半導体エネルギー研究所と技術発表

 

 ㈱半導体エネルギー研究所(以下SEL)は、第1 AI・人工知能 EXPO2017628日~630日)出展に先立って、マスコミやアナリスト向けに説明会を開催した。これに関連して、厚木の同研究所IPセンターを訪問させて頂き、スモールミーティング形式で参加、質疑・議論した。

 

 なお、このAI・人工知能EXPOには行っていないが、出展内容は、AI用の「Crystalline IGZO を用いたoxLSI (oxide LSI)」を始め、8Kディスプレイ画像エンジン、AI搭載イメージセンサ、oxAI (oxide AI)の代表例であるGPUCPU)に応用可能な演算回路、二次電池のAI制御、原理的に書き換え劣化のない多値不揮発性メモリ 特にアナログ不揮発性メモリなど。https://www.sel.co.jp/news/news/2017_06_aiexpo.html

 

知財だけのビジネスモデルの草分け的存在

 

SELは、未上場であり、知財をビジネスモデルにしていることから、一般には知られていないが、半導体やディスプレイ関係、知財関係では、その社名と創業社長である山﨑舜平博士の名を知らない人はいないユニークな会社である。氏は、アントレプレナーにして、「Most patents credited as inventor (最も多くの特許権を取得した発明家)」のギネス世界記録保持者でもある (2016630日時点11353) 。会社でも、特許権の登録件数は、特に注力している、酸化物半導体分野では3000件以上、液晶ディスプレイでは1800件以上、有機EL分野では5000件以上と、各分野でトップにある。IEEEやトムソンロイターでも表彰されている。https://www.sel.co.jp/ip/evaluation_of_recent_patents.html

 

 

 

30年前から名前は脳裏で存在感

 

1990年前後に液晶やフラッシュメモリを調査していた頃に、既に、大手電機メーカーの間でも、SELと山﨑舜平の名は畏敬の念を持って鳴り響いた。SELは、学会発表などはするが、一般のマスコミには、登場しない傾向があり、それが、余計に不思議な存在感を醸し出していた。

 

HPで業績は非開示だが売上規模は200億円か

 

売上や利益など業績などはHPで公開されていないが、設立は1980年、HPによれば、資本金43億円強、従業員794(研究開発人員は350)、なお、山﨑氏がTDKの研究所に在職した縁もあり、TDK32%弱保有、持分法適用対象となっている。TDKの持ち分利益は10億円強であり、この中に含まれることになるが実態は不明。東京企業経済情報によると、ここ数年200億円前後で推移しているようだ。

 

ビジネスモデルの発展を

 

今回、厚木を訪問、その広大な敷地や建屋に驚いた。今後の発展を考えれば、M&A,オープンイノベーションも考えるべきだろう。

 

今回はディスプレイよりAIチップ

 

 ファインテックでは、OLED関連も多かったが、今回は、ニューラルネット型のAIチップが中心であり、その応用として、イメージセンサ、二次電池、画像エンジンの説明があった。

 

 中期では、半導体は、ムーアの法則の限界、ノイマン型からの転換が大きなトレンドだが、結晶性酸化物半導体によるニューラルネットチップはこのトレンドに沿う。すなわち、極めて低いオフ電流と極めて高いオン電流を持ち、フラッシュメモリ等で重要な多値化での閾値制御が容易で、パワー化で有利な高耐圧化、高信頼である。

 

不揮発RAM

 

不揮発メモリも、現在は、NAND型フラッシュが中心だが、これはEEPROMであり、将来を考えれば、不揮発RAMが欲しいところであり、MRAMや、FeRAMが開発されているが、アクセス回数やセルサイズが問題だ。同社のNOSRAM®Nonvolatile Oxide Semiconductor Random Access Memory)は、SRAMと紛らわしいが、CAAC-IGZO FETの極小オフ電流を利用した電圧駆動型の不揮発RAMである。無制限(実際は1012乗は確認)の書き換え回数、高速かつ低電力での書き込みが可能という。

 

 FPGAでも、配線の接続構成を記憶するために、NOSRAMを使用している。一般と異なり、電源投入時の配線つなぎ直しが必要ない。

 

この極小オフ電流特性を利用した高効率ノーマリオフ駆動のCPUも面白い。CPU 内のレジスタに不揮発性フリップフロップを採用し、メモリにも、上記の不揮発性RAMを採し、すぐに電源をオンオフできることと、待機時の電力をゼロにできる。

 

グローバルシャッタのイメージセンサ

 

CAAC-IGZO FETのオフ特性を利用して、グローバルシャッタのイメージセンサも実用化できる。グローバルシャッタ方式は、デジカメで主流のローリングシャッター方式(走査ラインごとに順次シャッターを切る)に対し、一画面同時にシャッターを切れる稼働方式であり。超高速で移動する物体でも歪まずに撮像できる。AI画像エンジン内蔵で、逆光補正による広ダイナミックレンジ化も可能。

 

その他の応用

 

 その他の応用では、透明額縁マルチディスプレイの自動補正。現行のOLED-TVでは、複数のパネルを使って大画面を実現することがあるが、その場合には、額縁の繋ぎ目が目立つことが問題だ。そこで、その周辺をAIにより自動補正する技術である。

 

 

 

ファインテック展示より

先日のファインテックでは、大きなブースで、OLED関連では、バックプレーン、蛍光、燐光材、ともに展示、独自の酸化物半導体による不揮発RAMと、それを応用したAIニューロチップもあった。