定義と完全に矛盾する記述である。
「もともと東芝は、『マツダのランプ』で有名だった東京電気と、重電の芝浦製作所が統合されてできた企業だ。『ランプ』ゆえにデバイス事業が主流であり、真空管やブラウン管など電子管事業から半導体や液晶が生まれた。それゆえ、デバイス事業において時代時代で製品は移り変わっても、2つの重心の一極であり、そのままのポートフォリオであった。また、そういう文化と、異なる事業をうまくコントロールする知恵やノウハウが蓄積されていたのであろう(若林, 2015, pp.
183-184)。」
つまり、複数事業の(速度と取扱量から導かれる値)の加重平均が経営重心であるなら、経営重心は定義上、その企業に1つしか存在し得ないはずである。にもかかわらず、ここで、2つの重心の存在例を紹介している。合併前から引きずっている重心がそれぞれあるケースを認めるのなら、本書のはじめに、そう言うべきである。本書のあちこちで、定量分析、客観性、測定、制御を強調しているので、そのぶんだけ論証から迫力が失われてしまっている。
上記批判に対しては以下である。
重心は一つであるが、実際にはポートフォリオによって、異なる。これを単純に表現するのではなく、類型化をしようとしている。これは慣性モーメントによって計算できる。これも重心で定義したからこそ、計量可能である。
http://hooktail.sub.jp/mechanics/inertiaTable1/
今後、この慣性モーメントも、重心、広さだけでなく、示すつもりである。これも二次、三次モーメントがあり、どれが経営に重要かは今後の課題である。
また、天体運動における関係も、太陽系のような場合から、連星や二重惑星のような場合と様々である。また、重心ではないが、楕円の定義は、二つの焦点からの距離が一定の軌跡だが、こうした幾何学、天体などのアナロジーから、いろいろなパターンがあることが実用においては重要である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E9%87%8D%E6%83%91%E6%98%9F
また、実際に、企業の形態には、持ち株会社から、JV、などいろんなパターンがあり、その組織と運用が、重要である。
第一次近似として、経営重心は定量的なアプローチだが、その経営重心を定義してこそ、その概念から広がる豊富な概念、慣性モーメントなどが第二次近似となり、その応用例として、東芝を上げている。おそらく、今後のソニーや日本電産もこうだろう。
よって定義とは矛盾しない。
第5に、企業を擬人化するのであれば、お見合いの例を途中でやめずに、極端な例でもよいので最後まで論じてみてほしかった。
なぜなら、経営学は、社会科学の一領域を構成しているのみならず、教養としての豊かな内容をもっている、評者はそう信じているからである。
それは、今後の課題としたいが、紙幅がない。
経営学は私は疑似科学と考えており、本書はそれと一線を画している。経営学はたまに力学や電磁気学くらいは、アナロジーとしてあるが、現実社会に役立っている工学、特に計測制御の考え方の成果を取り入れようとしていない。その点で、本書は疑似科学(多くは詭弁)である経営学ではなく、工学であると考えている。
2015年4月9日 IRとアナリストは何故、業績予想を外すのか?
桜が散り始める4月中旬からは3月期決算発表のシーズンだ。今来週くらいから、日経新聞に観測記事や、会社側の業績修正発表が出てくる。業績予想を外した時に、よく2流のアナリストが口にするのが「IRに騙された」という文句である。もちろん、IRが騙すことはない、過去の事実を可能な範囲で伝えているだけである。こういう文句が出るのは、そのアナリストが「今期の業績は上ぶれそうですか、下ぶれそうですが、まさか下方修正はないですね」などと聞いて、当然ながら会社側は「いろいろなプラスマイナスの要素はあるが全体としては公表通り」というのが通例である。売上10%、利益30%という基準など程度にもよるが、大きく数字が変わる場合に、それを聞いたらインサイダーとなってしまう。
そんなアナリストは論外にしても、外部者であるアナリストが業績を外すのは仕方がない。外部環境の分析不足、業績予想モデルが不十分、取材はしているが、思い込みが強すぎる、など様々である。おそらく、短期業績と中長期業績で理由は異なるが、この問題については、科学技術予測や、調査会社の市場予測が外れる理由も含め、別の機会に取り上げたい。キーワードは、大数の法則、不確定性原理だろうか。
しかし、なぜ、内部者である会社側が、中期計画ならともかく、半年1年単位の業績予想を外すのであろうか?この点について、社長やCFO、IRに取材をして、解ってきたことを述べてみたい。
まず、会社側、経営者には当然だが、業績予想、特に営業利益などは、アートの世界であり、つくれるものである。売上1兆円の企業くらいになると、1%の100億円くらいは、経費の見直しや保守的にコストを見積もるかで、どうにでもなる。これは実際、私自身がファンド会社を経営した経験などから、売上とキャッシュフローは難しいが、利益は、ステイクホルダーとのバランスである。もちろん、上場企業の場合は株主へのコミットメントもあり、その上で、ということではあるが。その位のアロウワンスはあり、出過ぎた場合は、来期に温存し、厳しい場合は、やりくりするので、来期は少し余裕がなくなる。これはアナリストもある程度は常識であろう。そういう意味では、年間予想についてはある程度の上方修正はあっても、下方修正は起きにくい。
当然、アナリストはそういう事情や、これまでの会社側の癖、もともと強気で出しやすいのか慎重なのか、あっさり早急に諦めて開示するのか、なかなか旗を降ろさず、コストを切り詰めて頑張り結果的には公表を守る傾向か、社長やCFOの顔を思い浮かべながら、考慮にいれて予測するのである。それゆえ、年間の予想については、会社側もアナリストも当たりやすく予定調和的にコンセンサスも形成されていく。
それでは、四半期についてはどうだろうか。これは、そもそも、多くの会社が四半期では計画がない上、日本特有の季節性もあり非常に難しい。あまりそういう影響がないのは、グローバル展開している部品メーカーくらいだろうが、またそれはそれで市況変動も激しい。幾つかの会社側、社長も経営者も、事前に四半期を当てるのは無理だと、吐露している。逆に、四半期が当るのは、つまり、①結果的に四半期が当るとすると、2カ月が過ぎて固まってきた場合、②四半期は監査も比較的ゆるく、数字を作りやすい、ということもあるかもしれない。そういう中で、四半期のコンセンサスがあり、上ブレ下ブレを競い、それで株価が乱高下するのは、全くナンセンスである。まさに、丁半博打に近く、胴元はそれで儲かるのかもしれないが。とはいえ、スペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故直後に関連銘柄が下落し、誰も知らないはずなのに株式市場が事故調査委員会の結果と同様に正しく、より早くというかリアルタイムに当てていたのはなお不思議ではあり、四半期決算も意味はあるのかもしれない。
数年の予想ではどうだろうか。ここでは前提となる外部環境の数字、市場成長やマクロ動向がカギとなるが、リサーチハウスの予想も、これまた当たらない、政府の見通しも当たらない。予想期間が景気サイクルの区間中にあれば、まだいいが、景気サイクルの外となり、期間にリーマンショック、ITバブル崩壊、などが入ると不可能である。高度成長期の電電公社や国鉄、電力会社の計画経済の中、粛々と設備投資がなされ、固定為替相場制では中計は当たって当然であったが、今は、自由な市場主義経済、在庫循環となると極めて難しい。
これまた会社側ですら当たりにくい数年の業績予想をアナリストが予測する意義については、会社側は、やはり参考にしたい、ということであるようだ。会社側も、アナリストの特徴個性を理解している。彼は強気、彼は弱気、彼は外れる、とかがわかっており、そういうフィルターの中で、自身の計画をチェックする。その数字そのものよりも、その背景にある景況感やシナリオを知りたいわけで、その中に会社側が想定していない事象や、競合状況がわかって、経営のヒントになればいいのである。
予想数字はいわば、そのきっかけに過ぎない。その意味では、ファンドマネージャのアナリストの使い方に似ているかもしれない。当たり外れではなく、切り口であり、見落とししていたケースがあるかどうか、であろう。
今度は、会社側について考えたい。そこでは、IRが「騙したくない」のに何故外れてしまったかである。IR側(ここでは開示責任を負うCFOも含む)は、事業部サイドに計画数字を出させ、それを定期的にフォローしている。IR側も事業部の癖を知っているので、安全率を考え、リスクヘッジをして、セグメントの中に入れたり、共通費や消去にバッファ分の数字を入れる。いつも強気で外すあるいは市況変動の大きい事業は、その分、引いておくし、慎重でいつも上ブレするところは、そのままにする、と言った按配だ。期中は、その他のセグメントや共通費などで、調整し、それでどうしようも無くなったら、業績修正となる。
