2015年9月3日 東芝の再生シナリオ~決算発表を前に

201593日 東芝の再生シナリオ~決算発表を前に

㈱サークルクロスコーポレーション 主席アナリスト 若林秀樹 

 日経ビジネス電子版において、東芝の再生シナリオについて、インタビュー形式で、意見が掲載されている。決算発表期限が97日なので、4日か7日であり、その前に、アーカイブであるが719日に、第三者委員会の発表を前に、会員関係者限定向けだが、総括したレポートを公表、また再掲したい。これは、アナリストとしての公的な責務でもあると考えたからである。

この中に、あるべきシナリオがあるが、第三者委員会発表の前の段階の情報に基づいていること、また、東芝テックの下方修正の前であるので、同社に対する見方は甘くなっていること、に注意されたい。

再生シナリオはテックとセミコン分社上場とGEに出資とトップを仰ぐ

 再生シナリオについては、基本は今も変わっていない。ただ、東芝テックについては、期待のIBMから買収したPOS事業が逆に「ババを掴まされた」可能性が出てきており、業績が厳しいので、そこは、あまり期待はできないかもしれないが、東芝テックが鍵であることは間違いない。

また三つのシナリオであるが、実際は、この併せ技であろう。さらに、日経ビジネスでは、言及されていなかったが、GEによる出資と、トップの招聘を期待している。また、セミコン社の分社上場でB/S強化だ。一段落すれば、室町氏はじめ暫定政権は引退し、新経営陣と新ポートフォリオへの期待が高まろう。東芝はカルチャー的にも、戦前からそうだが、外部の有力大物経営者で復活している。意外とそういう外圧には素直に変わる融通性がある。特に、GEは東芝の「先生」でもあり、精神的支柱でもある。

現状のポートフォリオではこれまでの目線3000億円は遠く1500億円程度

 現時点でのポートフォリオでは、少なくとも、この5年間あるいは10年くらいは、業績は低迷せざるをえない。90年代は、半導体で1000億円、その他で500億円というのが営業利益水準の目線であった。2000年以降は、半導体で1000億円、電力関連で1000億円、その他で500億円というところだった。

しかし、もはや電力関連は500億円程度、その他は、リストラでPCTVの赤字は無くなるにせよ、ヘルスケアも大きな利益は期待しづらい。さらに、もともと、ノンビリした社風は、「チャンレンジ」で無理もし、会計処理も甘かったのだから、この影響も大きいだろう。仮に、日立並みの厳格で先憂後楽主義の会計方針なら、全体的に、これまでの、利益から500億円は下がるのではないかという印象を持つ。また、IRFSでの会計厳粛化やリストラ費用が営業利益ベースの認識になることも考えれば、これまでの営業利益目標3000億円目線は遠い。おそらく、今となっては目標で2000億円程度であろうし、三菱電機の3000億円水準は難しく、実態は、10001500億円と、NECや富士通程度であろう。さらに、この水準であれば、税前は1000億円前後であり、繰延税金資産の前提となるレベルからギリギリである。また純利益は5001000億円程度となりB/S健全化も遠のいた。

生き残りには、この半年が鍵

 それゆえ、現状での生き残りは容易ではない。まもなく、マイクロンの決算も発表されようが、かなり厳しく株価下落で、中国の紫光集団のTOBが成立する可能性があり、傘下の広島工場(旧エルピーダ)の扱いが鍵になる。金融を減らし、ポートフォリオを変えているGEにとっては、セミコンを外出しすれば、東芝のポートフォリオは魅力的で、シナジーも出てこよう。経営もGE流を昔から導入しているので、相性もいいだろう。

 年末までには、郵政も上場、西室氏も上場を花道に退任し(郵政の新トップは財務省OB等であろう)、東芝問題に傾中できよう。老害との批判はあるが、信越の金川氏など現役最前線で活躍されている例もあり、物理的年齢ではなく、精神的な青雲の志の有無だ。現時点で、精神的支柱は他になく、また、西田氏以降の経営陣を選んできた責任はあろう。東芝の分岐点は、ITバブル後、20022005年であり、社長を西田氏でなく、香山氏などを選び、低成長が分っていたPCTVから撤退、育ちつつあったITネット系を我慢して育成すべきであったかもしれない。原発も当時としては注力はわかるが、WHを当初の2倍近い金額で買うべきではなかった。全て、今から言っても仕方ないし、マスコミも我々アナリストも、西田氏を評価していたので、大いに反省はするが、そういう当時の経緯や状況を一番わかっているのは西室氏であり岡村氏であり、無私の立場で再生にプラスになる面もあると思う。


以下は全文を掲載するが、図表はブログには載せられないので御容赦頂きたい。

http://www.circle-cross.com/2015/07/20/2015719-東芝問題-第三者委員会の正式発表を前に総括/




2015719日 東芝問題~第三者委員会の正式発表を前に総括

㈱サークルクロスコーポレーション 主席アナリスト 若林秀樹

  1. 振りかえり

  2. 見通しの反省~情報封鎖統制の中で

  3. 近因と遠因、粉飾が起きる三つの条件

  4. 東芝の歴史~日立と比較して

  5. 今後の展望~ポートフォリオ組み換えと業界再編、トップ人事、他社への影響

  6. 教訓~社外役員制は機能するのか

 

