2015年6月26日 東芝株主総会で説明された不適切会計「手口」への印象

 26日の株主総会で、前田CFOより、不適切とされる会計処理の仕組みについてパワポで図表を使って示された。ガバナンスやコンプライアンス等、不適切会計処理の真の要因については機会を改めるが、今回は、その処理について印象を書く。なお、いずれも、これまでの開示で示されてきたものではあり、全く新しい話はない。

第一に、テレビにおいては、費用の先送りと利益の先取りがあった疑念が生じている。具体的には、販促費や広告宣伝費を計上しなかったり、商品仕入れの支払いの一部を先延ばしがあったようだ。これについては、意図的かどうかが重要であり、タイミングと多寡の問題であろう。意図的ではなく、決算期末にたまたま処理が遅れ、それが少なければ、それほど問題視するようなことではないように思う。意図的かどうかは社内メールや文書があるかどうかだが、後は常習的かどうかである。

第二に、半導体においては、利益や在庫評価額を過大に計上したという疑念であり、製造過程で原価が膨らんだが、当初の見積もりのまま変えず、また、在庫の価値が落ちたが評価損計上せず、ということである。前者は前工程と後工程の基準の差の模様だが、瑣末なように思う。後者は、工場閉鎖に伴う顧客対応のための在庫であり、その在庫の価値の判断だが、通常は3割下落とかというレベルでなければ、適正とされる。半導体においては市況的な側面があり、下がったものがまた高騰したりするため、その判断は難しい。

最近は知らないが、昔は、値段を白紙にして受注をとり、納入してからPCメーカー等から値下げ要請が来たり、逆に製造装置も納入させてから値下げをしたり、さらには実際に量産しているのに検収を認めず、いわば簿外、償却ゼロで製造したり、ということはあった。

また、品質についていったんOKといいながら、納品後にNoということもあり、業績修正の背景として最近でもよく聞く話である。特に相手が米中スマホメーカーの場合は、たまに公正取引委員会に訴えられるほど、何でもアリであり、そういう試練を経て相互一蓮托生でWI-WINで最終的に調整されることも多い。

第三は、パソコンだが、部品取引で利益を過大計上の懸念があり、単価を知られたくないため、部品を安く仕入れて製造委託先にいったん売却、ここで生じる利益が事業全体の損益を押し上げ、というそうだ。PCに限らず、ハイテク系のサプライチェーンは複雑化しており、伝統的な会計の教科書の想像を超えている。

第四は、インフラ(工事進行基準)での利益を過大計上というもので、受注時から赤字の可能性を認識、工事原価の見積もりがずさん、実現性が低いコスト削減策を前提という懸念があるが、本来は、10年なら10年という期間が終われば、調整されるものであり、その10年間でも赤字というなら問題であろうが、そうでなければ、センスの問題なように思う。今回は、スマートメーターとETCが問題となり、開発コストを適正に引当計上していないという問題であったが、そもそも本来は赤字受注すべきではないし、逆に初年度赤字でも後で取り戻せばいい話ではある。スマートメータに絡んでLG社を買収したのにそれをうまく生かせなかったのだろうか。かつて90年代初期にSI等で1円受注というのが話題になったが当時は、ハードで取り戻した。そういうビジネスモデルはどうなるのだろうか。

今後、グローバル化、オープンイノベーション、顧客との協創が増える中で、国が違えば、会計制度が異なる場合もあろうが、そういう場合は、どれが適正なのか。たとえば、以前、紹介した日東電工のロールツーパネルは顧客に在庫があるわけだが、連続体であるロールが、どこまでが在庫でどこからいつからが相手の売上となるのだろうか。市況品でなく流動性が低く価格がないようなものをどう判断するか。たとえば、原発の将来の安全コストに関しては、いまだに意見が分かれているが、何をもって適正とするのか。長期の年金コスト、インフレ率なども、どうするか。そういうことを計算しだすと、1%の違い、一見ちょっとした違いが数百億の差となる。

多くの問題は、時価会計を導入はいいが、「市場」がなく流動性がないものに時価を入れることに帰着しているよういも思う。今回では、100億以上とか50億以上は問題だろうが、5兆円の企業で10億円以下の問題を議論するより、大局的なことを問うべきだろう。

そして、そもそも、おそらく多くが高等教育を受けOBも多い株主が、会計で専門的で解らない、と発言していることに大きな問題がある。知的レベルが高いOBなら簡単にわかるような会計制度の透明性、シンプルさが無いことが一番の問題ではないだろうか。専門家でないと解らないか解釈が分かれる意味不明の官僚作文、憲法?、役所の法律文書、年金制度、金融商品や保険のディスプレーマ、土木工事の積算システム、等と同根ではないか。

あるいは、そうでなければ、逆に、株主や役員の資格要件として、アナリスト資格を求めるとか、もありかもしれない。もちろん、その場合は、金融庁や東証の職員、経済関係のマスコミ記者等も、資格保有者であるべきだろう。さらにいえば、国会議員もそうだろうし、年金機構のトップ等はPC操作能力を義務づけるべきだろう。選挙権も、当然、憲法をすっと理解できるように司法試験資格者のみ(しかも憲法学必須)に与えるべきかもしれない。