通研構想批判

締め切り時限があるカーボンニュートラルや6Gなどをテーマにした、パスツール象限のR&Dについては、かつての電電通研をメタファーとしたR&Dプラットフォーマを構築すべきだと論じてきた。また、90年代の日本のR&D低下の一因は、電電公社民営化に伴う通研解体ではないかとの仮説を述べた。

 これに関して、御意見や御批判を頂いた。電電ファミリーだったメーカー側の方々から、「日本の電電ファミリー各社は通研のいいなりで、独自に良いテーマを切り開く能力が乏しい。もし電電通研が残っていたら、もっと日本は遅れていたのではないか」との御意見である。

 確かに、日本のメーカー、B2B系はマーケティング能力や未来からのバックキャスティングが弱く、自らR&Dテーマを設定する能力は低いかもしれない。そして、実際、90年代の電機メーカーの敗因には、テーマ設定にあり、例えば、インターネットのインパクトや、コンピュータのメディアとしての重要性に気が付かず、あくまで計算機の延長線での発送で第五世代コンピュータ開発に巨額の投資を行った。

 電電通研の大きな貢献は、積滞率の解消であり、そのロードマップに伴って、目的を達成した。すなわち、探索研究を伴うにせよ目標が明らかであるパスツール象限のテーマには成功した。しかし、目標を達成後、次に何をすべきか、という新たな目標テーマ設定のR&Dには不向きであり、それはボーア型象限であり、いわゆる中央研究所が担う部分であろう。

 通研が有効とされるのは、ボーア象限の「中央研究所」ではなく、明確な目標があるパスツール象限である。今は、2050年のカーボンニュートラルや2030年の6Gという明確で、巨額な資金を投じても為すべき、公益と利益の両利きテーマがある。そこでは、公的研究機関にせよ、巨大な民間のR&Dプラットフォーマにせよ、電電通研のような仕組みが有効である。

 

 他方、目標が曖昧で、探索が必要なボーア象限は、大学や、かつての理研などが有効であろう。ただ、テーマ設定については、シーズ側だけでなく、バックキャスティングその他、技術のトレンドを俯瞰して、考えるシンクタンクが必要だろう。このシンクタンクは評価等の機能も併せもつべきだ。米のシンクタンク、日本なら、経産省かもしれないし、かつての満鉄調査部、かつての野村総研かもしれない。それが90年代のテーマ設定のミスを犯さないために必要だ。