再び、マクロ技術学の提唱と技術予測について

 

もう今から30年前、NRIに入った頃に、マクロ技術学なるものを提唱していた。経済学のマクロとミクロ(いわゆるミクロ経済学ではなく、ミクロな産業企業動向)のように、技術も、個々の技術の詳細はさておき、全体のトレンドをマクロに見るというものである。https://ci.nii.ac.jp/naid/40001418470

 

マクロ経済に倣う

 

 マクロ経済が、金利や成長率など、シンプルな数字で語られ、予測分析できるように、技術の全体像を、同様に分析したりできないかというアイデアだ。技術は、多くの自然科学と工学の分野から、成り立っており、それぞれの分野が複雑に連携しており、それをマッピングすることが必須だ。また、それに際して、MKSだけでなく、多様な単位系があり、それを統合し演算しなければならない。

 

技術予測

 

 この枠組みを構築しようとしていたことが、技術予測の精度アップにもつながったかもしれない。異なる技術には、異なるストーリーがあり、実用化に至るプロセスも多様だ。しかし、それらを統合し、共通点を見出すことは可能であり、まさにMOTのテーマでもある。

 

 これまで、エレクトロニクスやITが中心だが、多くの分野で技術予測や市場予測を当ててきた。自身が予測を試みる前に、まず調べたのが過去の未来予測等の成否だ。https://ci.nii.ac.jp/naid/40001418412

 

予測が当たったのは、実用化が成功した場合は、まず、当事者たる技術者達の努力の賜物であり、その上で、予測の成否は、幸運や偶然の積み重ねかもしれないし、直感が強いだけかもしれない。

 

R&Dの現場で、日々、いろいろな予想外の出来事が起きる中で苦心惨憺、実用化に邁進してきた技術者からは、外部の人間が、予測があたるのは、不思議に見え、それは、偶然だと言いたいだろう。もちろん、技術をミクロな現場で、短期の時間軸で、当てるには、現場に居ないと難しいだろう。

 

一方で、当事者も含め、多くの「識者」や権威が予測を外す中で、外部の人間が、予測を当てるのは、不思議でもあろうし、それが重なると、何かが背景にあるのだと思うだろう。技術予測や市場予測、市況、業績予測を当ててきたことが、アナリストとして、勝ち残ってきた理由でもある。

 

細かい話は別にして、技術や市場規模予測を中期で当てるには、現場よりも、少し遠くから、岡目八目で、ズームイン・ズームアウトで、観察し、たまに、介入しながら、の方がよく見える場合もあるからだ。もっとはっきり言えば、技術を実現する人間と、その未来の成否を当てる人間は別だということだ。

 

万有引力の法則とモデル化と近似のセンス

 

 人類は、万有引力の法則を見つけ、その後に、統計力学、流体力学、電磁気学、量子力学などなどを手にした。それゆえ、まず、球を落とす、放物線を描き、落下点が予測でき、ほぼ的中するが、もし、先に、多くの学問を手にして、精密にシミュレーションをしたら、どうだろうか。

 

実際、球を落とす場合、球の形状や密度、固有振動数、表面粗さ、空気抵抗、温度、湿度、気圧、回転数、場合によっては、電磁波や超音波などなど、あらゆる要素を入れなければいけない。しかし、体験的、「常識」的に、暗黙の了解で、これらの多くの要素は無視され、球は点だと近似され、空気も何もないと仮定され、そういう状況をモデル化していいことを知っている。

 

このモデル化や近似がセンスであり、現実の世界への適用に際し、それを誤ると結果も大きく異なる。経済学や金融工学も、こうした、物理学における近似やモデル化を真似て、大きな前提として、人間は合理的であり、全ては正規分布をするとしている。

 

近似のセンス

 

 いわば、これまで技術予測や市場予測では、諸々の複雑な要素を取捨し、近似・モデル化し、予測を行ったのである。その「万有引力の法則」あるいは、幾何光学等に、相当するのが、マクロ技術学の体系なのである。近すぎず、遠すぎず、その技術が実用化に至る本質は何かを探り、それに基づいて、予測あるいは、仮説検証を繰り返す。

 

数多くの観察による帰納的推定

 

万有引力の法則が、精密な観察から、帰納的に算出されたように、このマクロ技術学のアプローチも、帰納的であり、数多くの観察から、数式なりマッピングなりを当てはめる。その例が、経営重心®に関わる色々の方法論や仮説であり、先日も明らかにした、「R&D、割引率、成長率、収益率(OpmROE)に関する恒等式命題」である。実際のアイデアも仮説も、多くは、演繹的ではなく、現場、現実、現物を、実感し観察することで、思い浮かぶ場合が多い。それを論文にまとめる場合は、さもロジカルに、演繹的に記述するにせよ。

 

こうしたマクロ技術学的アプローチが、科学かアートか不明だが、実用的な方法論の一つであり、体系化は可能であろう。それこそが、MOTが目指す道の一つではないか。