2016年4月13日 大手総合電機の中期業績8%の壁と二つの経営重心®リスクの取り方

 

今どき、8%というと、消費税のことかと連想するが、8%は印税の率でもあり、ガバナンスコードで求められているROEの数字も8%だ。

 

企業に求められる8%

 

よく言われているようにROEPBRの相関は、8%以下であれば無相関だが、8%を超えるとリニアになる。いわば、8%が閾値となっており、これがガバナンスコードで8%を意識する一つの背景である。ROEと営業利益率は同一ではないが、営業利益率8%というのも多くの企業で、よく目標に掲げられている数字である。ROEにせよ営業利益率にせよ、8%は、ある時期に達成するのは、そう難しくないが、長期にわたり永続的にと言われると、かなり難しいだろう(故に消費税8%が恨めしい)

 

ファンド運用も常に8%は難しい

 

小職自身、10年間(2005年~2014)、ファンドマネージャーとして、日経平均・TOPIXが下落する中で(TOPIX年率マイナス2.5%)、年率9.4%のリターン(シャープレシオ0.93、ソルチノレシオ2.1)をあげたが、後半の数年は厳しい相場の下で心身共に消耗が激しく、とても、これ以上は続けられないと思った。調子がいい時は10%以上も可能だが、市場の動きと合わない時も多く、AIではない生身の人間ゆえに体調が悪い場合もある。常に8%以上を維持するのは極めて難しい。もし、10年以上続けていたら、平均で8%の維持さえ難しかっただろうし、そもそも、その前に心身を壊していただろう。

 

日立も10%が目標、その前に8%だが

 

 企業にとって営業利益率8%もそう簡単ではない。2018年度に売上10兆円、営業利益率10%を目指す日立も、金額では最高益を更新したが、率では過去最高の89年度にまだ及ばず、8%は超えていない。

 

日立の過去のセグメント別の営業利益率の推移を見ると、構造的にもその難しさがわかる。

 

東芝など他の三菱電機も同様

 

こうした構造は他の総合電機も同様である。東芝も営業利益率10%をある程度持続的に十分に超えられたのは、メモリー(かつてはDRAM、今はNAND)と原発だけであり、それ以外は、5%がいいところである。三菱電機は、比較的いいが、やはり、営業利益率10%以上は、FA、クルマであり、市況的な面がある。NECも現状では公共がいいが、やや特需的だろう。

 

つまり、各社のセグメントの大部分を占める社会インフラや、SIは、公共的でもあり、顧客が強く、ぼろ儲けはできない構造10%以上を稼げるのは、市況リスクがある事業が多く、そこはあまりウェイトをおけない。

 

経営重心®ではジャパンストライクゾーンが営業利益率5%

 

これを経営重心®の切り口から見ると、営業利益率5%前後から5-10%はジャパンストライクゾーンの領域であり、10%以上は右上か左下の領域である。

 

 つまり、ジャパンストライクゾーンとは、顧客が強力で安定した利益は確保できるが、そう儲けさせてくれない領域であり、まさに、日本企業に向いている。右上は、市況品が多く、つまり短期の事業の変動に如何に対応するか、そのリスクの取り方で収益性が決まる、といえよう。左下は、「大数の法則」が働き、ボラはないが、長期の不透明性に如何に耐えうるか、長期リスクの取り方で収益性が決まる。

 

儲けるには仕組み(市場の歪み)を作るか、リスクを取るか、リスクには、短期ボラと長期不透明

 

 そもそも、儲けるには、仕組みの利益か、リスクを取るか、のどちらかだ。仕組みの利益とは、デファクトスタンダードをとったり、ケイレツを作ったり、政府等と連携、いわば、市場の歪みを作るわけだが、それは強大なパワーと長期の計略が必要であるし、いずれは市場経済では、歪みは消えていく。そこで、市場で、リスクを取るわけだが、これには、短期のボラと、長期の不透明性がある。。

 

 これは、経営重心®では、短期と長期の二種類のリスクの取り方が、ちょうど、右上と左下に相当する。当然ながら、この二種のリスクを同時にとるのは難しく、そこで無理をしたのが東芝であり、どちらかにシフトし、あと多くは、ぼろ儲けはできないが、安定しているジャパンストライクゾーンに行くしかないだろう。

 

投資家はジャパンストライクゾーンが好き?

 

 これを投資家から見れば、ジャパンストライクゾーンに重なりの大きい銘柄が好まれている。長期リスクの取り方は分かり難く、新興国の長期マクロ動向は不透明である。それゆえ、5年程度で結果が出る、ジャパンストライクゾーンの企業の地道な収益改善に多くを期待しつつ、たまに、右上の会社にも投資するというところだが、何度も指摘しているように、右上は、台湾、韓国、中国が強く、オーナー系でなければ、難しい。また、彼らですら、時間の経過とともに左下にシフトしてこよう。東芝やシャープの戻りはあるが、経営重心®視点からも、その持続性がまだ疑問だろう。NEC、富士通は、国内の2020年以降は不安であり、経営重心®でも、やや外れている。パナ、ソニーは、回復はしたが、それが循環的改善か構造的改善かの転換点だろうが、前者のような気がする。いずれにせよ、8%の壁は厚い。