2015年6月17日 FPGA潮流を経営重心視点から~インテルのアルテラ買収で加速~ASICに厳しい、ソシオネクスト等は戦略転換が必要か

FPGAには以前から関心を持っていた。半導体の調査を始めた頃から、そういう発想もあるのかと感心したが、思ったほどは、市場規模は大きくならなかったが、大学の工学部で学部から大学院で同期であった若林一敏氏がNECで長年この研究を続け(HDL)第一人者であり(http://jpn.nec.com/cyberworkbench/cwbs2011.html)、よく話を聞いていたし、また、半導体DRAM調査で知遇を得てから長い御付き合いである、向喜一郎氏(最初は日立の中研からデバイス開発センタ、日立国際電気で常務など歴任、最近は独自の「イノベーションの場」の研究など)が、FPGAによる非ノイマンアーキテクチャの台頭を近年強調されていたこと、更に、経営重心を執筆する際に、短サイクル化と低ボリューム化に対抗できる技術としてピッタリだと事例紹介(224p)しており、動向に注目していた。

実際、4000億円程度とされる現在の市場も7割以上が、基地局、ルータ、テスタ、医療、FAなどインフラ関係でボリュームは少ないがある程度サイクルは短かかったり、仕様の変更が求められるところである。こうした分野は、半導体全体でも有望とされ、今は、ボリュームが大きくても、ニーズの多様化や消費者の好みが短期で変われば、同様の市場になる。

また、NECや日立、富士通等の研究所IRや、AI関連の書物(AIの衝撃」)でもニューラルネット型が増えており、ならばFPGAかと思っていた。

なお、FPGAは、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレーの略だが、こういう技術的な名称がついたものは技術的に信頼でき有望であることが多い。SoCとか、ASICASSPなどなどは、言葉があまりに抽象過ぎて曖昧である。NANDフラッシュが当初、NANDEEPROMと云われていたし、TFT液晶も同様である、そういう一見、硬そうな技術ほど本物であり、システムとか応用とかいうのは難しい。

 そういう中でのインテルの167億ドルのアルテラ買収は、最近の半導体のM&A(アバゴによるブロードコム買収370億ドル、NXPによるフリースケール買収118億ドル等)の中でも、大きな影響があり、ついにここまで来たかという印象を持った。

ここまで来たか、という意味は、X86アーキテクチャ、ノイマン型の限界であり、インテル自体もそれを否定できなくなり、Wintel時代の終焉の始まりかということである。ポストWintel時代に関しては、NRI時代97年に「財界観測」に執筆し、また近著「日本の電機産業はこうやって蘇る」でAGHoST時代の始まりとして紹介したが感慨深い。

報道では、これまでの基地局向けに加えデータセンター向けに市場が伸びている他、Wintelの盟友のマイクロソフトの要求や、アルテラが最近、ファンドリとしてTSMCでなくインテルを使っていたなども背景にあるだろう。もちろん、リアルタイム性が要求されるIoT市場の拡大や、ニューラルネット型のAI市場も大きいだろう。

 もちろん、これですぐさま、ノイマン型が終わるとか、ムーアの法則が終焉とかは、早計だろうが、影響は徐々に顕在化しよう。その一つが、向氏も指摘されているDRAM容量の減少であるが、それ以外にも多い。その中で一番大きく打撃を受けるのが、ASICだろう。

 FPGAは、喩えて言えば、昔おもちゃの電子ブロックみたいものであり、配線ブロックを手元で切り替えて、所定の動作が実現できる。回路は、SRAM的な回路(EEPROMやヒューズの場合もある)で構成され、論理ブロック、配線チャネル、I/Oパッドから構成される。それゆえ、コストは、I/Oが多くピン数が多いところがやや特殊で、チップサイズ、テスト、パッケージの順だが、テストがやや多い。

 ASICと比較すると、ASIC45nmの開発で40億円以上がかかり、マスク代だけでなく、設計開発やレイアウト検証などが巨額である。エンジニアの開発コストを維持するのは大変であり、そういた人材は不足し、コストが高騰する可能性がある。

FPGAは、ゲート数で値段が決まり、非常に高価というイメージがあり、実際、数万あるいは数百万するものもある。しかし、それはボリューム次第で大きく変わる。プログラムのために、余分な冗長回路を持っているからコストが高いのは当然だが、歩留まりが悪くても、そこで補えるし、在庫を作りこんだ後、売れ筋が変化したり、仕様が変わっても、直せるので無駄にはならない。