その途中経過において、IR側がどれだけ、事業部の詳細を把握し相互会話ができるかが鍵である、対立関係になれば、いけないし情報を出さなくなるし、IR側が教えてもらったり、IR活動で、工場見学など協力してもらはないければいけないことも多い。もちろん、短期長期で粉飾をしている、という場合もある。もちろん、IRだけでなく、経理部門がチェックするし、人事交流で事業部に経理などの人間が送り込まれ把握はされている。しかし、あまり長くなると経理など本社側だったのが事業側にマインドが変わるのも人情である。それゆえ、景気変動と、人事が重なると、そこで思わぬマイナスが露呈することもあり、特損になったりする。それゆえ、ある程度のチェック的権限と、人間的コミニュケーションといったバランスが重要であり、そこに会社の組織や、文化、本社が強いか事業部が強いか、その時々の経営環境やトップの個性で、求心力が強い時か、遠心力が強い時がでも異なる。
電機メーカーの場合、IRは広報所属(日立、東芝、富士通)、財務所属(三菱電)、経営企画(NEC)、などがあり、IRが独立している場合もある。広報といっても、だいたいCFO連携型であり、ソニーはより広報的、パナソニックは財務系だろうか。いずれの場合も、コングロマリットで大企業であるため、IRあるいはPRの中に、事業毎の専門などを配し、また事業部の中にも広報IR担当者がいる場合が多い。この担当者の立場が強かったり、IRがCSRを兼ねている場合は、監査的権限があるため、十分にチェックできる。また、社長に求心力があり、IRが経営企画の場合も同様だろう。しかし、そうでない場合は、遠慮があったり、十分に情報が把握できないことも多いだろう。
会社が厳しく、強いリーダーが社長となった場合は、求心力があり、CFOも強くなるため、情報が集約されやすい。しかし、やがて会社が好調になり、リストラモードが一巡すると、事業部がそれぞれに発展して強くなっていく場合もある。
どういう組織がいいかは、正解はなく、その時の経営環境、トップの個性、人事の運用の仕方(人事異動など)、IR担当の個性、事業部の特徴(顧客が役所か、強い客か、BtoBかBtoCか)などで、様々なやり方があろう。ただ、最近は、やや短命が多いトップよりもIRが長い場合も多く、首相はコロコロ変わるが官僚はしっかりしているというのに部分的に似ているかもしれない。その中で、IRが経営者の立場で客観的に内を見て、外の意見や情報を集め、内に伝え、また、内の情報を精査して外に伝えるというようになっていることは喜ばしいことである(その意味では、IR担当者こそ本当の「社外」役員、監査役に適しており、あるいは、そこをうまく生かすかが社外役員制度や監査役制度を生かせるかどうかの鍵である)。
アナリストも、そういう状況を理解して、会社に接し、業績予想をし、できれば、その背景にある切り口でも、会社に参考になるようにしたいものである。それで、まもなく始まる決算で短期的な予想精度が向上するかどうか、は不明であるが。
2015年4月8日 ロームのLSI事業説明会
2015年4月8日15時~17時半にローム主催の半導体技術の最新動向セミナー(初級編)~IoTや自動車の省エネ・小型化・安全・快適に貢献する半導体技術の最新動向に参加した。ロームはアナリスト(ファンドマネージャ兼アナリストも含む)として25年近くカバーしてきたが、改めて勉強になった。この他にもIR主催で個人投資家向けにセミナーも開くなど情報開示や半導体の知識の啓蒙に積極的であり、これらの資料は参考になる。
内容は、①LSI商品開発本部長 飯田氏より、LSI事業の特徴と戦略、②パワーマネジメントLSI商品開発部 山本氏より、付加価値創造のキーデバイス、融合が進む電源の今とこれから、③ローム傘下のラピスセミコンダクタ㈱LSI商品開発本部長 藤田氏より、同社LSI事業の特徴と戦略、④同社無線通信LSI開発ユニットの奥秋、野田氏より、アクティブエコを実現するワイヤレスセンサネットワークに最適な無線、⑤新製品発表として、小型フィットネスヘルスケア機器に最適なブルーツース対応モジュール、と質疑、その後、懇親会であった。なお所用があり懇親会は不参加である。
まず最初の①のポイントは、組織図でLSIは商品戦略本部でマーケを、開発本部で開発設計を、生産本部で生産技術というマトリクスになっており、その中で、商品開発4部門、先行開発2部門、アプリ開発1部門という組織である。買収したラピスやカイオニクスとのシナジー、インテル等とのリファレンス化・プラットフォーム化を進める戦略である。アナログパワーを中心としてBiCDMOSでは微細化でもTSMCより先行、またモータや電源で強みを持つことが確認された。
次に②では、電源ICの仕組みから解説、世界では6億個の市場だが同社は世界ではTI、マキシム、リニアに次いで4位、車載や、産機、ITプラットフォームへの展開が説明された。また、新しいトレンドとして、ワイヤレス給電やUSBパワーデリバリへの取り組みが示された。
また③では、沖電気の半導体事業からの54年の歴史を持つが、新たにラピスとして展開、2ファブ、4商品、1サービスで、ロームやカイオとのシナジーを追及発展していくとアッピールされた。沖電気時代に担当していた時は宮城も宮崎も数回ずつ工場見学もしたが、かつてのDRAM、ちょっと前はアミューズメントが中心であったが、かなりポートフォリオも変わり、ロームグループとしての最適化が進んでいると感じた。
最後に④では、沖電気時代からの強みである通信、低消費電力を生かした、ワイヤレスセンサ、特に2016年頃には1億台となるスマートメータ向けに製品を提供していくこと、またウェアラブルの先にあるインプラント型チップも開発していくことが示された。また新商品として1個からネットで注文できるチップが紹介された。一般には意義がわかりにくいが、半導体は、秋葉原で買う場合は別にすると、通常は専門商社を通して契約し1000個とかの単位でないと売ってくれないので、これはビジネスや採算性は不明だが、ユーザーという視点では、大変画期的ではある。
質疑では、私はまず、ラピスに関して、沖電気時代からの違いを聞いたが、8インチの宮城工場ではDRAMは5%以下でレガシーに特化、マイコンやドライバーが中心、また6インチの宮崎工場ではラピス商品は減っており、高耐圧のファンドリー、IGBTディスクリートなどが多いようだ、WLCSPは八王子で展開していたが、宮崎に移管、高品質スマホ向け組立ファンドリとなっているようだ。
次に聞いたのが、講演②に関連してだが、昔から、家庭向けの直流化の議論があり、もし将来、再生可能エネルギーの割合が増え、蓄電池を多く使い売買電自由化が促進されれば、直流も増え、その場合は、交流から直流に変換する電源ICを使わなくなるのではないか、とう点を聞いた。これについては政治的な背景や安全性もあり交流がやはり主流であり、かりに直流になっても家電機器の電圧は個々に違うので、やはり有用だろうと納得できる回答であった。
最後に聞いたのが、IoT時代への展開であるが、ロームは、センサとしては、圧電、近接光センサ、MEMSセンサーとほぼ全て開発可能であり、無線ネットワークも強いと説明された。ただ、キャリアやセットメーカーが加入している欧米の標準化委員会などには参加していないようであった。
他のアナリストからはFeRAMの容量拡大や、売上の6区分の比率、SiCのフォロー等についてであった。売上についてはほぼ均等だが電源とモーターが成長が大きいこととのこと。
FeRAMについては、少なくとも株式市場に最初に紹介したのは私であり、NRI時代90年半ばに、過去に何度か詳細なレポートを書いたが、残念ながら、それほど市場が拡大していない。当初はDRAM代替あるいは後にNANDフラッシュ代替が期待されていたが、DRAM代替のためには1兆回という書き換え回数では不十分であり、あと二桁必要であることが普及のネックであることが後にわかった。NAND置き換えという意味ではNANDの100万回に比べれば優位であるが、ここではチップ面積が小さく大容量化がしやすい1Tr1Capaではなく、2Tr2Capaである。NANDが1Tr1Capa以下であり、コストで追い付かない。いずれにしても帯に短し襷に長し、であり、ここからは、キャッシュメモリなのかメインメモリなのか外部かなど応用に特化した開発戦略が必要であろう。その中では、小容量のFeRAM搭載マイコンは少し市場が広がりつつある。
半導体市場は、ムーアの法則50年であり、この25年間は水平分業が進み、ファブレスファンドリー化が進んだ。しかし、次の25年はいわば水平統合ともいうべき動きが出てくるかもしれない。特にIoT時代になると、センサーやマイコン、電源などなど周辺回路との融合が必要になってくる。また単体からモジュール化が進み、自動車では、セットメーカーと、Tier1のデンソーなど、その下の半導体という位置づけが、階層を超えて連携が起こり、Tier0も出てくる時代になるかもしれない。NXPによるフリースケール買収や、絶好調のクアリコムの身売り噂なども、そうした大きな潮流の中の動きではないか、と考えている。村田のルネサスのPA部門買収や、半導体と部品の融合も同様であろう。今は、好調なNANDフラッシュの東芝、CMOSセンサーのソニー、なども、周辺のチップを統合しよりモジュール化が進む時が来るかもしれない。そういうとい、ついつい日本人は工場ベースの統合を意識するが、それもあるが、むしろIPや小規模なデザインハウスのM&Aが鍵となろう。今は、城攻めにおける本丸を遠巻きにとり囲んで支城をせめ、付け城を築いたりしているところであろうか。しかし、支城が落ちた時は勝負はついており、本城の本丸攻めはセレモニーに過ぎない。その意味では、やや離れた階層での、標準化の動きを注視する必要があり、チップメーカーだからと遠慮せず、例えば通信では、キャリアと直接の会話も必要であろう。
