2017年1月17日 時価会計とディスクロージャーそして東芝とJDIの危機の違い

 

東芝の財務が危機に瀕し、債務超過ギリギリであることは、何度も指摘したし、言い尽くされている。また、JDIもやや状況が違うが、資金繰りが楽ではない。両社とも、巨額な設備投資が必要な会社である。しかし、その「危機」の本質は全く異なる。

 

東芝は現状の資金繰りは問題なくキャッシュアウトも少ないが将来リスクの影響で財務が悪化

 

 東芝の自己資本の悪化の大半は、WHなど減損、包括利益の年金債務と為替調整勘定であり、足元の資金繰りではなく、将来、かなり長期の様々な前提の差により、割引率で戻した現在価値が変わった結果による。ゆえに、大半は、将来、10年、20年にかけ、毎年少しずつキャッシュアウトはあるが、今来期に、何千億円もキャッシュアウトがあるわけではない。むしろ、Net Debt169月末で6500億円前後、資金繰りの問題はないだろう。そもそも、会社全体の総資産は5兆円もあり、在庫や運転資本で、数千億円は調整できる。四日市の設備投資を遅らせたりすれば(その競争力に対するマイナス要素はある)余裕だ。東芝はSEC基準だが、かつての日本基準であれば全く問題がない。

 

JDIの場合は自己資本高く無借金だがキャッシュアウトが多い

 

 これに対し、JDIは自己資本比率40%前後、Net Debtもマイナス、つまり無借金。白山工場など液晶関連の減損リスクはあるが、長期の偶発債務などはなく、健全だ。むしろ、新工場の設備支払いや、運転資本増減がアップル等を相手にしていることもあって激しく、それでタイミングにより資金繰りに余裕がなくなる。現預金が少なすぎ、在庫がやや多いのは課題だが、さりとて、現預金が多すぎると、株主からも政府からも、カネを貯め過ぎだ、資金効率が悪いと批判される。

 

財務がある程度以下になると割引率が上がり財務がより悪化するという不安定な会計制度

 

 B/Sを時価評価するため、割引率を計算し、将来のキャッシュフロー、ノレン、固定資産、年金負債、偶発債務などを絶えず計算しないといけないが、ここで構造上問題なのが割引率である。かりに、これをWACCだとすると、自己資本が下がり、負債が増えると通常はWACCすなわち割引率は下がるので、ネガティブフィードバックがかかり現在価値は上昇、負担は減り、システム的には安定する。しかし、それが東芝の現状のように格下げが起こると割引率は逆に上昇、現在価値は下がり、よけい財務は悪化するというポジティブフィードバックがかり、システムが不安定になってしまう。つまり、現行の時価会計は本質的に不安定な会計制度のシステムなのだ。

 

 そして、大企業が債務超過になるかどうかを決める上での大前提である割引率やコストオーバーラン等の将来の前提が、同一事業でも、各社ばらばらで大きく異なり、そもそもが、会計制度自身が、日本国内で、IFRSSEC、日本とバラバラである。極端にいえば、東芝が、旧日本基準を採用すれば、将来破綻の危機はあるとしても、ここ数年は全く問題がないとうことになる。

 

長期事業では大きい

 

 特に、原子力事業は、東芝だけでなく、日立や三菱重工も手掛けているが、割引率を開示しているのは、東芝だけである。東芝は11%前後だが、各社のビジネスモデルや地域差もあり、異なるだろうとCFOは発言、日立は、そう大きな差は無いとIRデーで事業部門が発言、実態は不明である。しかし、20年もの長期になるので、1%の差でも20%以上の差となり、数千億円の減損の相当額になる。

 

時価会計制度導入なら割引率等ディスクロージャー前進が不可欠

 

 各社が今期計画や中期計画を発表する場合、前提となる為替レートや、会計がIFRSか日本基準かなどは当然、公表する。そうでないと、P/LB/Sの基準が変わるからだ。いわば、円か$か、尺かmか、くらいの話である。

 

であれば、将来リスクを現在価値に反映する割引率も、当然、その前提の中に含まれるべきだろう。ROE%などの目標に対し、どれだけのリスクを見ているのかの判断基準になり、シャープレシオでいえば、分子だけでなく、分母もみないと投資家は長期での会社と価値感を共有できない。

 

 IFRSなど時価会計導入は、企業価値をより正しく把握しようという意味で、その試みは正しいが、片手落ちは多く、割引率のディスクロージャーは必須であろう。

 

また、実態経済にも大きな影響を与える債務超過か否かという判断で、ネガティブフィードバックがかかるような会計制度設計は望ましくないだろう。

 

更に言えば、投資家や政府のプレッシャもあり、現預金を減らしているがゆえに、それで資金繰りが窮するというのは、貸し出し先がないとぼやいている大手銀行など日本の金融機関は何をしているのだろうか、と思う。大昔から、銀行は雨の日には傘を貸さないというが、困っている・必要としている企業に資金提供せず、十分資金はあるから要らないと言っている成長性のない企業に貸すような実態では、存在意義がないだろう。運転資金などは、もう銀行を介さず、お互い信頼できるサプライチェーンの中で、それこそ、ブロックチェーンでやればいいだろう。