 20154月に会社側から最初に発表があった時、融通無碍な社風ゆえ、よくある単純なミスだろうと思った。しかし、その後、どんどん事態は悪化、大幅な過去の業績修正、トップの辞任、行政処分となる大事件となってしまいそうである。東芝との付き合いは30年に及び、IRはもとより、多くのトップや幹部と面談、親交も深め、多数の工場見学、それこそ、累積INPUT1000回をこえ、数多くのレポートも執筆してきた中で、複雑な思いであり、自分が認識してきた「多少融通無碍ないい加減さ脇の甘さはあるが躍動感のある優良企業」東芝とは何だったのかを、振り返りながら、20日の第三者委員会の正式発表報告(2019時に第三者委員会より東芝が受取り、21時に要約版公表、2115時全文公表、17時記者会見)を前に、自身で総括しておきたい。

 また同時に、今回の件は、幾つかの論点がある。第一に、リサーチという意味では、会社側と接触を断たれ、全く情報が無い中でどこまで実相に迫れるか、第二に、ガナバンスコードが導入される中での体制やあり方、第三に、あらためて業績数字だけの分析では不十分であり、業績の質、その背景にある会計原則や、その前提を精査しないといけない、第四に、「企業の根っこを見る」とも関係するが、その前提の置き方に重要な影響を及ぼす企業風土や経営重心、トップの質まで見ないといけないと痛感、第五に、現役アナリストとしては最長である30年という期間ですら、企業風土の分析は十分ではないかもしれない、と考えた。

 そこで、まず、今回の事件を振り返り、その推測の精度の是非と反省、また問題の近因と遠因、さらに遠因の中で東芝の風土を日立と比べ、今後の展望、東芝自身と業界全体への影響、最後にガナバンス制度への教訓について論じたい。

  1. 振りかえり

 発端は、43日であった。単独の単年度の業績において、工事進行基準の案件について調査が必要になったとのことで、特別調査委員会設置の告知があったが、よくある何かの単純ミスだろうと気にもとめなかった。

 

発表前の妙な雰囲気

 実際、48日には、マスコミ、アナリストを招いて、府中工場で、水素インフラ事業説明会が催された。マスコミ中心ということで、アナリストは質問不可だったが、特に違和感はないものの、312日に那須工場でのヘルスケア説明会の雰囲気と比べ、社長も出席する多数の報道陣の中で、晴れの発表会の割には、何となく広報IR側に重苦しいものを感じないわけではなかった。

 実は3Qの決算発表後、研究開発体制についての取材、それとは別に、産業革新機構との関係、仮に産業革新機構の体制が変わった場合に、特にJDILG等をどうするのか、ついて室町氏あるいは経営企画と議論させてほしいとお願いしていた。研究開発については、日立の研究開発体制見直しと同時に報道もあり、それほど時間をおかず対応してもらえそうだったが、しばらく待ってほしいとの回答であり、また、産業革新機構との件も、これまでなら、快く対応してくれる良きIRにしては、難しそうな雰囲気だった。これは、まさに、今から思えば、それどころではなかった、ということだった。

 多くの電機メーカーが本決算を最高益更新で迎える中、最初は、5月中旬くらいには、どうかと思っていたら、なかなか、時間がかかっている。また、通常は、東芝のレポートを送ると何かしらフィードバックがあるのに無反応ゆえ、意外と大変そうだという印象をもっていた。

 

驚いた発表、シャープ騒動どころではない

 驚いたのは、58日の発表であった。業績予想も発表時期も未定、となり、無配となったからである。また、連結で海外も対象となるとの報道で、WH等の減損で、数千億円あるいは1兆円規模のB/Sの毀損の可能性が出てきた、と認識した。

しかし、この時点では、もちろん、粉飾など組織的な不正は全く予想だにしなかった。少しずつ工事進行基準の問題など報道も出てきて、また、当時は、シャープの在庫の問題もあったので、一般論として、短期は在庫の無理な積み上げ、長期は工事進行基準の問題をブログに書いた。

 

事件後初の会見

513日の発表と515日夜の説明会は、事件発覚後、初めての会見だったが、数字が肩透かしを食うほど少ない500億円、しかも電力関連は過小な印象であった。

ただ、あくまで特別調査委員会での単独工事基準の2011年から2013年度までのものであったので、連結にした場合、業績への影響度合いを分析するための質問に集中した。すなわち、WH等の減損、IFRSとの関連、期間は2010年度以前はないのか、既に事業譲渡したものは対象ではないのか、等である。

この時点では、影響度合いについての報道やアナリストの分析は皆無であったが、500億円という数字をヒントに、その分母を計算することで、不適切会計処理の確率を計算し、1%と推定されることから、影響度合いを2011年度からの場合、10001500億円と推定した。

その後、612日に特別調査委員会での調査概要を公表、影響度合いは530億円強となり、25日には株主総会が開かれ、不適切会計処理の詳細が説明された。

 

