2015年11月14日 前職でやり残した3つのこと

ファンド会社を辞めて1年がたつ。もう1年前に株式も売却、報酬もなく、何の関係もなく、残務整理もすみ1年近く訪問することもない。12度、偶然に道端で社員に出くわした程度である。幸い、L/Sファンドは継続、そこそこ健闘、また、社名も変えて、新たなビジネスも好調のようだ。

 さて、前職は、日本株のL/Sファンドであったが、これはあくまで導入であり、一段落したら第二ステージとしてやりたいことが三つあった。社内では、何度も提案したが、なかなか理解が得られず、ダメだった。

 これまでは、どこかでやりたいと思っていたので、書いたことは無かったが、もう、残念ながら、もうできないと思う。そえゆえ、ここに記し、誰かがやってもらえば幸いである。あるいは、そもそも、無理であったのかも含め、検証したいので、関係者の意見も聞いたい。

 

1.救急入院的ファンド

 第一は、緊急時、市場に流動性がかけ、倒産しそうな会社がある時に、資金を投じるファンドである。INCJや、GPIFなど色々なファンド、金融機関はあるが、病院で例えると、健康センターや、慢性病対応のものだ。全く健康な企業はないので、ガバナンスコードにしても、いわば、投資家との対話で健康度を上げていくというものだし、再生機構や、INCJの一部機能は、慢性病対応を漢方的に治すか、外科手術でやるか、そういう捉え方もできるだろう。ファンドも銀行も、カネという栄養を適切に提供するという意味もあり、健康診断で企業の健全性をチェックという役割もある。

そこで、日本に足りないのは救急病院であり、ICUである。リーマンのような、いわば交通事故のような状況では、健康体でも危篤になる。緊急手術で輸血が必要だが、数日で退院ができる。いわば、短期資金を、個別企業に、緊急で、供給するのだが、そういうサポートをできるファンドは日本にはない。米では、バフェット等がそういう役割を演じた。これは、現状では、独立系のヘッジファンドでしかできない。エルピーダはまさにそういう対象であった。

2.DRAMファンド

 第二は、DRAMあるいはNAND、ウェハー等の先物市場の創設、あるいは、そういう「コモデティファンド」である。これは、かつて半導体産業研究所の諮問委員時代に意見を具申し、JPモルガン時代にプロジェクトも動き始めた。

一部、シンガポールで、できたとかできなかったとか聞いたが、その後、JPモルガンがチェースに買収、私自身も辞めたので、どうなったかは不明である。少なくとも、日本ではできていない。

 90年代に、日本の総合電機メーカーは、乱高下するDRAM市場に翻弄されたが、その結論は撤退であった。

これに対し、メーカーが為替や石油や銅では、先物を使って、リスクヘッジしているのに、どうして、同様のコモデティであるDRAMでそうしないのかが不思議であり、多くの関係者と議論も分析もした。一部の業界関係者には非常に関心を持っていただき、体制もできたが、総合電機の関係者は、当時、ファンドという概念に慎重で、アイデアを理解してもらえなかった。

確かに、品種もある程度はあり、世代交代もするが、数年位では、メインの品種は継続し、だいたい1ドル割れから2ドル超で推移する。そのレンジはむしろ為替や銅よりも安定し、かつ、思惑よりも実際の需給で動く。よって、あまり在庫を持てないメーカーに代わり、1ドル割れになったところでDRAMを買い、1-2年我慢して、2ドルになれば売れいい。また、1ドルを少しは割ってもせいぜい70セントであり、DRAMが消えて無くなることはない。為替や石油や銅に比べはるかに安全である。実際、マイクロン等は、台湾系の商社などを使い、うまくやっていたようだ。メーカーは、仕掛が2ヶ月ゆえに、製品在庫が1ヶ月を超えると合計3ヶ月になるから、限度は合計で7-8ヵ月だろう。これに耐えられないから、安売りになってしまう。しかし、ファンドであれば、1年くらいは十分に耐えられるのである。

金額もしれている。DRAM市場は1-2兆円だが、スポット市場は、10%1000-2000億円程度、さらに需給はその数%であり、100億円もあれば十分である。うまくやれば、2-3年で2-3倍のリターンが得られ、日本のメーカーにとってもプラスのはずだ。

在庫も、小さなチップであるから、どこかの倉庫に1億個といっても、十分入るだろう。ウェハーレベルなら、100万枚程度だ。あるいは在庫は工場に置かしてもらって、所有権だけファンドにすればいい。

