東芝の前期&1Q決算説明会参加〜多元連立微分方程式、解あり

   1017時から決算説明会に参加、質問もした。今回は、マスコミと投資家アナリスト別だった。マスコミが、この最高益達成、上場廃止回避にどういう質問をするか、関心があるが、おそらく、鴻海のテリーゴー会長に対して、評価が一変したように、数年後には、綱川社長は、名経営者とたたえることだろう。

丁寧な開示

最初に簡単に綱川社長が挨拶、平田CFOが分かり易いプレゼン資料に基づき、①前期の正式な決算、②PWCとの認識相違について、③この1Q決算と今期見通しについて、詳細かつ丁寧に解説。開示資料には、WH損失、フリーポートのリスク、PBOの割引率など詳細な開示がある。その後、質疑だが、主として、NAND市況も含めた業績、メモリ売却、妥当価格等やスキーム、WH親会社補償のキャッシュアウト状況、など、有益であり、CFOもできる限り誠実に回答。メモリ社売却については、流石に交渉の最中であり、綱川社長は抑えた発言。ただ、両氏の笑みを垣間見たのは久しぶりだ。

難問の三元連立微分方程式を解きつつある綱川・平田コンビ

東芝を巡る難局は、3W、すなわち、①WH関連処理、②PWCとの決算を巡る意見相違、③メモリ社売却に関するWDとのトラブルであり、この全てを今年中に解決しないと、上場廃止になる、ということだ。

しかも、これらは、かつてあるいは現在パートナーでもある。その意味では、この3要素が時々刻々と変化し複雑に絡む、いわば多元微分連立方程式を如何に解くか、は難しいようにも思えた。特に、PWCとは、既に交渉7か月、今日が締め切りであった。

しかし、先日のWH関連の親会社補償額は確定、そして10日午前にPWCと合意、前期決算および1Q決算を正式に発表した。残り課題は、WDとの交渉、メモリ社売却だけとなり、まだまだ難局だが、見通しがついてきた。

この難局の峠をこえ、今期は最高益と、批判の中で、実績と解を出しつつある両首脳やスタッフには敬意を表したい。

新しい展開

 今回の説明会で、質疑の中で判明し、最もポジティブサプライズだったのが、WHに関連した電力会社への支払いのスケジュールとキャッシュアウト金額である。

FCFは、515日の時点では、2017年度のFCF見通しが6700億円の赤字であったのが、3800億円の赤字に改善した。NAND中心に業績改善とランディスギアの売却益が背景だろう。

さて、前回、この6700億円赤字のうち、東芝分の半導体設備投資1700億円、親会社補償が5000億円程度であり、これを銀行借入れ等6700億円で融通する計画であった筈だ。つまり、この時点では、これは、総計1兆円近い親会社補償を今期で5000億円支払う必要があったと推定される。ゆえに、債務保証だけでなく、キャッシュフローの上でも、メモリ社の売却が重要であったといえる。銀行が借入に厳しければ、よけいにプレッシャーがかかる。

親会社補償は総計5.8bil$6年かけて支払い

それが、今回は、42社の上限も確定したことで、支払い総額5.8bil$であり、これを6年かけて払えばよい、ということになった。2017年度、2018年度が、それぞれ、1bil$ずつ、2019年度が1.8bil$2020年度1.4bil$2021年度0.5bil$2022年度0.2bil$である。つまり、親会社補償だけでいえば、今期は4000億円程度も軽減、銀行借入もかなり楽になる。

 現在、NAND市況を4Q以降慎重に見て、為替も100/$という想定であることから、ふつうに考えれば、今期OP4300億円どころか、最低5000億円、場合によっては6000億円もありえ、そうなれば、現状のFCF赤字3800億円、純資産マイナス1900億円もカバーし、これに、ある程度の資産売却も行えば、FCF黒字、債務超過さえ免れる可能性すらないわけではない。

