2016年9月14日 東芝の課題と提言~他山の石

 

東芝に関する915日の特設注意銘柄指定1年目をうけ、昨年より、幾度となく論じているが、課題を再考し提言したい。これは、東芝だけの問題に関わらず他社のとっても他山の石であろう。

 

なお、913日の日経報道によると、①解除、②半年延期、③上場廃止の3つの可能性があり、この中で、②の可能性が高く、年内決着の予定が先になると報じている。先日のIR主催のスモールミーティングでは、会社側IRは、質問に対し、来年3月だとしていた。開示は格段に良くなってきたが、フェアディスクロージャーや会社体制に、なお課題はあると感じている。また、この際、新しい時代に相応しく、「理想」主義的に、体制も工夫し、オープンイノベーションも取り入れ、再生してほしい。

 

 東芝の問題点は、端的に言えば、企業が成長する中での、ポートフォリオ管理の問題である。換言すれば、経営重心®のポジショニングの問題、事業の広さの問題、更に、それらに合せたガバナンスの問題なのである。

 

経営重心®、右上シフトとドメインはどんどん拡大へ

 

東芝の過去30年の経営重心®の推移と、事業ドメインの広さを、振り返る。

 

 

85年当時は経営重心®が固有周期(サイクル)9年、固有桁数が4(ボリューム)の会社であり、ドメイン広さは4.5程度の、まさに重電の会社であり、企業風土や管理体制も、そうであった。

 

それが80年代後半からのI作戦の中で、DRAMやノートPCが共に世界シェア1位になるなど躍進により、経営重心®が右上にシフト、90年代後半には、サイクルが7年を切り、ボリュームが6.5、ドメイン広さも6近くまで達し、半導体やPC的な社風も醸成されていった。

 

ITバブル崩壊後、東芝は「選択と集中」により、半導体メモリと原子力にフォーカスしたが、それは、ドメイン広さを縮めるものではなく、更に広げるものであり、他の総合電機がドメイン広さを縮小する中で、東芝は日立を抜いて広さは6に達した。

 

経営重心®が変わると事業特性・組織風土や管理体制も異なる

 

さらに、東芝のコアである半導体メモリと原子力は、経営重心®マップで、右上と左下の特性が真逆の事業であり、組織風土、人事、会計から見ても、異なるセンスや管理が必要となる。それをコーポレートで同一に扱い、結果、制御不能、相互不関心不干渉となった。いわば、シリコンバレーと江戸幕府が同居しているようなものだ。

 

 

ジャパンストライクゾーンが空白に

 

その結果としての「重心」は、日本企業が得意な「ジャパンストライクゾーン」にあるが、実際は、空になっていた。PCTVなどは、収益貢献は大きくなかったが、半導体と重電の中間の特性もあり、有形無形の重要性があった。しかし、こうしたPCTV等がどんどん縮小されていったのである。その中で、両方を知る多くの人材も、外へ去った。こうした状態にあるのも関わらず、これまでの延長線上のポートフォリオ管理で行おうとしても難しい。

 

 

 

 

事業の広さが5以上ではファンド的、ポートフォリオ管理とトップも脱事業家型が必要

 

事業ドメインが広くなればなるほど、いわば「ファンド」的になり、ホールディング制を導入するなど、透明性の高いきちんとしたポートフォリオ管理体制が必要である。また、トップの位置づけ、必要とされる資質も、事業家でなく、ファンドマネージャ的要素や、司祭的要素も必要になる。もちろん、その「広さ」に相応しい経営リソースが必要となる。この経営リソースはカネ・人が重要であるが、それは単一的なボリュームではなく、広さに相応しい多様性が、人材も資金においても、必要である。

 

経営重心®分析によれば、事業の広さが5を超えると、ファンド的になり、ホールディング制、委員会設置が必要になり、CEOの特性も事業家タイプから資本家タイプさらには司祭的になることが求められる。しかしながら、東芝は、形は整えたが、ポートフォリオ管理という視点はなく、当時のトップは、事業家タイプから脱皮できず、個々の事業に介入していたと考えられる。

 

 

経営重心®のような計測なき多角化や成長戦略は海図なき航海

 

もちろん、東芝は、経営重心®分析は導入していないので、経営重心®の位置や事業の広さを計測していない。いわば、「海図なき航海」で、古典的な勘と経験で事業を拡大してきたのが問題である。

 

これは東芝だけの問題ではなく、多くの会社が、既存企業が成熟する中で、業界を超えた新規分野や飛び地に多角化、M&Aをする場合に同様の問題である。これまでのドメインの切り口では、もはや通用せず、業界を超えて、事業間の距離や、ドメインの広さを、定量的に計測し、自身のリソース(カネも人も多寡だけでなく、多様性も重要)を考慮し、場合によっては、オープンイノベーションでいくか、また、広さを制御するか、広くなることが不可欠の場合には、ガバナンス体制を変え、社長の定義も変える必要があろう。

