プラットフォーマーと寿命と独禁法そして個人情報保護など解釈

 

 近年、経営学における経営戦略論で流行だったのは、プラットフォーム戦略である。理科大でも御世話になり、議論もさせて頂いている、MITスローン校のマイケルクスマノ教授であり、2005年に名著「プラットフォーム・リーダーシップ」著された。

 

プラットフォーム戦略の成立要件は独禁法次第

 

理科大教授就任前に熟読、マイクロソフトなどのプラットフォーム戦略について、詳細な記述と戦略が分析され、参考になったが、正直な感想は、こうした独禁法当局と粘り強く執拗に対峙するのは、「お上第一主義かつモノ作りで人々のために」という日本企業の文化風土では、到底難しいというものだった。同時に、このプラットフォーム戦略の成立要件は、独禁法の解釈次第であり、これを、クスマノ教授に問い詰めたら、答えはなく、苦笑いだった。

 

もちろん、多くの日本企業は、プラットフォーム戦略すら知らず、モノ作り志向が強すぎるため、多少は導入し、市場で欧米企業とも戦う上では、勉強するのは当然だろう。

 

独禁法の解釈は、専門家に任せるが、それも、社会通念や価値観で変わってくるものであることは、米国におけるコングロマリットへの規制、研究所設立、水平分業へのシフトにも大きく関係している。その意味では、プラットフォーム戦略にも寿命があり、未来永劫のものではなかろう。

 

アマゾンを追い詰めた学術論文

 

日経新聞の西條郁夫編集委員が、「アマゾンを追い詰めた学術論文」で紹介した、リナ・カーン(Lina Khan)という若手の女性法律研究者によるイェール・ロー・ジャーナル誌の2017年1月号「アマゾンの競争政策におけるパラドックス(Amazons Antitrust Paradox)」という論文が、まさにそうだ。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28350790Q8A320C1X12000/

 

論文は96頁に及ぶ力作だが、カーン氏は過去30年ほどで米国の独禁政策の主流の理論になった、「消費者の利益(consumer welfare)」のみに焦点を当てるシカゴ学派の説に異議を唱え、米アンチトラスト法制が成立当初から重視してきた、ライバルを締め出すことを目的とした不当廉売やサプライチェーンに連なる川下や川上のプレーヤーを傘下に収める垂直統合について、米競争当局はもっと厳しい姿勢を取るべきだと主張しているようだ。売上が急増しながら、利益は横這い、株価は高騰という現象は、株価を煽り、不要な値下げやコストをかけライバルやサプライチェーン全体を締め出そうというものなのだ。

 

https://www.yalelawjournal.org/note/amazons-antitrust-paradox

 

 アマゾンだけではない、316日には、フェイスブックの5000万人分の個人情報の不正流出が問題となった。ビッグデータ時代には、情報の二次利用は大きな議論となる。広告を利用、ネットワーク外部性とプラットフォームに依存、時価総額を活用してきた、GAFA(GoogleAppleFacebookAmazon)は大きな転換期を迎えているのかもしれない。

 

競争政策、個人情報保護、グローバル課税、正しき株価形成

 

 著名投資家ジョージソロスは、2月のダボス会議で、巨大デジタル企業の独占を許すなと講演、アマゾンとフェイスブック株を売却したようだ。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26355380R30C18A1TCR000/

 

 そもそも、情報の保護は、EU、米、中国で大きく異なる。慶応の山本龍彦教授の経済教室によれば、米は自由基底的アプローチ、EUは尊厳規定的アプローチ、中国は共産主義的で全く異なるとする。更に言えば、競争政策もEUは、これまでも米と真逆だ。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO28634100X20C18A3KE8000/

 

 日本でも、公取委員長の杉本氏が、日経新聞の取材で、データ寡占は独禁法の対象であり、巨大企業の収集について、問題点検討とコメントしている。特に、「データ収集は、個人情報保護と競争政策とが交わる新分野だ」という点が興味深い。https://www.nikkei.com/article/DGKKZO28833420Q8A330C1EA2000/

 

更に、これに課税のあり方や、株価操縦的な利益が出て居ないのに長期に売上拡大だけ煽るようなやり方も議論されるべきだろう。さらにいえば、独禁法の解釈において、従来から主張しているコングロマリットとファンドの境界が無くなっていることも問題だろう。

 

 こうした規制が、IoTやビッグデータ時代に、イノベーションの発展にマイナスになってはいけないが、明らかに、今のようなGAFA独占は、行き過ぎであろう。こうした背景を深く考えず、日本と欧、米の文化や政策の差も無視して、受け売りのプラットフォーム戦略を礼賛している経営学者やコンサルタントが、また考えを変えるかどうか見物だろう。また、やや時間差で、プラットフォーム戦略を導入しようという日本企業もリスクが出てくるだろう。

 

放送と通信の規制一体化

 

 さらに、これらとは直接関係はないが、政府の規制改革推進会議が検討する放送事業改革で、テレビやラジオなどの放送事業とインターネットなど通信事業で異なる規制の一本化という政策も注視すべきだろう。https://www.nikkei.com/article/DGKKZO28585340W8A320C1EA2000/

 

マスコミでは、放送番組の「政治的公平」などを定めた放送法4条の撤廃が懸念されているが、それ以外の、(1)放送設備の管理部門と番組の制作部門の分離、(2)外資の参入規制、(3)NHKのインターネット活用の同時配信の本格化―などの項目が並び、「放送と通信の垣根のない新しいコンテンツ流通環境を実現」という中で、世界的な独禁法の解釈や個人情報保護など、ビッグデータやIoT時代の価値感に影響する可能性があろう。

 

驕れる者も久しからず

 

80年代後半から、IT産業は、Wintelに始まり、近年は、GAFAの時代となり、規制緩和で国内でも発展が大きかったが、30年を経て大きな変化だ。まさに、30年は、プラットフォームの寿命かもしれない。