2016年8月20日 INCJ、バークシャー・ハサウェイ、ソフトバンク、日清紡グループ~コングロマリット

 

世間で話題にされているINCJ、ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイ、ソフトバンク、と、日清紡グループの4社は、一見、全く真逆なように見えるが、その共通点は、ファンドかつ事業会社、昔でいえば財閥のような存在であることだろう。

 

 ファンドではないが、M&Aによってポートフォリオを入れ替えてきているNidecも含め、事業・銘柄の保有期間、事業・銘柄数、何年先を見ているか、シナジーの有無、投資M&A先の特徴や規模、背景決定者や資金背景などを比較した。表で左の方がファンド的であり、右が事業的である。

 

INCJ

 

 INCJは、「官民ファンド」と言われるが、運用会社なのに、運用先を分別勘定していない。従って、INCJB/SにそのままルネサスやJDIの時価総額分がのっかり、株式を売却した時のみ、売上が計上され、時価が変動すれば包括利益を通して株主資本に反映される。つまり、INCJとは、実態は、参加に、市況変動の激しい半導体や液晶事業やハイリスクのベンチャーを傘下に持つHDであるともいえる。経営が厳しい時は、介入、産業再編も仕掛ける。あとはEXITだ。

 

ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイ

 

 バークシャー・ハサウェイは、ファンド会社ではあるが、事業部門もあり、ここぞという場合には、大胆に集中投資をする。多くの場合は、純投資のようだが、事業を育成したり、買収先同士のシナジーを考えて行動したりする。半分は、ファンドの純投資のようであり、半分は、コングロマリットのポートフォリオを考えているようでもある。まさに、ウォーレン・バフェットが言うように、「投資家であるがゆえに事業がわかり、事業をしているからいい投資もできる」であろう。

 

ソフトバンク

 

 最初は、ファンド会社かと思ったが、事業会社、HD的になってきたのがソフトバンクだろう。その意味では、バークシャー・ハサウェイと似てきている。今回のARM買収でも、その特性が十分に発揮された。PC→モバイル→インターネット→IOT5-10年毎にポートフォリオを入れ替えており、IOT時代で不可欠な存在となるべく、垂直統合的に、ピースを埋めていると想像され、ますますM&Aを使ってくるだろう。

 

日清紡グループ

 

 業界他社と同様に、新規事業育成が重要な課題であり、豊富な不動産などの資産を生かして、M&Aに努めてきた。ブレーキ会社に加え、日本無線や新日本無線などエレクトロニクスメーカーも傘下にあり、現在は、東証区分でも電機セクターとなった。かなり昔から、株主だったとはいえ、フル連結にしたのは、既存事業とのシナジーといった戦略性というよりは、長年の株主としての責務などの面が小さくない。それが、もちろん、多角化、ポートフォリオ変革にもなると認識は深めている

 

Nidec

 

 モータをベースにした多角化を推進してきたが、モータのハードベースでのピースは、小型から大型まで、ほぼ埋まり、それにセンサーやMCUをつけて付加価値を増やすフェーズに入ってきた。もはや、モータ会社ではなく、複合電機メーカーである。売上10兆円に向け、IOTでの付加価値をどうつけるか、どこまでのレイヤーまで手掛けるのかが大きな判断となる。

 

ピーク利益更新はM&Aが鍵

 

2000年以降に売上ピーク更新、最高益を更新するかどうかは、M&Aの成否が影響している。電子部品では、村田、NidecTDK、日東電工など1兆円をこえ、最高益更新を更新しているのは、M&Aで新規事業を育成している例が多い。

 

今後は資本家型トップが重要

 

したがって、経営トップの役割として、既知の事業だけでなく、未知の事業も含め、ポートフォリオを管理し、その中の選択肢として、M&Aを常態的に位置付ける必要がある。そこでは、社長の定義として、事業家社長よりは、資本家社長、あるいは、ファンドマネージャ的要素が重要になる。特に、事業の広さ(経営重心®)5以上は必須となる。しかし、ここが日本は極めて弱い。資本家型トップは、適切な客観定量評価に基づく資産配分、CF管理、分権をし、そして、忍耐さと大胆さを兼ね備えなければならない。

 

今後の成長パターンは、ファンドとM&Aの中間型

 

今後、IOT時代になれば、ビッグデータ活用を巡り、一層の異業種のM&Aが、レイヤーを超えて起きてくる。これまでは、独禁法も、水平分業の中での概念だったろうが、ソフトバンクのARM買収を機に、将来は、変わってくるかもしれない。逆にいえば、そういうM&Aにこそチャンスがある。それゆえ、シナジー効果が読めないのだろう。

 

従来の発想枠組みを、時間的にも空間的にも、超えて、橋頭保的な打ち手、7手先の打ち手、そこをM&Aでいくのか、オープンイノベーションでエコシステムを構築していくのか、が重要になる。そこでは、HD制の中で、ファンド的な要素を持ち、適切なポートフォリオ管理をして、かつ、純粋ファンドではなく、事業間のシナジーを考え、橋頭保や出丸にリンクを張って行くセンスがある企業が大きく伸びる可能性があろう。自然とそういうビジネスモデルになってきた点も含め、ソフトバンクやNidecは面白いだろう。逆に言えば、INCJも面白い形態だが、従来の会社形態と比べ、良いとこどり、どころか、悪いところどりをしている印象である。