2015年5月17日 アナリストの中立性独立性と収益性

日本では、独立系運用会社というと、あまりいい印象がないようだが、欧米では、フィデリティ、キャピタルリサーチ等をはじめ、独立系が普通で大手であり、逆に、「独立系投資顧問とは妙な言葉である。親会社である証券会社や保険会社から独立せずに運用する投資顧問など、存在してはいけない」(「霞が関から眺める証券市場の風景」341頁 きんざい 大森泰人著 金融庁)が本来である。もちろん、証券系や銀行系、保険会社系はあっても、もっと独立系が大きく発展すべきだろう。運用以外の部門が中心である場合は、社風や人事制度はもちろん、インサイダーやフィデシアリティなどの点から言っても、独立系があるべき姿だとおもう。もちろん、独立性では、なく本来は、中立性が重要なのであり、中立性のための条件として、独立性が望ましいということであろう。ここでは、運用会社に深入りするのは、この辺にしてて、独立系のアナリストについて記したい。

今日は、アナリストは、殆どが、セルサイド、バイサイドと、いう区別となっている。最近は、誤解は無くなってきたが、セルサイドというのは「売り」推奨をする弱気派のアナリスト、バイサイドというのは「買い」推奨をする強気派のアナリスト、という意味ではなく、もともと、証券会社が株式を売り、運用会社等機関投資家が株式を買うから、セルサイド、バイサイド、というのであって、証券会社が、「空売り」をさせる場合もこの伝統的呼称は変わっていない。つまり単純に、セルサイド・アナリストとは証券会社に所属するアナリスト、バイサイド・アナリストは、機関投資家に属するアナリストで、ファンドマネージャでない場合をいう。

しかし、最近、実際には、証券会社に属さない独立系リサーチハウスも多く、前職では、そのリサーチ力を評価し、コミッションをソフトダラー的に払い、その分は、ディスカウントブローカーをつかって補っていた。また、業界でもそういう例が多かった。また、そもそも、つい20年ほど前は、日系については、私が所属したNRIもそうであったが、証券系であっても、証券会社所属では無いし、確か筆頭株主は野村証券ではなかったし、90年代は多くが、証券会社に所属していなかった。私自身が最初にアナリストランキングに入ったのも投資家向けにプレゼンをしたのも、技術調査部というアナリスト部隊ではなかった。そして、当時は、我々は証券会社の人間ではない、社会の公器であり、中立性を維持するためには、それが当然だという意識があった。

そういう意味では、アナリストを、セルサイド、バイサイド、だけに狭く限定するのは正しくないと思う。過去はセルサイド所属などは日系では無かったという歴史的経緯や、現在の実態も、独立系の調査会社が増え、機関投資家や個人投資家に直接、間接的に情報を提供しているからである。

昭和40年代以前、歴史的にシンクタンクなどが登場する前は、アナリスト、当時でいえば調査マンや研究員は、証券会社の調査部に属していた。当時の大先輩に話を聞いたり、直に接する中では、今のような証券会社の売買手数料稼ぎの先兵とは真逆であり、証券会社の中でも尊敬され地位も高く、彼らの雰囲気は、じっくり企業のファンダメンタルズを分析しようというものであった。私が入社した当時は、そういう大先輩が上司にも多く存在して、アナリストも、そういう雰囲気であった。

昭和40年以降、証券会社からアナリストは独立して、シンクタンクなどに属するようになって、企業レポートを書いたり、投資家にプレゼンはしても、投資判断はなかった。人によって意見は異なったが、投資判断はしてはいけない、中長期のファンダメンタルズや業績予想に専念しろということを教育されたし、それがアナリストだと思っていた。それが、80年代後半に日本に参入した外資との戦いの中で、アナリストランキングでの地位向上のためもあり、あるいは投資家への貢献を考えると当然であったが、投資判断を導入した。それでも、所属は証券会社ではなかった。証券からの天下りも多く、予算面や、それ以外でも、証券からの影響はあったが、別会社ゆえの最低限の独立性はあった。

