2015年5月18日 三菱電機の経営説明会 ~経営重心、サイクルを意識した典型例、評価の仕組みが他の電機と似て非なる

三菱電機の経営説明会が51815時半~16時半、柵山社長、松山CFO出席で行われた。同社は決算説明会は4月末に行われるが、決算集中日でもあり短期業績中心になるため、その半月後、毎年この時期に社長による中長期の説明会が行われ、決算発表時には聞けなかった戦略について、じっくり質疑ができるように配慮されていることは有難い。

 社長のプレゼンを聞き、改めて、ポートフォリオリオが、よく考えられて設計・制御それていると感じた。この点が同社の経営の真髄と思うので、この点を中心に論ずる。

事業を、景気変動を受けにくいものと、受けやすいものに分け、前者は、重電や情報通信など売上の40%を占め、営業利益はほぼ800~1000億円を維持、後者は、産メカや家電、デバイスで売上の60%を占め、営業利益は数百億~2000億円と変動が大きいことが示された。質疑でも確認があったが、そういうバランスを意識されポートフォリオが構築されているように感じた。

これは経営重心視点でいえば、短サイクルと中長期サイクルを、うまくバランスさせているわけであり、また、その中では、中長期サイクルでも、「10年を大きく超えるものは同社ではない」ことが質疑で確認でき、中サイクルの中で、景気先行型と景気遅行型の、それぞれの事業を意識してバランスさせている。特に各事業でのサービス比率を上げることで、景気サイクルの影響を減らすという戦略も、経営重心のサイクルの制御に他ならない。

 三菱電機版ROICが提示されたが、分母は、運転資本と固定資産、分子は営業利益であり、各事業部門での把握改善が容易となるように、資本や負債ではなく、資産項目で算出、ここかれROEを導出している。また、このROICは、それぞれの事業で特性による差があるので時系列では改善度合いを見るが、単純に横比較しない、とされた。さらに、ROEにおいても、ROE改善のための財務レバレッジは活用しない点が明言されている。オムロンでも独自のROICが導出されたが、このような各社独自のROEに対する経営哲学が明示されることは評価されよう。

また、情報通信やデバイスなどは、それ自体よりも、他の事業に間接的に貢献度が大きく、その事業のROICだけで成果を計測できないが、そこも、きちんと評価するシステムがあるようで興味深い。

 社長の選出に関連しても長年の仮説を確認した。私自身、同社を30年近く見ているが、同社は組織の三菱といわれるだけあって、誰が社長になっても社長の個性だけで会社が変わることはなく、また、収益を大きく稼ぎ出している事業部門からよりは、開発部門や生産技術、デバイス、情報通信といった、その事業部門そのものの直接的な利益貢献度は少ない部門から社長を輩出している。野間口氏は開発であったし、前任の山西氏はデバイスなど、現社長もデバイスの経験があり、稼ぎ頭の産メカや車載などが社長になる例は、寡聞にして知らない。これは、偶然というよりは、意識されており、それが同社の、目立たないが、経営の鍵ではないかと思っている。少なくとも、そういう人事の歴史的事実については、トップの個性が注目され、それにより会社の方向性が変わり、また、しばしば、主要事業の出身が中心であり業績貢献度が大きい部門からトップが輩出される総合電機他社や家電とは大きく異なる、いや同社が唯一である。

この難しい質問を、敢て確認すると、「社長の選定は、単に事業部における利益貢献ではなく、真に社長に相応しい人が選ばれてきたと思うし、自分もそうする」とのことであり、私の仮説は、多少は肯定されたように感じた。

これと、ROICについて、その数値を単純に横比較しない、という姿勢も、同社の隠された経営哲学であり、それが同社のバランスがとれたポートフォリオ、安定した業績成長の秘訣ではないか、と改めて感じた。

多くの会社は、事業部に対し、営業利益額、あるいはROICなどの指標で、管理し、競わせ、そこでの勝者が、社長になる、のが一般的である。カンパニー制もそうだし、それが会社の中での内なる資本主義である。しかし、経営重心でも示したように、事業の特性は、サイクルもボリュームも異なり、本来は同じ指標で横比較管理すべきではない(これが、東芝の会計問題にあった、収益達成のプレッシャという問題点の本質かもしれない)。また、ある時期に、ある事業本部が大きな利益貢献をしたからといって、景気や運不運もあり、先人の種まきが花咲いただけで、その部門のトップの能力に帰するものではない。さらに、事業本部ベースで、その経営手腕が最適だったとしても全社で最適かどうかは分からない。それは、実は多くの例を会社だけでなく知っている。

そこで、問題は、企業が収益をあげることが目標である以上、それ以外にトップを選ぶ有効な基準があるかどうか、であり、もし、暗黙の了解で、同社が、あえて、収益貢献の大きいメイン事業のトップを選ばないという配慮をしているなら、江戸幕府にもある、大藩には権力を与えない、老中など権力を持つのは小藩である、というマネジメントにも似て、賢明と思う。それは、各事業部に、短期の利益貢献だけで評価しないというメッセージでもあり、また事業部間の無意味な競争意識などを排除することにもなる。

社長の任期などについても、最近、他社でも確認しているが、すなわち、「社長の任期の長さはいかほどで、それは決めたほうがいいかどうか」については、これまで4-5年と一定間隔に見えるのはたまたまで、また任期は固定しない方がいいという認識であった。

 経営組織やポートフォリオは偶然にできたものではなく、よく設計され制御された結果でないといけない。柵山社長は、意識もしており成り行きもあり、その間とだろうと、いうことだったが、実際には、環境に柔軟に対応しながらも、意識的に制御された成果だという仮説の正しさを実感した。多くの会社は、よい成果が出れば、更に伸ばす、悪い結果がでれば、より慎重に安全をみる、というようなポジティブフィードバックがかかる制御をしがちであり(これは金融システムでも同様である)、いわば、常に、アクセルをかけ、明らかな危機に直面してはじめてブレーキを踏むようなケースが多いが、同社は、むしろアクセルとブレーキをバランスさせ、ネガティブフィードバックをかけ、経営とうシステムを安定化することに腐心しているように思えた。

 現在の日立が、ITを駆使し、グローバルな最新の経営ノウハウを取り入れ、一頭ぬいおり、それが、業績発展の背景がだ、三菱電機は、むしろ、先人の知恵を経営に生かして業績を上げているという点で、実は対照的かもしれない。

 100周年の2020年までに、売上5兆円、営業利益率8%を達成するという目標は一見、妥当に見える。しかし、その前提となる内訳のセグメント利益率が重電8%以上、産メカ13%以上、情報通信5%以上、デバイス7%以上、家電6%以上というのは為替95円前提であり、既に達成しているものは多く、むしろ低いものであろう。しかし、そこに、こそ、同社の経営の真髄があるだろう。

 なお、説明会では、FAや、IOT、あるいは、欧州でのインダストリ4.0の動き、GEやシーメンスとの比較などが多かった。また、クルマ関係で、多くの企業がシリコンバレーに拠点を設置している点について、社内で十分な技術力がある自信を示した。

また、国益を考える三菱グループらしく、国内比率を50%くらいに維持すること明言したことも、他の電機と対照的である。