2015年4月7日 工場見学シリーズ~NECの海底ケーブル事業と㈱OCC工場見学

201547日 工場見学シリーズ~NECの海底ケーブル事業と㈱OCC工場見学1.アナリストにとって工場見学

工場見学会は、企業のIR活動としては一般的に普及している。アナリストだけでなく、従業員の家族、地域住民、子供向け、学生向け、ユーザー、サプライヤー、等、極めて盛んであり、特にこれは日本で顕著で、自慢してよいだろう。製造業においては、工場こそが主役であり、それをアッピールでき、配偶者や近所の知人の活躍する場を見ることもでき、相互交流を深まれる場であり、見学する側においても、遊園地以上のエンタテイメントでもある。そうした経験から企業に就職し、将来の新製品開発や生産技術向上に貢献する人が出てくることも少なくないだろう。もちろん、「素人が見てわかるのか」ということはあっても、感じるものは大いにあるし、会社や製品に対する理解を深められるだろう。特に、BtoBの企業の場合は、数少ないアッピールの場である。

 IR主催の見学会の場合は、①事業の説明、製品の実物展示(特にBtoBの場合)、②工場の生産現場の見学、などを通して、事業や生産技術の理解を深めてもらう、ということが目的であろう。また見学会も最近は、数年に一度のものが中心であったが、かつては市況性が大きい半導体や液晶は、半年毎の定点観測的な目的もあった。

それでは、工場見学で何を見るのだろうか?専門家のコンサルタントや経営学者は、ラインの効率性やTACT、モノの流れ、5S運動の徹底などであろうか。

素人?のアナリストが見て何がわかる、との意見もあろうが、同じ工場を定期的に見ていると感じるものはあり、また、同業あるいは異種業でも、横比較していくと、何かは見えてくるものだ。もちろん、現場には多くの社員がおり、壁にはポスターが貼ってあったり、普段の綺麗なオフィスでのIR取材では見えない、雰囲気や社風見たいなものも見えてきて参考になる。

私は、工学部3年の授業で週に一度、工場見学というものがあり、教授引率で参加したが、先生は生産技術の専門家である場合も多く、先生の質問は参考になったし、4年から修士1年、修士2年のリクルート活動でかなりの工場を見学させてもらった。ある先輩が、「会社に入ったら、外、特にライバルの工場などは見れない、貴重な機会だからよく見ておけ」と言われたものである。

余談だが、実は、OCCの株主でもある住友電工は学生時代に4回も関西地区の工場を見学し、NRIに入社してから新人調書でも住友電工の工場見学があり、それまで4回も見学させてくださった先輩が私を見つけ、また来るのか、と怒られた。

 その後、学界の見学会などもふくめ、アナリストでないプロ?の大学の先生やコンサルタントなどと一緒に見学もしたが、だいたい見るべきポイントは、やはり、①モノの流れがスムーズか、②在庫、③人の動きが無駄がないか、④5Sが守られているか、だったように思う。同じ工場を何度も見た場合は、流れや配置がどう変わったか、などがポイントとなる。量が多くなると、一品つくりからセル生産、さらにベルトコンベア式になってくる。個々のセルなどの工夫や、自動機の工夫、自動化のレベルはもちろんである。また設備の金額や製品の金額のイメージを掴むこと、ざっと見て、稼働や在庫などから試算することも大事だと言われた(これは試行錯誤で経験するしかない)。

 アナリスト投資家が見る重要なポイントは、「この工場を再現するのにいくらかかるか」というものだ。工場の建屋、装置だけでなく、作業者や、外注なども含めてである。そうした有形無形の価値が、M&Aなどで容易に得られるものか、どうか、それを企業の時価総額と比べるのである。多くの電子機器の基盤など組立系の中国工場などは、出来合いの生産ラインを買ってきて、キーとなる生産技術者などを雇えば、ある程度の金を出せばできそうである。実際に、山賽機は、そうしてアパートの一室でつくられているし、3Dプリンタの登場はさらに、そうした分野のモノつくりのハードルを下げるだろう。ある意味、最先端の半導体も、大金があればできるかもしれない。実際、そうした電子機器や半導体は、EMSやファンドリーの台湾の独壇場となった。そこから「遠い」、金をかけても買ような工場、持つ企業は価値が高いと分析するわけである。

 アナリストが聞きたがる点は、生産ラインの機械を提供しているメーカー名や、材料を提供しているメーカー名であるが、これは、関連銘柄というだけでなく、生産ラインを復元できるか、あるいは生産ラインを理解し、他社にまねできそうにないかどうかを確認するためでもある。また、LTや、サプライチェーンの中での外注先(これで変動費の分析に重要である)、生産キャパや稼働状況(これで損益や季節性がわかる)、人員数や交替、派遣の内訳もある。自動化、歩留まり、直行率、MTBFは、生産性を確認しつつ、どのくらいのアップサイド余地があるかの確認である。また、半導体の場合は、クリーンルーム面積で大体のキャパがわかり、設備金額もわかるので、面積を聞く場合もある。