野村でいえば、証券会社に所属となったのは97年だが、その理由は、ウォールストリートスタンダードを取りいれよう、また、リサーチこそが証券会社の本質価値であり、アナリスト部隊こそが、営業部隊に代わって、野村証券の中心になるのだ、というのが、リップサービスもあったろうが、当時の氏家社長の説明だった。しかし、実際は、野村の不祥事への対処で、印象を良くしようということや、高騰するコストと、低下するコミッションで予算的な問題だったと思う。しかし、その結果は、証券会社のカルチャーや中心が、アナリストの方に、よるのではなく、多勢に無勢、その逆であった。

これに失望して、愛するNRIを去ったのである。つまり、証券会社の組織を、製品別(銘柄)、顧客別のマトリックスで考えると、アナリストは、銘柄別のセールスのようになり(いわゆるセールスは顧客別セールス)、手数料収入に依存するがゆえに売買金額が多いセクターへの傾斜であり、短期売買のための短期主義であった。

あるいは、一方で、IB部門への貢献であった。そのため、一部のセクターでは、投資家向けよりも、ファイナンス案件をとるべく、企業よりのレポートを書いた例も多かったようだ。もちろん、エンロン問題などから、そうしたことは無くなっただろう。

しかし、当時の自分のアナリストや調査部長などの経験、また多くの知人などから聞く限りでは、現在でも、有形無形のIB部門からの圧力はあるようだし、本当のことやネガティブなことをかくと、事業会社からの圧力(特によくあるのが出入り禁止、や担当外されがある、もちろん、間違ったことを書いて怒られるのは当然だろうが)以上に、社内からの圧力も厳しいようである。そもそもが、現在の証券会社は、同じ社内で、ブローカー部門、インベストメントバンカー部門があり、これは、利益相反、インサイダー、などのリスクを内包する。さらにいえば、グループに、銀行や、運用会社まであるものもあり、当然、それはウォールによって隔離されているはずだが、当然、人事異動もあり、外部、特に、顧客側である機関投資家という立場から見て、全く大丈夫だろうかというと不安が残っているのは、前職の経験からも、多くのファンドマネージャも同様だろう。

多くのアナリストは、リサーチハウスの時よりも年収も増え、市場への影響力も増えたが、一方で、より大きなものも失ったような気がする。

証券会社ゆえにアナリスト部門の予算も手数料収入に依存し、手数料が時価総額の大きさと回転であるから、時価総額の大きい大型株に向かい、中小型は無視されてくるし、回転売買を増やすために短期でのサプライズ感が鍵になり、四半期決算とも相まって、現在主流になった上ブレ、下ブレの当てモノ博打的分析の短期主義になる。(参考 http://www.circle-cross.com/2015/04/09/201549-irとアナリストは何故-業績予想を外すのか/

かつて、NRI時代は、一人のアナリストが担当する社数は2030社が普通であり、四大証券でも、一部上場は全部、できれば二部もフォローするというものであった。売買高手数料にも、幹事の有無にも、関係なく、自分の担当、それが定められたセクターであれば、カバーしていた。それが今は、一人10社あるいは5社になり、カバーされているのが上場3500社、一部上場1800社強の中で500社というのはあまりに少ない。 

もちろん、いちよし証券のように(ここは別会社組織)、中小型に特化した例もあり、その戦略はユニークだが(これは別会社組織ゆえか)、少数派である。

また、カバレッジも、家電のように、どんどん社数が減っていくセクターでは、特に外資などは「食っていけない」から、他のセクターと一緒にされ、あるいは、セクターのカバレッジをなくす場合もある。これでは、リサーチの専門性や継続性を維持できるか甚だ不安であろうし、社会の公器としての役割はどうなるのだろうか。

