2015年5月9日 フォスター電機~初の決算説明会

多くの電機精密メーカーはセルサイド時代から直接間接にお付き合いがある企業が大多数だったが、ヘッジファンド時代に運用の視点からも興味を持ち、お付き合いが始まった会社もあるが、このフォスター電機は、その一つである。

上場は1962年と早いが一部に行くのが1999年であり、OEMODMがメインであることもあり、決算説明会もなく、当然、プレゼン資料もなく、本社は昭島ということもあって、カバレッジも少なかった。しかし、売上に占めるアップルの割合は30%をこえ、その関連として注目されてきた。説明会は無いものの、IR担当者が、丁寧に投資家訪問や取材を受けてくれ、所属が法務IR部と堅苦しい印象と対照的に、当社の社名の由来である作曲家のフォスターの音楽を想起させるような担当者の風貌や人柄が、魅力となって、投資家のファンを集めたようにも思うし、10年足らずだが、20回位は会議をしただろうか。CEATECの会場でブースにも行き、台湾の競合企業も訪問した。

アップル依存度が高い割には、翻弄されながらシェアが高い(70%以上、あとは台湾など)せいか、よく健闘している。また、自らOEMが中心であり、中国はじめ、アジアに工場が多く、人間集約的である。また、顧客はアップル以外にも、ソニー始め家電メーカーやクルマ等にも展開はしているが、音の拘り多角化をしない企業でもあり、日本的というより、アジア的、台湾的、あるいは昭和的である。アップル依存度が大きく人手が多いというと、ホンハイを想起させるが、オーナー系ではなく「常識」的な会社である一方でFA化は遅れている。ただ、アップルのボリュームやスピード感に十分についていっており、それで安定的に収益性を維持している点は日本企業という意味では珍しく、オーナー系カリスマ系のトップでもない(以前は、カリスマ系のトップもいたらしい)のに、興味がわく。よく、トヨタに鍛えられて成長したということを聞くが、同社もアップルに鍛えられたのだろうか。

同社の急成長は、アップルがiPodを出してから著しく、この10年は、生産拠点を増やしながら人海戦術で凌いできたところである。その間、かつての重要顧客のTVや家電は衰退し、クルマが一時期苦しい場面もあり、円高やレアアースの高騰もあった。駆け足で10年きて、スマホも円高もレアアースも一段落、業績も売上2000億円直前、営業利益も100億円となり、一服して、自分を見つめ直したいところだろう。

円高も一巡し発展途上国の賃金もアップし、FA化も必要な中で、今取り組んでいる生産の再編も進めたいであろう。また、アップル依存度も今後は下げる必要があり、特に、更にスマホが薄くなる中でヘッドセットのコネクタの径が問題であり、またファッションで再度注目されているがコードも旧態依然としており、いずれ、無線化し、補聴器機能も兼ねる可能性がある。工場でもコードの生産は負荷があるが、これが一変する可能性もある。クルマもADASなど変わるし、ハイエンドでは、搭載スピーカーも10数台になっていく。日本では、ハイレゾ化の動きもあり、32TVと、大きなヘッドホンが35万円と同一価格である。それゆえ、同社を巡っては、リスクもチャンスもある。おそらく、会社側の「質の経営」というのは、そういう変化への対応の中で、体質を変え、当面、業績は横ばいでも、筋肉質にして、収益性を高め、次の大きな変化に迅速に対応できるようにしたい、ということであろう。

そういう中で、同社の初めての説明会、初めての社長登場は注目されるところであり、ほぼ満員、50人以上だったが、まずは無難なところだっただろう。吉沢社長の挨拶紹介、田中CFOの業績説明、再び吉沢社長の中期戦略という流れであった。既に、上に記した通りである。

セグメントは音響(顧客は家電中心)、クルマ、情報通信(スマホ等)に分けられるが、だいたい、会社計画では、音響、クルマは、そう外れないが、情報通信はスマホ次第で大きくぶれ、多くは期初慎重に見ている場合が多い。アップル動向やスマホ以外での変動要因は、為替と、磁石を使うがゆえに、レアアースの影響が大きい、また、新製品投入時に生産立ち上げの遅れも注意が必要である。

質疑は途中から退席したが、今期見通しが慎重であることや、質の経営について、ヘッドホンの高機能化について、同社の強みや競合環境についてであり、既に記した通りだが、強みについて、スマホもクルマも開発ステージからユーザーと会話できることが注目された。

 今期の業績は横ばいだが、為替やスマホ動向で、常に50150億円の間で動く可能性があり、あまり期初より短期業績をあてることは容易ではない。むしろ、同社が進めている生産の再編や、構造転換という中期での次の飛躍に注目すべきだろう。