2015年5月17日 最後まで予断を許さぬ決算シーズン~日本光電、新日本無線、凸版、日清紡、新電元、住友電工、東芝

おそらく10%増くらいの無難な増益予想が多いだろうと思われたが、事前に波乱があると思われた、TEL-AMAT統合、シャープ、東芝の三大リスクに加え、富士通の、よもやの見通し、等もある一方、電子部品の好調と強気な設備投資など、ポジティブ、ネガティブ、それぞれのサプライズがあった。木曜夜のシャープも終わり、ピークは過ぎた。既に発表済みのものも多いが、金曜日は、9時半から日本光電の前半部分に出席、10時からの新日本無線はフル参加、10時半からの凸版に遅れて参加、13時半から、新日本無線や日本無線と関連のある日清紡、15時半から新電元にフルに参加、17時にオフィスに戻って住友電工のテレコンが終わり、ほっとしていたら、東芝より、19時半~2010分終了の東芝の説明会の知らせがあり、脱いだスーツを着変えて、そそくさと晩飯を駆け込んで浜松町へと急ぐことになった。週末に、行けなかった企業の説明会のHP視聴や、たまったがメモにしていない企業の分析や執筆をする予定が、大いに狂った。東芝は社長は記者会見後すぐ退席だったが、20時半まで広報に確認し、帰宅は21時半、だいぶクリヤになった分もあり、夜中というか朝方の4時までかかった。常にこういう予期せぬ事態はあるので、日々、早め早めに、できる範囲で処理しないといけない。住友電工テレコンの印象は後日、東芝は別途紹介したのでここでは省略する。

 

日本光電~世界の高齢化の流れにのる

日本光電は、3月に医療施設の見学会もあり、改めて報告したいが、NRI時代に94年まで、4-5年くらいだろうか、日立メディコ、アロカ(当時は、日本無線の子会社、現在は日立メディコに買収され非上場)、フクダ電子などと共に担当であり、東芝メディカルや工業会などにも訪問していた。当時は、日本光電は、説明会はなく、IRも保守的であり、業績もそれほどではなく、レポートは業界も、個々の企業も何度か書いたが、投資家の関心も薄く、累積INPUT1020回程度と関心も低かった。その後は、外資などのセルサイド時代も、フォローできていなかったが、ファンド時代に、投資家視点で銘柄を探す中で、「再会」し、それがIRも業績も様変わり、投資家の関心も大きく、驚いた。15年でここまで変わるかということだ。

日本も高齢化し、私自身も老いて病院の御世話になることが増え、生体情報モニタや、AEDなど同社の製品も身近になった。世界も高齢化する中で、投資家の注目も集まろう。業績は病院向けに期ズレもあり実績は、売上1680億円、営業利益180億円の計画が、売上1608億円、営業利益159億円と未達であったが、2015年度は売上1720億円、営業利益180億円と、今期で挽回する。また、そもそも、この2015年度の数字は、中計を1年前倒しで達成されているため、新たな2016年度の中計が売上1820億円、営業利益200億円。更に2019年度は、売上2000億円、営業利益250億円と示された。当社は、オーナー系というほどではないが、今回、社長交替が発表されており、会長の長男、創業家のトップが就任し、その手腕が期待される。

 

社長交替に注目~最大の投資機会を提供

 そこで余談で、また機会を改めて取り上げたいが、社長交替は、投資家、特に中長期の視点でも最重要なタイミングだろう。トップの交替は、普段は見えない社内ポリティクスの表れであり、内外への強いメッセージでもあるからであり、それが5年、10年、社長の任期を超えて、大きな変化の始まりであることが多い。サプライズ人事かどうか、下馬評通りが保守本流か、など、うまく判断すれば、Bestな投資判断となる。今回も、決算発表をまたいで、社長の交替発表が多く、豊富な投資機会を提供していよう。

記憶に新しいところでは、現在、日経新聞の「私の履歴書」の川村氏の日立の社長就任であり、今から思えば最大の転機であった。当時、多くの見方は、一度リタイヤして子会社に転出した、若くもないどちらかといえば地味な人材を持ってきたことに対し、「日立は、それほど人材がいないのか、おそらく大きな変革はできまい」等と、ネガティブな見方が多かった。その時、「日立だけでなく、大会社でリタイヤしたトップを持ってくることは余程の危機感と覚悟であり、ある意味、日露戦争において203高地の戦いで、児玉源太郎が格下げの人事を受けて乃木将軍を救ったことに匹敵する、本来は潜在力のある会社だから、巨艦は浮上する」という見方があったが、その通りだった。

NRI時代、金井社長の後、期待された傑物の桑原氏ではなく庄山氏が指名されたことを受け、予告通り、投資判断を下げた。常識人の庄山氏では巨艦の大胆な改革は難しいと判断し、また、そういう人事を決めた日立全体にまだ危機感が希薄であると感じたことが理由だった。

結果的には、その後の10年では、そうなった。ただ、日立の懐が深いところは、そういう投資判断に何も文句を言わなかったことはもちろんだが、それ以上に、あれだけ保守的な巨大企業において、もちろん超優秀だったとしても、氏のような「傑物」が社長候補になることであり(やや脱線すると、部長クラスには頭脳明晰だが奇人変人も多い)、また、社長候補から外れても、そういう人材をパージせず尊重したことであり、桑原氏のDNAは、現会長の中西氏に見事に受け継がれ、グループ会社の底上げにもなっている。

