イノベーションと雇用の流動性と産業サイクルと勤続年数

 

技術者や研究者、更には労働者の流動性とイノベーションに関しては、文部科学省、経産省、JSTOECDはじめ、多くの機関で議論がなされて、また、働き方改革、リカレント教育の面でも注目されている。

 

労働者や技術者の流動性向上はコンセンサス

 

 理科大MOTにおける筆者とフェルドマン教授(モルガンスタンレーチーフエコノミスト)との対談でも、「日本は、労働者、とりわけ技術者の流動性を上げるべきだ」という点で、筆者の電機業界のミクロ視点での問題意識とフェルドマン教授のマクロ視点からの問題意識は一致した。https://most.tus.ac.jp/mot/talks/ さらに、昨年113日の共同連携シンポジウムでも、一橋大学大学院アメ―ジャン教授、名古屋商大ビジネススクール岩澤教授とのパネル討論でも、同様の意見が出された。https://most.tus.ac.jp/news/3133/

 

内閣府や企業においても、働き方改革コンソーシアムでエグゼクティブ・アドバイザーを務める慶応大の竹中平蔵教授は日立評論2018の対談で「労働市場の流動化と学び直しがカギを握る」としている。2018一橋ビジネスレビューでも「働き方の社会科学」が特集されている。

 

もはや、政策ベースでも、アカデミックでも、実業界でも、労働者とりわけ技術者の流動性を上げることがイノベーション、日本の今後にとって不可欠であることは、コンセンサスであるようだ。

 

様々な先行研究はあるが

 

技術者や労働者の流動性が上がると、知識の融合や新結合が増え、スピルオーバー効果も高まり、イノベーションが起きる確率が増えるだろうというのが一般的な論拠である。このテーマに関連する先行研究は、①マクロ的な労働市場とイノベーションの観点から、労働市場環境をどう整備すべきかの観点、②国際的な研究者の流動性、頭脳流出の視点や、大学や研究者の共同研究の観点、④企業内の技術系人材の異動とイノベーションの観点、等に分けられる。

 

先行研究の課題

 

 しかしながら、先行研究では、幾つかの課題があろう。

 

第一に、イノベーションをOUTPUT、技術者や労働者の流動性をINPUTとして、それが相関性であることは、明確に示していない。先述の青島論文では、アンケート調査で、ある限定した範囲であり、マクロ的な国際比較にはなっていない。

 

第二に、単純に、とにかく、流動性があがれば、イノベーションにとっても、日本の今後にとってもいいという前提をおいているが、「流動性に最適値があり、高すぎても少なすぎてもいけない」という可能性を無視している。

 

これは、経営においても、経営スピード(サイクル)が早ければ早いほど、いいか、という命題に対し、筆者は経営重心の議論(MOT学会2012、幻冬舎2015、ニュースピックス2016)、において、企業毎に最適なサイクル(=固有周期、時定数)があると指摘したが、イノベーションの種類や状況で、技術者や労働者の流動性に同様な最適値が存在するのではないか。半導体や液晶の事業サイクルは、3年前後だが、材料やデバイスの技術開発には、10年かかる場合もあろうし(経営重心における固有周期ではなく、研究開発重心における固有周期)、製品の開発に比べ、長い。こうした長い時定数を要する場合には、短い異動では、技術の蓄積が難しい。これは、同書でも指摘した社長の適切な任期期間の議論、(NRI松田2016による「経営リレー論」では9)、新聞記者や官僚の人事異動が短すぎて課題であるとの識者の指摘、アナリストの担当は、最低景気サイクル以上というような議論と同様であろう。

 

検証すべき仮説

 

 そこで、第一には、OUTPUTとして、イノベーションの成果に係る適切な数値として、企業業績、特許数、論文数、起業率など、また、イノベーションの分野やフェイズ毎に選び、INPUTとして、技術者や労働者の流動性に関する数値として、在職年数、転職回数などを選び、統計的な処理を、国際レベルや、業界などで、分析を行い、「流動性がイノベーションにつながるか否か」の検証が必要であろう。

 

 また、第二には、経営重心と同様に仮説「イノベーション確率の向上に関し、分野毎に、技術者や労働者に流動性の最適値が存在する=多すぎても少なすぎてもよくない」を検証する必要があろう。これに関しては、アナリストとして長年、様々な半導体、特にフラッシュメモリ、液晶やOLED、電池、移動通信、超電導、AI、など多くのイノベーションが起こる過程を観察、数多くの関係者との議論の中で、多数の技術者や研究者が指摘はしているが、それが具体的に何年なのかについては、十分な議論はできておらず、エレクトロニクスやメカトロなどに、偏っている。

 

日本の人材の流動性は低いのか 

 

経済産業省経済産業政策局2006年の「労働に関する参考資料・分析結果」によれば、日本の人材の流動性は、昔から低かったわけではなく、1920年代以前は、比較的流動性の高い時期、1940年代に、計画生産と安定勤続、企業・事業所別組合システムの形成が成され、1950年代に、終身雇用・年功賃金を中心とした雇用システムへ移行したと指摘している。

 

 欧米各国との比較では、同資料によると、平均10年に比べ、日本は12年と長く、6年前後の米や8年前後のイギリスに比べると、確かに長いが、ギリシャやイタリアよりは短い。これは、転職率が高い金融やITが多く、またベンチャーが多い産業構成の影響が大きいのかもしれない。

イノベーション指標としての起業化率と主要国の平均勤続年数の相関

 

 

 

 

イノベーションの指標として、起業化率をとり、主要国別の平均勤続年数と相関を取ると相関性は高い。但し、起業家率はGEM2013、欧米日の勤続年数は上記の1995等で時期が全く異なる。

 

出所)各種データより筆者作成

 

 上記グラフの相関性の高さは、タイミングは、異なるが、1990年代では、それほど、大きな変化はなく米などは短期化、日欧は逆に、長期化している可能性もあり、更に、相関性は高まっているかもしれない。

 

その他の論点

さらに、経営重心での議論もあるが、ヒット商品のライフスタイルの短縮化の影響もあり、さらに、それによって、労働者全体の議論では、労働者の請負活用比率の増大も考慮すべきだろう。

 

 

 

 また、青少年の転職についての考え方は、各国で明らかな差があり、これは、起業に関しても、同様である。ただ、今後、働き方改革や少子高齢化などで、どう変化するかは、議論があるとこだろう。

年功序列と生産性

 

 

 

 

 

 筆者は、多くの技術者や研究者、人事担当者との長年のアナリスト活動の中での議論で、技術の給料と能力についてのイメージを下図のように、表現しているが、概ね、賛同を得ている。技術者の応力は、概ね30代前半でピーク、給料は後からついていて50前後でピークとなる。