証券会社の戦略としては、どうしても売買高が多いセクターに優先的に予算をつける中で、マイナーなセクターのアナリストは肩身の狭い思いをしながら、いくら、その売買手数料的に「マイナー」なセクターでいいレポートを書いたり、そこで競争は激しくないとはいえ、ランキング上位になっても、評価はされないし、より高給な外資にも転職できない。

そういうセクターは、シニアのアナリストはおいておいても、アシスタントは外され、ジュニアは悲観して他のセクターに移ったり、バイサイドに転職し、ノウハウの継承も難しくなっている。

そういう中で、アナリストの負担を減らし、上ブレ下ブレしか書かなくなってきたアナリストレポートをサポートするのはAI、ロボットである。コンプラ的にもチェックしやすい、短期業績をコンセンサスや当人、会社計画と比べ上ブレ、下ブレか、あとは会社発表の中身の要約だけのレポートであれば、AIが最も得意とする内容であろう。あえて微妙な懸念や問題点を文学的哲学的に表現しようとしても最近はコンプラやSAのチェックが通らないだろうが、そういう曖昧性がなく、クリアあるいは誰が書いても同じようなレポートは、コンプラも通りやすく、AIが、決算発表同時に簡単に書けるだろう。これは、ジュニアの仕事をなくし、いや、ジュニアがいないアナリストを助けている。また、それ以上に、決算コメントどころか、四半期など短期業績は、アナリストが実態が無い数字を分析作成するより、ビッグデータを駆使した方が当たりやすいだろうし、事実、そういうリサーチが増えている。特に、売買高が大きく大型株ほど、そういうビッグデータは多いだろうからあたり易いだろう。そうなると、博打に近い四半期などの短期業績の分析と判断は、実用的にも、コスト的にも、AIが担当し、アナリストは象徴的に顔写真が載っている程度で、肉声のコメントや投資家への電話も、ロボットによってなされるだろう。しかも、それは、本人の肉声をうまく反映、内容も、コンプラ的にも安全性をチェックされたものであり、インサイダーやフロントランディングも問題なく、証券会社側も投資家側も安心である。ただ、もっとも、投資家側もそういう短期売買は、精神力も体力も無敵なロボットが担当し、更に、ビッグデータを駆使しているので、日本語で会話しても、ロボット同士だというSF的な笑い話になっているかもしれない。年老いたアナリストに代わって、アナリストが引退しても、そのノウハウ?や雰囲気はエキスパートシステムで継承され、あるいは投資家受けが良かったり、的中率が高かったりする場合は、さらに、プログラムも改良され、「職人肌のAアナリスト」と「株価センスがあるBアナリスト」のノウハウや雰囲気を、適度にブレンドしたロボットアナリストが、人気ランキングで1位となるかもしれない、というのは蛇足である。将棋や入試問題と同様、こうしたAIアナリストに勝つには、ビッグデータが無いような小型株での職人的リサーチ、大型株では、中長期でのテーマや課題の設定、抽出能力、構造問題を分析する能力であって、それをベースにしたリサーチだろう。今のAIは、問題を解く能力はあっても、問題を作る能力はまだ貧弱だからだ。それには、想定外の質問能力が鍵だが、現在、楽にIRから情報を入手し、また、やや予定調和的な質疑が多くなっているセクターでは難しいだろう。

つまり、短期売買とカバレッジの縮小、AIやビッグデータの活用、また、証券会社にとって、更なるディスカウント、IB部門とのウォールの問題などを考えると、これからのアナリストを巡るビジネスモデルは大きく変わる可能性もある。現在の主要な証券会社は、垂直統合モデルだが、いずれ中には、リサーチが中心のものと、トレーディングが強いところ、ディスカウントブローカーに別れ、他の業界でも見られた水平分業化も少し出てくるのではないか。速報性と実利性からAI中心のアナリスト、サービス中心のアナリスト、小型中心の昔ながらの職人芸的なアナリスト、中長期の構造分析が得意なアナリストなどに、機能分化され、そういうリサーチサービスも、バンドルもアンバンドルも出てこようし、総合垂直型、水平型、など多様化しよう。