2015年4月7日 工場見学シリーズ~NECの海底ケーブル事業と㈱OCC工場見学
1.アナリストにとって工場見学
工場見学会は、企業のIR活動としては一般的に普及している。アナリストだけでなく、従業員の家族、地域住民、子供向け、学生向け、ユーザー、サプライヤー、等、極めて盛んであり、特にこれは日本で顕著で、自慢してよいだろう。製造業においては、工場こそが主役であり、それをアッピールでき、配偶者や近所の知人の活躍する場を見ることもでき、相互交流を深まれる場であり、見学する側においても、遊園地以上のエンタテイメントでもある。そうした経験から企業に就職し、将来の新製品開発や生産技術向上に貢献する人が出てくることも少なくないだろう。もちろん、「素人が見てわかるのか」ということはあっても、感じるものは大いにあるし、会社や製品に対する理解を深められるだろう。特に、BtoBの企業の場合は、数少ないアッピールの場である。
IR主催の見学会の場合は、①事業の説明、製品の実物展示(特にBtoBの場合)、②工場の生産現場の見学、などを通して、事業や生産技術の理解を深めてもらう、ということが目的であろう。また見学会も最近は、数年に一度のものが中心であったが、かつては市況性が大きい半導体や液晶は、半年毎の定点観測的な目的もあった。
それでは、工場見学で何を見るのだろうか?専門家のコンサルタントや経営学者は、ラインの効率性やTACT、モノの流れ、5S運動の徹底などであろうか。
素人?のアナリストが見て何がわかる、との意見もあろうが、同じ工場を定期的に見ていると感じるものはあり、また、同業あるいは異種業でも、横比較していくと、何かは見えてくるものだ。もちろん、現場には多くの社員がおり、壁にはポスターが貼ってあったり、普段の綺麗なオフィスでのIR取材では見えない、雰囲気や社風見たいなものも見えてきて参考になる。
私は、工学部3年の授業で週に一度、工場見学というものがあり、教授引率で参加したが、先生は生産技術の専門家である場合も多く、先生の質問は参考になったし、4年から修士1年、修士2年のリクルート活動でかなりの工場を見学させてもらった。ある先輩が、「会社に入ったら、外、特にライバルの工場などは見れない、貴重な機会だからよく見ておけ」と言われたものである。
余談だが、実は、OCCの株主でもある住友電工は学生時代に4回も関西地区の工場を見学し、NRIに入社してから新人調書でも住友電工の工場見学があり、それまで4回も見学させてくださった先輩が私を見つけ、また来るのか、と怒られた。
その後、学界の見学会などもふくめ、アナリストでないプロ?の大学の先生やコンサルタントなどと一緒に見学もしたが、だいたい見るべきポイントは、やはり、①モノの流れがスムーズか、②在庫、③人の動きが無駄がないか、④5Sが守られているか、だったように思う。同じ工場を何度も見た場合は、流れや配置がどう変わったか、などがポイントとなる。量が多くなると、一品つくりからセル生産、さらにベルトコンベア式になってくる。個々のセルなどの工夫や、自動機の工夫、自動化のレベルはもちろんである。また設備の金額や製品の金額のイメージを掴むこと、ざっと見て、稼働や在庫などから試算することも大事だと言われた(これは試行錯誤で経験するしかない)。
アナリスト投資家が見る重要なポイントは、「この工場を再現するのにいくらかかるか」というものだ。工場の建屋、装置だけでなく、作業者や、外注なども含めてである。そうした有形無形の価値が、M&Aなどで容易に得られるものか、どうか、それを企業の時価総額と比べるのである。多くの電子機器の基盤など組立系の中国工場などは、出来合いの生産ラインを買ってきて、キーとなる生産技術者などを雇えば、ある程度の金を出せばできそうである。実際に、山賽機は、そうしてアパートの一室でつくられているし、3Dプリンタの登場はさらに、そうした分野のモノつくりのハードルを下げるだろう。ある意味、最先端の半導体も、大金があればできるかもしれない。実際、そうした電子機器や半導体は、EMSやファンドリーの台湾の独壇場となった。そこから「遠い」、金をかけても買ような工場、持つ企業は価値が高いと分析するわけである。
アナリストが聞きたがる点は、生産ラインの機械を提供しているメーカー名や、材料を提供しているメーカー名であるが、これは、関連銘柄というだけでなく、生産ラインを復元できるか、あるいは生産ラインを理解し、他社にまねできそうにないかどうかを確認するためでもある。また、LTや、サプライチェーンの中での外注先(これで変動費の分析に重要である)、生産キャパや稼働状況(これで損益や季節性がわかる)、人員数や交替、派遣の内訳もある。自動化、歩留まり、直行率、MTBFは、生産性を確認しつつ、どのくらいのアップサイド余地があるかの確認である。また、半導体の場合は、クリーンルーム面積で大体のキャパがわかり、設備金額もわかるので、面積を聞く場合もある。
2.記憶に残る工場見学
そういう視点で、30年以上、毎年平均10以上、多い時は20くらいの見学に参加しているから、累計では、500位はいっただろうか。韓国、台湾、中国は、もとより、欧米もある。業種も当然、電機や精密が多いが、造船、鉄鋼や電線、ガラス、フィルム、印刷、鋳物、おもちゃ、など様々である。
その中で、印象に残るものを順不同で10あげると以下であるが、NECの今回の見学は、スケール感において、昨年の宇宙事業と並び10指にはいるものであった。
半導体工場:特に89年頃の1MDRAMで大いに利益を稼いだ東芝大分工場は圧巻であった。当時は、CR内も入れ、12ドルくらいのDRAMのコストは6ドルくらいかと事前に計算していたが、どうも3-4ドルらしかったこと、またLTが2カ月には驚いた。同時期、NEC、日立、三菱電、沖電気にもいったが、各社各様のコンセプトがあり、同じ会社でもメモリーとロジックで発想が異なることが面白かった。
重電の工場:日立の日立工場、本社には金をかけていないが工場には金をかけており、日立の底力を垣間見た思いがした。東芝の重電、府中なども同様である。
鉄鋼メーカーの生産ライン、造船メーカー、男らしい現場である。
防衛庁向け工場:もちろん限定された範囲だったが貴重な機会であった。
川口の鋳物工場や、鍛造工場、経産省プロジェクト視察したが、モノづくりの原点
液晶工場:今は無いDTI社(東芝とIBMのJV最初の本格的TFTライン)を工事現場から訪問、日立やNEC、パナソニックなども印象深い。また、シャープは三重までと、亀山からで、LGはクミの6-7Gから工場が変わったと思った。
ホンハイ中国金型工場、および関連の金型工場、日本のモノづくりに不安を感じた
ニコンの露光機、製造装置というよりプラントに近いと感じた。
今はないが松下通信のケータイの掛川工場、中国のTCLやバードのケータイ工場
NECの宇宙、今回のOCC
参加予定であったが、行けなかったのが三菱電機の名古屋製作所であり、これに予定通り参加できれば上記に入ったであろう。
最近の工場見学は、半導体や液晶などはウィンドウツアーとなり、ビデオで見る場合も多く、現場感が乏しい。ユーザー向けに、予め通路を設け、臨場感を増している工夫もある。工場は、綺麗な本社ビル、受付よりも、最大の外に見せ、広告宣伝効果も大きいのだという認識が深まれば嬉しい。これに対して残念な工場は、一見綺麗だがよく見ると5Sが徹底されず、部品や仕掛の在庫があちこちにあるものである。
3.NECの海底ケーブル事業
4月7日 12時より北九州市若松区の㈱OCCの工場にて、ビデオ、NEC海洋システム事業部長 吉田氏から説明、㈱OCC社長 都丸氏より説明、13時半より15時頃まで工場見学、のち質疑15時半解散であった。
ビデオで驚いたのは、まず、水深8800mの海底に沈め25年間の正常動作が要求されていること、そして、今や国際通信の99%が海底ケーブル(衛星は極めて少ない)であり、音声、データ、映像が流れている、であった。また、多国間にわたり海底の地形が違うので設計から製造、敷設までに半年以上かかることも驚いた。またグローバルな話なので、説明が半分外人の社員であった点も印象的だった。
NEC吉田氏の説明
NECの中では売上規模は小さいが重要な国際事業。ケーブルだけでなく、光中継、陸上の局舎だが給電1.5万V、光源、SDHをソリューションで供給している。売上500億円前後、営業利益は5%程度の模様。今後は、地震計など横展開も図る。強みは、①設計製造、②海底の地形を熟知した敷設埋設、③インテグレーション、④各国の規制や文化慣習を熟知したプロマネである。
技術的には、1994年のErドープによる光増幅、2000年の当時は使えないと思っていたデジタルコヒーレント技術が大きく、2000年10Gb、2005年頃40Gb、現在100Gbとなっている。
市場規模は、受注は1000-2000億円で変動しており、前回は2008年がピーク、今回は2014年も高い。顧客であるキャリアの予算次第だが、かつての米系のベライゾンなど中心から、グーグル、マイクロソフト、フェースブック、あるいは新興国に変わってきている。NEC以外には、TEサブコン(旧ATT)、アルカテルであり、3分、アジア、米、欧州と大陸毎にすみ分けている状態である。海外勢は上場をもくろんでいるようだ。
都丸OCC社長の説明
会社の歴史、1935年設立の日本海底電線㈱、1960年設立の大洋海底電線㈱が1964年にオリンピックもあり合併、1999年に㈱OCCとなり、ITバブル崩壊で苦戦、2004年産業再生機構の支援で再生、2006年投資会社傘下のあと、2008年にNECと住友電工が共同買収し、NEC75%、住友電工25%となった。