風向きが変わった

この頃から、単なる不適正会計処理というよりは、悪意の粉飾的なものもあるように感じたが、大半の話は、そうではないと信じていた。

また、この頃から、トップの不仲など、人間関係面でのリークや記事が増えていった。金額については、会社側の500億円強がコンセンサスであり、1000億円は超えないだろうとの見方が大半であった。

7月に入り、営業利益の影響度合いが1000億円、1500億円とのリークがあり、同時に、不正の範囲が工事進行基準関連だけではなく、パソコンやTV、半導体にも広がり、会計処理の中身の質が、特別調査委員会とは異なり、粉飾の可能性が高まってきた。新聞報道が連日となり、第三者委員会や当局からのリークらしきものが増えてきた。組織ぐるみの不正というトーンでトップや監査役、監査法人の責任を問うというのがコンセンサスとなってきている。

以下、ブログに書いたものを記す。関連するものが16件ある。http://www.circle-cross.com/2015/04/06/201546-東芝-水素インフラ事業説明会-消化不足/

http://www.circle-cross.com/2015/04/20/2015420-双極型経営重心の東芝の重心外れディスカウントの悩み/

http://www.circle-cross.com/2015/05/14/2015514-総合電機の経営重心とポートフォリオ-短期も怖いが長期も不安新/

http://www.circle-cross.com/2015/05/16/2015515-東芝の不正会計リスク/

http://www.circle-cross.com/2015/05/18/2015517-収益性と健全性-ャープと東芝に思う/

http://www.circle-cross.com/2015/05/25/2015524-短期利益を操作できる在庫-シャープ/

http://www.circle-cross.com/2015/05/26/2015525-東芝の不正リスクの影響-その2/

http://www.circle-cross.com/2015/06/01/2015529-東芝の不適切会計問題その3/

http://www.circle-cross.com/2015/06/16/2015615-東芝-不適正会計事件の教訓/

http://www.circle-cross.com/2015/06/27/2015626-東芝株主総会で説明された不適切会計-手口-への印象/

http://www.circle-cross.com/2015/06/30/201571-今月からはブログの詳細は会員様関係者様は専用ページ/

http://www.circle-cross.com/2015/07/04/201574-東芝の不適切会計影響額は1500億円の模様-日経報道/

http://www.circle-cross.com/2015/07/05/201575-東芝不適切会計問題-影響額の試算は当ったが気になること/

http://www.circle-cross.com/2015/07/09/201579-東芝の不適切会計問題-最悪に備え-トップ就任を待つ/

http://www.circle-cross.com/2015/07/15/2015715-東芝-第三者委員会正式発表を待つ/

http://www.circle-cross.com/2015/07/17/2015717-中計と繰税と企業文化-そしてアベノミクスの本当の意味/

  1. 見通しの反省~情報封鎖統制の中で

     

     今回は、3カ月間も、会社側と全く連絡が取れず(もちろん、第三者委員会や当局とも)、マスコミのリークも記者独自というよりフィルターがかかった第三者委員会や当局からのものである。その中でどこまで、影響金額、やその中身、手口や、原因などを推測可能かという、長年のアナリスト活動においても、あまり前例のないケースである。

     

    手がかりが少ない中では数字は当った

     513日の公表までは、手がかりは、①業績予想無、②無配、というだけであり、そこから推定できるのは、無配なら単独債務超過の5000億円、あるいは、これまで判明している中で、WH減損やサザンプロジェクト等の最悪ケースを考慮した1兆円規模の影響であった。

     513日の公表後、不適切会計処理の確率から、2011年度以降では、1000-1500億円と推定し、その分布のイメージは3000億円までだろう、と記した。

    その後、1000億円とか1500億円、また一時は、17002000億円と目まぐるしい報道があり、現在は、営業利益の影響は1600億円となっているが、その意味では、かなり適切な推定だったといえよう。

     

    手口や中身、原因もだいたい指摘した範囲

    内訳や手口に関しては、まだ不明だが、PCTVに関連して、サプライチェーンの複雑化を悪用したらしい、というのもまずますの指摘であったろう。工事進行基準や開発費計上などは、現在はもちろん、正式発表があった後も、悩ましい問題だろう。原因も複合的だが、だいたい指摘した範囲だろう。

     

    組織ぐるみとは思わなかった

    しかし、トップが悪意をもって行った組織ぐるみとというのが事実であれば、これは、全く誤ったが、推定無罪であり、われわれが、判断すべきものではないだろう。

    ただ、2005年以降は運用サイドであったため、佐々木社長以降は説明会以外の接触はないが、それまでは青井社長以来、歴代の社長をはじめ、多くの役員や幹部はじめ役職員と親しくさせて頂く中で、また同窓生も多く、お世話にもなり尊敬もする方々が多い東芝が組織ぐるみ、というのは考えにくかった。

  2. 近因と遠因、粉飾が起きる三つの条件

     

    原因については、業績への複合的プレッシャ、第一は全社での繰税取崩しのおそれ、第二は最高益達成意欲、第三はリストラ回避、がある。

    また、それを許したガナバンスや制度、社外役員や監査法人などの問題、さらに、その背景としての、トップの不和やポートフォリオの問題、社内風土等の問題もあろう。必ずしも、東芝側の問題とはいえない、会計制度に起因する問題もあるのではないか。

