2015年6月3日 OKI

去る58日の説明会に途中から参加、その後、HPでビデオ視聴、そして本日、個別取材(2時間程度)したので報告する。当社のIRは上期と通期は社長以下が出席、四半期ではCFOが中心だが、適宜セミナーがある。誠実で丁寧である。HPも説明会動画や(質疑もあればなおいい)、個人投資家向けもあり充実している。説明会は、マスコミと一緒であり、会議室がやや狭いせいか超満員となる。

同社との付き合いは30年近く、国内の工場はもう閉鎖されたり譲渡された半導体関連も含め全て見学、海外も中国や米国、タイ等見学した。累計Inputは数百回にはなるだろう。運用時代の10年はやや頻度は減ったが、説明会、個別取材、スモール、セルサイド主催の会議も含め、総合電機の幾つかと同様に、累積Inputはトップ級だろう。

OKIは、かつて電電ファミリーとしてNECと並ぶ存在であったが、コンピュータの流れに遅れ、半導体でも二度にわたる新工場の火事など不運も多かった。情報、通信、そして半導体の限界メーカーとして評価され、業績も株価もボラテリティが高かった。篠塚社長のFENIX計画など大リストラを機に変貌し、小さいながらもニッチ分野で健闘していた半導体は、ロームに売却した。厳しかった財務基盤も2013年以降、円安もあり、ようやく一息をついた。

収益の中心は、国内シェアトップ級の金融端末などである。NECや富士通に比して、小規模ゆえの機動力がポイントである。顧客は、NTT、NTTデータの他、銀行、官公庁が多い。技術的には、メカトロニクスを融合した端末技術や、1980年代米国自動車電話でトップだった無線技術、多品種少量の生産技術力もそこそこある。企業体質は、大人しく、大手ユーザーから与えられた規格に基づいて、忠実に信頼性ある製品、システムを開発、生産するのは得意だが、提案力や独自の製品開発力、営業パワーには欠けるとされてきた。従来は、提携戦略についても、消極的であったが、90年代後半からは、東芝(ATM事業を譲受)や、富士通(無線基地局譲渡)などの実績がある。最近では、田中貴金属との提携、横河電機からのプリント基板工場譲渡もある。

業績は、リーマンショック後の2008年度を底に回復、売上、営業利益では、ほぼ増益傾向にあり(最終では不正会計問題での特損が2010年度にあった)2013年度は、営業利益では2000年以降、最高だった2004年度の272億円に並び、2014年度は円安に加え、消防無線デジタル化や中国ATM更新等の特需や前倒しもあり、324億円と一気に超え、純益では最高益を更新した。営業利益では、DRAMが好調だった、94年度589億円、95年度の614億円が最高である。これを除けば89年度の297億円(但し単独、単純比較はできないが連結では300億強だろう)をも上回っている。9495年度では、DRAM中心に半導体部門が350億円近かったと推定されるので、アップルtoアップルの比較では、250300億円が実態であり、2014年度は過去最高といえる。また、その中身も質的に継続性のある良好なものであろう。

中計での2016年度の営業利益340億円は、妥当なものであり、逆にいえば、現在のポートフォリオで600億円近い水準を目指すのはリスクを伴い適切ではないだろう。多くの企業が過去最高益という中で、表面数字でも、最高益更新という気持ちは内部にも外部にもあろうが、継続性という意味では、3年あるいは5年平均の営業利益で向上した方がよく、まず、300400億円の水準を安定的に維持する基盤作りであろう。

長年の課題だった財務基盤は、2014年度では自己資本比率は95年度の過去最高と同様の27%に達し、D/Eレシオも一時の4台から、0.8となった。このD/E1.0割れは、この25年では初の水準であり、2016年中計をクリヤした。とりあえず、一安心であるが、自己資本は実額で1000億円を少し超えた程度であり、半導体等リスク事業がないとはいえ、実額でも1500億円、できれば2000億円が欲しいところであろう。

OKIを経営重心の視点から見ると、この25年の変化は大きい。2000年までは、通信情報と、半導体という性格の異なる2つのコアによる重心外れ的な状況であったが、この5年は、事業領域が狭まり、重心の周囲に安定的に事業が集中している。

