2017年2月9日 イノベーションを殺す減損会計〜時価会計と監査法人の在り方

 

今回の3Q決算で目立つのは減損である。ソニーの映画事業の1121億円、日立のウラン燃料撤退700億円をはじめ、シャープ、JVCケンウッド、新日本無線、住友金属鉱山、千代田化工建設など多い。

 

撤退の場合は当然だが、中にはそうでなく、撤退かと誤解を与えたソニーなど、長期の成長性と割引率など見通し変更によるものが多い。

 

羹に懲りてあえ物を吹く〜東芝WHの副作用

 

背景は、東芝の巨額のWH原子力減損を機に、監査法人がかなり保守的に見積もっているからであろう。また、IFRS導入で、時価会計主義が浸透する中で、ノレンや固定資産などを、将来の収益性と割引率により時価で判断しようという流れだろう。短期はもちろん、長期では、事業の見通しは、主観的な面もある中で、経営者の能力や信念、ビジネスモデルやシナジー、経営環境、など様々な要因で決まる。

 

何度も主張しているように、そうした中長期の見方に対し、リスクの判断材料となる割引率や中期の資産見通しの開示がないのは問題だが、東芝のWH減損で、十分、成長しうる事業まで、過去の下方修正確率などから極端に保守的に判断するのは、それ以上に問題だ。

 

https://www.circle-cross.com/2016/11/19/20161119-成長率-roe-r-d比率-割引率の関係/

 

https://www.circle-cross.com/2016/07/08/201677-割引率とwaccを考える/

 

https://www.circle-cross.com/2016/05/20/2016519-ifrsと割引率で変わる経営/

 

リスクがあるからイノベーション

 

本来、企業は、大なり小なりイノベーションを起こし、それにより成長するものだろうが、イノベーションにはリスクが伴う。リスクのないイノベーションはなく、イノベーションが無いような事業にさえリスクがある。リスクがないのは、役所くらいだろう。

 

そのリスクを表面の数字だけで、中身や背景を無視して、保守的にすれば、監査法人にはリスクはないが、それでいいのだろいか。まさに、とんだ東芝WH減損問題の副作用であり、羹に懲りてあえ物を吹く、であり、まさに悪い意味で日本的な対応だろう。

 

4つの大問題

 

 最大の問題は、第一に、こうした監査法人の対応が過ぎれば、企業は先行投資も、リスクをとってイノベーションも起こそうとしなくなる。当然、M&Aも控え、新規事業もおろそかになるだろう。

 

 第二に、こうした減損判断が投資家アナリストはじめ多くのステイクホルダーに誤解を与える。撤退あるいは将来性が無いと判断したと思う可能性が高い。

 

第三に、その結果、翌期はコストの負担がなくなり、前年同期で見た場合に、V字回復を演出でき、これまた誤解を招く。往々にして、そういう場合は、数年たつと、そういう経緯も忘れ、甘い買収や先行投資をしてしまう。

 

第四に、横比較での客観性だ。監査法人やIFRSと日本基準の差により、極端な厳しい減損がある場合と、そうでない場合に大きな差が出る。ソフトバンクのARM買収などは減損不要だろうか。

 

 そして、そもそも、監査法人は会計の専門家だろうが、ビジネスや技術を理解しているのだろうか。イノベーションを理解しているのだろうか。

 

https://www.circle-cross.com/2016/07/21/2016720-技術評価専門の監査法人が必要だ/

 

さらに、一方、非ハイテクの有形固定資産、不動産などは、正しい評価なのだろうか。建設費で計上しても、それは、将来の補修費用や、耐震性のリスクを計算しているのだろうか。

 

監査法人も共に正しくリスクをとりイノベーションに寄与すべき

 

 本来、監査法人の役割は、会計から正しく企業をチェックすることだが、その正しさは、業態や経営者にもよる。何でもかんでも、厳しく保守的ならいいわけではなく、客観性が重要だ。

 

 行き過ぎた時価会計、減損は、イノベーションを殺す亡国の仕組みであり、本来の目的と真逆だろう。M&Aも減らし、構造改革も遅れることになる。

 

 ならば、いっそ、これまでの日本会計に戻し一定の期間で償却した方がいい。時価会計は、主観的なフワフワした楽観悲観で足元や過去までも変わってしまう。さらに、いい時はより楽観的に甘くなり、悪い時はより慎重・保守的になるポジティブ・フィードバックになり、結果的に、より不安定になってしまう。そういう会計制度も再考すべきだろう。むしろ、いい時は厳しく、悪い時は優しくするのが、人の道だろう。イノベーションとリスクについても理解し、それを反映させるべきだ。