これを、先物市場として上場すれば、メーカーにとっては、価格も安定し、そういう投資家ニーズもあると思った。JPモルガンでどこまでやったかは不明だが、DRAM以外にも、ウェはハーや、NANDなどある程度、汎用性があるものは可能だろう。

先物市場では難しくても、ファンドとしてできないか、というのが前職で考えたことであり、潜在協力者もいたが、パートナーが理解と関心があまりなく、そのうち、忙しくなって、実現できなかった。

半導体や液晶など、市況関連銘柄は、まず市況を読んで、そこから個別企業を売り買いすることになるが、そこでのリスクは、個々の会社の経営者などのリスクである。

つまり、仮に完全に市況を当てて、銘柄を買っても、経営者が失敗すれば、ダメである。株式投資では、市況をあて、かつ、経営者や業績をあてないといけない。そういう場合、よくあるのが、主力事業は予想通りだったのに、マイナーな事業で失敗して業績予想が外れるということである。

この場合にも、DRAMファンドがあれば、市況を当てればよい。また、DRAMファンドなら、1ドルがゼロになることはないが、企業はそれこそ、倒産もあり、倒産せずとも株価のボラは高いのである。

もちろん、実際には、細かい品種、何ギガの、カケ数が幾つか、さらに、パッケージ形状もいろいろではあるが、ある程度のメインな品種であればいいだろうし、世代交代があれば、国債の何年もの、みたいな、やり方もあるだろうし、それこそ、ポートフォリオを組めばいい。かなりクォンツ的にもいけるはずだ。さらに、DRAM以外にも、ボリュームがあって、ある程度の価格変動がある半導体やウェハーは対象となる。

そうすると、今では、DRAMの中でのスプレッドや、DRAMファンドと、DRAMメーカーのスプレッドを取ろうとする投資家も出てきて、かえってボラが高くなるかもしれない。しかし、最初に提案した90年代後半なら、有効だったはずであり、半導体産業研究所を擁する経産省で、何故、検討しなかったのが不思議ではある。もしかしたらDRAM撤退をある程度先に延ばせたかもしれない。

3.スペクトル分析

 第三はスペクトル分析であり、また、それを運用に生かすことである。そもそも、大学、及び大学院で、ホログラフィーの画像解析をしたので、周波数解析、どういうフィルターが有効か、などは、かなり研究した。当時はPCの能力も低かったので、FFTを良く使った。しかし、FFTの欠点はデータ数が2の倍数であることであり、それに足りない場合は、データを適当に補う必要がある。しかし、その後、いろいろなアルゴリズムが登場して、正確に周波数を分析することが可能になった。

 NRIに入って、景気サイクルや、チャート分析の話を聞いて、そのサイクル分析に疑問をもった。当然、目分量で景気サイクルを計算しているので正確ではない。シリコンサイクルが3年といっても同様であり、これをPCでだが、FFTで計算した。また、チャート分析でも、何日線というのがあるが、いわば、これは株のサイクルを長期や短期で分析するわけだが、このように、平均すると位相がずれるわけで、ゴールデンクロスとかデットクロスとか言っても、そういう位相がずれたところで計算しているので、疑問を感じたわけである。

セルサイド時代は中々忙しかったのが、ファンド時代に少し時間がある時に、シリコンサイクルのスペクトル解析や、各社の株価チャートのスペクトル解析をしたが、全者は、クリスタルサイクルは綺麗なのである程度の周波数分布がでたが、シリコンサイクルはノイズが多く、またデータ点数が少ないことなどが問題であった。

そのうち、大和のエコノミストが、景気サイクルをスペクトル解析で分析したレポートを見つけたのは2010年頃である。

また、株価の周波数分析は、岩田年浩氏による先行研究がある(「科学が明らかにした投資変動の予測力」20043月 学文社)。面白い研究であり、オリジナリティもあろうが、最後に、周波数分布を音で表示して、その音の聞こえ方から企業の勢い、株価を予測しようとしており、やや論理が飛躍しているように思われる。

株価については、半導体関連で、いくつかやってみたが、有効性は確認できないままである。日数ではデータが少なく、曜日や休日、特に連休等をどうするか、現実にテクニカルに、解決しなければいけない点が多い。日々の動き、数日の波動、週の波動など、会社によって異なり、面白い発見もあった。