90年代までは、NTTの設備投資サイクルに依存した通信や、官公庁依存度やメインバンク依存度の高い情報が中心の、やや長サイクルで桁数が小さい、安定した事業と、短サイクルで桁数が大きい不確実性が高いDRAMという、二つのコアを持っていた。しかし、DRAMの振れ幅が大きく、その影響を通信や情報で補いきれなくなった。

2000年以降は、DRAMを中心とした半導体撤退や、リストラにより、中サイクルで中ボリュームの、日本企業にとって「ストライクゾーン」、しかも、「真ん中ややアウト低め」に殆どの事業が入っている。全体では、7年程度で34桁に入っている。定量的には、もう少し時間をかけて計算し、重心の推移や、事業領域の広さを算出しないとわからないが、重心はやや下がり、事業領域はかなり狭くなっただろう。

なお、このOKIの経営の固有周期は、ほぼ社長の平均在職年数と一致しており、この30年で、6人の社長であったが、病気だった神宮司氏が短期、リストラに専念した篠塚氏がやや長かったが、ほぼ平常時では6年である。これは、多くの会社が中計を3年としているが、その2倍の期間である。

経営重心から見て、やや不安があるのは、プリンタと通信であろう。プリンタはトップメーカーのビジネスモデルが、変わらない限り、サイクルは動かず(ただ、エプソン等のビッグタンクで、消耗品ではなくハードで儲ける構造が普及すると短サイクル化するリスクがある)、ボリュームの小ささが厳しい。通信は、端末だけでなくインフラ系も短サイクル化し、NTT向けレガシーハードが消え、かつクラウド型になる可能性があり、ハードの付加価値が減ずる可能性がある。通信機そのものは厳しいが、OKIのもつ通信技術を他分野でどう生かすかが鍵である。事業化が近い「ビデオテラーシステム(無人店舗を実現するTV電話付きATMマシン)は、通信技術とメカトロの融合であり、好例として期待できる。また、90年代にはなかったEMSも、経営重心からすれば、OKIの強み、そのモノ作りを生かせる分野であり、更なる成長が期待できよう。

2014年度から2016年度に向けてのセグメント別業績は以下のようである。セグメントは情報通信、プリンタ、EMS、その他、からなるが、ややバランスを欠く。情報通信では、収益性が高く成長が見込めるATMを中心とするメカトロニクスと、安定成長の他部門があり、前者がセグメント利益の過半を占めると推定される。

第一のセグメントの情報通信はS&S、通信システム、社会システム、メカトロニクスの4サブセグメントからなるが、全体では、2014年度は売上3525億円、営業利益259億円、2015年度は減収減益の売上3400億円、営業利益240億円を見込む。

S&Sでは、官公庁は堅調ながら、金融が一巡のようだ。金融がやや減る分、減収減益であり、営業利益率も2014年度は一桁半ばと推定されるが、やや低下しよう。ただ、2016年度は、無店舗システム等が寄与、増収増益で利益率もやや改善しよう。中期でも、まずまずの状況が続こう。

通信では、ついにレガシー交換機が終焉する影響が大きく、2014年度は前倒し効果がプラスだが、2015年度は、その分、100億円程度の減収があると見込まれ、下期以降はほぼ無くなる。レガシー、コア、NWサービス、アクセル等がキャリア向けが半分弱を占め、残りが民需や保守である。キャリア向けは半分を切ってくる中で、付加価値も減り、営業利益率は低い。今後は、クラウド化が進み、ハードは更に厳しく、民需では絞り込み、固定費削減や他部門への転換が急務だろう。

社会では2012年から急増した消防無線が一巡する。2014年度は駆け込みもあり上ブレたが、2015年度は100億円程度の大幅減となりそう。今後は、消防、防災、道路・航空、防衛が均等になってこよう。2014年度は前倒しもあり営業利益率が10%に迫ったようだが、2015年度は悪化、2016年以降回復へ。

メカトロニクスでは2014年度から買収したブラジル子会社がフルに貢献する。売上は253億円、営業赤字32億円、売上はハードとメンテが半々であり、暖簾は無いが少しリストラ費用もあった。2015年度はハード中心に増収320億円、赤字も20億円の縮小を見込む。ブラジルではOKIの得意とするリサイクル型ATMではなく、採算が悪く、新製品開発でテコ入れをするようだ。とはいえ、このブラジルの赤字を吸収して、営業利益率は10%以上と推定される。中国向けが前期比1.1万台増加の3.6万台と好調、国内も堅調であった。中国向けユニット入替特需があり、高採算だったようだ。2015年度は、国内は、銀行もコンビニもやや減少傾向、中国向け特需も一巡するため、ブラジルの赤字縮小はあるが、全体としては利益横ばい、利益率は悪化しよう。しかし、2016年度に向けては、ブラジルの黒字化期待や、無人店舗のハードが貢献し、2014年度の水準に迫ろう。

