アンケート・取材・説明会

 

アナリストであれ、社会科学系アカデミックであれ、ジャーナリストであれ、企業や産業などを対象に、論文やレポート、記事を執筆する際に、有力な手法は、アンケートや取材である。そこで、こうした手段を、論文やレポート等に纏める場合に、どう使い分けするかを考えたい。

 

社会科学・経営学とアンケート

 

社会学においては、対象となる人々にアンケートを行い、必要に応じ、統計処理を行い、また、期間と対象を絞って、取材を行い、仮説の検証に役立てる。経営学においても、同じ社会科学であるため、同様のアプローチをとる場合が多いが、よく考えると、異なる面も多い。

 

アナリスト活動におけるIRや説明会

 

 アナリスト活動では、取材は、IRと日常的に行われており、質問項目の多くは、業績や経営戦略に関わることであることが、大半で、共通のベースもある。最近は、フェアディスクロージャーの中で、ほぼ公開情報である。説明会では、経営トップの発言も聞ける(HPで公開)。質疑でも、経営の考え方等について確認できる。説明会資料や有価証券報告書は、法やルールに則り、客観的なデータでもある。それゆえ、これらは、レポートでも論文でも引用可能であり、仮説の検証の論拠になりえる。

 

会話や雑談および非公式な会議・勉強会

 

 アカデミックな活動でも、アナリスト活動、また、通常の知人や友人との会話の中で、様々な議論もなされるが、これらは、非公開であり、主観的とは言えないため、仮説のヒントにはなるが、これらの意見を引用することではない。

 

アンケートといっても意味合いが二種類ある

 

 アカデミックであれ、アナリスト活動であれ、アンケートを取る場合は、サンプルが多く、全体的な傾向を見るため、相手の意見や行動などを統計処理の対象と考える場合と、アンケートを取るといっても、サンプルが少なく、全体的な傾向ではなく、専門家の意見として聞く場合とでは、全く意味合いが異なるであろう。この後者では、本来は、個々に面談して意見を聞くべきだろう。この場合は、更に匿名か引用可能かも確認する必要がある。

 

良い論文と良いレポート良い記事のベースと共通項

 

 論文やレポート作成に関しては、①仮説の構築、②仮説の検証、というプロセスを経るが、アンケートは、両方に使えるが、その意味合いは、①全体の傾向について、統計処理を前提として見る、②専門家や特別なケースの意見などを聞く代替手段、だろう。

 

 会議や面談などは、非公開のものは、あくまで仮説構築のためであり、仮説の検証には引用できない。そして、引用するならば、公開の説明会や、マスコミの社長の会見など、HP等からであろうし、それは、IRの進展で、極めて充実しており、かつての個別取材と同等以上だろう。アナリストも、こうした公開情報をもっと活用し、複数の会社を比較しながら、その背景を分析するだけで、かなりの貴重な情報が得られよう。そして、アカデミックやマスコミ側は、こうした公開データをもっと活用し、「無駄」(重複、会社に迷惑)なアンケートを実施すべきではないだろう。そろそろ、アカデミック、アナリスト、ジャーナリストが、共通のベースで、企業産業分析を効率よく行うべきだろう。真実の追求、将来性予測、など、目的は多少異なるが、長期では、同じであり、良い論文、良いレポート、良い記事というのは、論理性、客観性、普遍性、独自性、実践性などに於いて、共通項が多い筈だ。