2016年4月12日 中長期投資に必要な財務情報開示・会計制度改定と経営トップの任期

 

あるべき株式市場、投資家と企業の在り方を模索する中で、中長期投資のために、ガバナンスコードが導入されつつあるが、そもそも、三つの大きな問題点があると思う。

 

長期資産の財務情報の欠落

 

第一は、長期投資を企業側も投資家側も、学会や当局も勧めるわりには、財務情報、特にB/Sにおいて長期資産に関する情報が欠落している。年金負債に関しては、割引率なども含めかなり開示が進んでいるが、資産側は、減損が実際に行われた場合に開示される程度である。

 

企業の活動期間、社長任期は6-8年なのに1イヤールールでいいのか

 

第二は、そもそも会計が1イヤールールだが、これが企業活動を見る上で、最適なのだろうか、ということである。通常、社長の任期は6年、8年が多いし、中計も3年を2回繰り返す傾向があるが、これは、経営重心®の固有周期あるいは企業の時定数が、最低3年単位、実際には6-8年であることを示しているように思う。なお、これに関連して経営トップの任期についての議論は、最後に補足する。

 

時価会計の限界

 

第三は、時価会計の限界である。上記に述べた多くの問題が時価会計に起因する。確かに、時価評価をするというのはフェアであり理想だろうが、ゆえに、主観的になりやすい。長期の社会インフラ事業が増える中で、各社の割引率は同じなのか違うのか。繰延税金資産取崩しの判定の元になる中計等の業績数字は客観的で、そのマクロ前提は妥当なのか。おそらく、同一の事業でも、会社により、監査法人により、全く異なるのではないか。東芝の不正粉飾問題も含め多くの問題が、こうした主観的判断に基づく時価評価で長期資産を計上していることに起因する

 

投資家が短期主義になり、長期事業の日立株が割安?に放置されるのは長期会計インフラが貧弱ゆえ

 

もちろん、だからと言って、今更、簿価会計に戻ることは難しいだろうが、短期的なボラにどう対処し、長期での評価にどう客観性を持たせるか、について、そろそろ真面目に議論をすべきだろう。

 

補論 経営トップの任期は経営重心®の固有周期か~6年は短い?10年以上は長い

 

経営トップの任期は、経営戦略上もガバナンス上でも、極めて重要な問題である。また、任期を定めるのか、臨機応変にするのか、任期は何年であるべきか、など論点が多い。これまで、業績との相関、ガバナンスからの視点で、多くの分析がなされている。全業種では6年弱から7年強であり、経営重心®の固有周期(時定数)が大手電機では5.8年、ジャパンストライクゾーンの期間、また増減益サイクルにも近い。

 

何年がベストかは難しい問題であり、経営重心®だけでなく、会社毎の事情があり、再建中の場合は、長期間かかるだろうし、M&Aなど大きな決断をした場合も同様だろう。逆に、安定した規制産業では事実上、一定サイクルの異動であろう。社長の個人の事情、年齢、景気サイクルとの連動もある。オーナー系と非オーナー系でも異なる。もちろん、会社の組織設計、体制にもよるし、社長の定義次第でもある(http://www.circle-cross.com/2015/09/24/2015922-制度が変われば再定義が必要な社長/)

 

ただ、曖昧に暗黙の了解というのではなく、よく議論すべき問題であろう。経営再建中や大きなM&Aをした場合は、6年では短く10年近い方がいいかもしれない。