ASICとの比較シミュレーションでは、100万個では、ASICが圧倒的に安いが、1万個で同等、1000個では1/3となるようだ(SoC開発講座」安浦監修丸善2006)

また、これに開発遅れによるコスト増や、機会損失、価格値下がりなども考えると、10万個以下なら十分安いだろう。

経営重心で、ボリューム10万個以下、サイクル5年以下で、かつ頻繁に仕様が変わるような分野は特に有望である。そして、この分野は、日本が強いストライクゾーンでもあり、顧客のロングテール化・多品種少量化、嗜好の変化の短期化で、さらに領域が広がろう。特に、得意とするのは、短周期で、少量という一番大変な市場であり、半導体製造装置(SPE)や、基地局等が相当する。あとは色々な試作市場である。

 10兆円市場のASICの何割をFPGAがとれるかわからないが、数兆円のインパクトは十分にあり、さらに、IOTやノイマン型置き換え、ニューラルAIなど新分野も期待できよう。インテル自身の決断を考えれば、コストが高いとされる面も、FPGAが主流になれば、当然安くなり、多少、問題とされきた周波数スピードがASICが数GHzに対し、遅い等の諸問題も解決される。現在は28nmくらいが最先端だが、インテルの10nm台も導入されれば、チップサイズも小さくなり消費電力、周波数特性も改善されよう。また、マイクロソフトなどもソフトの対応も向上しよう。

 市場規模以上に、業界構造変化が大きく、ASICから、ASSPと、FPGAに二極化する可能性もあろう。インテルが、自社のMPUFPGAを載せていけば、統計上の分類は難しくなるが、MPU市場の中でも、そのウェイトは大きくなってこよう。

 現在、TSMC等のファンドリーは、ファブレス向けのASICも多いが、SRAM的回路が多いとはいえ、配線やI/O等も異なるので、かなり技術的にプロセスも変わる可能性がある。当然、アルテラが出していた分の多くはインテルにも移るデメリットも大きいが、ファンドリの業界構造が変わる可能性もあろう。残るFPGAの大手は、ザイリンクス、ラティスセミコンダクタだが、どこが買収するか注目されるし、東芝やローム、ルネサス当りが買収すれば面白いのだが、他のファブレスやIDMに行くのだろう。

 アップルやサムスンもありうるが、ニューラルAIIoT等将来は別にすれば、彼らのターゲットは経営重心では、ボリューム大であり、短期開発用以外ではFPGAの特徴を出しにくい。

 

 あと厳しいのは、普通のASICのファブレス、普通に考えれば、ソシオネクストだろう。同社は、ミルビュー以外は、ASSPらしいものが不明で、しかも、マーケティング上、彼らが攻めやすい日本市場も経営重心的に、中ボリューム以下であり、そこをさらわれる可能性がある。ソシオネクストの記事で書いたように、そもそも、全社の生産性を3割以上も向上させるのはかなり無理があったが、方針転換が必要だろう。むしろ三重工場時代に関係があるラティスセミコンとの協業、統合などが必要かもしれない。あるいは、いっそ、三重富士通セミコンと一種になり、IDMに戻すのも奇策、一案かもしれない。当初の構想からかなり遅れたが、その遅れ過ぎたことが返って周回遅れ、あるいは二周回遅れで良かったかもしれないが、ハードルは高くなった印象である。三重工場も、いまはCMOSセンサー等が好調だが、いずれ方針転換も必要であり、現状のようなマスク当りのLTが他社比で2倍か3倍というのは、これから厳しいだろう。FPGAに強いファンドリーに絞るとか考えるべきだろう。

 また、FPGAで鍵となるのはテスターであり、CAD、あるいは言語である。この辺りは、どこが強いベンダかはこれから変わってくるだろう。また、ASIC向けで生きてきた日本の組み込みマイコンソフト業界も構造転換を図られるかもしれない。

 米国のM&A戦略にあるライバルやVBを殺す、というのもあるが、インテルが、アルテラを買収して、完全にFPGAの芽を殺すという戦略なら別だが、インテルがFPGAに乗っかるというなら、半導体関連業界も含め大きな転換点だろう。ファブレス-ファンドリモデルにも影響しよう。


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