     

    近因と遠因

    原因については、直接的な、あるいは短期的な「近因」と、長期的な、あるいは間接的だが実は本質的な「遠因」に分けて考えたい。

     

    四つの近因

近因としては、第一に、2013年当時は、日立はじめ電機メーカー各社が最高益更新、当社も89年度の最高営業利益3159億円を更新したいという焦りがあったのではないか。メモリ好調で期初計画を上回る営業利益2908億円であったが、これはNINA社の減損310億円を含む原子力関連の一時費用600億円前後を含むものであり、これが無ければ余裕で最高益を更新していた。途中までは何とか更新しようと頑張る中で、各部門にプレッシャがあった可能性は否定できない。

第二は、監査法人との関係である。原発関連費用計上を巡って、監査法人と最後まで議論があり、それで他の部門が手薄になったのではないか。

第三は、組織再編や人事では、田中社長は2013年に就任だが、CFO2014年に久保氏から前田氏に交替しており違和感があった。

また、2013年に秋にセグメント変更、組織再編をしており、社会インフラ事業グループが、電力社会インフラと、コミニュニテイソリューションに分けられている(今回問題となったスマートメータは社会インフラ、ETCはコミュニティソリューション)、また問題のPCTVがデジタルライフに纏められており、腑に落ちなかったが、これも影響したのではないか。

これらは原因というよりは、今となっては、むしろ疑わしいゆえに、誤魔化そうという意図の表れかもしれない。もちろん、再編の中で赤字が続けば、リストラされるというプレッシャが強くなった面は大きいだろう。

第四は、リストラの影響であり、まさに半導体では、リストラ工場閉鎖に伴い顧客に迷惑をかけないように在庫を積みあげたのが裏目となった。

 

三つの遠因

遠因としては、第一に、経営重心理論でいえば、半導体と電力という、特性の異なる二つのコアに特化してしまったことがある。

この30年、それぞれが補完し合いながら、うまくやってきた。これは、その間にPCなど両者を繋ぐ組織、あるいは双方を理解する人材もいたからである。

しかし、その部門がリストラされ、人材も去る中で、半導体は短期サイクル、大ボリュームとなるリスクをとり、他方、電力はWH等を傘下におさめ、長期の原発安全という眞逆のリスクをとってきた。

いわば、一つの屋根の下で、シリコンバレーと江戸幕府が共存するのが限界となってきたのかもしれない。不仲が指摘される西田氏と佐々木も、出身母体と同様の気質の違いが大きい。

第二は、当社だけの問題ではないが、カンパニー制のあり方だ。そのトップはP/L責任は問われるが、B/S項目は在庫と設備投資などの有形固定資産が中心である。

今回の会計の問題は、工事進行基準では、長期のたな卸しであり、半導体やPCは在庫が問題であり、まさにB/S項目である。もし、カンパニーにも、完全に全てのB/S項目が配分され、そこについて責任ととり目を配らせるのであれば、P/Lは黒字でも、B/Sを見れば不適切だということが指摘されやすい。

第三は、ハイテクではサプライチャーンが複雑化している。特に、今後は、オープンイノベーション・協創といった中では、顧客やパートナーとの開発費などサンクコストの配分やリスクの応分の負担などが課題となるが、それに製造業の会計システムが適応できていないように思う。

 

粉飾が起きやすい条件

 これらを纏めると、粉飾が起きやすい条件としては、環境と、素地や組織、そして社風の掛け算になる。日立と比べると三つとも起きやすい。

第一に、環境である。ここでは、業績へのプレッシャである。全社では、もともとはITバブル崩壊後やリーマンショック後、3.11直後では、繰税取崩しを避けたいというのがあったかもしれないが、最近では、最高益達成への意欲や焦りである。さらに、その中での各事業部でのリストラされたくないプレッシャであろう。

 第二だが、こうした環境は、どこの会社でもあるが、その結果、粉飾をしてしまうか、くいとめるかは、素地や組織制度となる。すなわち、粉飾をしやすいサプライチェーンの複雑化、工事進行基準、また、カンパニー制、組織が縦割りでお互い監視が効かず、無関心だった点も要因だろう。垂直統合モデルや、短年度の決算が多ければ、やりたくでも、やる手法が限られる。

 第三は、粉飾を許す社風であり、良く言えば、明るい、別のいい方をすれば、融通無碍、いい加減さ、があろう。また、そうした社風に影響を及ぼす、トップの性格である。この10年はトップも良く言えばカリスマ、換言すれば、スタンドプレーである。

 

2000年以降も惰性、温床が増えた?