工場の概況だが、600m×300mの18万平米の広さ、半分が貯蔵、半分は製造、建屋の延床面積は12万平米を誇る。ケーブルの生産能力は年間2万km 2008年からの累計生産は7万km、95年からだと20万kmである。敷設の船を二隻横付けでき、これはライバルは1隻しかない。
ケーブルは、外装と無外装に分かれ、浅い海、1500m以下では漁船や碇などの影響があるので鉄線で被う。
ケーブルの工程は、①インナー工程:光ファイバーの多芯を、特徴である3鉄片で被い、さらに銅で被う、②絶縁シース(これでLWケーブルとなる)、③外装(鉄線を巻き強度をます、碇に切られないよう)からなるが、②の前に、水中タンクでテストしたり、③でいろいろなテストをする。テストは光学的なもの、耐久テストなどがある。
工場見学(引率は鈴木所長)
インナー工程から、長いラインを、ファイバー、や鉄、銅、ピアノ線が、撚られて、連続運転で一本になるのは圧巻であった。絶縁シースや外装も同様で、途中でタンクにいれて水中テストも行う。最後は接続テストであり、実際の海底の敷設は地形地形で異なり大変なことが想像できる。
ここで個人的に関心があったのがファイバーの接続である。フェルールの光軸の調整が大変だと思ったが、自動化され8時間でできるそうだ。実は大学3年の夏に工学部では工場実習があるが、NEC玉川の生産自動化研究センターにいき、当時は大変な課題だった光ファイバーフェルールの軸あわせの自動化がテーマであった。もちろん、開発はNECの先輩の方であり、手伝い勉強程度ではあるが、後に完成して、工場で装置が動いているのを見た時は嬉しかったものである。それが少しは関係しているのだろうか。
全体的な印象は、かつて見た、住友電工のケーブル工場や、フィルム、印刷の工場に近い。140名の社員のほか、外部50人、あと船がくる場合は更に50人である。外部は、山九などであり、この地域はエンジニアリングでは強いのだろう。
質疑応答
私が関心を持ったのは以下である、
今後の技術進展において、Erドープのような革新があるかどうか(当時はこれがないと厳しかった)?これについては、デジタルコヒーレンシなどもあり出てくるだろうとのこと。
メンテフリーだが、逆にメンテを事業にしたり、海底のいろいろなデータを地震だけでなく、ビッグデータとして活用でないか?メンテ事業はない。データ活用は海流を見たりはしているがNEC全社での取り組みはない。NECは全社でビッグデータを重視しているが、肝心の現場のセンシングが弱く、データを他から貰ったり、シミュレーションが多いので、こうした活用を全社ですべきではないかと思った。
モノ作りにおいてコストダウンは、量産効果とLT短縮であるが、まさに、この事業は経営重心理論的にも、長期サイクル、桁数小さいという意味ではNECに向いているが、コストダウンが容易ではない。これについては、25年といっても、技術の進歩もあり、実際は10-15年であるようだ。ただ、地道な積み上げしかなく大変だろうと思った。他のアナリストの質問で3社寡占で安定しているのに何故利益率が低いか、というのがあったが、同感だがまさにこの量産効果LT短縮効果が効かないということではないか。3社のシェアが均等でキャリアが強いことだろう。
他のアナリストの質問では、シェアの確認、成長性、キャパやボトルネックがないかどうかなどであった。
この中で重要だとすると、成長性だが、ほぼ2000億円まで推移するとの見方である。ただ、質問者の考えと同様に、グーグルなどは、予算も多く、これまでのキャリアとは発想も違うので、今は、コンソーシアムでスペックも共同ではあるは、彼らが主導を握ってくると、今後は、大きく様変わりするかもしれないと思った。
また、既に、ファーウェイが参入しており、500kmくらいだが実績はあるようであり、これも注意が必要であろう。
全体的な感想としては、売上げ規模ではNECに占める割合は小さいが、昨秋の宇宙事業と並んで、社会インフラを標榜するNECらしい事業であり、工場であった。長年、富士通と比較されたが、徐々に、違いが出てきているし、また日立とも、違いが出てきている。ただ、両方とも、顧客との密接度が強く特殊性も強く公共的な色彩が強いため、その狭い分野で満足する可能性もある。社内の横展開をし、他に新しいニーズや強みを生かせる場がないのか、検討されるべきだろう。宇宙も、海洋も、陸上より遥かに広く、データも多く、最先端の技術が必要であり、NECのシェアも高いのだから。
2015年4月6日 東芝 水素インフラ事業説明会~消化不足
2015年4月6日 東芝府中事業所において、水素エネルギー研究開発センターの開所を記念して、水素インフラ事業の説明会と、同センターの見学会があった。マスコミと投資家アナリスト合同で、田中社長の挨拶、前川常務のプレゼンがあった。
東芝の水素事業の規模は、150~200億円くらい(エネファームが中心 累計6万台出荷 昨年12月の個人投資家向け説明会資料によると、シェア50%、単年度2万台なので単価100万円)だが、2020年に、1000億円(同資料では政府の累計台数目標140万台、なお2030年530万台目標、ここから推定すると あまり単価ダウンはない?)。水素製造、水素貯蔵、水素利活用(発電、分散電源、エネルギーマネジメント、自動車用燃料電池、ヘルスケアなどが対象。2015年は地産地消型モデルで、水素タンクH2ONEを事業所などに届ける。その後は全体的な大規模ソリューションを狙う。市場規模は、2030年30兆円、2050年160兆円(大半は燃料電池車)の模様。
コンテナの形態をもつH2ONEをあちこちに運び設置することが強調されていたので、関心を持ったので確認すると、「高圧の水素タンクだが、普通のステンレスで外から買い、コストも問題なく、100兆円規模になっても量産は問題ない」とのこと。これは、燃料電池用タンクについては自動車、素材など開発に努力しており、トヨタが「ミライ」関連の特許の無償化に踏み切ったとはいえ、高圧水素タンクの製造は容易ではないように思う。私の知識不足で混乱しているかもしれないが、ミライでは、CFRPが強度に必要であり、その材料コストが50万円するという説もあるが、そのあたりを十分、質問議論する時間がなかった。水素はKg1000円くらいだが600円、将来は500円以下との目標があるが、そこはどう達成するのかも説明なかった。
水素社会は普及しようし、トヨタがリードし、アベノミクスでも重要政策である。原発とも補完するし、再生エネのためにも水素エネルギーは必要である。しかし、それが、現在のエネファームの延長なのか、多くのプラント、機械、素材メーカーが参入している中で、どこが東芝の付加価値か、ビジネスモデルがどうかは解らないので評価のしようがない。ただ2020年はあと5年である。
経営重心理論からいえば、10年以上の長期サイクル、ボリュームも100万個くらいの桁であるから、ちょうどいいだろう。研究開発センターの位置づけとしても実証とPRが主体であるのは、納得できた。今後は、他の研究所との関係や、コア技術について説明が欲しい。
4月4日読売新聞報道でシャープの液晶部門の分社、さらに4月5日日経報道で液晶部門分社に産業革新機構が1000億円出資に向けて交渉開始とされている。またシャープ本体はメインバンク2行が2000億円を投入する模様。真偽は不明だが週明けに正式な発表が出る可能性があろう。とりあえず当面、最悪の事態を避けられそうで喜ばしい。
液晶部門を分社し、他から出資を受け入れるという方策は、先日のブログで示したケースF、Gに近い。しばらく様子を見て、上場あるいは出資元などと合併というのも、同じようなストーリである。ただ、ここでは、ホンハイや、他の電機精密メーカーなどが出資する可能性を考えていたし、特にパナソニックは出資受け入れの代わりに姫路G8ラインも一緒にすることを想定していた。また、堺についてはケースFでは一緒にする、ケースGでは別にするというものであった。
産業革新機構は、筆者もケースFやGにおいて有力な出資候補ではあり、経産省も想定しそうだ(「強化法」を適用する)とは考えていたが、既にJDIの36%の大株主であり、液晶市況のリスクを大きく受ける可能性がある上、JDIとは利益相反の可能性、あるいは実質的に両社を革新機構が一体運営し、将来、合併となる国内で独占企業になるので独占禁止法抵触(「強化法」で適用除外とする?)も、ありえるので除外していた。もちろんこれまでにも記したように、シャープが破綻して優秀な技術者が出たり韓国台湾中国に買収されると困るのはJDIなので中期的には、そういうマイナスリスクを減らしたとはいえる。
利害相反、独占禁止法以外で重要な課題は多い。
まず、アップルの出方である。アップルは大きなサプライヤー2社が一緒になる方向性を嫌がるかも(2/3のシェアになる)しれず、その場合にはシャープが液晶での3000億円の売り上げを失い、また、亀1に保有する製造設備を買い取れというかもしれない。
次に、ホンハイである。CEOが個人で堺に出資している他、株主でもあり、また、延期となった550円でのシャープ株の買い取りを巡る話もあるし、これまた、堺を買い取れ、と要求してくる可能性もあろう。その場合には、液晶新会社のスキームが変わろう。
さらに、もちろん資産の配分の問題もある。従業員や、有利子負債の配分や、共通の資産の配分等は議論が多い。また、液晶と同等の課題であるソーラーや、内外拠点の統廃合などの処理も残されている。この2年で出資してくれたいろいろな内外の会社との話し合いもある。サムスンはじめ海外の会社がカギであろう。
