新しいイノベーションプロセス論

 

先に、NANDフラッシュメモリとTFT液晶ディスプレイのイノベーションプロセスが、5段階で進み迂回的であったことを示した。かつ両方とも20年近い年月で、当初、狙っていたターゲット市場に回帰している。https://www.circle-cross.com/2018/07/09/nand型フラッシュメモリのイノベーション過程の考察/

 

 この90年代に登場したNANDフラッシュメモリとTFT液晶ディスプレイのケースから、以下のような共通のイノベーションプロセスであることがわかる。

 

 

 第一段階として、何等かの技術メリット(小型軽量、性能向上など)による、現有の巨大市場(NANDでは外部記憶、液晶では壁掛けTV)の代替を狙うが、現有の技術(NANDではHDD、液晶ではブラウン管)のコストメリット等が大きく、壁にぶち当たる。ここで、終われば、「死の谷」となる。

 

 

第二段階として、その技術ならではのニッチな市場が登場する。NANDでは、小型機器、液晶ではパチンコ等である。ユーザーは、コストが高い等の難点があっても、技術メリットを重視する傾向が強い。 

 

他方、多様な改良技術も出てくる。NANDではインターフェース技術、液晶ではドライバー駆動や画素短絡技術などである。

 

第三段階として、そのデバイス技術の中での色々なカテゴリーの技術が登場する。フラッシュではNORAND等、液晶では強誘電などだ。 

 

また、ここで、標準化争いも起き、さらに、ユーザーとの共創も進む。ここで、終われば、「ダーウィンの海」である。

 

第四段階として、画期的なコストダウンの技術か性能向上の技術が登場する。NANDでは、多値化、液晶ではIPS等だろう。これにより、巨大な新応用市場に適用できる。

 

 第五段階として、この第四段階のコストダウンや標準化等により、当初狙っていた巨大市場に回帰する。しかも、それは、当初よりも巨大になっている。NANDではデータセンター、液晶では60型以上のTVである。

 

 これまでのイノベーションプロセス論では、リニアモデルの改良の中で、一つの軸(ここでは垂直方向)だけの議論で、死の谷や、ダーウィンの海、が論じられているが、実際は、二つの軸で考察した方が実態を捉えている。

 

 こうした二次元のイノベーションプロセスで、迂回的に考えることで、壁にぶち当たっている技術をブレークスルーさせるヒントになり、一元で論じられてきたイノベーションプロセス論に新たな示唆を与える。また、科学技術政策的あるいは戦略的には、当初の計画に拘泥せず、新ニッチ市場を探索させ、同時に、コストダウンも継続する両面作戦が重要だ。