経営戦略の成立条件~エルピーダはどうすべきだったか

エルピーダ破綻10周年ということで、日経新聞に取材記事が引用されている。当事者の坂本氏、若林、経産省の西川氏、半導体デジタル戦略の有識者の鈴木東大教授、熊本大で元ソニーの鈴木氏である。多面的な見方で参考になるだろう。「エルピーダの教訓 破綻から10年」連載企画まとめ読み: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 これに対し、湯之上氏[1]が、坂本氏、若林、西川氏の名前もあげて、批判している。その根拠は、我々が技術だけでなく、経営戦略、マーケティングや標準化、アウトソース、政策、金融など、広い視点から破綻について考察、現在の半導体政策への教訓について議論しているのに対し、氏は、コスト面のみから分析である。要は、エルピーダ破綻の真因はコスト高であり、その根拠として2004年の氏が同志社の研究員時代に行った、三菱電機等の技術者へのヒヤリング(18人に関して夫々1時間)による調査結果をベースに議論しているが、要は、①チップサイズ大、②マスク枚数やテストが多く、工程が長い、ということだ。

まだそんなことを言っているのか!間違いだらけの「エルピーダ破綻の原因」 あれから10年、まったく生かされていない教訓”(1/7) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

この記事で批判されているので、自分の箇所について、反論しておく。なお当時は、自身はアナリストあるいはファンドマネージャーという第三者の立場である。

その中で、氏が指摘するコスト問題については、以下の2点を示しておきたい。

第一に、2004年当時の話であり、その後、大きく変わっている。それゆえ、その後のコスト構造等も分析しないとアンフェアであり、原因を誤るだろう。

第二は、アナリスト等にとって、チップサイズに加え、マスク枚数、後工程コストなどは、横比較を行うのは、常識である。坂本さんも、以前、マイクロンにもおり、TIもいたから、それは十分ご存知である。エルピーダのチップサイズが大きく、テストが長かったのは、日本のユーザの意向、品質重視する向きもあった。後工程は、後には台湾であり、これは大きくは変わらない。

日本の問題はコストもあるが、こうした技術面だけでなく、電力や人件費などである。もっと重要なのは、価格訴求、マーケティング、ファイナンス、経営スピード等である。これを氏は理解していない。

その上で、私が日経記者に指摘したのは、PCでの戦いは、JEDECの標準化で難しいから、急拡大するスマホ市場に転換し、そこでの価格プレミアムを訴求したことである。このことが、こういう話は記者にもしているが、一般読者にはわかりにくいので、あのような内容になったのだろう。

 

それでは、エルピーダはどうすべきだったのか、について、示すと、「経営戦略を成長(復活)フェーズ変える」ということだったにではないか、これは、他社の戦略、日本の政策にも通じることだろう。

 



[1] なお、氏は、以前、私がアナリスト時代に分析したデータを欲しいというので、私の知人の部下でもあったので、教えてやってほしいというので、あくまで参考に公開しないことを前提に渡したが、無断で著作に使った方であり、信用できないことを付しておく。