2015年8月26日 ハプティックは30年ぶりのユーザーインターフェース技術の革新

パラアルト研究所で発明されたGUI(グラフィックインターフェース)を、30年位前に実用化・普及させた功績はアップルのスティブジョブスだ。今回30年ぶりのユーザーインターフェースの革新となるハプティック&タッチは、アップルなどが実用化、普及に貢献しただろう。アップルはあまりに有名だが、日本のマスコミではそれほど有名ではないイマージョン社も、ハプティクス開発キットを提供、多くのアンドロイド系スマホ等でも採用されている。ただ、少なくとも日本の株式市場で知らしめた功績は日本電産の永守社長かもしれない。今回、モーターNo1会社の日本電産や、モーター分野でNo1研究者の東大名誉教授樋口先生、東大発VBの青電舎、等に取材、青電舎では他社も含め実物にも触り比較、更に特許分析を試み、その影響力を実感した。

五感の中で意外と重要

タッチパネルそのものも、昔からあるが、スマホで便利になり一気に老若男女に普及したし(皮膚が乾いた老人の指には難もあるが)、振動モータも以前にあったが、今回のハプティックは、タッチと触覚が双方向になった点で、全く異なる大きな革新となり、スマホだけでなく、様々な分野に広がるだろう。

若い時は分からなかったが、50歳を超えると目も悪くなる、耳も遠くなる。五感というが、一番、確実なのは実は触感である。これだけは、かなり高齢になり病気になっても、今はの際まで、分かる。「大丈夫ですか」「起きなさい」と、人間は必ず肩を叩き、体を揺さぶる。意外とハートが伝わるのもそうだ。ハグをし、固く握手をする。ニコッと笑いポンと肩をたたく。不思議なことだが、その振動の周波数や大きさ、色々なパターンで多様な意図を伝え、他のインターフェースと同期させることで威力を増す。

日常の色々な、ボタンも、若者が設計しているのだろう。見えにくい、聞こえにくいで、大変だ。一番、苦労するのが飛行機の座席だ。近眼なので目を近づけようにもシートベルトをしながらでは体をよじっても難しく、似たようなボタンが並んでいるので適当に推すしかない。字が小さく、どれがどのボタンか解らず、反応も同様なので違いがない、ボタンを押しても反応が弱いと、何度も押してしまうため、付けたか消したか不明になる。

安心感が違う

目で見て、カッシャとかいう音を聞き、指で触れる、という3要素が同時でないといけない。指で触れ確認することで安心(この安心感は握手やハグなどと同様の根源だろう)できるのである。実際、ガラケーのブルブルというような一方的な振動ではなく、アップルウォッチや、青電舎の採用製品のピクピクあるいはカチカチ、トントンという双方向の感触になれると、そういう反応がない電子機器のボタンやスイッチは不安になる。また、家のボタンでも券売機や銀行ATMでも何度もボタンを押していると経年劣化で感触が悪くなることも大きい。

それゆえ、現在は、ウォッチや、スマホ、PCから普及しているが、むしろ、デジカメ、TV、全ての家電、部屋のスイッチ、エレベータ、クルマ、医療、工場などに普及、安心感を得たいという意味では、後者の方が不可欠であろう。一度、スマホでこの安心感を得ると、むしろ普通のスイッチやボタンでは不安になる。

現状はリニア型だが価格は10倍以上、日本電産とAAC

かつてスマホに使われていた、回転型の小型振動モータは50円前後であったが、ハプティックエンジンモジュールでは、双方向型であり、10~20倍となっている。

また、アップルのスマホには、まだ不明な点は多いが、偏心モーターを、軸が回転するのではなく左右させ、その際に軸に付けた錘が、バネなど機械的共振と連動させ、コツコツという触感を与えるというようである。よく知られているように、当初は中国AAC社が製造していたが不具合があり歩留まりが向上しないため、現在は、大半を日本電産が生産しているようだ。どの辺りが難しいのか不明だが、イマージョン社の特許を回避するが故か、スマホへの展開で、タッチパネル方式のインセル化の影響やバックライト等も微妙に絡んでいるためだろうか。また、アップルでも、スマホ、ウォッチ、タブレット、ノートで、やや異なるようだ。技術方式、特許関係など不明な点もある。

日本で、こうした新タイプのモーターを使用したのは2011年頃の「4S」、当時はAAC社が製造したようだったが不発であり、この5年で技術の改良があったようだが、その後、試行錯誤をへて、現在の方式となった。90年代後半から特許を見るとに日本メーカーから2000~2005年に多くの方式が出たが、簡単な構造で機械的共振との組み合わせ、また、縦型ではなく横型が生き残ったが、これで決まりでもなく、採用技術が微妙に変わる可能性もあろう。

日本電産にとってHDD以上のキャッシュカウ

日本電産にとっては、経営重心において、短サイクル大ボリュームの事業であるHDDが先行き成長は飽和する中で、長サイクル中ボリュームのクルマやIOTなどに展開中だが、短サイクル大ボリュームにおいても、同社のトップダウン経営スピードと量産力が生きる領域が欲しかったが、ちょうど、該当するビジネスができたことは大きい。

現状は7月から本格量産を、セイミツやコパルなどの、ベトナムや中国工場で生産しているところであるが、年末にかけ増産強化中。市場も、単価が1020ドルで、月産10002000万個規模だとしても100400億円/月であり、要求される最低歩留まり70%前後を超えてくればHDD用モータ並みの20%を十分超えるため、HDD以上の売上と利益が可能であり、またCFという点でもいいため、招来のIoTやロボット、クルマ向け関連事業への布石に十分だろう。ハプティックもスマホ関連だけでなく、PCやクルマにも応用され、中期でも成長するだろう。

特許はイマージョン社