沖EMSの清水(しみず)光一郎さんを悼む

 

今日は悲しく辛い日だった。沖電気元常務で、同社のEMS事業をまさにゼロから立ち上げた清水光一郎さんが1日亡くなられた。まだ67歳という若さだ。

 

3日夕方のお通夜に参加したが、大勢の方が、その余りに早い別れを惜しんでいた。

 

清水さんはメールでは、必ず、「しみず」と書かれるので、しみず氏と書くが、古武士の風格、サムライだった。

 

お会いしたのは、最近だが、数回の会食、工場見学であり、もっともっと議論したかったが、それでもお会いできたのは幸運なことだった。3年間の闘病というから、既に体調も良くなかったろうに、そういう素振りも見せなかった。途中、入院されて、会食が延期になったことがあり、不思議だったが、闘病ゆえに大変だったのだろう。それでも、おそらく辛かっただろうに、会食に付き合っていただいた。

 

先日、71日も、理科大MOTの新事業開発の講義(9時〜12)で、しみずさんと沖EMSに触れたばかりだった。まさに命日であり、しみずさんがわざわざ、お別れに来ていただいたのかもしれない。

 

 しみずさんは、日本でも、モノ作り、EMSが成り立つこと、老舗の大企業でも4人から新事業が生まれること、そして、経営重心理論も実証して頂いた。もっともっと、御健在で、日本流モノ作り、日本流EMSを拡大発展してほしかったが、それは後輩の方々が志を受け継いでいかれるだろう。

 

 ご冥福を祈りたい、ありがとうございました。

 

若林様 有り難う御座います。しみず(201611月の最後のメール)

 

 

ここにしみずさんを惜しんで、下記のブログを再掲する。

 

 

 

「沖電気のEMS事業と本庄工場見学~鴻海とは真逆の日本のモノ作りの在り方」(2016227)より再掲

 

本庄の桜は枯れなかった

 

 沖電気(以下OKI)EMS事業は絶望の崖から始まった。2002年、ITバブル崩壊の中で、厳しい経営状況に追い込まれたOKIは、電電ファミリーの一角として交換機や伝送装置、あるいはATM機器の主力の歴史ある高崎や本庄工場など国内生産拠点を見直した。当時は円高も進み、世界でファブレスモデル、ソレクトロン等EMSが台頭し、あるいは、地産池消の中で、ATM等は中国生産、さらにコスト低減を求めアジア進出が当然であり、OKIに限らず、殆どの電機メーカーが国内工場、特に組立系の工場をリストラ、国内工場閉鎖が相次ぎ、それが当然という風潮であった。

 

そういう絶望の中からOKIEMS事業は始まった。売上ゼロ、現在顧問となった清水氏以下、4人からの出発である。清水氏は90年代から米国でのソレクトロン等EMSの台頭から、いずれ日本も同様になると予見、OKIにおいてメカトロ系のATMやプリンタは垂直統合、地産池消でモノ作りが残るが、OKIのメインの電子機器系においては、このままではモノ作りが消え去ってしまうとう危機感と、日本でもEMS化、水平統合が起きるという確信から、OKIの歴史だけでなく日本の大手電機メーカーでも初めてのEMS事業を始めたのである。

 

しかし、EMS事業、組立モノ作り系はスマイルカーブの底辺、鴻海も含め、OKIの売上規模を遙かに上回るEMS大手でもOpm3%程度であり、規模に劣るOKIでは、それも容易ではないことは明らかであり、全社目標の5%には程遠い。

 

桜の木は、移植が難しく、枯れやすいそうだ。

 

2002年、本庄工場の事務棟前に移植された桜を見て、本庄EMSの明日を占うようだと思った人は少なくなかっただろう。しかし、桜は枯れず、毎年、少しずつ見事な花を咲かせ、幹も太くなり、大きい五本の根をおろしたのである。

 

2015年、今や正社員だけで1300人、派遣も含めると2200人を超え、会社の公表の最新計画では、売上460億円、OP25億円であり、過去数年も80円の円高にも耐え安定して利益を稼いでいる。5本の根のように、応用も、通信、産業、計測、エコ、医療の5分野に広がり、グループ会社もOKIアイディエス、OKIプリンテッドサーキット、長野OKIOKIサーキットテクノロジー、OKIコミュニケーションシステムズと5社となった。M&Aも多く、プリント基板では、田中貴金属や横河電機を統合している。拠点は、この本庄以外に、高崎、小諸、鶴岡、上越、所沢、青梅と広がり、地域経済にも貢献している。

 

Advanced-M&EMS

 

