研究開発費の適正水準は人件費

研究開発費の適正水準に関して、経済教室に記したが、正しい計測には、会計基準も異なり、難しい面も多い。下の方でも、一橋大の岡田教授が、「知識とは、熟練、設計図、ソフトウエア、アルゴリズム、データベース、資料・材料などライブラリー、特許、ノウハウ、業務ルーティン、組織文化など雑多」であり、また、「ノウハウなどの無形資産、生産現場の改善、ソフトウエアやデータベースなどのIT(情報技術)、従業員の教育訓練、マーケティングやデザイン」などの補完的投資は研究開発として把握しにくい、と指摘している。https://www.nikkei.com/article/DGXKZO61134060T00C20A7KE8000/

知識の形態は多様でも全て人間の知的活動の結果

 確かに、R&Dの結果として、知識の形態は多様であるが、それは全て人間の知的活動の結果である。経済学の基本は、人間の活動は時間当たりの金額で表現され、実際、R&D費の半分は人件費であり、それ以外は試料費や実験装置の設備償却やソフトや特許費用等である。人件費以外は外部からの購入であり、その時点での時価で評価されている。そこで鍵となるのは、多様な知的活動を生む人件費の評価である。通常は、トータルの人件費から、研究開発に充てる分(研究開発部門なら殆ど、事業部門なら一定の割合が案分される)が相当し、その時間が正しく配分されていればいいので、問題は時給となる。

専門職ほど時給の格差が大きい

 時給は、工員や事務職等のワーカー等であれば、個人差は少なく、ボーナス等も同等だ。しかし、これが、セールスや管理職、更には、研究者やアナリスト等の専門職となると格差が大きくなる。アナリストは一桁以上異なるし、ファンドマネージャーなら二桁は当然、AI研究者等も、同様の格差があってもいいだろう。

 近年、裁量労働制と異なる高度プロフェショナル制度が導入はじめたが、まさに、こうした人材の人件費の正しい評価がR&D費用にも重要である。さらに、通常の労働者と異なり、彼らは、年功序列というよりは、20代、30代で生産性が高く、そこでは不当に低い評価となっている可能性が高い。

本来の能力に基づく人件費をR&D無形資産として計上

正しいR&D費用の評価には、抜本的な賃金体系の改革が大前提ではあるが、仮に、その時点での生産性や市場的な時価(アナリストや野球選手は市場評価がある)から推計される時給をベースに、通常の賃金体系との差を、R&D資産として計上、それを、その知的能力の減衰に応じて償却、場合によっては減損し、その金額をR&D費用とすればよい。

総合電機等は、売上R&D率は3-4%で、売上で大きく異なるが、コーポレートラボの人員は、日立を除けば、1000-2000人、500億円以下ではないか。これが実態であり、GAFAや海外テックと比べ、成長率が低いのも頷けよう。

30歳超えで、生涯年収を支払い、雇用形態を見直し年俸制などフレキシブル・多様な働き方導入契機に

この正しいR&D費推計のための人件費の考え方は、これからの時代に副次的な効果ももたらす。