2016年2月27日 日本型EMS事業~鴻海とは真逆の日本のモノ作りの在り方

 

日本のモノ作りの明日と台湾EMSのモノ作り

 

今や、日本のモノ作りは危機的である。シャープを傘下に収めようとしている鴻海の実力を日本人が知れば知るほど、実感するだろう。しかし、日本のモノ作りに悲観的ではない。モノ作りと一言でいっても中身は多種多様であり、製品や事業によって全く異なるからだ。マスメディアや多くのアナリスト、経営学者も含め、モノ作りを一つのものだと考えがちだが、共通点は多いものの、対象が異なれば別である。ゆえに、トヨタのモノ作りをそのまま導入してもダメである。

 

鴻海に代表される台湾EMSは、スマホやPCなどの製品を「早く安く多く」作るは得意だが、それ以外は、それほど強くないのではないか。これまでの議論では、大量生産と多品種少量という対立構図で語られてきたが、「大量生産」には、「多く」とせいぜい、多さに関連する「安く」しかなく、「多品種少量」も、品種と量しかない。ここで欠けているのが、時間軸、サイクル軸である。当然、多品種少量は、難しくなるが、何か楽になるものがなくてはいけない。それが時間軸である。モノ作りには、早くなくてもいいものがある。時間軸、サイクルを、ポートフォリオの中で、うまくコントロールすれば、コストに見合うはずだ。これは、まさに経営重心®の発想そのものである。

 

 つまり、台湾EMSのモノ作りは、経営重心®の製品事業マップで、サイクルが短くボリュームが大きい右上のところでは強いだけであり、ジャパンストライクゾーンでは、なお日本が強い。キヤノンなどは、プリンタにおいては、HPEMSである。また、ここでは、まだ垂直統合モデルも生きており、日本のモノ作りが強い。

 

日本型EMSのあるべき姿

 

しかし、いずれは、台湾EMSも左下に攻めてくるだろうし、日本でも、国内市場の減少の中で、供給側も、高齢化や中小企業や町工場の廃業も増えており、ジャパンストライクゾーンの中で、ファブレス・ファンドリ(EMS)モデル、生産の統合は不可避であろう。まさに、このジャパンストライクゾーンの中で、日本型EMSが増えていくだろう。

 

ある程度、ボリュームが出る上側は、大企業中心に自社工場が中心だが、生産量が少なく、サイクルも多様でのバンド幅は広い下側の領域では、必然的に、EMS化が進む。

 

一つは、FA化であるが、ボリュームが少なくても、品種が一定で、ある程度のサイクルがあれば、生産の仕方が定まっているから、FA化で対応できる。しかし、FA装置を設計・制作するのも時間がかかる。製品サイクルが短く、ボリュームの変動が大きく桁を超えるような場合は、FA化のコストに見合わないだろう。作り方そのものが、コロコロ変わる場合にはFA化より、人手か、部分的なFA化の方がいいだろう。

 

もう一つは、アジア等へのシフトである。しかし、少量すぎ多品種で技術要素も多い場合は難しいため、人件費の低さで、海外生産シフトをしてもペイしないし、また、アジアのEMSでも対応可能な例は少ない。さらに、中期で見れば、アジアの人件費も高騰、新興国通貨リスクもある上、サプライチェーンやロジスティックスの問題もある。それゆえ、国内ユーザー向けに、密な会話やオープンイノベーション的な要素が多い試作品や、短リードタイムで供給する製品では難しいだろう。

 

 それゆえ、国内生産の日本型EMSは存在価値が大きい。また、台湾型EMSとも共存しすみ分けるだろう。現在は、国内向けが中心だが、中期では、海外メーカーも、多様なサイクル(3年~10)で、中ボリューム以下の製品を中心に日本のEMS、しかも国内生産のEMSが活躍する余地は大きいだろう。国内だけでも市場は大きいはずであり、世界では数兆円規模だろう。また、技術者や作業者も熟練が必要であり、日本の中小企業や町工場を、早い段階で集約し、そうした多様な技術の存続を考えるべきだろう。そういう日本型EMSが拡大すれば、日本型モノ作り、老若男女の技術者、ワーカーも含め、期待の星となるはずだ。