 要するに、他社もそうだが、90年代までは、多くの会社が多少の不正会計処理はやっていたし、特に、PCTVはサプライチェーンが複雑化で、誤魔化しやすくなり、半導体では在庫処理、重電では工事進行基準と、不正をする温床が増えた。2000年以降、ガバナンス強化の中で、当社は、ITバブル崩壊、リーマンショック、3.11と厳しい財務基盤の中でついつい、やめたくてもやめれなかったのではないか。

 

2002年度、2008年度は債務効果の怖れ

実際、B/Sを分析すると、2002年度、2008年度は、株主資本から繰税分を引くと、実態は債務超過となる。また、その3期後に、B/Sが厳しいのも関わらず、WHLGを買収、中計でM&Aにより電力による成長ストーリを描いている。

 

WHLG買収のもう一つの意味

3.11で風向きは変わったが、2006年当時は、環境問題、炭素削減の中で、原発ルネッサンスといわれ、高収益の原発事業をコアに、WHを買収するのは、高い買い物とはいえ、合理性があり、同時に、課税所得の上乗せにもプラスである。

これとDRAMに代わって新たなコアとなったNANDフラッシュの高成長高収益なら、繰越欠損金を十分上回る課税所得をあげられ、繰税取崩しの必要はないと判断されただろう。

それに比べれば2011年のLGは当時としても、やや説得性にかけ違和感があったが、スマートメータは成長分野でやはり課税所得上乗せにはプラスである。

 

田中氏の苦労と良心

田中氏は、PCTVの調達を担当する中で、過去、マジックともいわれた、半分は、驚嘆すべき手腕、半分は腑に落ちないPC急回復に貢献してきたのかもしれない。

それが、社長就任後は、もう、そうした不透明な処理はこりごりで縁を切りたかったのではないか。同時に実態の収益性を知っていたがゆえに、PCTVをリストラへの意欲も強く、今後は、真に正しい会計処理でIFRS移行に舵を切りたかったのだろう。

 

 

  1. 東芝の歴史、日立と比較して

     

     アナリストとして東芝との付き合いは、1980年代半ばからである。この時期は、振り返ってみれば、東芝が半導体やPCで大きく成長した時期でもあり、社長をはじめ役員もカリスマ的な大物が多かったし、それは実績をともなっていた。

     

    歴代の先輩は日立を評価、東芝に辛口

    当時、NRI1970年代以前に日立や東芝を担当したアナリストは皆、日立を評価し、東芝の評判は悪かった。他方、80年代以降を担当した先輩は東芝を評価していた。考えて見れば、この30年、特に、1985年から2010年の25年間は、相対的に、東芝が健闘し、日立が不振であったのである。

     

    30年は長いようで長い歴史の中では、特殊な四半世紀であったのかもしれない。それゆえ、東芝の本質、根っこは、私の知る東芝ではなく、先輩の知った東芝が本当の姿だったのかもしれない。

     

     

    日立の25年、東芝の25

    もともと、日立は自主独立、技術志向、野武士とされたが、IBMスパイ事件以降、どこかおかしくなった。IBMを妙に意識、コンプレックスとなったように思う。また、DRAMに成功し、それでやや、社風が変化した。

    さらに、90年代は成長へ焦り、があり、ポートフォリオの組み換えで、PDP参入やIBMからのHDD買収などで苦戦した。また、半導体や液晶などの再編や、プロジェクトでは、それまでと異なり、国家に依存、それが半導体等再編終了後は、本来の姿に戻りつつあるのかもしれない。

    東芝、戦前から、どうも、依存心があり、提携が好きで、国家に頼る傾向が強いようだ。それが経団連や財界活動に熱心なことにも表れている。GEに精神的に依存している。また、危機に外に助けられ再生する。

    実際、ココム事件を機に、国際性に目覚め、DRAMPCで成功したが、それが一巡した現在は、原発など国への依存が大きくなり、また財界活動が盛んとなり、昔に戻ったのかもしれない。

    長期での日立と東芝を、縦軸に他社への依存マインド、横軸に国内官公需への事業的依存度をとると、わかりやすい。この四半世紀は、この二軸で、両社が接近した時期なのであった。

     

    東芝の宿命

    尊敬する大先輩の言葉だが、「東芝は君が指摘する根っこではないが、何か宿命的な問題があり、戦前から、何十年に一度、危機となる、ただ、その時に、財界の大物、偉大な経営者が外からやってきて立ち直る」という。戦前は、藤山雷太であり、戦後は石坂泰三、土光敏夫である。

     この25年はココム事件でも、フロッピーディスク事件でも、あるいは、シリコンサイクル、ITバブル崩壊、リーマンショックも、独自で耐え、むしろ、それを糧に国際性を広げ、選択と集中で立ち直ってきた。これらは、いわば「外患」であった。今回の問題は「内憂」であり、それゆえ、外からトップを招いての、改革が必要なのだろう。

     

    日立vs東芝 営業利益 比較

日立vs東芝 営業利益率比較

  1. 今後の展望~ポートフォリオ組み換えと業界再編、トップ人事

     

    今後について、考えるべきポイントは、東芝の今後と、業界全体、あるいは電機業界をこえ、上場企業全てのガバナンス体制への影響である。いずれにしても、少なからず大きな影響が起きてこよう。

     東芝については、第一に、業績面を踏まえ、更なる選択と集中、ポートフォリオ組み換えの有無であり、第二がトップ人事や体制である。もちろん、上場継続や監理ポストの点、業績修正、などもあるが、当局等の判断なので、ここでは論じない。

