日本電子(JEOL)決算Web説明5月29日実施

 

529日に、決算WEB説明が開示された。プレゼンは、栗原会長が全体コメント、大井社長が詳細説明。2020年度は非開示。今回、注目されるM&Aや提携が多い。質疑は個別対応ゆえ、その後、テレコンで栗原会長、大井社長と45分程度、議論させて頂いた。

 

 

決算は産機が好調

 

2019年度業績は、売上1172億円、OP70億円、NP54億円、売上は過去最高、受注1207億円、受注残487億円も過去最高。利益も2018年度ピークと同水準、NPは繰越欠損金無くなり、税金平常化。SGA70周年行事でやや増加。コロナ影響は期ズレあり、利益インパクトは無視できる程度か。在庫がやや増加。受注残も増えた。全体的に、「70年目の転進」初年度は、世界が米中摩擦やコロナ影響で厳しい中、順調な滑りだしだった。米中摩擦は、最先端の電顕や電子ビームなどが気になる。

 

セグメント別は、理科学計測がコロナ期ズレもあり、減収減益、産業機器は、マスク描画でマルチビームが受注9台、売上8台、シングルビームは同順に2台、4台好調など大幅増収増益、医用は減収減益。

 

2020年度は、非開示だが、それほど悪くない印象。コロナ影響は、サプライチェーンでは、問題なし。生産拠点は、山形天童と昭島であり、通常稼働。需要も、5月以降、中国回復、その後、欧米も戻りつつあるようだ。2019年度の期ズレ分10-20億円程度と推計するが、その分もプラスだろう。

 

セグメント別では、理科学は、ユーザーである研究所等が当初は停止もあったが、平常、産機は相変わらず半導体が強い。EUV露光機増加に比例し増加しそうで、受注倍増もあり得、生産面での整備を急ぐ。医用は当初、コロナで通常医療の稼働が低かったが、徐々に落ち着き。CAPEXは、324日に発表、引き渡し9月予定の土地と建屋分が数十億規模。昭島本社から車で10分程度と近隣で、急増する電子ビーム向け工場を確保(ヤマハ発動機) CRなど整備は必要だが、土地が多く、DEP増は少ない。R&D2019年度の78億円と同水準の高レベルで推移しそう。買収したIDESや、提携のリガク社との共同開発、3Dプリンタもある。

 

 

70年目の転進で注目すべき、リガクとの提携、IDES買収

 

 今回、注目すべきは、リガクとの提携、IDES買収だろう。70年目の転進というタイミングで、今後のJEOLに大きくプラスに影響するだろう。

 

リガクは、商工リサーチによると、社員676人のオーナー企業、2018年度の売上341億円、NP44億円、ほぼ増収増益で、高収益維持、X線回折で国内シェア80%。同じ昭島本社であり、理化学という同業な上、栗原会長とリガク志村社長が同じ年という関係もあり、工業会での付き合い、これまでも共同セミナーを開催してきた。その中で、有機化学の分野でマイクロ電子回折(マイクロED)へのニーズが高まっており、これに対応すべく、共同開発を行う。オープンイノベーションでもあり、地域連携でもある。

 

マイクロEDは、電顕を用い、電子線回折により微小な結晶サンプルから構造情報を得る手法で、X線回折と同原理だが、電子線はX線より強い信号を得られるため、必要な結晶サイズは100 nm1 µm程度と小さく、これまでのX線回折と違って、大きな単結晶を用意する必要がなく、試料作製にかかる時間を大幅に短縮できる等、利点が多く、微小化合物や生体高分子の高分解能 3 次元構造決定に有力だ。この分野では、サーモフィッシャーサイエンティフィックが有力だが、この提携で、電顕からマイクロEDNMRまで横串のトータルソリューションが可能となった。また、リガクはX線解析ソフトと検出器がある一方、電子線回折ができる電子顕微鏡は無かったが、これはJEOLが提供できる等、補完効果も大きい。

 

 

 

IDES社を買収

 

 IDES社は、米西海岸のサイエンスベンチャーであり、TEMを使って、いわば、高速度カメラのような超高速時間分解能で試料の動的観察を可能にする技術を持つ。たまたまJEOLと同じオフィスであり、JEOLTEMを使っていた関係もあった。人数は10人程度、売上は少ないが、10億円の買収金額、ノレンは数億円の模様。これまで、TEMは空間分解能を競ってきたが、サイエンスでは、静的定常状態だけでなく、動的非定常、過渡的状態の観察も重要である。TEM以外、SEM等への展開も期待。

 

 私自身の35年程前の修士論文のテーマが、高速度カメラで撮像解析していたレーザー加工現象や噴霧燃焼雰囲気といった過渡的現象を、ホログラフィで立体的に撮像、再生画像を当時、登場したCCD素子で取り込み、解析するというものだったので、興味深い。格子系の振動、相転移などのメカニズムも解明が進めば、運動量と位置を同時に計測できないというハイゼンベルグの不確定性原理(なお、当初、ハイゼンベルグが行っていた、量子力学が成立するミクロな世界が測定による観測者効果で「揺動」してしまうという説明は間違いのようだ)などの探求も有用かもしれない。

 

 

 

3Dプリンタ

 

 3Dプリンタも2020年度は受注が期待される。3Dプリンタでは、電子ビームはJEOL以外、アーカム社だけだったが、すでに、GEに買収された。

 

単なる装置売りだけでなく、粉などの消耗品事業、JEOLインサイトの部品売り、委託加工と多様なビジネスモデルを想定しているようだ。

 

これについては、株主となっているニコンも、新規事業として関連しており、中計の鍵となっている。ビジネスモデルが広がる中で、シナジー効果を期待したいところである。