学者と実務家の抽象化能力、具体化能力

ずっとアカデミックの世界にいて、企業や業界と付き合いが少ない学者は、実務家というものは、抽象化能力が無いと思っているようだ。それゆえ、実務の世界から教員になった者も、具体的な実例は語れるが、抽象化一般化して、仮説を築く能力が無いと思っているようだ。

 他方、アカデミックと付き合いの無い産業界の人間は、学者は、抽象的な話はできるが、具体化能力が無いと思っているようだ。

 これは、どちらも間違っているだろう。経営学ですら、欧米では、最初は、工場や企業経営での実例をベースに、抽象化一般化して、仮説を築き上げ、理論化されたものも多い。また、その理論を、学者からコンサルタントになったり、会社に入って、実際の経営に生かしたり、具体的な応用を考えている。

 抽象化と具体化は、方向は真逆だが、それを行き来させて回し、あるいは抽象化プロセスで形成される能力は、想像力を鍛え、具体化能力も醸成されるのではないか。実際に、経営者も、具体から具体でなく、具体から一旦は抽象化して、条件を踏まえ、具体化しているだろう。また、具体化する能力は、一旦、抽象化しないと難しい。

 

 これに対し、日本のアカデミックは、抽象から抽象(ある意味、コピペ)でしかない場合が多く、実は抽象化能力もついておらず、従って、具体化能力も身につかないのではないか。そういうプロセスを経験していないから、実務家あるいは経営者が、意識してか無意識かは不明だが、具体と抽象のサイクルを回しているというイメージが無いのだろう。さらに、学会と実業界の相互交流、流動性の無さが、それに拍車をかけている。