液晶新会社は、これまでのルネサス、JDIなどの例を見ても、有利子負債は少なめ、リスクが大きい市況品が中心となるので株主資本は厚めにすべきだろうし、50%超えが不可欠だろう。
逆にシャープ本体は、リスクが小さく国内中心になるので、株主資本は流石に10%前後ではいけないが20%くらいでもいいかもしれないし、その分、有利子負債は大目でも耐えられよう。
まだ決まっていない重要なポイントは、①シャープの連結対象か持分対象か、②報道のように革新機構が過半をとるか、③他の株主を入れるか、④シャープ以外にパナソニック姫路なども入れるか、⑤トップをどうするか、であろう。
シャープは主導権を取りたいし、減損などのリスクを先送りしたい面もある一方で、連結対象にしたくないかもしれない。革新機構は主導権をとりたいであろう。
トップは、液晶会社には、革新機構からと、外部から同様の案件で実績のあるトップを受け入れ(その場合、母体の会社からも出資する可能性もあろう)、あるいは、現在の液晶トップの方志氏などが有力で、代表取締役二人体制で、会長と社長となるだろう。
液晶を外したシャープ本体は、現トップは引責し、女性社長の可能性もあろう。本体は、あとソーラーの部分をリストラすれば、売上2兆円以下、数100億の営業利益がコンスタントに出る、かなりローリスクの会社となる。
報道内容の数字をヒントに分析すると、以下のようであろう。
液晶新会社は、売上1兆円、ただし、堺は不明、アップルが出ていく場合は、5000億円。報道の液晶関連資産3000億円で、これを現物出資して、1000億円の産業革新機構ノ出資が50%ということは、株主資本が2000億円だから、液晶関連資産は2000億円減損ということになる。これは以前のブログの推定500~2000億円の特損が出るという推定から保守的であろう。
売上1兆円なら、在庫仕掛が2カ月分とすると2000億円程度、売掛債権と買入債務がバランスするとすると、総資産5000億円、株主資本2000億円前後、有利子負債2000億円前後くらいのイメージであろうか。この辺りは液晶のモジュールあたりをどこで持つか、堺をどうするか、でかなり違う。
アップルが出て、堺も外れ、売上5000億円の場合は、かなり在庫仕掛負担が減り、総資産3500億円、株主資本2000億円、有利子負債2000億円と、JDIよりローリスク、ローリターンとなる。ただ、既に天理や三重は老朽化、亀山も古くなった。薄板化や十分な微細化もいる。今後、車載や中国スマホ向けには設備投資や先行投資も不可欠であり、総資産5000億円くらいには、なっていこう。その段階で、JDIと一緒にするか一部の部門を再編整理もあろう。
シャープ本体は、売上2兆円に減るが、有利子負債は1兆円から8000億円くらいに減ることになる。総資産も2兆円から1.5兆円になる。株主資本は3000億円で十分、2000億円が目途であろう。現在の株主資本は2500億円だが、赤字1000~2000億円、液晶の現物出資分1000億円を引き、銀行の注入2000億円で1500億円であり、だいたい辻褄はあるが、これまでも指摘しているように、ソーラーと海外販社在庫や内外拠点の統廃合が不明である。
現状での報道をベースにした状況は次図である
アップルやホンハイ、サムスンなどとの話し合い次第では、ケースFやGも想定しておく必要があろう。たまたま、工場は関西が多く、関西台湾連合としてみた。資金力があり、多少シナジーもあり、トップの決断力がある会社として、京セラ、日本電産をあげているが、全くの「妄想」であり、両社ともM&Aで多くの成功実績があり、かなり厳しいDDをするはずであり、これに関心を示すかどうかは全くの不明である。
2015年4月3日 グローバル、オープンイノベーション、ノンリニアモデル化の中で変わる日本の研究開発体制~ケース1 富士通研究所見学
1.企業を中長期から評価する際に、研究開発が鍵を握る。それは、①中長期の企業の成長を牽引する役割を担い将来のポートフォリオを決める重要な要素であり、②現在の企業の技術力を評価を左右し、③特に、電機メーカーでは売上高比率で5-10%もの費用が掛かっているためである。アナリストが企業を長期で評価するためには、この分析が不可欠である。
企業側が研究開発IRを行うのも、こうした重要性からであるが、同時に、バブルの頃には「新技術」の発表で株価が暴騰することがあり、業績が悪い場合などに効果があったこともあろう。80年代後半のAIブームでは、正月明けの発表でストップ高がでたり、高温超電導ブームでは、学界発表で臨界温度が更新されるたびに、株価が乱高下した。当時は、技術の実用化についても、単純なリニアモデルが学界や経営だけでなく株式市場でも支配的であり、新技術開発成功→実用化→業績拡大と信じられていたからであろう。さすがに、1961年の東洋電機のカラ―TV事件のようなことはなかったが、それでも超電導で液体窒素温度は確かに達成されたものの、常温超電導が一流企業でも発見されたとう誤報もあった。また、その後の常温核融合騒ぎや、また怪しい銘柄が、永久機関の話など明らかに物理の原則に外れているのに、新発明だと暴騰したりした。さすがに今は、生物バイオを除き、そういうのは無くなった。しかし、なお企業の側に、まだ、新技術を、いいネーミングでアッピールすれば「七難隠す」と思っているのではないかという発表の仕方をする例もあるのは残念である(ある意味、理研のSTAP細胞事件もそうである)。
研究開発IRの要素としては、①研究開発体制、②研究テーマの発表や紹介、③研究開発現場の見学、がある。
このうち、一番、多いのは、②であり時間も割かれるしマスコミなどの記事にもなりやすい。ただ、企業にとっては、独自だと思っていても、多くの企業の発表や展示を見て見学会に参加している我々アナリストからは、似たようなテーマを他でもやっていた、という例は非常に多い。
特に、90年代は、その傾向が強く、日経エレクトロニクスなどの研究開発特集記事の注目テーマ上位はほぼ同じであった(実は、それが、残念ながら、また同じように失敗したことが90年代の電機の低迷の理由であるとも考えている)。
その背景には、横並び主義があり、ある研究がマスコミで取り上げられると社長から研究開発のトップに電話がかかり、「うちではどうか?なぜうちでやらないのだ」ということが多かったらしい。また他社でやっていると予算が通りやすかったようだ。これについては、幸い、そういうことは今は全くないようである(NEC中研 江村氏)。
殆どの企業のIRは、上記の①と②であるが、たまに③もある。現場を見るには、理系出身でないアナリストなどにも雰囲気が伝わるし、現場の熱意や姿勢は何となくわかるものである。理系出身にとっては懐かしいものである。昔は無かったような機器が入っていたり、他社にない機器があればプラスの評価になる。しかし、逆に、あまりに貧弱であったり、自動車向けに取り組む、と言いながら、温度計測機器の範囲がー10度から50度くらいなら、おかしい、本当にやっているのか、と思うだろう。これは、理研の小保方実験室の報道を見た時に何か違和感を覚えたのと同じである(広告宣伝会社が入り、小保方氏以外はエクストラであったらしい)。
2.さて、近年では、研究開発においても、グローバル化、オープンイノベーション化、イノベーションにおいてはノンリニアモデルが常識となってきている。
かつての研究開発のイメージは、「郊外の緑豊かで静かな研究所で、世俗を離れた優秀な博士達が、実験室に籠って、研究開発を続け、ある日、偉大な発見や発明を成し遂げ、それがやがて工場で実用化される」というものであり、トランジスタや、バイオ、などは、事実、そうであった。ベル研などの華々しい成功や、冷戦下の米ソの宇宙などの科学技術開発競争の刺激もあり、日本では、1960年代から科学技術ブームが始まり、科学技術予算の増大、理工系学生定員拡充、企業においても1960~70年代に中央研究所ブームとなった。日立や、東芝は戦前からコーポレートラボである「中央」研究所を有していたが、ソニー、NEC、富士通なども1960~70年代に、コーポレートラボを設立している(東芝も中研は1960年代)。さらに、電機メーカーの業績が好調であった80年代には基礎研究重視や、優秀な学生を集める狙い、欧米からの技術タダのり批判を避ける等の理由もあり、日立の基礎研をはじめ、多くの企業で様々な研究所が設立された(富士通の厚木研も同様)。
これらは、全て、リニアモデル、すなわち、まず研究を行い、その結果、生まれた科学技術知識を応用して、新製品開発につなげる、という、研究→開発→設計→製造→販売というリニアな流れが、イノベーションを産む流れである、という考え方からなりたっており、学界でも産業界でも、常識であった。
しかし、85年にSクラインが「ノンリニアモデル(連鎖モデル)」を発表し、大きな驚きであったが、すでに欧米では、そうしたリニアモデルに基づく研究開発体制を見直しつつあったのである。98年に刊行(米国96年)された「中央研究所の終焉」(日経BP リチャードSローゼンブーム、ウィリアムJスペンサー著、西村吉雄 訳)が出ても、なお、日本では、リニアモデル的な発想が主流であった。
