2016年7月20日 技術評価専門の監査法人が必要だ

 

中長期視点の投資家、企業ガバナンスコードの観点、そしてIFRS導入による時価会計の意味からも、B/S評価、なかでも無形固定資産や暖簾を中長期で客観的、定量的に評価することの重要性が高まっている。

 

技術資産の評価

 

IOT時代の中で、近年のグローバルなM&Aも増え、暖簾の価値は、ほとんど技術的な評価で決まっている。先日のソフトバンクによるARM社の買収では、暖簾代は3兆円近いが、その中身は、ARMIOT時代での技術評価次第である。

 

 無形固定資産評価だけでなく、有形固定資産でも、技術評価は重要である。デバイス企業が車載分野に参入するとして研究所が高価な温度測定器を購入し設備としていても、測定範囲が100度以下であれば、価値はゼロである。今後、FPDOLEDになるのにLCDではバックプレーン以外の多くの設備は減損対象だろう。

 

常に幅広く技術動向をチェック

 

特にIOT時代はますます技術の陳腐化が激しく、常に最新の技術動向を広範にウォッチすることも重要である。米系ハイテク企業の研究者の活動のように、企業内で実験や研究だけに没頭するよりは、フットワーク軽く、巨大企業から町工場やベンチャーまで、フィールドサーベイをしながら、専門誌や学会誌にも目を通しておかなければならない。研究開発でも、その実用化の可能性、実態は原価ではないないのか、リスク許容度なども含め、適切に費用計上、B/S計上の有無など仕訳を確認する必要がある。粉飾のリスクがあるクリーンルームでのウェハーの処理(生か加工済みかの見極め)や、研究、生産設備、適切な人月計算も含め、ソフトの価値判断を見極める必要がある。

 

会計監査法人は技術評価ができるのか

 

 しかしながら、既存の監査法人は、こうした技術評価ができるか、というと難しいだろう。技術バックグラウンドをもち、広い視野・中立視点からの専門的分野の理解力・分析力と、長年の技術評価の経験が必要であろう。これまで、政府や大学等、個々の専門家による予測や分析評価は必ずしも当たっていないが、技術の実用化の4つの壁のそれぞれの段階で異なる知見が必要だからである。

 

科学の壁、新技術が詐欺インチキの類かどうかを見分けるには、専門家、学者の知見が必要だが、これが技術の壁、現実のブレークスルーに必要な条件を見極め、評価するには企業の研究者・開発の経験者の知見や経験がより重要であり、さらに経済の壁の見極めでは、事業部門のトップ等の見識が鍵であり、社会の壁では、環境アセスメント等も重要になる。

 

狭い専門家だけでなく広い視点で総合判断を

 

そして、長年の豊富な経験を踏まえ、それぞれの壁での判断を理解し、総合的に判断できるアナリスト的視点、あるいはMOTMBA両方の視点も重要になろう。

 

専門機関の育成が急務

 

専門家の組織化も必要だろう。これは、うまく活用すれば、シニアの技術者研究者の再雇用、技術流出阻止、あるいはポスドク対策にもなろう。個々の専門人材のデータベース化、また、多くの技術の実用化の成功例、失敗例も含めた、目利きや、総合判断ができるMOTMBA融合人材の、育成やノウハウ継承も重要であろう。