     業界については、東芝のポートフォリオの変化、あるいは選択と集中を受けての業界への余波である。

     ガナバンス面では、エンロン事件級との見方もあり、各社の体制、当局の規制等にも影響しよう。

     

    東芝のポートフォリオと体制

    体制については、奇跡的に維持されてきた2コア制は継続してほしいが、その場合には、あまりに異なる事業ゆえに2CFO制など斬新な工夫が必要だろう。しかし、そもそも、業績が厳しく、B/S毀損がある場合は、セミコン社などを分社し上場、他の有力部門も同様で、総合電機という体制が変わるかもしれない。また、その他のグループ会社の資本構成も変わろう。

    また、カンパニー制なども、変わるかもしれないが、もし維持するなら、では、B/S項目も配分し、P/Lだけでなく、B/Sも常に意識すべきだろう。

    また代取には、日立における川村改革以上の改革が必要である。西田氏、佐々木氏などのOBにも影響力がある超大物が必要だ。現在のポートフォリオを維持し、あるいは外部から招聘するなら、半導体事業をよくわかりグローバルな視点もある経験者が望ましいだろう。ただ、これもポートフォリオによって全く変わり、セミコン社を外すなら、重電が中心となり、当局と連携が深く、より国策に沿ったトップとなり、半導体事業への理解は重要ではない。

     

    二つのやり方

     ポートフォリオあるいは体制を決めるのが先か、トップを決め、そのトップに全部任せるのが先か、という意味で二つのアプローチがある。

    しかし、外部から招く際に、ある程度、BS強化や当局の指導も踏まえてとなると、前者のアプローチとなろう。あるいは9月に現役員の多くが退任、繋ぎで、現在の役員が、銀行や当局などと連携指導を受けながら、ある程度、リストラを進め、新ポートフォリオを固めてからとなろう。その場合には、当然、分社化も多いだろうから、それに応じて、トップも変わってこよう。まず、ほぼ現在のポートフォリオを維持するか、解体するか、で大きく変わる。

     

    第一のシナリオ

     とりあえずは、現在の2コア制を維持、総合電機の中で再生していくシナリオである。そうなると、例えば、当局(金融庁も経産省も)が信頼をおく、外部招へいのトップの下で、ポートフォリオはいじらずに体制強化をしていく、というものである。

    もちろん、カンパニー制の見直しや、一部、ノンコアでの売却、コアでも資金面の問題から一部の売却はあろう。

     この場合は、引き続き、半導体と電力がコアだが、経営重心的にもあまりに異なる故に、二つを繋ぐ第三のコアが必要だろう。それは、もはや収益性でもガバナンス的にも問題のPCTVではない。会社側は、水素事業やヘルスケアを候補としているが、サイクルとボリュームにおいて、やや電力寄りであり、半導体とのシナジーも少ない。また、ヘルスケアでは、更なる買収、したがって資金が必要であり、やや特殊である。ヘルスケアはまさに電力に近いが、収益化はだいぶ先であろう。

     

    第一のシナリオなら東芝テックをコアにI作戦温故知新

    そこで提案したいのが、東芝テックであり、社内とりこみである。東芝テックは、もともとは「マツダのランプ」の東京電気であり、半導体と同じ源流であるが、システムソリューション志向である。先年、IBMPOS事業を買収、売上5000億円、営業利益300億円規模であり、第三のコアとして遜色ない。流通分野のビッグデータもとりこめ、スマートシティなどでは、電力とのシナジーもある。府中工場に代表される制御技術とのシナジーもある。つまり、80年代の情制本時代のI作戦の原点に回帰するのだ。TVPCから撤退すると、大衆とのインターフェースがなくなるが、身近なコンビニなどで、大衆との多様な接点ができる。これまでは、上場企業ということもあり、PCなどのデジタルメディアなのか、重電よりなのか、位置づけも難しかったが、今こそ、新しい新生東芝のコアとして鍵を握ろう。

    第二のシナリオ

     財務基盤強化も含め、セミコン社を分社化、上場を目指す、というものである。この場合は、日立と同様に、重電中心に社会インフラがコアになる。日立よりは、電力なかでも原発に依存しすぎており、やはりテックなどIT系の強化は必要である。

     分社化されたセミコン社は、もちろん現体制、生抜きがトップでいいだろうが、経営の遠心力が働き、自由に外部と提携も増えよう。サンディスク社との関係の見直し、強化、あるいは、ロジックやディスクリートも、部分売却や、ルネサスやソシオネクストとの連携など再編もあろう。

     

    中国紫光集団にマイクロンが入った場合には旧エルピーダとの統合も

     メモリー部門で注目されるのは、中国の紫光集団から買収提案があったマイクロンである。中国企業傘下となって技術流出を嫌う政府の意向があれば、旧エルピーダをセミコン社が買い戻すという考えもあろう。高収益高成長のNANDフラッシュも長期でみれば限界もあり、多様な技術を確保することは重要であろう。これまでも、旧エルピーダの危機時でもやや慎重だったが、今回はわからない。あるいは、いっそマイクロンと合併で一気にメモリーで世界トップという作戦もあろう。

     