さらに、リーマンショック後、「世界の技術を支配するベル研究所の興亡」(2012年ジョンガートナー著、2013年 土方訳、文芸春秋)に象徴されるように、米国では、既に「中研」はどんどん廃止されている。また、アップル等の研究所の活動には、研究者は実験室に閉じこもっているのではなく、我々アナリストのような活動、フィールドサーベイをしており、そこで燕三条の金属成形に代表される日本の中小企業や中国台湾のベンチャーを調べ、必要に応じて資金や人材その他の支援をして育成している、というのが少なくない。実は、米国では、これがむしろ常識でもある。シリコンバレーの最大の発明は、トランジスタとかではなく、VCともいわれるが、インテルキャピタルが日本の技術特化の小企業を支援しているのも、そうであろう。その道の最先端を走っている研究者であればこそ、正しく技術の目利きもできる。また、日本では学界に参加しても論文を発表して終わりだが、それは始まりであり、休憩時間や懇親会で、議論をし、盛り上がれば、非公式な会をつくり、技術交流をできるか(これが標準化にもつながる)が本当の重要な活動である(日本はここが弱く、消極的に会場の隅で、日本人同士雑談している例が多い)。
しかし、日本においては、昨年においてすら、「中央」研究所、が「健在」であり、工学部時代の同級生たちの様子や、理工系の学会に参加したり、研究開発IRに参加したり、マスコミ報道を見ても、大きな変化はない。こうした、ノンリニアモデルが常識となり、オープンイノベーション(広い意味での)、あるいは研究開発だけでないがグローバル化に、日本企業は対応できているのだろうか?さらにAIや、ビッグデータが主流となると、対象は社会や人間であり、社会科学との領域が無くなってくるが、相変わらず研究開発採用では理工系が中心であるが問題はないのだろうか。
こういう問題意識の元に、2014年11月の日本電産の中央モータ基礎技術研究所の見学会および、その後の個別取材、12月のNECの研究開発IR説明会、および、その後の個別取材、また参加できなかったが2月の三菱電機の研究開発IR(ただし、コトモノ双発学会で研究開発担当専務の講演は聞けた)、質疑や議論をした。そして、昨日の富士通研究所見学説明会参加した。また、4月中旬の日立の研究開発IR説明会に参加する予定である。
その中で、日立、東芝は3月26日に、研究開発体制再編(4月1日付け)を発表し、日立は戦前からの伝統ある中央研究所や日立研究所を解体、まさに、ようやく、世界の流れに形だけは追いついてきたようだ。ただ、ちょっと行きすぎ、あるいは、DARPA等がなく、NTTの通研もなくなったのに大丈夫かという気はする。
通常は、研究開発IR説明会では、研究所の予算や体制、あとは主要なテーマの実用時期や業績への影響を聞く。しかし今回は、どれだけ、ノンリニアモデルやオープンイノベーションを意識した体制になっているか、また研究者の活動やキャリアもどうか、に主眼をおいた質問をしている。今後、幾かに分けて、ケーススタディをしていきたい。
3.昨日の富士通研究所のケースを、ここでは簡単に報告する。
富士通での特徴は第一に、従来から、研究開発の独立性を維持するため、別組織としていることである。これは、ホンダ、かつての野村グループでのNRIがある。NRIでは採用は別であったが、富士通やホンダでは採用は同じ、人事交流も十分あり、人事異動が、技術移転のカギになっている。トップの佐相社長も、これまで同様、技術系出身で事業の経験豊かなトップで、モバイルからユビキタス全体(PCとモバイル)、さらにプロダクト全般(サーバー、ソフト、通信、ユビキタス、製造)、直前は全社マーケティング部門(イノベーション含む)であった。日立や東芝、NECが、研究所長はずっと研究畑から出身というパターンとはやや異なる(三菱電機の研究開発のトップは経産省OB法学部卒で技術者研究者でもなく驚かれた)。なお、日立、東芝でも、多くの研究者は人事異動でコーポレートラボからディビジョンラボ、工場へと移っているのが通例である。日立ではDRAM開発では中研からデバイス開発センタ、武蔵工場と技術移転が行われ、東芝でもDRAM多世代同時開発があり、フラッシュメモリもそうして生まれた。ただ、日立はかつて中央研に入り返仁橋を渡ると俗世を断ち切り研究に没頭する(日立は「返仁会」という博士集団のOB会がある)というパターンが多かった。
第二の特徴は、国内は厚木(400人)と川崎(800人)に分れ、厚木はデバイス材料やエネルギー中心で「中研」要素が大きい。厚木の方が一人当たり予算は大きく、全体としては、4:6程度だろう。なお厚木は、ソニー、半エネ研などデバイス関連の研究部門が多く存在している。90年以前に、厚木研は、NRI時代に訪問、レポートにした。その後は、IR見学会もないので実態は不明である。デバイス部門のリストラや縮小もあり、どういう体制になっているか関心がある。
第三の特徴は、特に川崎においては、ITやNW部門が中心となり、ソリューション志向が強いため、もともと基礎研究というより応用や開発が多い。これは、かつて富士通が電電ファミリーに属していたが、電電公社にはベル研を模した「通研」があり、そこで基礎研究を担っていた、ということも影響しているかと思われる。
しかし、今は、全く状況は異なり、NTTに頼れないし、それだけではグローバル化に対応できず、自社でも基礎的な研究もプラットホームでは必要であろう。
佐相氏による説明では、IOT時代に向けて、研究所のミッションや、その体制、ロードマップが示された。また、先端基礎研究、先行研究、事業化研究、応用研究、の幾つか例が説明された。
また、付属資料として特許統計データが公表され、知財に強い富士通の印象を裏付けるものであり、IT系とNW系での強さが確認された。ただ、国内なので、米国特許での同様の資料が欲しかった。
また革新的な成果として、二つ、①200Gbpsで通信モニタしながら品質解析するソフト、②様々なスマホと周辺デバイスを繋げるWebOSの開発など、についてプレゼンがあった。
その後、各展示室で、応用を意識した実用化直前のいろいろなテーマが紹介された。中国の方も数人おり生き生きと説明されていた。NEDOや台湾ITRIとの共同研究も多く、大半のテーマは、過去の展示や、医療、ビッグデータなどがキーワードで他社と似たものであった。そうでないもので関心をもったのは、スマートハウスの健康センサーや、先行的なものとしては、シリコンフォトニクス、広帯域SDN、などが注目をひいた。しかし、質疑をする中で、応用化のプロジェクトターゲットを達成すれば満足だという雰囲気もあり、自主的に更なる課題を見つけ発展させようというのが無かった例が幾つかあった。
例をあげると、一つは、タクシーの配車をスマホでやる行う時にタクシー会社と連携して相乗り等も選ぶことで稼働を上げようというものがあった。まず、これはタクシー会社と連携しておかなければならず、個人タクシーなどは入らない可能性があり、結果、待っていた方が早かったということもありそうである。また、富士通本社の方で日本交通と提携してタクシーのビッグデータの応用が始まっているはずだが、それとの関連は不明だし、むしろそのデータを使った研究成果を知りたかった。タクシーをよく利用する者としては、まず、運転手が高齢であることが多いが、殆どカーナビが使えないか使い慣れていない上、老眼では見ずらい、地図の更新がない、などの問題点の方が大きい。カーナビは後部座席につけて利用者が入力できるようにした方がいいし、運転手用もラクラクホンのように高齢者向けあるいは音声入力にすればいい。タクシー会社はM&Aによる統廃合が盛んであるが中小の規模であれば数億円で買収できるそうだが、買収し、プロの運転手の知識を走行データと共にデータベース化して、カーナビ装着効果などもあわせて比較して、そのノウハウを検証するような研究を期待したい。
もう一つは、介護部屋の高齢者などを100個以上のセンサーでみて安心安全に役立てるという研究があったが、対象は一人であり、家族が一緒に部屋にはいり動いたら識別はできないそうであった。また、病院が火事や地震などで、非難したりすることが必要な非常時には、対処できないようだが、ビッグデータの研究としては、「インフラ」の安全安心というなら、平時ではなく、異常時の挙動をこそ解析しておくべきだろう。さらに、要介護者が町へ出て近所を歩いた場合は、その町にどのくらいのセンサーが種類と量において不可欠なのか、なども知りたかった。そういう指摘をすると、「なるほど」という反応はあるが、「研究目的ではないのでいいだろう」という印象があった。
そもそも、学会発表と同様、発表して終わりではなく、素人も含めて多くの潜在利用者に説明して、議論しそれを役立てていくとうのが本来であり、その議論にこそ重要性があるのだが、定式発表で終わりとする姿勢が目立った。また、指定された研究目標に対してはきちんと到達するのだろうが、新たな設定をしたり、目標を出すという印象はなかった。つまり、個々のレベルでは、まだまだリニアモデル(直線的一方向でフィードバックがない)であり、オープンイノベーションにもなっていない、という印象であった。与えられた問題を解きリニア的、というなら、そうした研究者は、2045年頃の将来はビッグデータを使ったAIに代替されそうであり、ビッグデータAIの研究所としては皮肉というか示唆的である。
テーマの中では、やはり、プレゼンがあった二つが傑出していたように思う。特に200Gbps品質解析ソフトは、トポロジーにも影響されず、当面優位を維持できそうである。WebOSの方は、デバイス同士が競合した場合やスマホ同士が競合した場合のスマートな対処、さらに周辺デバイスメーカーとの協力参加が鍵であろう。
