2015年4月10日 日経平均2万円を祝って~株式需給とDRAM需給

ついに、日経平均が2万円にタッチした。この上昇が官製相場あるいは池の中の鯨(GPIF3共済など)のせいである、つまり需給によるものだという見方は多い。

実際、需給の影響は、セルサイドアナリスト時代には知らなかったことであり、10年間のファンドマネージャ経験で一番驚いたのは、流動性の重要性、つまり需給であった。さすがに日立や東芝といった超大型株は1000円で買おうと思えば、ほぼその値段で瞬時に買えるが、東京エレクトロンやロームといった大型株でさえ、直ぐには売り買いできず、無理すれば値段を動かしてしまう。ましてや、中小型株は、株価に影響を与えないように静かにじっくり売買する。1日どころか数日、数週間かける場合もあった。また、突然のファンドの大型解約に対応できるよう、流動性の薄い銘柄の保有比率はリスク管理で厳密のルール化されていた。つまり、銘柄毎に、平均の出来高(これも、大型株は大体安定しているが小型の場合は、その時々の大きく変わる)に対し、自分の売買は10%以下とかに決められており、その売買範囲で、銘柄がポートフォリオから解消されるのに何日かかるかを計算し、1日以下のもの1週間以下のものと分類し、それが全体のポートフォリオの例えば10%以下、と定めていた。このため、リーマンショック時に顧客の都合で大規模解約があった時も、パフォーマンスを劣化させることなく、解約に応じられたのである(無理に急いで売ると、売りが売りをよび、パフォーマンスを劣化させるファンドが多い)。もちろん新たにポジションに入れる場合も、高値掴みをすることなく、買っているうちはパフォーマンスがいいが、買い終わると劣化するというようなことは無かったのである。

ところが、特に海外の超巨大ファンドは、需給を気にせず売り買いすることが多かったようだ。ある液晶関連の中小型銘柄は、午後1時くらいにコンセンサス以上の業績上方修正を出したため、株価は順調に上がり、しめしめと思って、我慢していた小用をしにトイレに行って戻っていると、日経平均などは変わらないのに、何故か、数分前とポートフォリオのNAV値が悪化している。何だろうと画面を探すと、さっきの中小型銘柄がストップ安となっていたのである。後日、金融庁の開示で、ある大手米系ファンドが一気に売ったのであった。また、特段ニュースも業績修正もなく、ある中堅の株が数日間で大きく上がって何だろうと不思議に思うと、ある海外大手ヘッジファンドがショートの買い戻しをやっていた。このため、ポートフォリオに入れようという銘柄は必ず、公表されている空売り報告や大量保有を日々、チェックし、海外の大手が動いていないかみてから売買したものである。池の中で鯨が暴れると、適性と思う株価で売買できないからである。個人の金で長期投資なら気にしないが、大事な年金基金も含め人さまの金で、短期投資ではないが、少なくとも毎月パフォーマンスチェックされる(それもコンスタントにプラスが要求され、マイナス3%だとアウト)ヘッジファンドでは、そういうことも気にしなければならない。

ファンドマネージャをするまでは、需給というとDRAMや液晶の需給しか頭になかったが、個別株はともかく、日経平均など相場全体に、GPIFなどの買い、はどう影響しているのだろうか。

GPIFなどの買い余力については、日経新聞312日朝刊に、UBS証券大川氏の試算が出ており、GPIFが現在の20%弱から25%にすると、7.1兆円、同様に3共済が1015%を25%なら3.4兆円、また、かんぽ、ゆうちょ銀行も5%と仮定すると、それぞれ3.4兆円と10.3兆円、日銀が3兆円なら計27.2兆円だそうだ。議論すべきは、この影響度合いである。これについては、記事にはないが、東証時価総額を600兆円とすると、約5%に相当し、この数字が大きいか小さいかだろう。

目安となるのは、ポートフォリオにおける売買の目安が出来高の10%、大量報告義務が5%、空売り報告義務が0.5%であるが、5%というのは、大量報告義務と同じであり、そこそこ大きいということになる。まず東証売買代金が3兆~5兆円くらいだが、その10%なら5000億円である。そうすると、27兆円のポジションを解消するのは54日、2ヶ月強となり、流動性リスクに抵触するくらいだから相当である。2ヶ月以上をかけてゆっくり売り買いすればいいが、確かに影響が出てしまうレベルだろう。では、その影響はどのくらいだろうか。

これについては、幾つか研究がある。まず、「株式市場の流動性が株価に与える影響」(楊 立命館経済学 143)では、流動性の定義を、スプレッド、価格のインパクト、回転率、取引スピード、などとし、取引コスト、在庫リスク、情報の非対称性から論じており、海外や中国市場について実証している。また、「株式の流動性とリバーサル戦略の収益性に関する検証」(数理解析研究所講究録 電気通信大学 水野、宮崎)は同様に流動性を回転率、ラムダ等からシミュレーションしている。いずれも、上記の私の問いの直接的な回答にはならない。

そこで、乱暴だが、長年慣れ親しんできたDRAMと比較してみる。DRAMでは全体のうちスポット市場は10%であり、そのスポットで10%の需給変動で、価格は、この20年間くらいは、その時代の最先端DRAMは、需給変動により、シリコンサイクル約3年で、1ドル割れから2ドル超えで推移している。東証では浮動株比率は50%強なので、600兆円の半分がスポット市場的であり、27兆強は、その10%に相当する。DRAMと株式市場を比較するのは乱暴極まりないことを承知で、比較すると、鯨による需給変動によって、東証の「価格」、日経平均でもTOPIXでもいいが、倍半分変化してもおかしくない、ということになる。この30年間の東証時価総額も、300兆円弱から600兆円で推移している。アベノミクス始まった2012年春に1万円が、この2015年春、ちょうど、かつてのシリコンサイクルと同様の期間に、2倍となった。偶然かもしれないが、不思議な一致である。

なお、DRAMの需給については、私が長年、数式によるシミュレーションを試みながら、日々に忙殺され、なかなかできなかったが、「システムダイナミクスによるDRAM市場における周期的変動の考察~モデル構築と基本メカニズム」(小川、筑波大大学院ビジネス科学研究科博士課程)を見つけたが、素晴らしい成果だと思う。これも少し、買えれば、株式の需給分析にも応用可能ではないだろうか。