    第三のシナリオ

     現在の東芝のままでは社会インフラ部門は日立に比べやや脆弱であり、長年、東芝の収益を稼いできたセミコンこそをコアとして、むしろ電力などを売却するシナリオである。電力部門は、WHLGなどもあり、国家戦略の原発を民間企業で保有するのは、投資家を満足させる収益性と公益のバランスが難しい。東電などキャリアと一緒にして垂直統合を考え、原発の一気通貫の企業を設立するというものである。この場合は、トップは、外部から招へいとなる。さらには、東電に売却する場合もありえよう。

     

    シナリオの組み合わせ

    もちろん、上記の組み合わせもあろう。適正な会計処理をした場合の真の各部門の収益性や、不正の責任なども踏まえ、再構築されていこう。その中で、TVPCだけでなく、白物、ビル、ヘルスケア、産業関係なども、議論がなされよう。

    まず、おおらかなポートフォリオや会社の形ができた上で、それぞれに応じたトップを選び、そのトップが詳細にポートフォリオを見直すというのが望ましいだろう。

    電機業界への影響~世界の半導体再編を加速

     東芝が全く解体されないにせよ、ある程度の分社化などは必至だろうから、電機業界への影響は避けられない。

     半導体では、上述したように、マイクロンが紫光集団に買収される可能性がある。紫光は、もともと中国の名門清華大学が設立した投資会社だが、スプレッドトラムや、RDAマイクロニクスを買収、インテルとも提携している。

     インテルによるアルテラ買収をはじめ世界の半導体業界は大きな再編の渦中だが、これまで蚊帳の外であった日本も、これに巻き込まれ、逆に、主導権をとる可能性もあろう。東芝セミコンと旧エルピーダ、あるいはマイクロンとの統合があれば、大きな地図の塗り替えになろう。同時に、リストラは一巡したが次の成長を模索するルネサスや、事業モデルを模索中のソシオネクストなども含め、大再編となるかもしれない。

     さらに、リストラ中のシャープの事業売却などにも影響があろう。最近、M&Aが多い、ヘルスケアでも合従連衡が起きるかもしれない。また、PC事業やTV事業で、ソニーやNEC、富士通も巻き込んだ水平分業会社の誕生があるかもしれない。

     

    経産省の10年越の執念と産業革新機構

     日本では、半導体や液晶などを中心に、2000年から2005年にかけ、再編の動きがあり、エルピーダや、ルネサス、TMDのちにJDIの再編があった。しかし、当時は、半導体では、最有力の東芝、液晶でもトップのシャープが独自路線を志向し、富士通も別の道をとった。しかし、今回は、その東芝、シャープが再編を迫られており、10年越しの経産省の思いが実現するかもしれない。

     あと10年の産業革新機構も、いずれはルネサスや、JDIの株を売却しなければいけないが、これに、東芝やシャープの再編が影響してこよう。

     IT系だけではなく、LGなどの保有も同様であり、その意味では、東芝の再編は、産業革新機構の次の10年、あるいは、その存在意義にも関わってこよう。

     

    ガバナンス体制への影響

    ガナバンスコード元年とされるこのタイミングで、経営学の権威や、官界OBを看板に十分な体制を築いてきたはずの同社がかかる事態になったことは重い。また、皮肉にも、シャープでもソニーでも同様である。

    学者や役所や経営OBはともかく、政界や、最近の大学と同様に、有名人やタレントを、社外役員にもって由とする風潮には強烈なアンチテーゼであり、形式ではなく、実効性こそが問われるというのが天の声かもしれない。

     

    水面下

    おそらく、既に、各社で、一斉に、不正会計処理の疑いがある案件を見直していることであろう。同時に、監査法人も同様である。また、双方で、アリバイ作りも始まっていることであろう。その結果、IFRS導入前ということもあり、各社で今期は特損がどんどん出て膿をだすかもしれない。

    他方、今後、当局やマスコミに対し、告発も増えてこよう。あるいは、既に、当局が怪しいとされる企業には調査を開始しているかもしれない。

    東芝のケースは、いくら学会の権威や有力官僚、あるいは体制の形だけをつくろっていてもダメだという、一罰百戒の意味あいも大きいだろうが、東芝だけでは、不公平だと、他の大企業なども告発合戦になる可能性もあり、それがあまりにひどいと当局も乗り出さざるをえない。

     

    明解な基準を

    また、IFRS導入を前に、今回、問題となった、研究開発や、工事進行基準、繰税などは海外の税制なども含め、不明確な部分も否定できない。また、そもそも監査法人の違いで、ダブルスタンダードがあっていいのか、という疑問もあろう。実際、これについては、企業会計基準委員会などで繰税資産の回収可能性について適用指針を作成しているが、他についても、オープンで透明性の高い議論と基準作りが急がれよう。

     

    アベノミクスの別の狙い

     アベノミクスや黒田バズーカの御蔭で、年金債務は減り、為替調整勘定も改善、P/L以上にB/Sは大きく改善した。中計でも、機関投資家の要請に応えるべく、ROE向上か掲げている。しかし、IFRS導入を前に、この株高円安で、簿外債務如きは無くし、甘い不良資産は減損し、B/Sを綺麗にしないといけない。いわば、これが最後のチャンスであり、そういう猶予を与えているのが、アベノミクスの別の狙いだったかもしれない。業績向上だけでなく、業績のクオリティが求められるのだろう。