全体的な感想・評価としては、富士通に限らないが、以前に比べ、実機での展示が減り、シミュレーションのものが多くなってきて、ある意味、メーカーの研究開発と、NRIのようなソフトハウスや金融機関などの研究開発との差が無くなってきている。また、今、話題のAIや、ロボット等のデモ等がなかったことが寂しい(かつては、結構あった)。もし、実機のセンサーでIOT環境をつくり、そのネットワークが何かを学習していくようなデモや、AIを搭載したロボットが器用に動くようなものも欲しかったところではある(これはむしろ厚木かもしれない)。
研究開発体制での全体的な印象では、以下である。
第一に、ノンリニアモデルの意識については、リニアモデルと、アプリからのフィードバックもあり、十分、ノンリニアモデルではあろう。一方で、分類の仕方が、長期基礎研究(10年、20年でやる)が20%、先行研究(事業部とやるもの、自主的なもの両方ある)50%、事業化研究30%という区分けであり、リニアモデルの意識があるように感じた。また、通常、独自研究50%、依頼研究50%というパターンが多いが、事業化研究を除けば70%であり、別会社化しているせいか、やや先行が多いように感じた。
第二に、オープンイノベーションの意識だが、国家プロジェクトの参画、大学や研究機関との共同研究、ユーロ圏でのHorizon2020など、グローバルにも広がっており、件数も大きく、全体予算300億円に対し、数十億円の規模があり、十分に意識されてはいる。ただ、VB探索や、全くの異分野の探索は見られなかった。
第三に、研究者の活動内容だが、ソリューション系では、ユーザーとの活動が半分はあり、ハード系では、大半が実験やシミュレーションなどであり、まずまずであろう。しかし、アップルやインテルキャピタルの様なサーベイはなく、ハード系でももう少し改善の余地があるだろう。学会では、発表以外の重要な活動、コンソーシアム作り、標準化などは研究者に自由裁量が理解されてはいるようだ。
第四に、研究者の多様性だが、やはり一流大学の情報電子系が中心であり、ポスドクや、助教など任期つきで研究員を年10人程度、全体の3割くらい採用する仕組みは導入しているものの、大学を出ていないがプログラム開発の天才や、文系だが素晴らしい理系のセンスがある異才を見つける仕組みなど、はこれからであろう。
第五に研究評価は、事業部への技術移転、論文数、技術収支などであり、妥当なところであるが、一番重要なテーマの選択、予算の決定、増減、そして、なかなか時間がたってもうまくいかない場合の「EXITルール」については確認する時間がなく、次回以降にしたい。
今後は、ビッグデータ、AIあるいは社会関係に行くと、個別のテーマでもそういう傾向が多かったが、かなり社会科学との類似や融合が多くなってくる。また、こうした分野は、大学や伝統的な学会に蓄積が少ないし、よって評価も難しい。そういう意味では、今後はグループ内シンクタンクである富士通総研との連携、積極的な人事交流、統合も検討されるべきであろう。金融とITは相性がいいが、そうなると金融工学や、国際的な金融システム、規制の研究も必要である。また、東大元総長の吉川先生が提唱されている、いわゆる第一種基礎研究だけではなく、第二種基礎研究や、社会科学や民族科学の基礎研究も進めるべきであろう。そうしたシンクタンクの中での基礎的な研究が今後は意外と重要であり、そうした人材の育成や教育も必要であろう。
一つ、研究開発体制とは外れるが、面白い話として、IOT時代での周波数帯域やプロトコル標準化について、佐相氏によると、次は5Gだろう(NEC遠藤社長の意見と同様)が、その次はソフト化(周波数帯域を定めず、いわばFDMのように、周波数の空き状況に応じて有効に帯域を変える)との見方が示され、これは卓見だと思った。そうした時代には、法規制の柔軟な変更がグローバルで必要だし、率先して標準化活動をしないといけないが、かつてのように、デファクトをとられないようにしてほしい。
次回以降、もう少し詳しく考えていきたい。また最後に総括したい。
2015年4月2日 注目されるシャープの行方 その4
3月23日のブログで、ホンハイCEOのテリー・ゴー氏が、東洋経済の記事で出資を伴う経営支援を提案する意向を明らかにし、「早ければ、3月中にもシャープやメインバンクに具体的な条件を伝える」としたが、その後の報道で、3月27日に期限を迎えた株価550円で出資するという契約が延期された以外、状況は不明である。
こうした状況を踏まえ、ケースAからEを再考してみると、ケースBのJDIへの統合は可能性が薄まり、あるとすると、ホンハイとの連携が高まるかもしれない。また東洋経済の記事の中で、日本電産やパナソニックの名前が出ているが、これがシャープの件と関係があるかどうか不明だが、日本電産は、車載事業でクルマ用の液晶パネルや部品デバイスでシャープの技術に関心があるかもしれないし(その場合、片山CTOの存在はどう働くのかプラスもマイナスもあり見えづらい)、パナソニックには、改善の目途がついたが課題であった液晶のG8工場がある。
シャープ自身も政府なども、シャープの液晶部門ないしは、全体がホンハイ傘下になるのは抵抗があったとしても、これに、パナソニック等日本企業が一時的部分的に関係すれば、安心感が出てくるかもしれない。そうすると、シャープが生き残るためには、現状でありうべきシナリオは以下であると考える(これまでのケースAからEと区別するため、F~とする)
ケースF:液晶パネル部門(天理、三重、亀山、堺も含め)を、パナソニック姫路のG8ラインと共に、ホンハイ(ホンハイ傘下にはチメイ-イノラックスがある)とのJVに移す。いわば、堺に似たスキームだが、JVにはシャープ、ホンハイ、パナソニック等を株主として、ここにJDIやLGに対抗できる勢力を結集するわけである。シャープとてりーごー氏が大手株主であるSDP(堺工場)もここの傘下とする。そうすれば、この液晶パネル会社は、G4からG10まで、アモルファス、LTPS、IGZO、またIPS技術もある、幅広い技術を持ち、アップルのiPhoneはもちろん、iPAD、TV、車載向け市場にも対応できる。アップルとしても、「当確」のJDI、LGに続く3番目のサプライヤーとして安心ができる勢力が誕生することになる。この液晶連合JVは、そのまま将来に上場を目指してもいいし、様子を見ながら、株の保有比率を変えていき、どこかに集約もできる。ややリスクの先送り的な面もあるが、この場合は、大きな減損も避けられるし、技術陣の漏出も避けられるであろう。
非液晶部門は、セット中心に、リスクの小さい事業を継続する。この場合、TVをどうするかが鍵だが、国内中心に残し、海外向けは縮小するか、パナソニックやホンハイに売却するのもありうるだろう。国内TVが残れば、「液晶のシャープ」としてのブランドも残る。
このケースでは、売上規模は、現在の3兆円規模から2兆円以下にはなるが、500億円程度の安定利益を出せ、時間をかけて体力をつけていけばいいであろう。
ケースG:いわば、ケースFのバリエーションの一部だが、液晶パネルのうち、非アップルが多い、あるいは液晶応用的、垂直統合的な中小型の天理や三重工場の部分はシャープに残す。また堺の大型はそのままとする、というものである。この場合の液晶連合は、アップル中心となる。あとは同様であるが、ある程度、売上も2.5兆円くらいを維持でき、液晶の技術も温存できる。
ホンハイなど業界の中での話し合いがなされ、シャープ生き残りに向け、進展があることを期待したい。
なお、皆さんは御存知かもしれないが、この2月に日経BP社より「日本のM&A」服部暢達著が出されているが、この527pから534pに、ホンハイとシャープの事例がのっており参考になる。
2015年3月27日 パナソニックの事業説明会で垣間見た「日本の電機業界と証券市場」の期待と課題
2015年3月26日 19時~19時50分、汐留の本社にて、会社主催の説明会があり、津賀社長、河井CFOより説明があった。2014年度は、CV2015を前倒しで達成、課題7事業にも黒字化など目途がつき計画は完遂され、2015年度の営業利益4300億円、売上の2016年度から2018年度10兆円に向けて、家電、住宅、車載、B2Bソリューション、デバイスの5セグメントと、日本、欧米、新興国等の海外戦略地域という3地域とのマトリックスで、M&Aや先行投資も含め業績や戦略の方向性が示された。
詳細は、Sell Sideアナリストからのレポートに譲るとして、違った視点で3点指摘したい。
その1.
当社は事業ドメインを、5セグメント×3地域のマトリックスで捉え、ここに40もの事業部からなるカンパニーを配置して損益管理している。また、私自身が質問したが、CCM(キャピタルコストマネジメント、EVAに近い概念)で43事業部を管理する。これは、外部にコミットする営業利益率とは異なり内部管理のためのものである。これまで、総合電機各社は、ポートフォリオ見直しに関し、同様のアプローチをとったが、それだけでは不十分であり、結果的には、経営重心的なアプローチが必要であった。5セグメントの分け方は、本質的なものであり、違和感はないが、定量評価として経営重心的なアプローチも取り入れれば、よいだろう。これも私が質問したが、5セグメントの中では、デバイスの位置づけが課題であり、「過去の量を追う設備投資はしない」などの回答のニュアンスからは、おそらく、次第に他のセグメントに取り込むか、外へ出すのだろうが、それでも、なお水平分業的に拡大するものがあるかどうかは今後注視すべきだろう。
その2.
