2015年4月22日 日本電産決算~2030年「大ぼら」の布石と研究開発

先ほど、2015422日に日本電産の2014年度決算が発表された。長年の「ほら」であった売上1兆円を突破、営業利益も10%を確保できた。

なお、以前から大ボラ達成に向けIRを担われ、私も90年代後半から御世話になった元副社長の鳥山氏の訃報が夕刊に掲載されていた。まだまだ御若いのに残念だが、最初の「小ボラ」の無事達成に安堵されたことであろうことがせめてもの慰みである。心から御冥福を祈りたい。

 明日午前の説明会に向け注目している点を記したい。

これまでから、成長事業分野(車載モータ+家電モータ)を軸として、2015年度2兆円(中ぼら)2030年度10兆円(大ぼら)といってきた。これは、M&Aはしてきたが、あくまでモータの事業が中心であった。1月の3Q決算説明会では、2014年度が1兆円を達成が確実になる中で、2020年は2兆円、2030年度に改めて10兆円をアッピールしたが、モーターメーカーからグローバル電機メーカーになる、としたことが重要な点である。ホンダエレシス等の買収に代表されるように、車載に注力し、モーターそのものからモーター周辺のモジュール(センサーやマイコンなど)を取り込むことで、付加価値を上げようとしている。しかし、2020年の2兆円は可能でも、現在の延長線では3兆円くらいがせいぜいだろうという意見が多い。これは、一個当たりモータが6ドルとしてもセンサーとマイコンで4ドルだから、1兆円は1.7兆円程度にしかならないからである。そうすると、モーター周辺だけではなく、大手電機メーカーと同じ領域、FAシステム、社会インフラなどに参入せざるを得ない。この場合は、客でもあった、ファナック、安川電機はもちろん、日立や東芝、さらにはGEなど世界の強豪と、インダストリ4.0もあり、競合してくる可能性もあろう。

 経営重心も、モーター中心の部品事業という短期サイクル、大ボリュームから、長期サイクル小ボリュームの事業も増え、変わってこよう。創業以来、馬車馬の如くこれまでは、気合で突っ走ってきたが、10兆円を超えてきた場合、研究開発をはじめ、様々な会社のインフラが必要になり、要求される人材も、Nidec魂は不変でも、多様化してくるかもしれす、求心力と発展への遠心力のバランスが重要だ。今回、正式に代取に就任となった片山CTOへの期待も、10兆円に向けた布石であろう。

 

 そこで、研究開発体制が中長期の布石とし極めて重要であり注目される。すでに、昨年の11月に新川崎のモーター基礎技術研究所の説明会見学会を開き、また、その後、3月中旬に所長との面談をさせて頂いた。ここで、それについて記す。

 当時の私の疑問は、ここ何回か報告しているように、研究開発体制が大きく変わる中で、「中央」「基礎」というのが、これまでのリニアモデル型であり、オープンイノベーションの時代に大丈夫か、というものであった。しかし、その懸念は払拭された。

 研究所長の福永氏は、元、日立の研究所長(日立研、中央研を歴任)であり、日立の研究開発体制の変革にも取り組まれた人物であり、今回の日立の研究開発体制の動き、特に、顧客との「協創」イノベーションも、福永氏が前から推進してきたものであり、よって、十分に、ノンリニア化、オープンイノベーションの流れは認識されている。

 モーター基礎技術研究所はコーポレートラボではあるが、日本電産ゆえに、モーター起点であり、また21世紀は、センサーやマイコンがついたモーターが産業のコメとなり、そこでイノベーションを起していくようである。

 組織としては、CTOの下にあり、この新川崎の研究所、台湾やシンガポールとも連携されているが、さらに、滋賀技術開発センターのIT(HDD以外)、車載や家電の研究所、京都のHDDなど中心の中央開発技術研究所がある。

研究開発や技術の人員は、グループ全体で3000人、うち2000人が本体、滋賀が600、新川崎が100である。売上高研究開発費は4.5%程度だが、新川崎が0.5%、他が4%、あるいは、コーポレートラボが10%、デビィジョンラボが90%という割合だろうか。 また、2020年には売上高比で4.5%を6%にするが、新川崎で0.5%1%、他が4%、金額では売上が2兆円なら、1200億円だが、新川崎で100億円、これから新設予定の生産技術研究所で200億円、ディビジョンラボで900億円というとこになる。

新川崎も200人くらいにはなるが、研究のための研究ではなく、あまり増えないというのが印象的であった。モデルベース、回路、CAE、ラピッドプロトタイピング、計測など5部門があるが、これを7部門にする程度で、センサーなどが加わるようだ。この5部門と、ディビジョンラボや内外の開発部隊が案件毎にプロジェクトをつくっていくマトリクス組織となっているようだ。

また、基本的には「この指とまれ」のオープンイノベーションで、新川崎のいろいろな研究チームと連携する。特に、モーターがFAとなり、システム化すると、IoTやインダストリ4.0が絡んでくる時にはカギとなろう。全く新しいモーター技術や新技術のテーマーは、まさにオープンイノベーションであり、社外80%、新川崎10%、他が10%くらいであり、社外の技術には、モーターの賞の応募の審査委員の先生や中研が目利きをするしくみである。事業のM&Aは豊富な実績があるが、研究テーマ単位のものはこれからであり、VB投資や提携による。研究の評価は事業化50%、その他論文など50%であり、途中でも事業化を試みることが重視され、それが駄目なら途中下車で転進するようだ。

課題は、これまで、モーターのみが本業であり、M&Aした会社も独自の研究所は開発組織があり、これらを再編し、コーポレートラボとディビジョンラボに分けなければならない。特に海外は、エマーソンなどはSRモーターで有名なラボを有しているが、これから、重複テーマの統合再整理も必要であろう。

今後は、新川崎のモーター基礎研、今後、新設される生産技術研究所、がコーポレートラボとなり、京都の研究所は、HDD等の、滋賀の研究所はITや車載や家電のディビジョンラボとなるように思われるが、あまりに大きいので、コーポレートラボのままかもしれない。それ以外の内外の子会社の研究開発部門は、場所はそのままでも、組織管掌上は、これらに再編されるだろう。福永氏の考えが、今回の日立の改革と同様だとすると、新川崎は、オープンイノベーションのハブ機能を持つ。私としては、もう一つ、10兆円に向け多角化、特にIoT、センサー、無線、ネットワーク、ソリューションを担う研究所があってもいいように感じるが、これはCTOの直轄かもしれない。

 いずれにせよ、2兆円の中ぼら、10兆円の大ぼらに向け、研究開発部門の充実化が重要であり、この部門のポートフォリオあるいは経営重心(研究重心ともいうべきか)が2020年、2030年の経営重心を決めていくことになり目が離せないだろう。