 自分自身は、No Sideを掲げ、現在のアナリストと時間軸と内容や切り口の面で、バッティングしないリサーチに集中している。時間軸でいえば、過去1年と向こう2年は避け、短期業績やバリエーション、株価判断はせず、戦前から未来3050年先、企業や業界の構造問題、技術トレンド、企業文化、組織などを対象としている。それゆえ、証券会社から、講演の依頼が来たときは、多少の驚きはあったが、拙著「経営重心」が面白かったからだろうという認識であった。

株価や投資判断はしないというのに、講演で予想以上の参加者があり、それでもカバーしきれないニーズがあるようで、複数の証券会社から、講演やプレゼン要請があり驚いている。最初は、10年昔のファンや、この10年はライバルでもあり、そういう中での興味半分かと思っていたが、仲介をしていた旧知のアナリストに聞いて驚いた。もっとニーズがあり、オープンにすれば10年前のトップアナリストであった時くらいのニーズがあるのではないか、というのである。それだけ、投資家には、中立性独立性や短期主義への不満があるようだ。短期だけでなく、中長期で、投資家のためにも企業のためにもなるアナリストのあり方が問われているのだろう。個人投資家などを対象にしている多くの独立系リサーチハウス、ブテック型リサーチハウスの勃興も、そういう流れであり、彼らは、証券会社系が予算的に対象とにならない、「AIアナリスト」が手がけない、小型株が中心のところも多い。

 アナリストは社会の公器でもあり、独立中立が、本来あるべき姿であり、証券会社の事業と離れて、売買高も少ない小型株を発掘すること、中期での問題点を分析するこそ、大きな任務であり、それゆえに独立系アナリストは、本質的な気がする。そういう中で、われわれのような独立系リサーチハウス、いやシンクタンクといいたい、が増えるのは本望である。

ただ、問題は、収益であり、儲からない、そのコストを誰が払うかである。これは、監査役や監査法人と同じ議論である。独立性や中立性を貫けば貫くほど、そうなる。そこは、バランスと、魂、だろう。もちろん、いっそ公務員あるいは、東証の職員というのも一つの話だが、それでは、よけいコンプラが大変になり、競争原理もはたらかない。悩ましいところだ。おそらく、かつてのシンクタンクの研究員はおろか、普通の会社員くらいの収入になるだろう。若手の起業は大変だし、そういう低収入の仕事に、遣り甲斐があるとはいっても魅力を感じてくれるだろうか、という、他業種でもよくある話に帰着する。せいぜい、われわれのような外資系などを経験して多少蓄えもあるシニアが中心に当面、頑張らないといけないし、それが、かつて高給を得た責務でもあるだろう。

その中で、このNo Sideでの挑戦には、多くの企業やIR、関係者のご理解や応援ををいただき、また、これまで以上に説明会や見学会、取材に応じてもらって感謝している、また、多くの電機精密メーカーは、万人にオープンであり、もともと、個人投資家でも取材を受けるという。個人投資家向けのセミナーやプレゼン資料もあり素晴らしいと改めて思う。

ただ、一部に、残念だったのは、一部の素材メーカーは、説明会には参加OKだが、テレコンは証券会社所属に限る、と拒否された。また前職でも、説明会で何度か手を上げたが一度として当てられたことはなかったことから、どうも予定調和的な質問だけに絞りたいのだろう、と思う。同社のHPには、同社をカバーする証券会社所属のアナリスト一覧が、大手中心に、掲載されている。企業側が、記者クラブの如く、「信頼」できるアナリストだけと会話しようということだろうが、そういうアナリストは、IB部門を通じて、圧力をかけられ、コントロールし易いということかと疑ってしまう。同社の素材の製品と違って、会社の透明性は低いのかと感じた。