OKIの日本型EMSは、Advancedを冠し、単に電子機器だけでなく、メカトロも得意だというアッピールもかねてM&EMSと呼ぶ。本庄地区では、G-PON等を生産している通信機部門と同居している。  

 

EMSで重要なのは、顧客情報の管理だが徹底しており、工場の生産エリアは分けられ、別部屋で隔離されており、営業所も分けられている。

 

 2014年度は売上403億円、OP20億円だったが、単独132億円、子会社271億円であり、設計を担うOKIアイディエスは設計人員100人、横河電機の青梅も買収しPCBを担うOKIプリンテッドサーキット、田中貴金属の部門を統合して特殊なハイエンド部門を担うOKIサーキットテクノロジー、長野OKI、送信局などインフラ系のOKIコミュニケーションからなる。

 

2015年度は売上460億円、OP25億円。毎年、10%程度以上、着実に伸びており、Opm5%を維持。来期は売上500億円を突破、中期の目標は売上1000億円であり、当然Opm5%を維持していく。

 

 応用分野は当初は情報通信だけだったが、次第に計測、産業など展開、医療やエコも手掛ける。割合は、通信、産業、計測が中心で、医療が増えてきたが、エコはこれからだ。実績は多様であり、通信インフラ機器や放送機器から、エレベータ用基板、セルフ給油機、テスター、プリンタなど。

 

技術の範囲、応用範囲の広さで、ここまでは聞いたことがない。顧客の数は約30社位、海外ユーザー比率は売上ベースでは15%だが付加価値ベースでは採算が高いようだ。

 

やらないのはスマホ・PC・原子力とOKI社内向け

 

 応用分野で、やらないと決めているのが、台湾型EMSの領域であるスマホ、PCと、原発であり、経営重心®マップの右上と左下であり、納得がいく。

 

コピーやプリンタは、既に手掛ける範囲だろうが、微妙なのが、白物家電やクルマだろう。また、タービンやモーターといった重電・重工系も手掛けていない。また、金型、鋳物、板金加工も無いが、これは、関連の田村大興電機の山形に集中配備し外注している。

 

いずれにしろ、五感が重視されるモノ作り領域、マニュアルだけではダメな分野を広げるようだ。既に成功しているが、今後もM&Aを積極化、国内の他社の工場を吸収統合していこう。

 

 また、感心させられたのがOKIの社内向けはやらないということだ。技術的にも社内向けは親和性があり容易だろうし、社内としてもコストを下げられるだろうが、それは甘えになり、顧客と関係も微妙になるからのようだ。OKIに属し将来の大きな柱となるため、上場もしない。

 

OKIの文化とは異なり、オープンで顧客の多様な文化を吸収し、混じりあうことを重視している。もしあるとすれば、OKIの他部門とは別に顧客とは競合しない形で、独自のブランドを出すことはあるかも知れないようだ。

 

生産の一貫サービスだけでなく、設計からの一貫サービスもあり、生産だけから徐々に拡大し、現状は生産60%、設計からが40%となった。これは近く50%づつになろう。設計は、回路設計(MPU周辺やFPGA)から、ファームウェア(組み込みソフト、IP)、機構設計(メカ、構造、熱・構造解析)、プリント基板の材料までかなり広範である。生産だけでなく、部品や部材の調達、検査まで手掛ける。まさにユーザーは商品企画と研究開発と販売に特化できる。設計の部分では、かつてのシステムハウスに似ているが、メカトロや機構設計まで手掛け、生産、検査までする点で大きく異なる。

 

EMSの生産量の分布としては、月産で3個~3000個に分布し多いのは100200個、LTでは0.5日~12週に分布し2-3日が多いようだ。半導体など部材調達に1-2ヶ月かかるものもあり、また、一般には3月納期が多いため生産を平準化するため、あえて長くしている場合も多く、生産スケジュールの工夫がユーザーへの提案力も含め重要である。収益性は全体ではOpm5%にコントロールするが、赤字も黒字もあり、いいものは10%程度のようだ。収益性に相関するのは、生産量や応用分野というより他社ができないかどうかであり、他社ができないものの場合ほど、収益性が高い。また、赤字の場合も限界利益はとれており、また技術習得になるようなものである。受注をとるかどうかは、製品かユーザー全体かで、部長レベル、事業部長レベル、役員会で、決める。

 

工場見学

 

 工場見学は、①カイゼン活動、②高度医療機器のライン、③部材の在庫の管理、③通信用などプリント基板ライン、④その他のライン、である。

 

