最適な自己資本比率とは

 

これまでは、保守的な観点から、企業経営者は、自己資本比率は高いほどよく、最低限の銀行との付き合いを除けば、無借金がいいとされる場合もあった。ただ、無借金といっても、通常は、売掛に相当する買入債務もあり、1ヶ月程度とすると、自己資本比率は90%程度が限界だろう。

 

ROEだけでなく、最適な自己資本比率はコーポレートガバナンスの重要な論点

 

 しかし、ROEを上げるためには、計算上では、自己資本比率は低いほどよい。これが、高ROEありき、では、本末転倒だが、よく考えてみると、コーポレートガバナンスの観点からは、企業にとって、最適な自己資本比率とはどの位がいいか、という議論になる。企業が成長する自信があれば、どんどん資金調達をして、成長投資をすればいいが、自信がなければ、自社株買いで投資家に還元すればよいのだ。

 

 正しいガバナンスとは、正しく金儲けをし、正しく儲けたカネを配分することだ。概して、前者の議論は多く、企業側にも認識されているが、後者の議論がまだ少ない。

 

事業特性で最適な自己資本比率が異なる

 

自己資本比率は、そうした成長余力と、事業の種類、とりわけ、リスクや競争環境などによって、最適な比率が異なるだろう。そこで、ここでは、その考え方をまず示したい。

 

国内中心のかつての電電公社や電力向け中心の業界では、自己資本比率は高い必要はなかった。受注のサイクルはあるが、長期で安定しており、債権回収もリスクが少なく、現預金に近い。設備投資も、これまでは、減損のリスクは少なかった。為替変動もない。通常、総資産回転率は、0.51.5位が多いので、1と置くと、ROS5%程度のインフラ事業は、不景気で赤字といっても、数%であり、ゆえに、総資産に対しても、数%であり、自己資本比率が20%もあれば、十分だ。

 

しかし、海外インフラ事業を行う場合は、減損などの影響が大きい。特に、M&Aが多い場合は注意する必要がある。ノレンは、日本では償却してきたが、米では、減損テストにより行うので、ノレンが積み上がり安く、長期の事業では、1%の変動が大きくなる。20年ならば、1%20%になり、固定資産が50%もあれば、数10%が影響する。

 

これは、長期のインフラ事業では要注意だ。それゆえ、自己資本比率は、50%以上だろう。少なくとも、ノレンや無形固定資産以上の自己資本があった方がいいだろう。

 

デバイス等、国際競争や技術革新も激しい事業では、設備投資型で、減損リスクもある上、急激な値下がりにより、在庫損や為替リスクもあるため、十分な資本を積む必要がある。海外メーカーの例からも、概ね70%以上は必要だろう。

 

デバイス事業は、先行投資負担が大きい上、価格変動も大きいので、ROSはプラスマイナス50%もありえる。赤字の場合は、数10%であり、自己資本比率は、50%では心もとないだろう。

 

実態の自己資本とは

 

現在のB/Sは、欧米流のステイクホルダーの考えから成り立っている。そこでは、従業員や銀行、取引先は、あくまで他人の割り切った関係だ。

 

しかし、日本では、メインバンクの存在は、借金を返して終わり、というのではなく、むしろ長期株主的だ。それゆえ、借入金は自己資本に近く、実質、株主的な発言もするし、DESにも応じる。日本の銀行の概念と、米での商業銀行の概念は異なる。

 

社員も同様だ。海外と異なり、従業員の給与が時価でなく、年功序列終身雇用の中で、40歳までは、従業員がいわば、会社に貸し、50歳以降は、借りを返す形であり、さらに、企業年金もある。これらは、実態は、株主に近い。これは、労働者の流動性が高く、報酬が時価で支払われる米とは異なる。

 

取引先、下請けも、同様だろう。日本では、会計上はワンイヤールールだが、実際は、長期の中で、貸し借りを返していく関係である。そうした実態を無視して、形式的に、B/Sを考えて、自己資本比率を議論しても仕方がない面はある。

 

 こうした議論が、実態の会計、ガバナンスの一層の向上になれば幸いである。

 

https://www.circle-cross.com/2017/01/29/2017128-メインバンクとは何か-株主とは-長期-投資家とは何か/