2016年12月28日 東芝の緊急説明会〜S&W社買収に伴うノレン及び損失計上可能性

 

 

 

 

122818時からのマスコミ・アナリスト投資家合同の緊急説明会に参加し質問もした。1845分までの予定が1915分頃まで延長、満員で質問も多い。出席者は綱川社長、平田CFO、原子力担当の畠澤氏、説明は綱川社長から謝罪と簡単な経緯、畠澤氏から詳細説明、質疑は平田氏も。

 

責任者の志賀会長、ロデリックWH社長は米にて精査中で欠席

 

沈痛な表情、重苦しい雰囲気。NAND好況による上方修正、V字回復で会社側もステイクホルダーも安心しつつあるだけに辛い。資料は適時開示文書のみで分かり難く、質疑でも、金額や影響、今後の資本増強策につついても精査中でNAだった。本来は、原発のトップだった志賀会長、WH社長でもあるロデリックが説明すべきだが、米で精査作業中のようだ。ロデリックの報告で、綱川社長が認識したのは12月中旬、コスト見直し見積は10月初旬、12月初めに計算チェックだが、遅かったという認識。

 

聖域は無い

 

東芝の9月末の株主資本は3632億円。当期純利益1450億円見通しの中で株主資本3200億円であり、ある程度の資産売却益や、円安による為替調整勘定、株式市場上昇によるPBO改善を考慮しても、一部報道の5000億円の損失なら債務超過がきわどい。明確な回答は避けたが、原子力事業の再考、半導体IPOなどについて、聖域はない印象。また、特設注意銘柄解除延期は直接関係ないと明言を避けたが、子会社管理の関係でもあり、当局は当然、本件を懸念しただろう。

 

純資産がマイナスの買収でのノレン

 

全体像が分かり難い上、係争案件とも微妙に絡んでおり、ややこしい。今回の原因は、下記の式1において、通常は、純資産がプラスだが、本件は、これがマイナスだ。買収金額は不明だが、これも、通常はプラスだが、マイナスである可能性がある(SEC開示では200億円強程度との見方もあるが運転資本額やWHベースと東芝ベースで異なる)

 

ノレン=買収金額-買収対象(S&W)の純資産時価・・・・(式1

 

このマイナス分が係争中の2000億円規模の運転資本額なのだろう。当初は、201615日付でのS&W社買収完了に関するリリースでは、変更可能性はあるものの、同買収の結果、WECグループおよび当社連結ベースで約87百万米ドル(当時の為替レートで約105億円)ののれん計上想定を公表していた。

 

即ち、ラフに表記すれば、式2のようである。

 

105=-2000(2105) ・・・・(2)

 

それが、ノレン計上額精査の中で、コストの大幅な増加、①工事物量面、②作業員効率面、③作業員の直間比率などにより、結果的に、純資産のマイナスが増加、ノレン計上額が数十億米ドル規模(数千億円規模)にのぼる可能性がある模様。その結果、3Q業績公表前の時点(2月中旬)に、減損テストを実施、東芝の原子力事業全体として考慮、現在ある800億円弱のノレンの一部または全額減損を実施する可能性がある。また、場合によっては、固定資産3200億円の一部も影響する。さらに、今回で終わりとうわけではなく、プロジェクトが終わるまでは、将来見積の色々な前提が変われば変化する(3)

 

10005000=-2000(3000〜-7000)・・・(3)

 

WHへのS&W株価認識がゼロゆえ、S&Wの債務超過額(純資産マイナス)2000億円程度と推定でき、仮に報道の5000億円規模ならば、コストが2倍以上に膨らんだことになるが、今回のプロジェクト合計が、2兆円規模であることから、10%のコストが20%になるというのは、建設関連ではありうる話であり、原発安全性担保でそれが更に上昇している可能性はある。ただ、アレバの例とは異なり、技術が未成熟故のコストアップではなく、AP2000が既に中国で完成前ゆえ、単なる工事見積だろうとした。

 

S&WB/Sは、ワーキングキャピタル、有形固定資産、無形固定資産、それぞれ、数百億円程度の模様であり、原子力事業全体の固定資産がS&W買収後の159月から12月にかけ2000億円程度増えていることから、少ないわけではなく、これも要注意だ。これは、東芝本体のWHへの保証債務と同額であり、実態はS&Wの保証債務でもあろう。

 

なお、実際にはノレン計上即減損の可能性が高いが、理論上は、2ステップであり、ノレン計上後、全東芝としての減損テストをするので、仮に国内原子力などが好調で将来CFが予想を超えるとか、割引率が変われば、減損がないこともある。また、国内原子力が厳しければ、更に減損額が増える。

 

そこで、日経報道の1000億円とNHK報道の5000億円だが、日経報道は、S&Wのノレン、及び、その減損1000億円を指し、NHKの数字は、1000億円に加え、現在の東芝原子力全体のノレン+固定資産4000億円まで減損テストでアウトとなる可能性を指している可能性があろう。

 

筋が悪いS&Wと米原発プロジェクト

 

S&W社は、もともと、米原子力プロジェクトで関係していたショーグループだったが、3.11後、ショーグループが原発撤退を表明、CB&Iに売却、それを、今回、東芝が引きとった。今回、結果的には、デューデリも非常に甘く、フィナンシャルアドバイザーも大いに問題だ。買収決断は、室町社長時代だが、当時は、WHの中で、建設工事も一体で遂行できシナジー効果も大きいと見ていたようだ。

 

S&W社は、過去、数回破綻しており、筋が悪い。ショーグループ、CB&I、東芝の間で、「ババ抜き」をしていた印象がある。フリーポートの偶発債務も、無理に米プロジェクトを存続させようとした焦りからでており、同根ではないか。このババ抜きの中で、当時者だけが知りうる闇があり、それが、徐々に出てきている印象があり怖い。その問題が形を変えて、露呈しているのが、運転資本額を巡る係争のようにさえ思える。

 

その意味では、今回の問題は、故意の不正会計ではなく、子会社管理の問題はあるが、善管注意義務というのは酷であり、むしろ、ババを掴まされた被害者の面もある。もちろん、当時から原発関連のトップは、共謀的ではあり、責任は重い。また、201676日開催のセグメント別IRの原発も含めたエネルギー事業において、将来のリスク、割引率、B/S、コストオーバーランの影響、等について質問したものの、明快な回答はなかったが、通常の説明会の真摯な開示姿勢と真逆であり問題だろう。それどころか、説明資料に、ノレン、固定資産、S&Wの件などの開示も無かった。

 

原発との決別は国が仕切るしかない

 

いずれにせよ、闇が深く、筋が悪い、CEOCFOからも見えにくい原発事業は、早急にカーブアウト、東電その他も含め国家管理化、セミコン社上場で、膿を出しきるべきだろう。

 

その過程で、本来は、筋違いだが、JDIの例で、既に、成長だけでなく、実態は、再生にも資金を投じているINCJが、東電や、アレバを買わされた三菱重工なども含め、対処するのも、この危機に際してはありうるという国民世論もでるかもしれない。そもそも、この東芝の危機は、WH買収に始まっており、そこに経産省も多少とも係っていた。当時は、更に、WHだけでなく、アレバさえも、INCJが介在して買収しようとしたくらいであった。事業のコントロール、決断も、民間のレベルを超えており、原子力行政の在り方も再考すべきだろう。