2015年11月22日 ニコンの熊谷製作所見学記と450mm露光機の可能性の分析

去る9月に、ニコン熊谷製作所を見学した。あわせて、450mm露光についても考察した。報告が2ヶ月後となってしまって申し訳ないが、分析に時間がかかり、その後、決算シーズンに突入したため。見学記そのものなら、翌日か遅くとも数日後に書けるが、今回の場合は、以下の点で、深い分析と考察が必要であった。もちろん、これで完全に結論が出たとか自信があるわけではないが、とりあえずの見解は提示でき、また、これを叩き台にして、更に議論を深めたい。

論点は二つ

第一に、工場の生産現場の見学というよりも設計・開発について議論させていただいた。これは、今後、システムが巨大化する露光機の設計の在り方、それが研究開発戦略にも関連する重要な問題である。

第二に、450mmでは、ニコンが圧勝することは確信したが業界であまりに450mmに否定的な意見が多く、EUV450mmか、はたまた3D化か、という単純な発想ではなく、より深く考えるには、長期のロードマップを考える必要があった、ためである。

以上について、簡単に要約すると、以下である。経営重心の視点からも興味深いケースを提供している。

第一に関しては、露光機は、かつて、開発サイクルも市場のサイクルもシリコンサイクルと同様であり、3-4年でほぼ一致していた。市場規模も1000台を少し割る程度であった。しかし、次第に開発サイクルは長期化し5年を超え、市場サイクルはスマホ中心の2年となり、また市場は100台を超える程度に、台数の桁が1/10となった。

この変化に追随できずシェアを低下させ、あるいは開発サイクルと市場サイクルのギャップが赤字となって顕在化したのが2009年前後であり、同時に、その前から設計思想や手法をモジュール化導入で変えた。

今後は、この設計手法が、液晶などにも展開されようし、要素技術と、設計思想やモジュールの在り方などが共有化されるべきだろう。

第二に関しては、450mmに関しては、技術面というより、経済面あるいは政治的要素だろう。必要な工場数が少なそうだという経済性や、他の装置に負担が大きいという業界の問題、ゆえに、産業界をあげて450mmに行こうというインセンティブが働きにくい問題が大きい。逆にいえばトップメーカーの決断次第ともいえる。

他方、EUVも業界の取りくみは積極的で実用化が近いというが、実用化は、長年みていると、蜃気楼のように、遠ざかっている。科学的な壁もあり、技術予測の経験からは、筋が悪い技術であり、言われていない本質的な現場の問題があるようにも思う。それで、3Dに期待はかかるが、それは、技術が若い故の楽観であり、48層、64層と積んでいくと、同様の難しさに直面していくであろう。

現状では、EUVが先行と言われ3D化が盛り上がっているが450mmも五十歩百歩

どの技術も五十歩百歩であり、短期では、中国と米国の緊張と連携、上位メーカーの戦略など政治情勢などに影響されよう。よって、450mm事業では、開発も時間軸とテーマの両面でリスク分散をはかり、要素技術を300mm以下に応用を考え、また今後は微細化ニーズが出てくるFPDや、5Gで必要なアクティブアレイアンテナ等の新分野を開拓すべきだろう。同時に、今後、新工場建設ラッシュの中国市場や、他の装置メーカーやウェハーメーカーとの連携も含め業界全体で盛り上げることが必要であろう。

2030年以降の半導体市場では、5GIOT等に向け、MEMS等センサーと不揮発RAMベースのFPGAによる非ノイマンアーキテクチャが主流になろうが、その場合に、450mmEUV3Dのどれが有力かは不明だ。むしろ、その前哨戦の20202025年の中国の新工場ラッシュで、どれを取り込んでコストを下げておけるかが鍵となろう。


工場概要説明

熊谷製作所は、30周年である。8412月に第1期工事完成(12号館)8911月第2期工事(35号館)9012月第3(2号館増築)92年第4(6号館)95126号館CR完成、989月第5期工事完成(7号館)、そして20104月第6期工事完成(8号館)と、ほぼシリコンサイクルを反映している。

サプライチェーンは、相模原で硝子・レンズ、栃木でレンズ加工と鏡筒、レチクルステージユニット(RSU)、チャンバユニット、ウェハーステージユニット(WSU)、ウェハーローダユニットを協力会社と作成、これを熊谷で組立調整。熊谷は工場だけでなく試作開発として重要拠点である。

キャパは、かつて栃木は、i線中心に100台とされたが、今はFPDが中心となり異なる。熊谷も200台だったが、モジュール化や装置の大型化でレベルが違っているため、一概にいえないようだ。

 特徴は、モジュール化されたユニット生産である。LTは、プロトタイプは11.5年だが、2台目からは短縮。ボトルネックはレンズで、相模原で数カ月、アニール工程で時間がかかる。

450mmを無事、出荷、他にも組立中

450mm用の「650D」も昨年から、NY450mmコンソーシアム向けに無事、出荷、安定稼働中のようだ。450mmの利点は、成膜、洗浄、リソ、エッチ、などでコストが48%ダウン。現行は2.5万ショットが3.375万ショットで1.2倍だけだが更に改善しないといけないとの認識のようだ。ASMLは一時、IMEC向けでやっていたが、今は動きがなく、ニコンがかなり優位。また、デバイスメーカーとも話あい、外周などノッチレスにするなど改善も多いようだ。

650Dからは、技術要素が大きく変わり、モジュール化が必須である。ウェハーステージと、計測がシステムの鍵であり、投影レンズ開口率の改善が飽和しつつある中で、必要となった。

ビデオで「650D」の特徴や出荷の様子を見たが、今回、ステージに、磁気浮上技術など野心的な技術を導入、また、大きいので分けてトラック7台、据付調整は15人。