2.記憶に残る工場見学

 そういう視点で、30年以上、毎年平均10以上、多い時は20くらいの見学に参加しているから、累計では、500位はいっただろうか。韓国、台湾、中国は、もとより、欧米もある。業種も当然、電機や精密が多いが、造船、鉄鋼や電線、ガラス、フィルム、印刷、鋳物、おもちゃ、など様々である。

 その中で、印象に残るものを順不同で10あげると以下であるが、NECの今回の見学は、スケール感において、昨年の宇宙事業と並び10指にはいるものであった。

①半導体工場:特に89年頃の1MDRAMで大いに利益を稼いだ東芝大分工場は圧巻であった。当時は、CR内も入れ、12ドルくらいのDRAMのコストは6ドルくらいかと事前に計算していたが、どうも3-4ドルらしかったこと、またLT2カ月には驚いた。同時期、NEC、日立、三菱電、沖電気にもいったが、各社各様のコンセプトがあり、同じ会社でもメモリーとロジックで発想が異なることが面白かった。

②重電の工場:日立の日立工場、本社には金をかけていないが工場には金をかけており、日立の底力を垣間見た思いがした。東芝の重電、府中なども同様である

③鉄鋼メーカーの生産ライン、造船メーカー、男らしい現場である。

④防衛庁向け工場:もちろん限定された範囲だったが貴重な機会であった。

⑤川口の鋳物工場や、鍛造工場、経産省プロジェクト視察したが、モノづくりの原点⑥液晶工場:今は無いDTI(東芝とIBMJV最初の本格的TFTライン)を工事現場から訪問、日立やNEC、パナソニックなども印象深い。また、シャープは三重までと、亀山からで、LGはクミの6-7Gから工場が変わったと思った。

⑦ホンハイ中国金型工場、および関連の金型工場、日本のモノづくりに不安を感じた⑧ニコンの露光機、製造装置というよりプラントに近いと感じた。

⑨今はないが松下通信のケータイの掛川工場、中国のTCLやバードのケータイ工場⑩NECの宇宙、今回のOCC

参加予定であったが、行けなかったのが三菱電機の名古屋製作所であり、これに予定通り参加できれば上記に入ったであろう。

 最近の工場見学は、半導体や液晶などはウィンドウツアーとなり、ビデオで見る場合も多く、現場感が乏しい。ユーザー向けに、予め通路を設け、臨場感を増している工夫もある。工場は、綺麗な本社ビル、受付よりも、最大の外に見せ、広告宣伝効果も大きいのだという認識が深まれば嬉しい。これに対して残念な工場は、一見綺麗だがよく見ると5Sが徹底されず、部品や仕掛の在庫があちこちにあるものである。

3.NECの海底ケーブル事業

 47日 12時より北九州市若松区の㈱OCCの工場にて、ビデオ、NEC海洋システム事業部長 吉田氏から説明、㈱OCC社長 都丸氏より説明、13時半より15時頃まで工場見学、のち質疑15時半解散であった。

 ビデオで驚いたのは、まず、水深8800mの海底に沈め25年間の正常動作が要求されていること、そして、今や国際通信の99%が海底ケーブル(衛星は極めて少ない)であり、音声、データ、映像が流れている、であった。また、多国間にわたり海底の地形が違うので設計から製造、敷設までに半年以上かかることも驚いた。またグローバルな話なので、説明が半分外人の社員であった点も印象的だった。

NEC吉田氏の説明

NECの中では売上規模は小さいが重要な国際事業。ケーブルだけでなく、光中継、陸上の局舎だが給電1.5V、光源、SDHをソリューションで供給している。売上500億円前後、営業利益は5%程度の模様。今後は、地震計など横展開も図る。強みは、①設計製造、②海底の地形を熟知した敷設埋設、③インテグレーション、④各国の規制や文化慣習を熟知したプロマネである。

 技術的には、1994年のErドープによる光増幅、2000年の当時は使えないと思っていたデジタルコヒーレント技術が大きく、200010Gb2005年頃40Gb、現在100Gbとなっている。

 市場規模は、受注は1000-2000億円で変動しており、前回は2008年がピーク、今回は2014年も高い。顧客であるキャリアの予算次第だが、かつての米系のベライゾンなど中心から、グーグル、マイクロソフト、フェースブック、あるいは新興国に変わってきている。NEC以外には、TEサブコン(ATT)、アルカテルであり、3分、アジア、米、欧州と大陸毎にすみ分けている状態である。海外勢は上場をもくろんでいるようだ。

