日経新聞が1月13日朝刊トップに、超電導送電が実用、JR系の鉄道総研が開発に成功、カーボンニュートラル後押しと報じている。送電ロスなし「超電導」実用へ JR系、脱炭素を後押し: 日本経済新聞 (nikkei.com)
やや唐突感があったが、2016~2020年のプロジェクトが終了、2021年秋に成果が公表され、カーボンニュートラルで注目したのだろう。研究評価委員会「高温超電導実用化促進技術開発」(事後評価)分科会 | NEDO
プロジェクト当事者にとっては、今のカーボンニュートラルは、研究を継続し、予算を獲得できる大チャンスであり、マスコミ側も渡りに船か。振り返ってみると、30年以上も続いており、審査メンバーも、かつて権威だった先生方は流石におらず、鬼籍に入られた方も多いだろう。大ブームであったが、多くの企業では中止縮小し、今は電線と重電メーカーが頑張っている程度だ。し「実用化」が、事実なら、送電ロスは大きいため、カーボンニュートラルに大きなプラスだが、肝心の材料や1986-87年の高温超電導ブームの記載は全くない。NEDO資料からは、液体窒素温度で動くイットリウム系のようだ。温度だけが条件(臨界温度)のようだが、臨界電流密度や臨界地場もあり、これらの1つが崩れると超電導状態は破れる。抵抗ゼロ以外にマイスナー効果などもあるが説明がない。
野村総研時代の1987年に、当時、50名程の大学や企業の専門家を取材、八重洲ブックセンターにある本は全て読み、宮﨑のリニアモーターカーの実験線にも試乗、各研究機関も視察、海外の研究所も訪問、技術課題、市場規模や産業社会への影響、企業戦略などを、レポートを書いた。市場規模の条件は、当時、He温度での市場はMRIやSQUIDなど500億円だが、当時ブレークスルーがあった液体窒素温度なら5000億円、一部誤報もあった室温なら5兆円という専門家の見立てを、検証した。レポートを書いた責任上、その後も、ウォッチし、何度か、実用化との報道があったが、難しかった。2018年に鉄道総研の報道があったが、その後は不明だ。鉄道総研、超電導電線で省エネ効果 JR中央線で実験: 日本経済新聞 (nikkei.com)
そもそも実用化というなら、液体He温度では、MRIはじめ社会に普及している。リニアモーターカーも、1988年に試乗した。今、話題の中央リニアモーターカーも、1988年にレポートを書いたが、当時から計画はあった。あとは、予算や工事を進める上での社会の理解、政治問題だ。しかし、このリニアモーターカーは、高温超電導ではなく、液体Heのままであり、あまり指摘されていないが、臨界磁界などの関係から、曲がることが難しい、などの問題はある。液体He系では、材料は金属であり、線材化は電線メーカーの得意技術だったが、高温超伝導はセラミックスであり、加工が難しく脆い。低温で完成されたシステムを、材料だけ入れ替われば実用という訳にはいかず、一からシステムを再構成だ。
そして、そもそも、「実用」とは何か。リニアモーターカーや電力など、社会実装が重要な分野では、技術成功で終わりではない。実際に普及してこそ、実用である。技術の壁、コストの壁、に加え、社会や政治の壁が大きい。この実用という概念が、研究機関、マスコミ、その他で、全く異なることが問題だ。
さらに、エネルギーのように、長期に亘る技術開発では、詳細な問題点などを、どう後継者に引き継ぐのだろうか。20代後半で着手しても、60歳になってしまう。まさに、一生を捧げるわけになる。これは、ITのソフト開発や、半導体と大きく異なるところだ。
そして、社会実装となると、流石に、40年の時間で、社会そのものが変わってしまう。つまり、長期に実用では、技術開発の難しさに加え、長期の社会変化も正しく予想できないと実装できない、つまり、実用できないことになるのである。
エネルギー系の巨大システムのプロジェクトの場合は、半導体やITなどのリニアモデル、ステージゲートなど管理とは、異なるR&Dマネジメントが必要であろう。これは、国の固有周期が短い日本(5年、10年先のことは考えるが、20年、30年先のことは自分事として捉えられない)では、そもそも難しいのではないか、と悲観的になる。