2016年2月17日 三菱電機の研究開発説明&展示会

 

217日 14時半~18時、マスコミと投資家アナリスト合同。年1回、かつては鎌倉や尼崎の現場であったが、最近は本社。主席者は柵山社長、近藤常務、松山常務。柵山社長より挨拶の後、開発本部長の近藤常務よりプレゼン後、やや時間が短かったが質疑、1510分より、自由に展示見学。

 

http://www.circle-cross.com/2015/06/06/2015年6月4日-三菱電機の研究開発/

 

 

展示コーナーは25ブースあり、コンパクトだが実展示も多く、迫力があり、バライティに富みバランスも良い。昨年1112日にも、アドバンストソリューション2015の展示会があったが、殆ど同一のものはなく、今回の方が説明者も親切丁寧であった。元社長で産総研のトップでもある野間口氏も海外の見学者を連れて見えられ挨拶できた。

 

今回は、18時まで、全部のブースで担当者の方の説明を聞き、質問もでき、多くの方々とフェイス・ツー・フェイスで、実機もさわりながら議論でき勉強にもなり楽しかった。おかげで最後の30分位は、私以外に外部の人間はおらず迷惑をかけた。

 

近藤常務による研究開発戦略説明

 

遅くとも2020年までに売上5兆円とするため、強い事業創出、ソリューション事業の強化という成長戦略のための開発推進。ユニークだったのは、卵の喩で、サイズは異なっても黄身の部分は同じで白身が異なる。黄身が機器(パーツ、コンポーネント、システム)、白身がサービス(導入、運用、保守、付加サービス)であり、総合電機ならではの価値提供というのは今の時代、今のポートフォリオからはその通りで納得感があった。

 

また、研究開発の考え方は、中期を4年~、長期を10年~とし、長期では、これに、未来の社会を空想、そこからバックキャストからあるべき姿の実現に必要な未来技術と、パラダイムシフトにより事業に影響を与える破壊的技術があるというもの。

 

これにオープンイノベーションが関連するが質問で確認すると、両方あるが、破壊的技術はどこから出るかがわからないから、バックキャスト型の方が多いようだ。オープンイノベーションの例や仕組みについては他社と違って説明がないが、大学や国研などとやり、単位は不明だが2015年は2倍、16年は3倍になるという。

 

また、20157月に、未来イノベーションセンターが、デザイン研究所内に発足、これは、バックキャスト、あるいはシンクタンク的に未来社会を考察、外部コンサルも使いながら、目利き力世界中のVBなどを探索、必要に応じ出資もするというもの。デザイン研究所は、三菱電機の特長だが、デザインとは、工業意匠だけではなく設計もあり仕組みという意味もあり、それゆえ、未来イノベーションセンターをここに置いた、というのはなるほどと思った。

 

 研究人員は2000名、尼崎・京都にあって、ハード系の先端技術総研は1000人、鎌倉にあってIT系が多い情報技術総研800名、デザイン研100名強だが、ハード・ソフトという分類は溶けていくとの見方。

 

 展示テーマは、未来へのメガトレンドと課題を抽出、それを解決するキーワードとして、IOT、スマートモビリティ、快適空間、安全・安心インフラ、とした。

 

案件は、IOT7件、スマートモビリティ5件、快適空間6件、安全・安心インフラ6件の4区とし、それぞれ、2020年を境に早いものを明日への切符、それ以降を未来への扉と表現して分類(ほぼ半々)、未来イノベーションセンター1件で計25件である。

 

IOT分野

 

A-1 高性能センサーデータベース(2020)

 

色々なセンサーから得られた道路や構造物の3次元の社会インフラのデータを10001に圧縮するというもの。従来なら100兆件のデータは950TBだが15TBになり、蓄積時間は430分が8.8分、検索時間も1700秒が2秒へ。データは座標、高度、輝度、状態などだが、①700通りのパターンにし、更に②配置を最適化、③処理単位も最適化、①と③で数十倍に圧縮、②は数倍のようだ。ある程度、対象を絞ってことで圧縮できたが、処理時間がリアルタイムになった意味が大きいだろう。

 

A-2 しゃべり描きUI(2016年度中に実証実験呼びかけ早期事業化~2020)

 