     

  2. 教訓~社外役員制は機能するのか

今回、大きな議論をよぶのが、ガバナンスであり、社外役員制である。日経新聞電子版では、以下のようにアンケートが実施されている。

企業統治(コーポレート・ガバナンス)の形骸化が指摘されています。日本企業のガバナンスを機能させるにはどんなことが必要だと思いますか」、選択肢としては、「A.社外取締役を増やす、B.社外監査役を増やす、C.経営者が緊張感を持つ、D.経営と執行の分離、E.法令順守の意識を高める、F.情報開示や投資家向け説明会の数を増やす、G.その他」

である。おそらく常識的には、あるいはマスコミの論調としては、社外役員を増やす、経営と執行などを強調されるのだろう。

 

社外の難しさ

先述のNRIの大先輩で、無報酬で社外監査役の経験もある方の意見は、「社外役員を増やすというのは反対だ」ということだった。また、大手メーカーのOBで大学教授の方からも、「経営学者に経営はできない」とのコメントを頂いた。

私も、両氏に全く同感である。特に、ソニーも、シャープも東芝も、経営学の権威や立派な有識者を招き、形は整えたが、全く機能しなかった。むしろ、鍵は常任監査役であり、その権限をCEO並みにあげ、十分なスタッフをつけることだろう。あるいは、知名度などよりも、実質的に会社を理解し、アドバイスが出来、十分な時間をとれる人間を配置することだろう。現在ある独立性の縛りをゆるくして、OBや関連会社の方を精選して招くというのも一案だろう。

 

利益相反

また、社外監査役も監査法人も、正しく厳しいことを言えば、長期では会社のためになるという意味では利益相反はないようだが、短期中期では当然利益相反はある。会社から高額は報酬をもらい、選んでもらったトップに恩義を感じるとなかなか、厳しいことは言えないし、告発もできない。そこで、持株会など長期の株主などから報酬をもらうのが妥当だろう。その分、長期株主を優遇して配当を多くすればよい。

シャドーキャビネット制を導入し監査を委ねる

あとは、政党政治における野党のような存在が必要かもしれない。実際、ファーウェイは、シャードーキャビネット制をしいている。すなわち、常勤監査役をCEO、その下にCFOCOO、各事業本部のトップ級を配し、監視させ、かつ意見を求め、不祥事や業績不振の場合には、シャドーキャビネットが、そのまま経営陣となるのである。

そういう緊張感があってこそ、狭いコンプラ的な意味だけでなく、真の経営チェックができよう。これは、実は、日立の川村-中西改革が似ている。この場合には、かつてのトップが有力な子会社の経営陣としてなどで温存されていたからこそ、可能であった。いくら優秀であっても、実ビジネスから離れ、あるいはバラバラになっていたら不可能であっただろう。

大手電機では、ポストが少なく、運不運もあり、トップになれないが、そうした優秀な人材を、社内シャードーキャビネットや、有力子会社に配置し、それを常勤監査役の役割を担わせるのだ。

 

CFOのあり方

 CFOのあり方も極めて重要である。そもそも、かつては財務部長、経理部長といっていたのが流行でCFOとされているが、日本の多くのCFOは米国のCFOとは全くことなる。米国のCFOはむしろ、日本のCEOCOOに近いかもしれない。あるいは日本においても、CFOは監査的な側面と、経営的な側面があり、混同している。

 CFOのキャリアパスも、日立などは、多くは経理や財務一筋だが、もともと技術系でCFOを経てCEOとなって業績を大きく改善させたアンリツの橋本氏のケースや、オムロンでは、事業部トップを経験しないとCFOをさせないという例もある。日立などは、総合電機であり、ポートフォリオを見る上で、監査的な役割が大きく、アンリツやオムロンは、米国流に近いのかもしれない。

 こうしたCFOのあり方、役割も、社外役員や監査役制度、さらには、会社の文化や財務状況、ポートフォリオと密接に関連するため、一概にいえない。

 

一般解はないが忠実義務

会社それぞれ人もそれぞれであり、全ての企業に同じ公式、一般解はない。しかし、重要なのは忠実義務であり、職位の上下関係や、過去の人間関係ではなく、職務に如何に忠実かであろう。会社によって、その職務の定義を明解に定めることが先決であろう。

 経営陣は、投資家からはROEを上げろといわれ、社内からは業績達成のためにプレッシャはいけないと、両挟みである。そこでは、平重盛ではないが、忠と孝の狭間で思い悩み、それが企業の自由な活力を失うことになってはいけない。

 今回の問題で、さらに、形式論がふえ、アリバイ作りが横行するだけなら、本末転倒であり、ますます、国際競争から脱落する。なら、いっそ、ファーウェイのように上場をやめればいいと、大手企業中心に、新たな動きが出てくるかもしれない。

 東芝も、業界も雨降って地固まり、新たな樹が育つことを祈る。