都丸OCC社長の説明

会社の歴史、1935年設立の日本海底電線㈱、1960年設立の大洋海底電線㈱が1964年にオリンピックもあり合併、1999年に㈱OCCとなり、ITバブル崩壊で苦戦、2004年産業再生機構の支援で再生、2006年投資会社傘下のあと、2008年にNECと住友電工が共同買収し、NEC75%、住友電工25%となった。

工場の概況だが、600m×300mの18万平米の広さ、半分が貯蔵、半分は製造、建屋の延床面積は12万平米を誇る。ケーブルの生産能力は年間2km 2008年からの累計生産は7km95年からだと20kmである。敷設の船を二隻横付けでき、これはライバルは1隻しかない。

 ケーブルは、外装と無外装に分かれ、浅い海、1500m以下では漁船や碇などの影響があるので鉄線で被う。

 ケーブルの工程は、①インナー工程:光ファイバーの多芯を、特徴である3鉄片で被い、さらに銅で被う、②絶縁シース(これでLWケーブルとなる)、③外装(鉄線を巻き強度をます、碇に切られないよう)からなるが、②の前に、水中タンクでテストしたり、③でいろいろなテストをする。テストは光学的なもの、耐久テストなどがある。

工場見学(引率は鈴木所長)

インナー工程から、長いラインを、ファイバー、や鉄、銅、ピアノ線が、撚られて、連続運転で一本になるのは圧巻であった。絶縁シースや外装も同様で、途中でタンクにいれて水中テストも行う。最後は接続テストであり、実際の海底の敷設は地形地形で異なり大変なことが想像できる。


ここで個人的に関心があったのがファイバーの接続である。フェルールの光軸の調整が大変だと思ったが、自動化され8時間でできるそうだ。実は大学3年の夏に工学部では工場実習があるが、NEC玉川の生産自動化研究センターにいき、当時は大変な課題だった光ファイバーフェルールの軸あわせの自動化がテーマであった。もちろん、開発はNECの先輩の方であり、手伝い勉強程度ではあるが、後に完成して、工場で装置が動いているのを見た時は嬉しかったものである。それが少しは関係しているのだろうか。


 全体的な印象は、かつて見た、住友電工のケーブル工場や、フィルム、印刷の工場に近い。140名の社員のほか、外部50人、あと船がくる場合は更に50人である。外部は、山九などであり、この地域はエンジニアリングでは強いのだろう。





質疑応答

私が関心を持ったのは以下である、

  1. 今後の技術進展において、Erドープのような革新があるかどうか(当時はこれがないと厳しかった)?これについては、デジタルコヒーレンシなどもあり出てくるだろうとのこと。

  2. メンテフリーだが、逆にメンテを事業にしたり、海底のいろいろなデータを地震だけでなく、ビッグデータとして活用でないか?メンテ事業はない。データ活用は海流を見たりはしているがNEC全社での取り組みはない。NECは全社でビッグデータを重視しているが、肝心の現場のセンシングが弱く、データを他から貰ったり、シミュレーションが多いので、こうした活用を全社ですべきではないかと思った。

  3. モノ作りにおいてコストダウンは、量産効果とLT短縮であるが、まさに、この事業は経営重心理論的にも、長期サイクル、桁数小さいという意味ではNECに向いているが、コストダウンが容易ではない。これについては、25年といっても、技術の進歩もあり、実際は10-15年であるようだ。ただ、地道な積み上げしかなく大変だろうと思った。他のアナリストの質問で3社寡占で安定しているのに何故利益率が低いか、というのがあったが、同感だがまさにこの量産効果LT短縮効果が効かないということではないか。3社のシェアが均等でキャリアが強いことだろう。

    他のアナリストの質問では、シェアの確認、成長性、キャパやボトルネックがないかどうかなどであった。

    この中で重要だとすると、成長性だが、ほぼ2000億円まで推移するとの見方である。ただ、質問者の考えと同様に、グーグルなどは、予算も多く、これまでのキャリアとは発想も違うので、今は、コンソーシアムでスペックも共同ではあるは、彼らが主導を握ってくると、今後は、大きく様変わりするかもしれないと思った。

    また、既に、ファーウェイが参入しており、500kmくらいだが実績はあるようであり、これも注意が必要であろう。

     

    全体的な感想としては、売上げ規模ではNECに占める割合は小さいが、昨秋の宇宙事業と並んで、社会インフラを標榜するNECらしい事業であり、工場であった。長年、富士通と比較されたが、徐々に、違いが出てきているし、また日立とも、違いが出てきている。ただ、両方とも、顧客との密接度が強く特殊性も強く公共的な色彩が強いため、その狭い分野で満足する可能性もある。社内の横展開をし、他に新しいニーズや強みを生かせる場がないのか、検討されるべきだろう。宇宙も、海洋も、陸上より遥かに広く、データも多く、最先端の技術が必要であり、NECのシェアも高いのだから。