カイゼン活動では、他と同様だが、トップダウンと、ボトムアップの両方を併用し、ボトムアップでは、いろいろ表彰したりしてモチベーション向上に努めるのは他社と同様である。ただ、感心したのは、正社員も派遣も同様に取組み、表彰例を見ても、派遣の方のアイデアを尊重し、技術者等がサポートしたりしている。本庄では、正社員100、派遣等が200と派遣が多い。子会社では長野等は正社員が殆どであり、地域との関係で臨機応変に決まっている。

 

 工場は、幾つかに建屋に分かれているが、生産ラインでも在庫でもユーザー名や製品名が暗号化されており、作業者にはわかるが外部には不明となっている。

 

組立系とプリント基板系では、建屋が異なっている。医療系等の組立系では、もともと、中部屋に区分され、8部屋あり、外から見られない構造。プリント基板のラインは、大部屋だが、ところどころ、区切りがあり、外資系などは、見られない。途中、一部、OKIの通信機器の組み立てラインも残っており、他方、横河電機から移したばかりの専用ラインもあった。これはボリュームが大きい。

 

高度医療 

 

 国内大手医療機器メーカー向けの高度医療機器装置、当初は、ユーザーが設計したものを生産するだけだったが、次第に、OKIで設計、現在は、ユーザーは企画のみであり、ソフトも手掛け、逆にOKIが得意な無線機能などを提案したりするほどである。提案により、コストが低減できる場合は、ユーザーと分けあう。製品サイクルは7-10年くらいで安定していることが鍵。医療機器だけに、命にかかわり、慎重な生産が重要であり、ISO13485や、薬事法にとおることが重要。それゆえ海外生産などは難しい、なお、医療のリスクはユーザーが負う様な契約となっている。

 

現在はフル生産、月産2K、セル生産を導入し、ぎっしりクリーンルームにラインがある。生産ラインでは、本来800万円するロボットを、必要な部分だけ、1/10のコストで導入。LT2.5日だが、ユーザー側では1週間である。

 

部品在庫管理

 

 部品の在庫管理にも熱心なのは驚いた。まず、最初に、直立した社員が大声を出して「改革10箇条」を唱和、おとなしいOKIの社風からは想像できず、体育会系の会社のようだった。最終工程から、4万点に及ぶ部材をバーコードで読んで探すわけだが、どの棚にあるかを、ランプをつけて人を誘導する仕組みである。

 

本来なら2500万円するシステムを部材費100万円以下で仕事の合間、閑散期に技術屋が作成。スピードアップより、新人でも対応できるようにするのが目的で、在庫管理版のデジタル屋台のようなものだが、他社で部品管理にここまで徹底した例はない。

 

PCB

 

 46層のハイエンドのPCBの実装。25/日でロット8個。まず、自作のキャスター付きの台車があり、緊急度合に応じ、24時間単位で、船便から航空便まで4段階で識別される。作業者のスキル一覧があり、80項目のスキルを4段階で評価、管理に利用し、必要な人材を確保。それぞれの仕事で、最低ランクでは仕事がいかないようになっている。

 

PCBの実装ラインでは、よく見るSMTより大型のものが入っており、途中でX3D検査機、装置メーカーと共同で改造したハンダ槽、PCBの両面でハンダ槽に沈めて200個の端子を一気に処理、はんだ付け時間を40分を5分に短縮する装置などが注目された。

 

その他

 

 メカトロ系のグラフ装置、給油の端末等など、実際にラインに流れているのは多品種少量である。実際に、月産数百から千、LT2-3日といったケースが多いようだ。ここまで多様な製品があるのは珍しい。

 

親切でファミリアなHP 

 

 なお、HPについても言及したい。日本の会社のHPは工夫もされず、内容がわからないが、よく工夫され、見やすく、EMSサービス内容がわかる。EMSの匠も紹介され、工場見学案内もある。

 

日本のモノ作りの明日と台湾EMSのモノ作り

 

鴻海に代表される台湾EMSは、スマホやPC等の製品を「早く安く多く」作るという経営重心®の製品事業マップで、サイクルが短くボリュームが大きい右上のところでは強いだけであり、ジャパンストライクゾーンでは、なお日本が強い。

 

それゆえ、国内生産の日本型EMSと台湾型EMSとも共存しすみ分けるだろう。その代表が、沖電気の本庄EMSである。現在は、国内向けが中心だが、中期では、海外向けも多様なサイクル(3年~10)で、中ボリューム以下の製品を中心に活躍する余地は大きいだろう。

 

国内だけでも市場は大きく、世界では数兆円規模だろう。技術者や作業者も熟練が必要であり、高齢化や後継者に困る日本の中小企業や町工場を、早い段階で集約し、そうした多様な技術の存続を考えるべきだろう。

 

そういう日本型EMSが拡大すれば、日本型モノ作り、老若男女の技術者、ワーカーも含め、期待の星となるはずだ。