シャープが鴻海傘下で新しいスタートを切った。会社全社としても、かつての栄光を取り戻すことを期待する。その前に、頑張らなければいけないのが、OLEDで、先行するサムスンにキャッチアップすることである。JDIも含め、日本、日台連合で、韓国に対し巻き返しだ。
まず、OLEDだが、最大の鍵は、調達も含め、RGB蒸着とマスクである。
蒸着機の搬入は堺しかない
RGB蒸着機については、サムスンは、トップメーカーのキヤノントッキの装置を、年間3台のキャパしかない中で2016年に1台(1台はLG、あとは日台・北米)以上、2017年に3台買占めたようであり、サムスンの寡占化が懸念されたが、LGのキャンセル、キヤノントッキのリロケーションやキャパアップもあり、2017年という時点では、大きな問題にはならない可能性も出てきた。これから開発や投資をするシャープ鴻海あるいはJDIにとってもむしろ丁度いいくらいであろう。
ただ、蒸着機は、G4.5でも全長100m以上、G6ハーフでは120m以上、連結する封止用の真空装置も含めれば150m以上となり、現在、稼働中の亀山第一工場や第二工場にはスペースがない(現在ある装置を外に出し、その間、稼働が止まってしまう)。下図で真ん中の緑色が亀山第一のラインで、そこにキャノントッキの蒸着機の絵を重ねてあるが大きさがわかる。亀山第一でも1-2ラインがやっと、まさにプラントである。将来の拡張を考えれば堺しかないだろう。
マスクもFMMとFHM,の両面作戦
マスクについても、DNPのFMM(フラットメタルマスク)を使い韓国で溶接するサムスンが先行していたが、凸版もかなり追随し、シャープ鴻海もFHM(フラットハイブリッドマスク)も開発が進んでいるようだ。
FMMは、20μmのインバー箔の短冊を鉄フレームに溶接したものだが(下図 参照)、薄い箔ゆえに裂け易く、張力を加えてピンと貼る必要があり、また、高温の蒸着機の環境で使用するため膨張の問題もある。また、穴はケミカルエッチングで作成するが、この寸法バラつきがOLEDの色むらの原因ともなる上、ゴミが詰まりやすくクリーニングが大変、など「筋が悪い」技術ではある。
http://www.circle-cross.com/2015/11/30/2015年11月27日-ltpoとoledの蒸着メタルマスクについて/
FHMは、FMMと違って、張力を加えて貼る必要はなく、膨張も問題が少ないが寿命が短く連続使用時間が短いという問題点もある。
いずれも、穴形状は円筒状であり、蒸着源の位置次第では影ができたりする上、500ppi以上を狙えば、限界もあり、アテネ社が京都市産業技研と開発した電鋳が期待される。
先行はサムスンだが筋の悪い技術ゆえ、十分に逆転もありうるだろう。
OLEDだけが最適解ではない
今回、堺での説明会でテリゴー氏が、強調したのは、「世の中のトレンドがOLED一色になっているが、間違いであり、最大ユーザーの本音は異なり、先行する韓国勢の世論操作作戦ではないか」であった。確かに、昨年秋以降、アップルが2017年からOLEDを前倒し採用とのニュースもあり、サプライチェーンも一気にOLED化へシフトしたが、そこは冷静に考える必要はあろう。テリゴー氏いわく「VHS対βの例にあるように、ピュアな技術の優劣でデファクトスタンダードが決まるわけではない」、それゆえに、日本勢が先行したCMOS-LTPSでは不利であり、OLEDで先行するサムスンが、OLEDを促進する利点は大きい。しかし、スマホでもライバル関係にあり、OLED採用で先行、また蒸着機やマスクを買占め、独占的な現在の状況は、アップルは好ましいとは思わないだろう。昨年秋に盛り上がったLTPOが静かになったのもそうした韓国勢の戦略かもしれず、実態は、JDI、シャープでも継続のようだ。
アップルだけでなく、スマホメーカーが困っているのは、割れにくさや、特に電池寿命や熱すなわち消費電力であり、また将来では、フレキシブル性が重要である。そして常に重要なのはコストだ。前者では、OLEDが有利であり、後者では不可欠である。しかし、電池寿命やコストは、IGZOも優位であり、特に、歩留まり等でRGB塗り分けOLEDでコスト高のうちはチャンスもあろう。2018年まではテリゴー氏が発言した「OLEDは40%、IGZOが60%」はやや言い過ぎだがタブレットやノートも含めれば十分ただしいかもしれない。なお、IGZOはあくまでバックプレーンの話であり、OLEDと単純に比較はできない。
前哨戦はサムスン先行だが日台も十分巻き替えし
それゆえ、前哨戦はサムスンが2週先行だが、あと2年のうちには、日台勢(JDIも含め)も十分チャンスがあろう。これまでハイテクでは、日本が先行、韓国がフォロー、キャッチアップして抜き去るというパターンだったが、今回は、戦いの様相が全く異なり、フォロワーの利点もある。また、サムスンが先行しているのが、難易度が高い技術故に、兵法三十六計の「第二十八計 上屋抽梯」かもしれない。
RGB蒸着機はプラント
なお、RGB蒸着機の概要を示す。G6ハーフでは、連結される封止の真空プロセスも入れれば全長150m、幅20m、高さ8mといい、まさにプラントである。チャンバーも数十、システムは、成膜第一クラスタ、成膜第二クラスタ、封止クラスタ、封止ガラス自動供給ラインからなる。
成膜クラスタ内では、以下のようなフローであり、第一電極の作成、正孔注入層蒸着、正孔搬送層蒸着、発光層蒸着パターン部、電子搬送層蒸着全面、電子注入層蒸着、第二電極蒸着、である。これを繰り返すことになる。
下図は、左が全体構成であり、まさにプラント、右がマスクと蒸着源の関係である。常に高温にチャンバーを維持し、下から、マスクを通しして蒸着する。マスクは短冊状であり、穴形状は複雑である。また、ピンと貼る必要があるマスクは固定させ、基板を動かすようだ。