説明会は全体で50分、会社からの説明は簡潔であり、要を得ているが、一部、報道もあり重要な施策であるCCMや全社調達でコスト削減、などについては、プレゼン資料に織込んで欲しかった(質問には答えて頂いたので満足だが)。説明が20分弱、質問が30分くらいであり、そのバランスも良かった。しかし、10人弱、一人1-2問なので15程度の質問の中身が議論があるところだろう。次の表に、質問の中身を時間軸と、数字確認かディスカッションか、に分けてまとめたが、中期の説明会であるのも関わらず、相変わらず、4月に始まる来期の業績数字に関するものが半分以上である。逆に中期の経営についての議論は私とあと1名であった。
中長期投資、投資家と企業の対話、などが喧伝され、また経営のトップが自ら中期を語る場で、来期の為替前提や感応度の数字確認というのは勿体ない気がする。本来、こういう公式な開かれた場でこそ、中期の経営の考え方について、侃々諤々の議論をすべきだろう。現場のアナリストの関心(それは投資家の関心かもしれないが)と、中長期投資・スチュワードシップコードなどが重要だとする議論には、なお大きな隔たりがあると感じた。
その3.
アナリストが企業を分析する際に、固定費や為替感応度などについては十分に議論がなされているし、IRも充実している。ものづくり、についても、工場見学などは盛んである。しかし、研究開発費や、変動費の中で重要な外部調達については、まだまだだと考えている。
企業を中長期で評価し、企業の「足腰の強さ」を評価するには、研究開発体制や、調達の仕組み、事業ポートフォリオの管理の仕組みなどが重要であり、IRを通じて可能な範囲でアッピールされてもいいだろう。下表は、私の印象に過ぎないが、会社側が、そうした要素をIRや報道で、何時ごろ説明し始めたか、である。実際には、内部で充実していることも多いだろう。ただ、過去の経験では、当然、一社からそういう説明があり、同業他社比較をすべく、他社に取材にいっても、説明がない場合は、相対的に遅れているか意識が低い場合が多かった。
そういう意味では、下表は、日本の電機メーカーが、何時頃、どういう要素を重視しているか、話題になっているか、の参考になろう。また、一時、先行していても、また遅れていることがあることには注意が必要である。
今回のパナソニックの説明会では、研究開発体制については、あまり説明がなかったが、先日の日立に始まり、東芝も体制を変えるという報道があった。グローバル化、オープンイノベーション、ノンリニアモデル、という中で、成長性でも、先行投資の管理という意味でも、今後、注目されてこよう。
2015年3月26日 3月15日の記事の補足
3月15日に「最難関東大理3登場と高度成長前の理工系ブーム」を書いたが、その中で、読者の方からコメントを頂いた。当時は、理3がなく、理2の中に医学進学があり、東大理1が定員が400人と少なく理工系ブームだったため最難関であった(当時野旺文社模試でも確認)、しかし、その後、東大に限らず定員が倍増して難易度が下がり、技術屋が供給過剰という話だ。読者の指摘では、東大理1が最難関であったのは1957年であり、最高点、最低点ともに、ピークであり、その記録は塗り替えられていない。これは、定員も400人が最小だったためで、以前は600人いたらしい。しかし、当時は留年が大幅に増えて学生数が多すぎたことから定員を絞ったらしい。
2015年3月23日 注目されるシャープの行方~その3 ホンハイ再登場と期待されるトップ
1.ホンハイ再び登場
今日発売の東洋経済によれば、ホンハイのテリー・ゴウCEOは、シャープに対し、出資を伴う経営支援を提案する意向を明らかにしたようだ。早ければ3月中にシャープとメインバンクに伝え、出資の条件や経営再建策についても言及したようだ。
このタイミングで、ホンハイがこうした行動に出ることは不思議ではない。シャープの有価証券報告書の「事業等のリスク」(5)戦略的提携・協業等について、において、「また、当社グループは、ホンハイを中心とするグループ4社との間で平成24年3月27日に資本業務提携契約を締結している。同契約に基づく株式の払込はなされていないが、同契約では、1株当たり550円にて当社普通株式121,649,000株をホンハイグループが引き受ける旨を定めており、その契約期間は3年で、更新可能であると規定されている。このため、有価証券届出書を含む一定の条件を満たし、ホンハイグループに対する上記株式の発行が行われた場合には、当社株式の希薄化が発生する可能性がある。なお、ホンハイグループは、かかる株式の発行条件の変更が合意された旨公表しているが、当社はそうした事実はないものと考えている。」と記されており、まさに、その期限が、この3月に迫っているが、両社で合意形成がなされていないためである。
その真偽は不明だが、3年前に比べ、シャープの状況は改善していない。B/S毀損や資金繰りに加え、年間3500億円弱、売上の12%に相当するアップル社の事業如何では更に厳しさが増すことになる。事実、JDIが新工場建設に踏み切ったのは、アップルが、次の機種からは、シャープを外す可能性が出ているからだ、という見解もある。また、その理由は不明だが、インセルの歩留まり改善遅れ、本来アップル専用の亀山第1ラインの小米等に転用、が理由だとする見方もある。ホンハイ側は、既にテリー氏が堺に出資して業績を改善させ、シャープOBの矢野耕三氏をトップに研究所を設立しており、外堀を埋めつつあるとも言える。前回より、交渉が別の展開になる可能性もある。
前回、ケースAからケースEを示したが、ケースBでJDIではなく、ホンハイと統合する可能性や、ケースC、あるいは、ケースDをちらつかせながら、ホンハイによるケースEの可能性もありうる。このホンハイの出方は、JDIや政府、さらにはサムスン等の出方にも影響を及ぼすかもしれない。
2.期待されるトップ
高橋社長には、就任直後の投資家・アナリストとの1時間程度のスモールミーティングでの面談と、決算説明会、以外は、間接的な伝聞だが、私の印象は、まず温厚誠実な紳士で、急に就任が決まった前任者よりも社長としての意識や意欲はあるようだった。また、私が知っている、海千山千の野武士的な液晶出身の多くの幹部とは異なる印象を受けた。この厳しい状況を努力されている姿には同情し敬意を表するが、経営は結果である。もし、今後のシャープが厳しいものになれば、今回の経営危機の原因とされる町田・片山両氏、同様に批判は免れない。
シャープの高橋社長を見ていると、第一に、余りに多くのことを同時にしようとしすぎたのではないか。第二に、社員に慕われるいい社長を目指しすぎたのではないか、第三に、為替や液晶のリスクの肌感覚を持っていなかったのではないか、換言すれば、経営重心と、経営者重心がずれていたのでは、と思う。
第一だが、日経ビジネス2014年7月号では「ファーストプライオリティは普通は一つだが、三つやろうとしている、2015年度中計達成、5年10年の新事業育成、100年200年1000年の文化やDNA根付かせる」と発言している。また、現場回りをしていて100以上の現場を回ったようだ。しかしながら、トップが、その長いとも言えない就任期間に、しかも危機に瀕してシャープのような大企業においてできることは限られている。日立の改革でも、社長は、着手した川村氏から、中西氏、東原氏、と変わった。おそらく、リストラをして中計を達成する資質と、新事業を育成する資質、さらに、DNAを根付かせる指導力は異なるのではないか。
第二だが、社長は孤独であり、いや孤独であるべきであり、社員から嫌われることを恐れてはいけない、のではないか。経営学やリーダーシップの教科書に書いてあることは一面でしかなく、書いてないことがより大事ではないか。よく日本の社長は、就任すると、現場周りをするが、社員を鼓舞し現場のニーズを把握することも大事だが、部屋に閉じこもり孤独な決断の方が、今の危機に際しては重要ではないか。
第三は、出身であるコピーなど変化が緩やかな事業や、平時においては、いい社長だろうが、他方、変化が激しい液晶などデバイス事業の怖さの認識が皮膚感覚として大丈夫だろうか、という印象を持った。また今年に入って円安が話題になった時の発言もやや楽観的に感じた。そうした意味では、その後の下方修正では、嫌な予感が的中した感覚を持ったのである。
本来、社長たる者の役割は、経営方針や戦略を決めること、社員に対しリーダーシップをとること、である。米国や日本でもオーナー会社は、その両方を担っているが、日本の多くは、前者はスタッフ部門などが担い、後者を社長の役割であるとして、したがってトップの資質は人徳や人望を第一とするのが天皇制や官僚制にも似て親和性が高かった。しかし、平時はそうであっても、危機に際しては、逆か、両方を担える人間が必要ではないか、と思う。
そういう意味では、既に、OBからも、有識者からも指摘があるように、いや、既に水面下で探しているのかもしれないが、トップを早急に外から招聘し、全権を委ね、その下で、ポートフォリオを見直さないといけない。ホンハイなどとの交渉は、その後かもしれない。
2015年3月20日 注目されるシャープの行方 続き
昨日のブログで、シャープの苦闘を伝えたが、今後、ありうるケースとして、AからDを示した。その中で、どれが可能性が高いだろうか。その前に、あくまで概算の推定だが項目別に潜在的なリストラ費用を試算する。
液晶関連 500~2000