 デザイン研らしい成果で、外国人や障害者などに非常に便利だろう。技術としては音声認識、翻訳、文字認識で試したが、完成度が高い。2020年のオリンピックや医療など、いろいろ展開がある。今後、スマホなどに展開するといいだろう。アンドロイドにはOKのようだ。

 

A-3 次世代モノ作り(2020)

 

 インダストリー4.0を実現しつつある、e-factoryの三菱電機ならではの展示。生産ライン立上げの時に、人がテストで部品を流すのを、仮想的にシミュレータで行い、省略でき、調整時間を1/4にできる。新規立上げや、ライン変更時に有用だろう。もちろん、最終の確認はいるし、中小企業や町工場、保守的な現場で浸透させる活動が重要だろう。

 

A-4 検索できる暗号技術(2017年度に製品搭載)

 

 カスミ、ミスティなど暗号技術で実績のある同社が、クラウドに展開。クラウドでは検索内容がわかると個人情報管理などの上で問題だが、暗号化されたままで検索できる。ユーザーがキーワードを入力すると、その都度、暗号化されるので、より強固。これまでの暗号技術は基礎研究的で、これは応用だがかなり有用だろう。なお、カスミやミスティも事業化に役に立っており、もっとアッピールすべきだろう。

 

A-5 未来のセキュリティ(2020年~、2030年以降)

 

 コンセプト提示でSF的な内容。まだ中身はない。

 

A-6 次世代ネットワーク(2020年~)

 

A-6-1 5G無線(2018年にシステム実証、2020年以降の5G実用化)

 

5Gに向けての無線は最も注目し長時間質問させていただいた。CEATEC11月の展示でも質問したが、更に理解が深まった。5G時代には基地局アンテナがAPAA(アクティブ・フェーズド・アレイ・アンテナ)になるが、その実機が展示。

 また、もう一つ注目されるのが非線形多重対角化プリコーティング技術である。CAのように、トラフィックが増えた場合には対角化プリコーティング技術で干渉なく信号を送受信するが、それでも端末が近接すると干渉を低減するため、信号を弱くするが、そうすると通信速度が落ちる。今回、非線形多重対角化プリコーティング技術を使うと干渉なく通信速度を維持できるビームを形成できる。

 

A-6-2 光ファイバー通信

 

 光通信の方では、伝送速度を100Gbpsから1TBpsに向上。これまでは1本の波で、受信タイミングは確率論でタイミングのずれを補正していたが、今回は11本の波(うち1本はパイロット信号)10倍にするというもの。この挿入したパイロット信号でタイミングを一括補正。レーザーのλは普通の赤外。

 

 今回の応用は、200kmくらいまでの無中継のデータ伝送用。海底ケーブル等の場合は、中継が必要になる場合も多い。エルビウムドープで無中継距離が増えたが通常は、リシェイプ処理をする。その場合に、プロトコルが違えば、どうするかを確認したが、その時はその時で対応するようだ。また、11本の波を使う際もすでにDWDMは使っている。

 

A-7 コンパクトな人工知能(2020)

 

 従来はAIのソフトなどの設置場所はサーバーであったが、これでは高コストで遅い。そこで、応用分野をクルマ、FA、監視カメラ等に限定することで、演算量やメモリ量を1/10にして、組み込み可能にした。なお、AIはディープランニングのネットワーク型。入力センサーは画像が1000と、その他が500で計1500くらい。

 

スマートモビリティ

 

B-1 無線LANと音波による屋内測位システム(2020 2017年実用化)

 

 これまで誤差3mだった屋内測位を1mにした。駐車場のクルマや、AGVなどを対象。屋外はGPSなどが使えるが、屋内は課題であった。位置は音波センサーを20m毎におく。スマホがあれば使える。

 

B-2 蓄電池性能オンライン診断技術(2020)

 

 リチウムイオン電池の寿命をリアルタイムで計測できる。スマホよりも、産業や交通用。電圧の変化と電流の変化から予測する。これまではシステムを止める必要があった上、誤差も大きかった。メモリ効果があるニッケル水素などは適用できないが鉛電池は可能なようだ。リアルタイムゆえ制御も可能。

 

B-3 衝突を回避する先進運転支援システム(2020)

 

 画像処理と運転の両方。時速60km、早退距離30m

 

B-4 未来社会に向けた完全自動運転技術(2020)