 日立以外の例では、直近では、サプライズ人事であった富士通では、今回の業績見通しの件が出て、東芝も調達出身は初めてであり、ややサプライズだったが、今回の問題が出た。TELも、若くてタフガイに見えた前社長が東氏に交替した後に、AMATとの統合が出た。もちろん、シャープのように業績不振でトップが変わるのは、「既に織り込み済み」だろう。

業績は堅調順調に見えても、下馬評にもなく、これまでのキャリアパスと異なる人材がサプライズ人事でトップとなった場合は、その後、短期でネガティブサプライズが出るか、長期で大きな改善の兆しがどちらかであろう。その場合、経営重心と、トップの個性の相性、ベクトルの方向、更には時代の潮流や風向きが鍵であり、相性がよく、それそれのベクトルが時代の流れに沿っている場合は、企業は驚くほど成長を遂げる場合がある。次に紹介する新日本無線も、その例かもしれない。

 

新日本無線~流れにのる

 上場前から30年の付き合いであり、累積INPUTも数百回以上、内外の工場も全て一度は見学している。IRは積極的であり、工場見学会など熱心である。同社の工場は6インチであるが、12インチの巨大工場をクリーンルームの外から垣間見るよりも、全体の半導体の流れを理解するのに役立つだろう。説明会は、CFOによる業績説明、社長による経営戦略、専務による事業の詳細という流れである。徐々に投資家の関心も増え、説明会の参加人数や質問も増えてきた。また、同社は月次売上げの発表が一番早く、10日過ぎのロームの先行指標としても参考になる。一時期、村上ファンドが保有し注目も浴びた。

同社は、μμ、マイクロ波と半導体、特にバイポーラのアナログが事業の両輪であり、デジタル化の中で、アナログ技術は逆に存在感を増している。また、ファンドリでもあり、場合によっては、ファンドリーを使うなどの柔軟性もある。経営は地味に見えるがM&Aにも積極的、ストックオプションも導入と先進的である。ニッチだが高シェアであり、川越、福岡などの工場は最先端ではないが生産技術力は高い。日本無線の子会社として発展してきたが、やや社風は異なる。2005年に日本無線グループ再編の中で、日清紡グループとなった。

同社の転機は、現在の小倉社長就任であり、その経緯は、日立のリストラと共通点もあり、再成長の起点となった。また、その前でいえば、日清紡の傘下となったことであるが、それがリーマンショックや震災、急速な円高の中で巨額な赤字に転落した中亜出は幸いした。業績は2011年度までの赤字による苦境を乗り越えて、既に、継続性疑義もはずれ繰延税金資産も取り戻しつつある。自己資本比率も50%台まで回復、今期は更に改善、復配までもう一歩である。

背景は、事業をForwardと既存製品に分け、前者を伸ばしていること、さらに、半導体事業をデバイス事業と再定義し、MEMSSAW関連がのびている。追い風にのる部品メーカーとの協業もプラス、スマホに加え、車載なども広がっている。

社内のスピード感もついてきており、驚くほど、いろいろな事業の立ち上がりが早い。説明会でちらっと出た交通費が5億、海外出張も稟議なく自主的に任せているというのは、驚きであり、社長のスピード感やオープンでユーザーと協創という思いが、社員にも浸透している。経営重心のあるべき方向性と、社長はじめトップの個性とベクトル、それが、時代の潮流に乗っている印象である。勢いを止めず、あまり自己抑制をせず発展を期待している。また、詳細は別途、紹介したい。

 

凸版印刷~脱液晶で高収益を狙えるか

後半の一部しか出席できなかったので後日紹介したい。液晶関連のカラーフィルタメーカーとして注目し、つきあってきたが、会社全体として注目したのはファンド時代からである。現在は、脱液晶であり、電子ブックやICカードなど話題は多いが、現在3%以下、300400億円レベルで低迷している営業利益を、中計の営業利益700億円、ROE5%に如何にもっていけるかが鍵であろう。


日清紡~ポートフォリオ変遷が経営重心のケースとして興味深い

 日本無線や新日本無線の関係でフォローしており、付き合いはファンド時代からである。当時、オフィスが近所だったので、たまに説明会やIR来社を受けたりしていた。改めて、会社全体を見ると、同社のポートフォリオの変遷は興味深く、経営重心のいいケースとなる。説明会では、2017年度に売上6000億円、ROE9%2025年に売上1兆円、ROE12%が示された。

 

新電元~電子部品進化論

 同社も、ファンド時代からの付き合いで、INPUT件数も少なく見識は薄い。ただ、もともと電源系の半導体から発展して、二輪系のモジュール、さらには環境システムへと発展した経緯には関心をもっている。似たような例に、サンケン電気、オリジン電気がある。サンケンは、半導体からモジュールへと川下に出て、また、一時期、CCFLのバックライト企業を買収、大きく伸びたが、CCFLLEDへと代替される中で苦戦し再浮上に挑戦している。また、オリジンも、半導体からモジュール、その過程で、製造技術を転用、貼り合せで、スマホなどのタッチパネル貼り合せで、業界の雄、台湾TPKに食い込み成長を遂げたが、タッチパネルがインセルが中心になると苦戦した。

電子部品というと、エクセレントな村田製作所が有名で高成長、高収益の代表例として語られ、ケースにも取り上げらるが、むしろ、同社のような企業が、その時の環境やチップの判断で、多様な進化を遂げていることに興味をもつ。

新電元は、社長のインテリ的な風貌と、その通りの経営戦略の語り、なども魅力的であり、そうした個性が、会社をリードしていくか、また改めて報告したい。