 元来、メモリ社売却の目的は、①資金力に劣り、迅速な事業判断ができない東芝にいるよりも、外に出した方が成長しやすい、②債務超過回避、であり、後者に絡めてキャッシュフロー獲得もあった。

メモリ社を持ち分法適用すれば、WD問題、独禁法等が全て解決

 従来から、債務超過回避というなら、税務上マイナスの100%売却ではなく、売るのではなく、持ち分法適用にすれば、2兆円以上という時価評価で十分なはずだ。しかし、会社側が、このアイデアに、消極的だったのは、キャッシュフロー問題だろうし、それに関連した銀行のプレッシャーだろう。多額のキャッシュアウトが無くなった今は、この提案が実行可能になる。

 そもそも、WDも、メモリ社を傘下に置こうというのではなく、これまでのJV体制で満足だが、東芝が苦境の中で、売却というなら、援助しようというだけだ。しかし、それが他社への売却というなら、これまで投資してきた四日市のラインや、蓄積された技術がライバルへ渡るのが嫌なだけだろう。

ゆえに、東芝が40%以下を有し、60%を、WDの他、ライバル以外のファンドや、鴻海などに売るのは、妥協の余地があるのではないか。また、これであれば、独禁法の問題もない。例えば、東芝35%WD35%、ファンド、INCJ/DBJか鴻海等30%なら、東芝もWDも政府も問題無い筈だ。

 今期は、それで凌ぎ、債務超過を回避、来期以降は、IPOでもいいし、東芝やWDが、どこまで保有するかは、ゆっくり考えればよい。また、税効果も、親会社補償での損金支払いで発生し、これに、併せて、市況を考えながら、メモリ社をゆっくり売れば、税負担も最適化できよう。

 この考えに対し、再確認し、当然、NAだったが、雰囲気からは、どうも、このアイデアが進行しており、決着が近い印象を持った。

 であれば、お盆前にも、残るWDとの課題も決着、9月末にも債務超過回避が決定、秋口には、上期決算発表前には、東証も判断できるようになる。

 なお、メモリ社の時価2兆円に対して、前回、7000億円の税引利益、資本増加との説明があったが、これは前期のメモリ社の純資産簿価6000億円から、差額1.4兆円であり、税率50%近くなるので、高すぎないかという質問が多かったが、キャッシュインは1.7兆円、また好調な業績から簿価が少し上がっていることだと説明された。あとは、おそらくWDとのJVの関連が何かあるだろう。さらに、売却された場合、想定簿価分は売却先に移るが、差額は本体に残りという、いわば清算処理のようなスキームになるようだ。

メモリ市況

そこで、気になるNAND市況だが、現状はまだ堅調。価格とビット成長をQ/Qで示すと、4Q1Qは、価格5%アップ、ビット2%減、1Q2Qは、価格3%ダウン、ビット24%増は、3Dが本格化するため。さらに、2Q3Qは価格2%ダウン、ビット10%増、3Q4Qは価格13%ダウン、ビット16%増である。平均3D比率は上期20%、下期60%64層が中心。現時点でOPM30%以上であることから、一部、噂のある64層の3Dでの歩留まり問題などはないようだ。

最高益

今期の売上4.97兆円、OP4300億円(メモリ3700億円、うち新生東芝は1200億円)、NP2300億円である。515日発表の営業利益2000億円より上方修正しているが、短信では、今回が正式開示のため、上方修正にはなっていない。この差は、メモリが中心。

上期はOP2100億円、うち、メモリ2094億円ゆえに、下期のメモリは1700億円弱と固めに見ている。また、ランディスギア株売却益は2Q計上予定。社会インフラがやや軟調だが、メモリ以外の半導体やHDDも健闘している。エネルギー関連でFCF悪化はIHIのプットオプション行使の一時的なもの。

この最高益の4300億円は、89年度のOP3159億円、NP1378億円から、30年弱ぶりに過去最高益である。当時は、ほぼDRAMであり、現在との比較では、メディカルや白物家電、液晶等はない。質においても上だろう。リストラ効果も大きい。