なお、526日の日経報道で、「2020年のオリンピックに向けて国内ATMの半分の8万台が海外キャッシュカードやクレジットカードが対応可能になるべく、メガ銀行やコンビニで、整備を進める、現在はセブン銀行とゆうちょ銀行の5万台弱から大幅に増える」という報道があり、OKI等へのプラス影響が期待される。会社側は、ソフトで対応でき、業績へのインパクトは、それほど大きくはないと見ていた。しかし、これはやや保守的であり、これも含め外国人旅行者対応の様々な社会インフラが登場し、2020年までは期待できよう。

第二のセグメントであるプリンタは、これまでもよく下方修正があり、課題事業である。説明会においても、この部門に期待する会社サイドに対し、厳しい見方で、撤退や売却、他社との提携を主張するアナリスト投資家サイドと、意見が大きく異なってきた経緯がある。2014年度も円安や新市場が期待以下で、下ブレたが、2015年度に向け増収増益を見込むが不安がある。中計でも、他セグメントは、ほぼ数値を達成しているが、プリンタはまだ遠い。営業利益率5%は維持しているが、消耗品比率が60%超えでは微妙であり、ROIでは疑問だろう。キヤノン等大手との競合の中で、健闘は認めるが、過度な期待はリスクである。確かに、「端末の沖」としてメカトロ技術は、ATMと共通であり、社会との接点が大きい部門として企業全体の広告宣伝効果はあろうが、ビジネスモデルや業界環境が異なる。中計では、商品構成の見直しと構造改革効果で2016年に売上1400億円、営業利益100億円を目指すが要注意だ。消耗品比率のバランスや広告宣伝費次第で短期利益は変わり、持続的な勝ち残りの戦略が呈示されるべきだろう。

第三のセグメントであるEMSは順調である。2015年度は、既に2016年中計の売上460億円、営業利益25億円を1年前倒しで達成することになる。子会社のOPC、田中貴金属とのJVなどが、ハイエンドの基盤などで、装置や、医療など国内のインフラ産業機器メーカー向けに好調である。円安もあり、ボリューム効果が出てこよう。

全体として、2015年度は、プリンタ部門のリスクはあるが、ブラジルやEMS次第で、会社計画は妥当な線だろう。なお、これまで「万年赤字」であった上期が、ここ数年はコンスタントに黒字になっており評価したい。資産効率、財務にもプラスが大きい。

2016年度の営業利益340億円も、チャレンジングではない。2020年度に向けては、営業利益400500億円が視野にはいろうが、2020年以降の社会インフラ一巡後は、要注意ではあるが、海外向けATMと、EMSがどこまで成長できるかにかかっていよう。そのためには、やはり、IoT、ビッグデータ関連となるが、同社の防災無線、社会システム、ATM、等から得られるリアルデータをどう活用できるかのビジネスモデルを考える必要があろう。

タイミングとして2016年は、そろそろ社長の交替時期にもかかり、後継者がどういう人物が選ばれるのか、また、新中計が発表されるという意味でも重要である。中計では、特に、これまで意見の相違や議論があったプリンタの位置づけについて、十分な説明が必要であろう。そのために、特に、過去10年くらいの期間で、ROIなど投資効果を示す数字を提示してほしい。また、中国に加え、ブラジルなど海外展開の中で、グローバルな管理体制も課題となってこよう。OKIの事業はドメスティックなものが中心であり、それゆえ人材も、これまでは、そういう経歴をもった割合が多いだろう。しかし、今後は、グローバル人材、特に、アジアや南米の外国語能力や海外の文化等に知見と経験を持った人材がどの程度、必要で、現状はどの程度在籍しているか、どう育成するのか、示してほしい。

業績の目標数値ではなく、そうした中身について十分な議論をし、アナリストや投資家の不安を、払拭することが期待される。


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