 

 コンセプト提示。無線でやる場合のハッキングなどのセキュリティについては課題。

 

B-5 公共シームレス化ソリューション(2025)

 

 これもコンセプト提示だが、個人の事情に併せて、あるいは大衆の流れに応じて柔軟に、バス、鉄道の事業者が、運行管理を変えるというもの。信号システムが鍵になるので、わかるが、バスや鉄道会社を説得することが大変だろう。むしろ発展途上国でチャンスがあるし、ハード・システム提供だけでなく、運行管理自身も視野にいれているようだ。

 

快適空間

 

C-1 PM2.5を高精度に検出する空気質センサー(2020)

 

 レーザー光を空気に当て、ホコリなどの微粒子の散乱光から、PM2.5の数をカウントする。サイズと形状(球状か否か)から、PM2.5か、花粉か、ホコリかを同定する。手のひらサイズでエアコンやビル内につけることが容易。コストは安くなりそう。サイズと形状の判定基準を変えれば応用が広がる。大学院時代にホログラフィーによる微粒子計測をしていたので関心を持った。

 

C-2 空間に調査するエアコンデザイン(2020)

 

 デザイン研の成果。エアコンの形状はこれまでワンパターン、目立たなくする、薄くして埋め込むとう傾向だが、家具としてある程度目立っていいから調和を重視した。やや値段は高いが量販店の評判はいいようだ。室外機を収納しやすくという意見には、その通りで努力するとのこと。

 

C-3 都市生活を支えるエレベータ(2020)

 

 安心安全をアッピール、昨年11月にも似た展示。

 

C-4 途上国の暮らしに向けたデザイン(2020)

 

 デザイン研が、インドネシアでマーケットリサーチをして、食品保存に絞って、バイクなどに搭載できる冷蔵庫のプロトタイプを開発。社会科学でこうした行動観察を適用。新興国でもスマホは1.5万円くらいしても必要であれば保有されるので、高くても、コンセプトをしっかりすれば売れる。

 

ある種のオープンイノベーションであり、各国に展開してほしい。

 

C-5 女心に響く製品コンセプト作り(2020)

 

 女心は分からないが「本音と建前、罪悪感の正当化」がキーワードだそうだ。いろいろ聞きたかったが恥ずかしいので見ただけ。

 

C-6 宙に浮かぶ大型映像(2020)

 

 空中に光を集光することで映像を見せるというもの。何度か反射しビームスプリッタを使いので輝度が減り、暗い部屋でないと分かりにくいが、サイズは56型と大きくインパクトがある。デモやサイネージにはいいだろうが、TVなどはまだか。

 

かつてホログラフィーを研究していたので関心をもった。今回は平面の集光だが、立体分布にもできるはずで、更に発展を期待したい。

 

安全・安心インフラ

 

D-1 サイバー攻撃検知・制御技術(2020)

 

 サイバー攻撃のパターンを50個位の手口に2年かけパターン化して予防、検知する。ウィルスは一日100万種増え数億種あるというが実際にはこの程度。ある程度、新種もでるが、これでいけそう。

 

D-2 マイクロ波GaNデバイスとその応用(20202016年以降実用化)

 

 GaN応用は、RF通信、レーダー、産業があるが、これはマイクロ波誘導加熱。対象の内部を加熱でき、かつ分布を制御できるのが特徴、実機で確認。

 

D-3 タービン発電機の電磁解析技術(2020)

 

 有限要素法でメッシュを細かくきり解析精度をあげ、発電効率を向上できる設計。鉄の磁性特性がわかれば、その差もわかるようだ。

 

D-4 安全安心を見守る人工衛星(2020)

 

 模型の衛星の展示。日本版GPS2018年に4基、最終は7基となる。

 

D-5 海水アンテナ「シーエアリアル」(2020)

 

 アイデア的だがインパクトは大きい展示。

 

D-6 TMT向け分割鏡交換ロボット技術(2020)

 

 これが2020以降というのが不明だが、重さ250kgの六角形の鏡492枚を交換するものであり、すごいロボットであり、こういうメカ制御技術もあるからアンテナも強いのだろう。

 

E-1 未来イノベーションセンター

 

 ここは関心をもった。まだ専任は数人、兼任含め20人で発足したばかり。オープンイノベーション型の「総研」。