 

経営重心®と国際競争力と成長段階

 

経営重心®の位置付けは、国際競争力にも、リスクの取り方にも関連する。サイクルが短くボリュームが大きい事業は、韓国台湾中国が強い領域であるが、短期のボラのリスクをとり、市場の変化に早く追随することが重要である。これは、オーナー系や、新興企業が適合しやすい。経営基盤も大きくないベンチャーもそうである(いわば織田信長や源義経)

 

 

そこで成功し、大きくなれば、組織も大きくなり、イナーシャが大きくなるため、スピードを維持するのが難しく、また、そこそこの成功から、リスクを避けるため、通常、経営重心®マップで左下へシフトする。90年代の日本の総合電機も、エレクトロニクスという切り口の中で関連があるというだけで、やみくもに多角化したが、それは、ドメイン広さを拡大していく方向性であっただろう(いわば豊臣秀吉的な領土拡張)

 

そうした経営重心®視点を意識しているかどうかは別にして、日本企業は、結果的に、サイクル510年、ボリュームが数千台~数千万台のジャパンストライクゾーンにフォーカスしたが、ここは、いわばプラットフォームの覇権を握った欧米企業の下で、そこそこの収益性を維持しつつ、コストダウンで安定性を重視する領域である(いわば徳川家康)。また、ここは、日本人の平均的な気質や慣習からも適合性が高いエリアでもある。製品的にも、韓国台湾に競争力を維持している例が多い。

 

東芝の今後~プランA

 

 では、こうした中で、東芝はどうすべきか。東芝は、エネルギー、半導体に続き、社会インフラでのITを第三の柱とする方向性である(プランA)。社会インフラも、経営重心®的には、エネルギーに近い長期・小ボリュームの交通等から、ジャパンストライクゾーンの中に入るエレベーターや空調まで幅広い。その意味では、依然として、経営重心®面積は広く、同一のマネジメントで、半導体メモリから原子力までやるのは容易ではない。

 

それゆえ、むしろ、半導体メモリは国際競争力のためもあり上場させ、原子力も日立や三菱重工、アレバも含め先進国連合を組み、外へ出した方がいいだろう。

 

メモリも原発も、持ち分法適用とした場合、東芝は売上3兆円以下、OP500-1000億円と、NECに近いクラスとなり、業績規模も経営重心®も「普通」の会社となる。そこでのコアは、テックの周辺の領域、テックが、東芝の「本丸」となる(まとまり易さとIOT時代のシナジーからは、テックとヘルスケアが中心でコアとなればよかった)。テックが流通周辺でIOT・ビッグデータも含め、隣接にドメインを広げ、その広げた先に、東芝の産業や社会インフラのドメインが待っているイメージである。

 

 

 

 

 

 

プランBの準備、プランC

 

 もちろん、東芝は、現状では、メモリも原発も出さない前提(プランA)だろうが、プランBとして、第三の柱を、テックとのシナジーを考え、太くしていく戦略も用意しておくべきだろう。あるいは、プリンティングでは、OKI(かつてATMを譲渡)、京セラ、シャープ等との協業、その他の東芝グループ会社とのシナジー追求のプランCもあろう。その意味でも、テックは戦略的であり、極めて重要であろう。

 

http://www.circle-cross.com/2016/07/07/201675-東芝-初のirデー-ess消化不足-iss関心-sds安心-iis期待/

 

http://www.circle-cross.com/2016/03/19/2016318-東芝の事業計画説明会-第三の柱は社会と横串-シナジー/

 

教訓と試金石

 

 加えて、東芝だけでなく、全ての上場会社に必要なのは、事業ポートフォリオ管理であり、そのためには、事業毎の割引率(WACCでも、資本コストでもいいが)、換言すれば、事業のリスクをどう見ており、それをどう管理するか、の開示と説明責任であろう。

 

特に、長期投資家にとっては、中計目標でのB/Sの開示が割引率も含めて必要であろう。3年後のP/Lだけでは、批判の多い「当期」利益至上主義の延長線でしかない。CFはもちろんだが、B/Sもあってこそ企業の将来像が把握できる。東芝の問題も、シャープの問題も、CFあるいはB/Sリスクを無視し、あるいはB/Sリスクを回避するために、P/L、特に「当期」の営業利益を優先させたともいえる。IFRS導入で、これまで特損で事後に計上できた内容も営業利益の計上となり、誤魔化しはできない。しかし、粉飾の温床となり易い在庫を操作するだけでなく、割引率でも不適切な前提をおけば、P/Lは調整できる。それゆえ、B/Sをどう中期で認識しているかの開示が重要である。ROE水準も、事業ポートフォリオ、リスク許容度、B/S全体で判断されるべきであろう。

 

こうした中期B/S目標の開示が不十分であれば、同じ過ちを繰り返すことになるだろう。