2016年11月3日 独禁法、事業結合の方向性、シナジー

 

日経新聞111日の英エコノミスト誌からの「AT&Tの買収がむしばむ経済の活力」として、独禁法に関する記事があった。米国ではM&Aにより、産業の寡占化が進んだが、独禁法当局は垂直統合には寛容だとしている。http://www.nikkei.com/article/DGXMZO08994630R31C16A0FFB000/

 

同感であり、当局は、水平分業での統合には厳しく、TELAMATKLALamはダメであった。しかし、ファンドかキャリアか不明だが、ソフトバンクのARM買収はOKであり、モーターメーカーであるNidecの電機メーカーもOKである。ファンドとコングロマリットの敷居が無くなる中で、ファンドの買収もどうだろう。バークシャがどこかを買ってもOK。しかし、買った後に、事業会社になるかもしれないし、今は関係なくても、5年後は同じ業界になるかもしれない。すなわち、当局より一歩、業界構造変化を先読みすれば勝ちということだろうか。

 

独禁法と垂直統合・水平分業

 

 もはや成長にはM&Aは不可欠な戦略オプションとなってきたが、そこで改めて独禁法の存在が大きい。逆にいえば、ここまで業界のライバルあるいは周辺業界が、大統合M&Aを懸念し独禁法がネックとなるということは、M&Aや統合再編の有効性が証明されたかのようである。もはや、M&AでのバリエーションやDDPMIは、差別化できないほど洗練されてきており、今後は、どう独禁法を避けるか、が重要な戦略かもしれない。これは、プラットフォーム戦略でもしかりである。

 

統合の方向性とセグメント開示

 

 企業が事業をどう統合するかには、いろいろな方向性がある。これは、逆に、企業をどう切り分けるかは、セグメントの問題であり、通常は、重電、家電といった事業部門か地域別である。このセグメント開示は、ドメインの考え方とも関連し、多くは、現状の製品・顧客×地域となっている。

 

垂直統合の3つの意味

 

 そもそも、垂直統合という言葉は、よく考えてみると3つの意味があり、それが、混同、混乱して使われてきたように思う。第一は、システム、ソフトからセット、デバイスまで全部やるという意味、第二は、企画、設計、製造、販売という全ての経営機能要素をやる、という意、第三は、全ての分野でやる、という意、である。

 

三つの軸で統合化と分割化がある

 

 そこで、この三つの軸(第一の切り口をZ軸、第二をX軸、第三をY)として、具体的に検証してみる。アップルは、Z軸ではソフトとセット、X軸では企画や設計が主、Y軸ではスマホ・PC辺りとある領域に絞っている。垂直統合を自認する村田は、X軸、Y軸ではそうだが、Z軸ではデバイス中心だ。すなわち、垂直統合と水平分業の実態は、各社の経営リソースと、経営環境に応じて、この3軸の空間の中で、領域をダイナミックに変化させているのだろう。

 

今後のM&Aの可能性と企業の結合の方向性

 

 そうなると、企業が意志をもって、いろいろな結合の方向性からM&Aを考え、産業を寡占化しようとしている場合に、独禁法当局は、そこまで深読みできないし、先の話なので、その企みを証明できない。ゆえに、今後、ファンドとコングロマリットを使い分け、レイヤマスタ以外の垂直統合や各レイヤーでの襷掛け的なM&Aが増えるのではないだろうか。規制当局は、気が付いた時には勝負はついている。